東方浄華石 ~ Chaotic mist and tender girl   作:例の饅頭

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悪魔の妹と相対するは――

 場面は変わってフランドールとチルノ。

 こちらも数十分探し回っている所だが、やはり現れる気配は無い。

 

「……全然、どこにも居やしない。本当にこれで出てくるの?」

「じゃなきゃ手詰まりだし、とりあえず切りの良い所まで我慢しなさい」

 

 チルノは不満そうにフランドールを見て言うが、そうは言ってもこれ以外に方法は無い。

 いや、あるにはあるが、精々がシラミ潰しに探す事であり、非常に効率が悪い。

 誘き寄せられるなら誘き寄せた方が明らかに早いのだ。

 

 その上で早く出て来るならば更に無駄が削れるというもので、それに越したことはない。

 しかしそんな期待とは裏腹に一向に出てこないこの状況に際して、開いて肩に乗せた日傘をくるくる回して考える。

 

(楓華と一緒に行動しないのは失敗だったかしら?)

 

 楓華について来たそもそもの目的。

 今の状況を鑑みても、それだけを考えればなるべく一緒に行動する方が得策だろう。

 ……ただ、かなり頭の回るフランドールも常に理論的・効率的な訳ではなく。

 

(いや……あれを守りながら戦うなんて、面倒ね。それならまだ妖精の方が守る必要もない)

 

 目的はあれど、面倒はなるべく避けたい。

 接敵すれば、恐らく戦闘は起こる。

 そんな中で現状ほぼ非戦闘員も同然な者を守りつつ戦うなど、それこそ面倒だ。

 別に自分がやらなくてもこいしが何とかするだろう、という事で半ば押しつけた形になる。

 

 いずれにせよ、さっさと相手が出て来てくれるなら良いのだが。

 とは言っても出てこないものは仕方ないので、考えるのはやめた。

 

***

 

 そんなこんなで、更に歩くこと数分。

 ようやく徐々に空気が変わり始めた所でチルノが話し出す。

 

「……あれ、他の妖精(みんな)の気配が感じられない。隠れてるか、逃げてる? って事は相手も近くに居る?」

「そう考えた方が楽でしょうね。色々と」

 

 半分冗談めかして言うが、しかし事実として、確実に相手へと迫っているのを感じ始めてもいた。

 一歩、また一歩と進む度に空気が重く伸し掛かる。

 

 

 

 

 

 ――不意に、背後に気配が出現したのを感じた。

 一瞬楓華のそれに似ているとも思ったが、あちらと比べ物にならない威圧感。

 

 即座に背後の上方から魔法弾を撃ち落とす。

 響く爆音、抉れる地面。

 しかし当たったような気配は無い。

 回避されたのだろう。

 

 後ろに向き直った。

 

「何だぁ!? ……あー! コイツか!」

 

 少し遅れてチルノも気が付き、振り返る。

 そこに立っていたのは――。

 

「そこの妖精の力を頂くつもりだったが、館の吸血鬼まで居るとはな。丁度良い、少し楽しんで行くとしよう」

 

 背中の半ばほどの長さの整った白い髪と、白銀色の目。

 角と服は楓華と比べて白黒が反転したような色合いとなっている。

 それらを除けば瓜二つの顔と体格だが、一方でそれとは似ても似つかぬ敵意を纏い、二人を睨みつけていた。

 

「礼儀ってモノを知らないのね」

 

 しかし、フランドールはこの程度の事で臆する事など無く挑発する。

 むしろ現れてくれて助かったとすら思っていた。

 

「ここで会ったが百年目、成敗してやる!」

 

 同時に、チルノも挑発して構える。

 ……が。

 

「威勢が良いのは結構な事だ。だが――」

 

 相手が地面に溶けたかと思うと、チルノの背後に形を取った。

 

「少し眠ってて貰うぞ」

「な……っ!?」

 

 背中から腕を突っ込み、何かの結晶のようなものを取り出す。

 引き抜いても傷は無かったが、チルノは異様に力が抜ける感覚を覚えた。

 

 そのまま背中に蹴りを入れ、弾き飛ばす。

 

「ぐふっ……卑怯だぁ……」

 

 チルノは先にあった木に抱きつくように激突し、後ろに向かって倒れ、そのまま気を失った。

 

「あら、綺麗な蹴り。それで私をやっておけば楽だったんじゃない?」

「折角やるならこっちの方が楽しめるかと思ってな。それにお前も、あの程度でどうにかなる訳ではないだろう」

「よくご存知で。殺されるのも楽しみなら、お好きにどうぞ」

「そう来なくてはな」

 

 その存在は地面に落ちている石ころを拾い上げると、それを一振りの刀へと変形・変化させて構えた。

 フランドールは掌を上に向け、手招きして言う。

 

「さ、来なさい」

 

 その言葉を皮切りに相手は駆け出す。

 目にも留まらぬ速さの袈裟斬り。

 対するフランドールも翼を畳み、身を屈め、左に身体を捻り、回転しながら背後に回った。

 

「言うだけの事はあるわね?」

 

 余裕の笑みで挑発をするが、意に介さず横向きに斬り返してくる。

 しかしそれも、レーヴァテインを地面に刺すように召喚して防いだ。

 

 飛び退いて構え直す相手。

 フランドールは魔法を発動する。

 霧を展開し、陽の光から周囲一帯を覆い隠す。

 

「準備運動は済んだ?」

 

 日傘を閉じて地面に突き刺し、レーヴァテインを地面から抜いて両手で構える。

 ここまでは単なる準備運動、ここからが死合の始まり。

 場の空気が更に重苦しいものへと変わった。

 

「それじゃ……行くわよ!」

 

 強く踏み込み、飛び出す。

 そして、叩き潰すように振り下ろした。

 

「ふんッ!」

 

 相手も引き下がる事は無い。

 刀で十字に受け、そのまま逆に回転し、横を取って逆袈裟で斬り返す。

 フランドールも髪を掠める程の最小限の動きで避け、水平斬りと同時に相手の背後から魔法弾を撃ち放った。

 するとまた相手も逆袈裟の勢いのまま魔法弾を斬り落とし、斬撃は岩盤を隆起させて防ぐ。

 

 ――この短く素早い攻防の中においても、フランドールは思考を巡らせていた。

 隆起させただけの岩盤や先程作り出した普通の刀でレーヴァテインを受け、曲がりも欠けもしないのはおかしい。

 そもそもの話、石ころを素手で刀へと変化させたり、地面と同化したりと、幻想郷基準でも普通とは言えない部分が目立つ。

 

 これだけの情報だが、しかしこれだけ情報があれば予想はつく。

 

(……魔力に対し、物質。にしても、段違いの習熟と戦闘能力だけど)

 

 察するに、【物質を操る程度の能力】。

 それを用いて、変化させたり硬度や粘性を跳ね上げたりなどして様々な戦術を取っているのだろう。

 

 しかし、こうして考えている内にも相手は止まらない。

 向きはそのままに刀を逆手に持ち替え、背後の隆起させた岩盤を深々と貫通させて反撃してくる。

 

「……っと」

 

 これもまた素早く避けて距離を取る。

 そして……。

 

「戦闘能力は楓華と全く似てないのね!」

 

 確実に相手の耳に届くように少し声を張り上げる。

 能力の調査は十分と踏んだか、一番気になる部分を確認する為に鎌を掛けたのだ。

 

「――ッ!?」

 

 すると、壁を崩して追って来ようとする相手の動きが止まった。

 

 刀と結晶を落とし、頭を抱えてうずくまる。

 この反応は予想通りにして予想以上、明らかに何かを知っている様子だ。

 

 数秒後、静かに立ち上がる。

 そこで言葉を発する事は無く、踵を返して地面に溶け込み去っていった。

 

 ここまで知れば大収穫。

 見たところ相手が本気を出していたようには見えなかったので、深追いはせずに一旦逃がす事にした。

 無論フランドールも本気を出していた訳ではない為、もし彼女だけで瘴気が祓えるなら勝てない相手ではない。

 が、問題は楓華である。

 現状瘴気に対するほぼ唯一の対抗策なのだが、何しろ弱い。

 そんな彼女が本気を出したあの相手に勝てるかと言えば、まず不可能だろう。

 だから、力を付けるまでは引き合わせない事にした。

 

 そうして考えた後、おもむろに落ちた刀を拾い上げ、刀身を真っ二つに折る。

 目的は能力によって生成された物品の、再現性の確認だ。

 

「さて、どこまで作れるのかしら?」

 

 断面の構造を確認すると、普通に作った刀と全く同じものである事が確認出来た。

 一つ違う点があるとすれば、普通の刀であれば複数ある材質は内部で多少なりとも歪んでいたりはするものだが、これは理想そのまま、絵に描いたような断面だった。

 つまり、それほど精巧な物質操作能力を持っているという事になる。

 無論のことだが、その刃に木の枝を擦り付けると簡単に切れ、鋭角も問題なく生成可能である事が分かった。

 

「再現は完璧、切れ味も問題無し。……この位でいいか。処分処分」

 

 刀を地面に捨て、手をかざす。

 すると刀は緊張が解けたかのように、無数の塵となって風に飛ばされていった。

 

「さて、と……」

 

 調査を終えて、フランドールは結晶を回収する。

 それを倒れたチルノの体の上に置くと、溶け込んでいった。

 恐らくこの結晶は妖精の力の塊であり、それが元の体に帰ったのだろう。

 コレを集めていた理由や、わざわざ身体を残して力だけを結晶化させた意味は未だ不明だが……兎にも角にも、数秒してチルノが目を覚ます。

 

「ほら、起きなさい」

「う……アイツは……?」

「逃げた」

「……仇、討ってよね」

「どっちを仇と見るか。……いずれにせよ、その内また戦うでしょうね」

 

***

 

 少しして、楓華とこいしが走ってくる。

 戦闘の音を聞いたからか急ぎ気味で、楓華の方は鞄も背負っている為か息が切れている。

 

「はぁ、はぁ……大丈夫!?」

「今さっき撃退した。双方無傷だけどね」

「そ、そうなんだ。良かった……のかな?」

「ひとまずはね」

 

 楓華に情報を与えて下手に動かれたら厄介なので、情報共有は後回しにする事にした。

 

「それより、さっさと鍛えた方が良いわよ」

「え? つまり……相手はそんなに強いって事?」

「そんなに、って。貴方、元々大して強くないでしょ」

 

 先程一戦交えた敵は、明らかに瘴気に侵されていた。

 そして、それを根本的に打破する為には楓華が戦うしか無い。

 しかし今の楓華では到底敵わない相手である為、この先戦っていく為には楓華自身が強くならないといけない。

 

「いや、まあ、その。……でも、どうしたら良いかな? ただ適当にやってるだけじゃ何時まで掛かるか分からないよ?」

「また博麗神社にでも行ってみたら?」

「なんで?」

「そういう世話焼きを探すにはうってつけじゃない?」

「そうなの……?」

「多分」

「……出発して早々に戻る事になっちゃうけど、仕方ないか」

 

 こうして、博麗神社へと向かうとして方針を固めた二人。

 一方で先程から一言も発していないこいしに対して、フランドールが話しかける。

 

「……で、貴方はどうしたの? ずっと黙って」

「え? ううん、何でもないよ」

「そう? なら良いけど」

「博麗神社だったよね。行こっか」

 

 何かを誤魔化しているような様子。

 しかしフランドールはそこまで興味が無く、楓華も空気を読んで追求はしない事にした。

 

 気を取り直し、一行はチルノに別れを告げて博麗神社へと向かった。

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