東方浄華石 ~ Chaotic mist and tender girl 作:例の饅頭
「まずは普通に弾を出す所からだ、一発な。私に向かって何か弾を撃ち出すようなイメージでやってみろ。本気でもいいぜ」
早速、弾幕の練習が始まった。
言われた通り前方に両手を向け、纏うのとは違った感じでそこに意識を集中させる。
すると何の問題もなく、ゆっくりと魔力の弾が形成されてゆくのが分かった。
これも能力の副産物のようなものなのだろうか。
「やっぱり魔力を扱うのが得意なのね」
「えへへ、そうかな……?」
こいしに褒められた楓華は若干嬉しそうで、思わず口角が上がる。
対する魔理沙も面白い奴を見つけた、というようなにやけ顔を浮かべ、回避の構えを取る。
「よし、来い!」
「はあっ!」
楓華は掛け声と共に弾を撃ち出すように力を籠める。
しかし、思ったよりもきちんとした弾が出なかった。
「おっと。なんだ? 遠慮してるのか?」
「あ、あれ……。そんなつもりじゃ……」
自分よりは大きいと言っても、相手は少女。
無意識にどこか遠慮してしまい、本気を出しづらいようだ。
「ははーん、なるほど。……そうだな、弾幕ごっこは例えるなら球技みたいなもんだ。殺しに行かなきゃ死ぬようなもんじゃないから心配すんな」
「……分かった。じゃあ、もう一回!」
その言葉を聞いて少し安心し、今度こそはと力を籠めると、ちゃんと魔力の弾が形成される。
しっかり狙いを定めて力強く前方に撃ち出すと、そのまま魔理沙に向かって飛んで行く。
と言ってもまだまだ“弾幕”とは程遠い単発の弾。これは易々と避けられた。
「おっ、今度は良い感じだな。もう少し踏み込んだ所もやってみるか」
基本中の基本である弾そのものは大丈夫だと踏んだか、次は複数の弾の同時発射などを叩き込むようだ。
***
……で、その後何時間か経った後。
既に日は昇って来ており、もうすぐ昼時である事が分かる。
「ぜぇ、はぁ……こんなに疲れたのいつぶりだっけ……」
「情けないなあ。私はまだまだ行けるぜ?」
楓華はもうすっかり息が上がっていた。
能力自体が多くの体力を消費するのか、はたまた楓華の体力が不足しているのか。
どちらにせよ、ここで一つ楓華の弱点が露呈した事になる。
「まあ大体は出来るようになって来た事だし、少し休むか」
「あー良かった、もう動けない……」
楓華は神社の縁側に向かい、座る……と思いきや倒れ込む。どしゃっと。
そのまま死にそうな勢いとは言い過ぎだが。
そして、そんな休憩の合間にこいしが話しかけてくる。
聞き返せば、いくつか質問したい事があるという。
「墓参りしてた時に言ってた、“お姉ちゃん”って誰? 出来れば一から百まで丁寧にじっくりとっくり教えて欲しいな」
「零から万まで行きそうな勢いだね。……うん、出会った経緯から話すよ」
その質問に、楓華は過去の記憶を探り出す。
お姉ちゃんは実の姉という訳ではなく、昔に世話になったある人物の事だ。
「昔、好奇心で森に入り込んだ事があってね。
それでろくに道も知らないのにどんどん進んだら迷って、そのまま何日も経ってもう駄目だって時に助けてくれたのがお姉ちゃんなんだ。
それからはもうお姉ちゃんの事が好きになっちゃって、お願いしてその後もちょくちょく会ってたんだけど……ある時急に居なくなった、んだと思う、たぶん」
「そのお姉ちゃんってどんな人?」
「それが、妖怪で優しかったことしか覚えてないんだ。
あった事自体は覚えてるのに、種族も、顔も、声も、名前さえも忘れちゃった。
一番忘れちゃいけないと思うんだけどね……」
「そっか……」
「じゃあ二つ目。どうしてあなたは、私を“普通に”見られるの?」
「え?」
楓華にはその質問の意味が理解できなかった。
見る、というのは普通に目で見る事ではないのか? ……と、当然そんな事を考えるからだ。
「いや……何でだろ。分からない」
もしかすると、こいしはそういう妖怪なのだろうか。
透明とかではなく、何か認識に影響を与えるような……。
だとすれば、尾行には気付かなかったとは言え当たり前のように認識し、話していた事は確かに疑問だ。
「まあ、それはいいや」
「え、いいの……?」
若干投げやりな感じに二つ目の質問を終え、次に移る。
次の質問は興味などの事ではなく、根本的な意識の話だ。
「じゃあ次、最後の質問」
……そう言うと同時に、こいしの表情が心なしか真面目な感じになった気がした。
そして少しの沈黙の後に、最後の質問をする。
「あなたは何故、異変解決に協力する事にしたの?」
「理由かぁ。あんな訳分かんないやつに犠牲を増やされたらたまったもんじゃないし、それに……」
「それに?」
「異変に関わって色んな所に行ったら、またお姉ちゃんに会えないかなって」
「……うん。そのお姉ちゃんが聞いたら喜ぶんじゃない?」
「そうだと良いなぁ」
こんな感じで最後の質問が終わった。
と同時に楓華は、身体のだるく重い感覚が消えて十分な休憩が取れた事に気付いた。
早速練習に戻ろうと立ち上がる。
「おっ、回復は早いんだな。じゃあ練習に戻るか」
「うん」
「次は格闘戦の練習だ。弾幕と言っても接近戦で戦う事もあってな――」
次は格闘の説明をするようだ。
しかし魔理沙自身はそんな格闘とかいう感じには見えないが……?
と思っていたら、案の定。
「で、これは霊夢の方が得意だから任せるぜ。ヘイ霊夢、楓華に格闘戦を教えてやれ!」
「使用人か! ……ま、いいわよ。魔理沙より手厳しく行くから覚悟しなさい」
そんなやり取りの後に練習を再開する。霊夢も何だかんだ丁寧に教えてくれるようだ。
***
――そしてそのまま、また一時間ちょっと位が経った。
「よーし、初めてにしては上出来だな。覚えが早いなお前」
「はぁっ、はぁ……あ、ありがと……っ」
また息が上がっていた。
体力の無さとの付き合い方は今後の課題となるだろうが、少し休めばすぐ回復してくれるのが救いか。
「及第点くらいにはなってたし、今回はこれで終わりよ。スペルカードは自分でなんかこう適当にやったら出来るから考えときなさい」
と言う霊夢に、楓華は練習が終わった事に安堵しつつ神社の中に戻って休憩する。
そして魔理沙との練習中に霊夢が仕入れに行っていたらしいお茶を頂きつつ、今度こそ何処に行こうか決めることにした……が、しかし中々思いつかない。
あまりに思いつかないせいで、果報は寝て待てをナチュラルに実行してしまいそうになったりしていた。
そんな折、やはり例の館がいいだろうという方向に話がまとまって来た。
実際、初心者向けと言える場所なんて何処にもないとかで。
「やっぱり手軽なのは紅魔館かしらね」
「ああ、やっぱりそこだな。ほら、あのおやつ感覚で楽しめるって言った館の名前だ」
二度も話に上がる辺り、やはりその館が一番良いのだろう。多分。その言葉を信じるならば。
ともかく、選びづらい所に敢えてこれを選んだことから一押し的な何かであろうことは分かる。
「じゃあ、決まりかな?」
「みたいだね。行こっか」
「あ、ちょっと待った」
そうして楓華とこいしが準備を始めた所でツッコミが入った。
そもそも紅魔館の場所は知っているのか、というごもっともなものだ。
当然、二人とも知らないと答える。
……こいしは怪しい所だが。
「おいおい、仕方ないな。じゃあ私たちが案内してやるぜ」
「たち、って……。勝手に私を頭数に入れるのやめなさいよ」
そんな状況を把握するや否や、勝手に霊夢を加えつつ魔理沙が案内をしてくれることになった。
「一応異変に関わる事なんだ。お前も来るべきだろ?」
「確かにそうだけど……仕方ないなぁ。じゃ、早く準備して。さっさと行ってさっさと帰るわよ」
こうして霊夢と魔理沙も加わり、総勢4人体制で吸血鬼の住まう館にカチコミする向かうのであった。
……なんとなく