東方浄華石 ~ Chaotic mist and tender girl   作:例の饅頭

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第一章『紅き虹の吸血鬼』
騒乱の紅魔館


 時刻は真昼間のちょっと後ぐらい。一行は例の館、もとい紅魔館へと来ていた。

 ……飛べない楓華を抱えながら。

 

「うう、高いのやだ……」

 

 今まで経験した事の無い高さで運ばれ、涙目でガタガタと震える。

 更に冷気をもろに受ける事にもなった為、その寒さも相まって精神的にちょっと疲弊している。

 こいしが触手でぐるぐる巻きで運んだので多少はマシだったようだが、しかし今にも泣き出しそうな状態だ。

 

「泣かないの。こんなので折れてたら異変解決どころか生きてけないよ?」

「そんな事言ったって……」

 

 そうして泣き言を吐く楓華とそれを慰める(?)こいしを尻目に、霊夢と魔理沙はそそくさと中へ向かう。

 ……中華風な服を着てる門番らしき人もいるがなんか寝ててスルーされていた。何なんだろうあの人。

 

「さ、二人とも行っちゃったし早く行こうか」

「ああー……」

 

 触手を巻き付けられたままズルズルと引っ張られてゆく。

 やっぱりあの門番は無視されている。何なんだろうあの人。

 

 ……さておき、門を潜り抜けて玄関。

 あの二人は既に入っているのでそれに倣って入って行く。

 それと同時ぐらいに、若干投げやりな感じで霊夢が大声で名前を呼んだ。

 

「いきなりで悪いわね、レミリア! 来たわよ!」

 

 すると、そのレミリアという人物が――現れなかった。

 代わりにメイドな感じの銀髪の女性がいきなり現れる。

 文字通り、その場に一瞬で。

 

「何の用? 今お嬢様は取り込み中よ」

「よう咲夜。……取り込み中だって? 何かあったのか?」

 

 咲夜と呼ばれたその女性に魔理沙が聞くと、楓華にはよく分からない事情などが語られた。

 

 霊夢の適当翻訳によると、なんか今この館の主であるレミリアの妹が大変な事になっててそれの対処に回っているとのこと。

 つまり今は本当に客の相手などしてる場合ではないという事らしく、楓華は出直しを提案しようとするが……。

 

「ほうほう、こりゃ来て正解だったな。ちょっと入れてもらうぜ」

「え、突っ込むの?」

「当たり前だ!」

 

 ……その前に魔理沙が凄い乗り気になってしまったので諦めた。

 かと言って勝手に立ち去る訳にも行かないので、渋々。

 

「ダメ。貴方が来ると大体碌な事にならないし。特に今は」

「ケチだなぁ。だが、そんなに押し通られたいならしてやってもいいぜ?」

 

 そう言うと魔理沙は懐から八角形の小さな箱のようなものを取り出す。

 この物体が具体的に何なのかはともかく、なんか武器になるようなものという事だけは分かった。

 そして、来て早々おっ始めようとしている事も。

 

「……はぁ、さっきも言ったでしょ、今はそんな事してる暇無いのよ。仕方ないから通すわ」

「お、じゃあありがたく通るぜ。さて今回はどんな事が起こるかなーっと」

 

 が、そうはならなかった。

 魔理沙は咲夜のその言葉を聞くや否や、手に持ったソレをしまって館内に突っ込んで行く。

 多少文句を言いながら霊夢もそれについて行き、やがて二人とも奥に行ってしまった。

 そんな様子を呆れたような顔で見届けた後、咲夜は楓華に話しかけてくる。

 

「……で、貴方。見慣れない顔だけど?」

「あ、えーと。僕は……」

 

 楓華は自己紹介や経緯の説明をする。

 異変解決に協力している事、その関係で来ている事、迷惑かけてすみませんでしたetc...

 

「なるほど。あの二人とは違って多少礼儀はあるのね」

「いやあとんでもない……」

「貴方も来て良いわ。というかアレらよりずっといいし」

 

 どうやら二人よりマシな部類だと判断し、通してくれるようだ。

 むしろ同類と判断されたら心外である。

 

「……ところで今更なんだけど、門番ってどうしてた?」

「それっぽい人なら寝てたよ」

「なるほど、教えてくれてありがとう。後でシメに行かなきゃ

 

 なんかさらっと恐ろしい言葉が聞こえたような気がするが気のせいという事にした。

 それよりも、先ほどから全然喋ってないこいしが気になったので話しかけてみる。

 

「あ、そうだ。こいしは……?」

 

 が、返事は無し。どうやら彼女も話をしてる間に先に行ってしまったらしい。

 完全に置いてけぼりである。

 

「他にも誰かいるの?」

「うん。実はもう一人来てるんだけど……勝手にどっか行っちゃったのかな」

「……まあ、妖怪なら大丈夫よ」

 

 何とも信用しづらい間があった気がするが、とりあえず楓華はこのまま咲夜に連れられて先へ進む事にした。

 

「ところで、私は十六夜(いざよい) 咲夜(さくや)。よろしく」

 

***

 

 一方、こいしの方はと言うと。

 一人先に進んだこいしは、なんかある意味衝撃的な光景に立ち会っていた。

 

「オラッ、バカ姉! ぶっ飛ばす!」

「ちょっと性格変わり過ぎじゃないかしら!?」

 

 そこには吸血鬼の姉妹が喧嘩をしている姿があった。当然弾やら打撃やらの応酬付きで。

 しかし臆する事もなく、隅っこでのほほんと観戦していた。

 

「わあ、どっちも強いねー」

 

 こんな感じで、一人で修羅場に来てると言うのになんとも暢気だ。

 ……暢気過ぎて、流れ弾の回避も忘れてしまったようだが。

 

「こりゃ見てて飽きな……あ」

 

 ピチューン。

 流れ弾に当たり、哀れこいしは撃沈。

 部屋の端で暫くおねんねする事になりましたとさ。

 

***

 

 ……再び視点を戻して。

 楓華は咲夜に連れられて歩き、やがてある一つの部屋に辿り着く。

 

「さあ着いたわ。この先が事の起こってる部屋よ。……そうね」

「な、なに?」

 

 咲夜は品定めするように楓華を見つめる。

 そして何かを決めたかのような表情を見せた後、口を開いた。

 

「お嬢様に加勢してくれないかしら」

「……ええっ本当にいきなり!? なんか凄い音するし! というか咲夜じゃ駄目なの?」

 

 きっぱり、無理と言われました。荒れ果てた各部屋の掃除で忙しいとか何とか。

 本当にいきなり過ぎてポカンとした楓華だが、もしドンパチしているなら真面目に怪我人が出そうだとも思ったので、お人好しを発動させて受け持ってしまった。

 普通に考えれば自分がその怪我人になる可能性の方がずっと大きいのだが。

 

「この扉の先が修羅場だから、何とか頑張って。弾除けでもいいから

「う、うえぇ~……」

 

 色々と明度の低めな思いを胸に抱きながらも、楓華は修羅場へと足を踏み入れる。

 

「お邪魔しうっわ」

 

 するとそこには中々の惨状が繰り広げられていた。

 クレーターの出来た床、壁、天井。破壊され飛び散った家具の残骸。

 そして倒れているこいし。

 感想として、“これはひどい”の一言に尽き果てた。

 

「もはやこれまで……ぐふっ」

「もう、バカ……」

 

 度重なる訳の分からない出来事の上に古明地ひんしと来てさすがに悪口が漏れる。

 しかしこの間数秒。ここでやっとお二人との会話が交わされる事になった。

 

「ん……? え、誰!? 今妹の相手で忙しいのだけど!?」

「メイドさんに修羅場を収めようとぶち込まれた通りすがりのコモン妖怪です……」

 

 コウモリみたいな翼をした方に話しかけられ、状況が状況だけにヤケクソ気味に自己紹介をする。

 

「ええ……。いや、あー、分かった。この際誰でも良いわ、ちょっと手を貸しなさい! 妹が狂暴かつ凶暴になって大変なのよ、なんか妙に強くなってるし!」

「う、うん」

 

 一方虹色の翼をした方は敵意むき出しな感じで話しかけてくる。

 

「お前も邪魔しに来たのか。成敗してやる!」

 

 見た目は可愛らしいのだが、それに全ッ然似合わない言葉を投げつけて来た。

 こんな状態なので、仕方ないかと一応身構える。

 

「さあフラン、観念しなさい!」

「うるせー! 禁忌『レーヴァテイン』ッ!」

 

 姉の言葉にも耳を貸さず、フランと呼ばれた彼女――フランドールは早々にスペルカードを宣言した。

 すると彼女の手の中に炎の剣のようなものが現れた。多分これをレーヴァテインと言うのだろう。

 そしてそれを横薙ぎして攻撃するが、対するレミリアも素早く避けて反撃の体制に移る。

 

「本当に性格変わり過ぎよ! 神槍『スピア・ザ・グングニル』!」

 

 今度はレミリアの手に紅い弾が現れ、それを高速で投げつけると槍のような形になってフランドールの方へ飛んで行く。

 しかしそのまま当たることは無く、レーヴァテインで弾かれた。

 

 更に荒れる部屋と所々ぶち抜かれてゆく壁。こうなったら普通に動けなくなるものだが、そんな楓華の様子を見てレミリアが言葉を掛ける。

 

「ほら、何か無いの? 援護射撃とか!」

「あー、えーっと、考えてみる……」

 

 とは言うものの、まだスペルカードの一つもない。

 疲労の問題もあるし、こんなのが相手では援護射撃なんかしても雀の涙ほどの戦力にもならないだろう。

 格闘戦にしても、もうなんか見るからに駄目だ。

 ……そんな感じに悩んでいると、タイミングが良いのか悪いのかこいしが起きて来た。

 

「助け、要りそう?」

「……うん、必要。要りそうじゃなくて必要。僕には無理だこれ」

 

 折角起きた事だし、どうしようもないのでこいしに助けを求める。

 頼み事を請け負った上でのこれとはひどく情けないものだが、もう起こってしまった事はしょうがない。

 

「貴方誰と話して……なんか居た」

「うん、本当に情けなくて申し訳ない。後はこの、こいしになんとかしてもらって」

「わ、分かったわ……?(何の為に来たのかしら)」

 

 そうして楓華が加わると思われた戦いには代わりにこいしが加勢し、優勢になる――

 と思われたが。

 

「あ……」

 

 二人に気を取られて隙を見せてしまったレミリアはフランドールに接近を許してしまう。

 おおよそ攻撃とは思えない動きで触れられると、その手から赤黒い何かが伝播する。

 数秒後、レミリアは黙って楓華達の方へと向き直り……。

 

「ぶっ飛ばす!」

「え゛え゛!?」

 

 驚愕の声を上げる楓華(と平然としているこいし)。

 どうやらフランドールの狂った行動が何故か伝染してしまったようだ。

 

「さあ、次はお前らだ! 覚悟しろ!」

 

 フランドールがそう言うと、二人一斉に弾幕を展開する。

 なんとも強力で厄介な敵が増えてしまったが、どうせ今戦えるのはここに居る正常(?)な二人のみなのだ。やらない訳には行かない。

 

「濃っ!? 密度が濃っ!?」

「ひょいひょい~、っと。ほら頑張って、ここで負けたらゲームオーバーよ」

 

 回避に苦戦する楓華をこいしは……多分励ましているのだろう、うん。

 ともかくそうして割と難なく避けたようにも見えるこいしは、ここで反撃を開始する。

 

「本当は吸血鬼(あれ)と格闘戦なんて無謀なんだけどね。楓華はこっちの方が得意そうだし、お手本見せちゃうよ」

「えっ大丈夫なの!?」

「どうだろうね? でも結局楓華も戦わなきゃ駄目になっちゃったし。という訳で……」

 

 こいしはナイフを取り出し、触手に変化させた指を巻き付ける。

 そうして先が尖った鞭のように振り回して薙ぎ払うように二人に向かってぶん回す。

 しかし吸血鬼の素早さは尋常ではなく、易々と回避された。

 

「こんな感じ。次楓華の番だよ」

「仕方ない、あんまり気は進まないけど……色んな意味で」

 

 それに乗じて楓華も、念の為腕に魔力を纏いつつ一気に駆け寄って拳を振るう。

 しかしやはりその攻撃が当たる事は無く、とは言え攻撃を受けるでもなく、互いの攻防が暫く続いた。

 ……そして何分かの時が経とうとしていた頃。

 

「駄目ね。この程度で私達を阻もうなど、五百年くらい早いわ!」

「ぜぇ、はぁ、力が違いすぎるよ! これ勝てるの!?」

 

 楓華はもうすっかり息が上がっていた。

 こいしは割と余裕そうな感じではあるが、攻撃を当てる事も出来ていないためいつかは押し負けてしまうことだろう。

 ずっと膠着状態が続いており、相手もいよいよ痺れを切らしたようで。

 

「さあバカ姉! 叩き落とすわよ!」

「ええ、地獄まで墜としてやるわ!」

 

 そう言うと、二人で天井を蹴って勢いよく楓華の脳天目掛けて殴り込みに来た。

 その攻撃は先ほどまでよりもかなり素早く、避けられそうにない。

 

「あっ、死んじゃうかも……」

「ごめん助ふぎゃあッ!!」

 

 こいしが看取る中で楓華は頭上からの打撃を食らい、勢いよく床を突き破りながら姉妹ごと階下へと潜り込んでゆく。

 残されたこいしがその穴を覗き込んでみると、その下には――。

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