東方浄華石 ~ Chaotic mist and tender girl   作:例の饅頭

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その名は異形

「……で、あんたがその怪物を倒したって訳ね」

「う、うん」

 

 怪物を倒してからほんの少し経った後。

 楓華は今、紅白な人から事情聴取を受けている。

 その人の名前は博麗(はくれい) 霊夢(れいむ)と言い、博麗の巫女をしているらしい。

 博麗の巫女のことは楓華も知っている。妖怪退治のスペシャリストであり、幻想郷の管理者側たる存在の一人だ。

 そして一緒に居た白黒な人は霧雨(きりさめ) 魔理沙(まりさ)と言い、曰く普通の魔法使いだ。

 どの辺が普通なのかは分からないが。

 

「しかし、お前変わってるな。魔力を使うやつなら何処にでもいるが、そんな戦い方する奴なんて初めて見たぜ」

「そう……?」

 

 魔理沙はそう言うが、魔法はもとより魔力の事さえあまり考えた事がなかった楓華にしてみれば、よく分からなかった。

 さておきこの辺りで霊夢の事情聴取も終わったのだが、霊夢は何やら納得したような(?)表情をする。

 

「とりあえずこれで事情聴取はお終いなんだけど、まだ用事があるから博麗神社まで来なさい。必ずね」

「いいけど、どうして?」

「知り合いが連れて来いって言ってた奴と特徴が合ってるのよ。……しかしまあ、なるほど。確かにそのまんまね」

 

 霊夢は楓華の特徴を挙げ始める。

 人間にすると10代前半程度の見た目で、側頭部からは一対の白い角が後ろ向きに生え、長めで癖とアホ毛のある黒髪に赤いリボンのポニーテールが結ってあり、身体には黒をメインに白と赤を少し加えたような服と膝の少し上までの丈のスカートを着用し、足には茶色のブーツを履いている。

 と、確かにそれらは楓華の特徴とピッタリと合致していた。

 

 しかし、そんな詳細に覚えられるほどの事をした記憶など楓華にはない。

 さながら訳も分からず職員室に呼び出しをかけられた小学生のような恐怖を感じていることだろう。

 

「でも僕、道を知らないんだけど……」

「私が案内するわよ」

 

 とは言えそんな重要そうな呼び出しを断る訳には行かない。

 飛べないこともあり、お言葉に甘えて頼らせてもらう事にした。

 

 と、そう決まった所でこいしの事が気になった。

 ここで別れるのも名残惜しいところだが……。

 

「で、そこに居るあんたも付いて来てもらうわよ。一応この件に関わったんでしょ?」

「来るなって言われても行くつもりですよー?」

 

 霊夢はいつの間にか後ろから絡んできていたこいしを尻目に睨みつつ言う。

 それに対し、こいしは言われるまでもないといった表情で返答した。

 

「という訳で、もうちょっと付いて行こうと思うからよろしく」

「あ、うん!」

 

 こいしが付いて行く事を宣言し、楓華は内心嬉しそうである。

 ある種の下心が満載な気もするが。

 

「中々賑やかな事になりそうだな。なぁ、霊夢?」

「はいはい。私としちゃ、静かな方が好きなんだけどね」

 

 こうして楓華は、こんな愉快な二人の人間との出会いを果たし、博麗神社へと向かう事となった。

 

***

 

「さ、ここよ」

「やっと着いた……。うあー、寒い」

 

 標高か周囲の環境か、あるいは何か別の力が働いているのか、博麗神社に到着するとより一層肌寒くなった。

 しかし皆はそんな事気にもせずにさっさと神社へと入ったので、楓華も付いて行く。

 こいしも二人とは知り合いっぽい雰囲気だったし、もしかするとここへ来るのも慣れているのだろうか?

 なんて事を考えつつ。

 

「……で、霊夢。用事って何のことか分かってるのか?」

「知らないわよ? 紫は連れて来いって言うだけで何も説明しなかったし」

 

 魔理沙が霊夢に問うと、紫という人物の名前が出て来た。

 どうやら指示をしたのはその人? のようだが……?

 

「まあ直に現れるだろうから、もうちょっと待ちなさい。私はお茶でも淹れてくるわ」

「お、じゃあ私も行くぜ。話をするのは二人でも十分だろうからな」

(茶入れるのも一人で十分だと思うけど)

 

 霊夢と魔理沙は別の部屋へと移動していった。

 それから数分経ち、紫とはどのような人物なのだろうか、怖くないといいな……なんて妖怪らしからぬ事を楓華は考え初めていたが、そんな心配をよそにしてその時は訪れる。

 

「……?」

 

 突然楓華が何かに反応する。

 

「どうしたの?」

「なんか、ぞわぞわする……。なんだろう?」

 

 具体的に言えば、誰かの気配……それも強大な気配がするらしく、数は一つなのだがどこからするかというのは曖昧でよく分からないとのこと。

 例えるなら、位置とかではなく次元を隔てたような……。

 そんな事を楓華が伝えると、こいしは何か納得したような表情をしている。

 

「あー。よく分かるね」

「どういうこと?」

 

 それから一分も経たないくらいの時。

 突然空間が裂けた……というより開いた。

 

「わぁ!?」

 

 奥には暗いような、無数の目が中空に浮いている異空間があり、どんな感情を持っているとも取れない眼差しで見つめて来ているようにも感じられた。

 そこから導師のような服装をした一人の女性が顔を出し、気味悪がる楓華を意にも介さず話し始める。

 

「こんにちは、楓華。……初めましてだったかしら?」

「あ、初めまして……?」

「霊夢から少しは聞いていると思うけど、私は八雲(やくも) (ゆかり)。幻想郷の管理をしている者ですわ。よしなに」

 

 どうやらこの謎めいた女性が霊夢の言う紫という人物らしい。

 後ろの空間も気になるが、楓華にはどうにもこの女性そのものが異様な空気を纏っているようにも感じられた。

 というか名前を知っているのも気になるが、そもそも自分の特徴を知っていたくらいだし気にしない方がいいのかもしれない。

 

「え、えーと……早速なんだけど、話したい事って?」

「あの怪物。貴方にはとてつもなく関係のある事だから話しておこうと思ったのよ」

 

 今日二度も襲ってきたあの厄介者ども。

 それが楓華に関係しているのだという。

 そこからは長話だった為要約すると、

 

 1.今幻想郷には【瘴気】という魔力の亜種あるいは反転したようなものが密かに蔓延している*1。瘴気異変とでも呼ぼうか

 2.それを素としてあの怪物、名を【異形】と呼ばれているものが発生している

 3.異形は人間とも妖怪とも違う存在であり、強いて言えば怨霊に近い

 4.そこで、それを滅ぼしうる能力を持った楓華に協力を仰ぎたい

 5.ちなみに瘴気自体人間にも妖怪にも悪影響を及ぼしまくってどっちも最悪死ぬから危険だよ

 6.別に断ってもいいけど犠牲は出まくると思うよ。最悪を想定した場合は幻想郷滅亡もありうるよ

 

 ……結構長くなったが、これでも今必要なことだけを話したらしい。

 それでも楓華は意外としっかり話を聞いていた。

 

「えっと……大体理解出来たんだけど、僕の能力だって?」

「大型の異形と戦った時、拳に魔力を纏ったアレの事よ」

 

 言うまでも無くあの火の事だろう。

 しかしあれは種族そのものの能力という訳ではないのかと、楓華は不思議そうに首を傾げた。

 

「あら。あれは正真正銘、生まれつきの貴方の能力よ。今の所は【魔力を纏う程度の能力】とでもしておくといいわ」

「でも、昔はあんな事無かったし……長く生きてれば一度くらい勝手に出ても良いんじゃないかと思うんだけど」

「それは貴方自身の過去にでも聞いてみなさいな」

 

 ……何やらはぐらかされたような感じがする。

 紫は一体、何をどこまで知っているのだろうか。

 今の所飛べない楓華にも特殊な力がある事が判明した事はとりあえず喜んでも良いのだろうが、どうにも気になる発言が目立つ気がする。

 もしかすると思わせぶりな態度を取っているだけなのかもしれないが、楓華には紫が全くの意味も無くそんな事をするとは思えなかった。

 そういう雰囲気のようなものを感じ取ったのだ。

 

「いえ、過去ならそこの貴方もよく知っているのかしら?」

 

 何の意図があるのか、紫は不敵な笑みを浮かべながらこいしを指差して言う。

 ……何故?

 

「え?」

「さあ、どうでしょうね。私は何も覚えてない妖怪ですよー?」

 

 しかしこいしはけろっとした顔をしており、紫の冗談なのかこいしがとぼけているだけなのかよく分からない状態だ。

 ……そもそも何を考えているかも怪しいが。

 自分だけが知らない情報を持つ者同士で話しているようで、どうにもついて行ける気がしない楓華であった。

 

「……さて、閑話休題ね。これから貴方のするべき行動を言うわ」

 

 半ば強引な気もするが、紫が話題を変えて本題へ移る。

 楓華も先ほどの事は一旦忘れ、話に集中する。

 

「色んな場所に行きなさい。以上」

「……うん? それだけ?」

「今の所は、ね。他は自分で判断して行動しなさい」

 

 中々に拍子抜けする内容だったが、確かに幻想郷の異変を解決するのにも状況を知っていないとやってられないだろう。

 とりあえずは納得しておくことにした。

 

「と言っても、本当に一人じゃ流石に不安なんだけど」

「丁度適任者がいる事だし、まずはそっちに同行してもらうと良いわ。じゃあ、私はやる事があるからこれで」

「えっちょっ」

 

 楓華が何か言う暇も無く紫は空間を閉じて行ってしまった。

 先ほどまで感じていた気配ももう無い。

 

「……適任者って、こいしの事?」

「さあ?」

 

 訳の分からない部分を山ほど残したまま会話が終わってしまった気もするが、とりあえずやる事がはっきりしているだけマシと捉えるべきか。

 にしても、明確な目的の指定はされなかったため、まずはどう動くか考えないといけない訳だが……。

 

「悪いわね、茶葉切らしてた」

「ちゃんと在庫管理しておけよなー。っと、紫はまだ来てないのか?」

 

 そうして悩んでいた所に霊夢と魔理沙が戻って来た。

 タイミングの悪い事に、あるいは紫の狙い通りなのか、既に去った後だが。

 しょうがないので言われた事などを全部伝えてみる。

 

「なるほど。それで何故か色んなところに行けと」

「まあ、うん。そういう事らしいんだけど、適当に行くのとかじゃ駄目だよね」 

 

 霊夢はちゃんと理解してくれたので、ついでに少し相談も持ち掛けた。

 すると魔理沙曰くおやつ感覚で楽しめる面白い館とやらを始めとした色んな話が出た……のだが、まだ早いのではないかとか何とかでことごとく却下となった。

 ではどうしようかと悩むが、やはり答えが出ないものは出ない。

 そんな状況の中、霊夢が話題転換を仕掛ける。

 

「ところで楓華は命名決闘――通称で言うなら弾幕勝負ね。やった事は?」

「えーっと、そのものが分からないかな……」

「あー……分かった、まずそこからやりなさい。基礎が出来ないんじゃどうしようもないし」

 

 実は楓華、弾幕勝負をした事が無いのだ。

 このルールは現在の幻想郷の中核を担うようなものと言ってもよく、それが出来ないのはちょっと危ないと霊夢は言うので、ありがたく教えてもらう事に――

 

「あ、私は面倒だからしないわよ。それに教えるのなら魔理沙の方が得意でしょ?」

「仕方ないな。じゃ、暇つぶしに私が教えてやるぜ。まずはルールからだな……」

 

 霊夢はしないようだが、魔理沙が教えてくれるらしい。

 少し興味があったのもあってか、ルール部分はすんなり覚えることが出来た。

 

 その説明もすぐに終わり、次は弾幕を出せるようになる事から始めるらしい。

 緊張のような、強張るような気持ちを抑え、練習の為に楓華と魔理沙、あとこいしも追って外に出た。

*1
魔法の森や魔界にも同名のものがあるが、それとはまた別物らしい

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