東方浄華石 ~ Chaotic mist and tender girl 作:例の饅頭
「……はっ!? 痛……!」
楓華は目を覚ました。と同時に頭に痛みを感じる。
魔力の使い過ぎと疲労と殴られた影響のトリプルコンボだろう。
正直ダル過ぎて動きたくない気分だったが、今の場所は把握しておかなければなるまい。
そう思い横になったまま辺りを見回すと赤い壁や天井が見え、館の中のどこかであろうという事が分かった。
その流れで自分の体にも意識を向けてみると、布団が被せられているといった事も分かる。
誰かしらに寝かされていたのだろう。
一通り見回した事で安心し、ふかふかで暖かくて気持ちの良い布団のせいもあって呑気にも二度寝してしまいそうになるが、それを許さないかのように横の方から気配がした。
顔を向けてみると、こいしがベッドの横の椅子に座ってこちらを見ている。
「あ、こいし……おはよう」
軽く目をこすりつつようやく起き上がった楓華は、こいしに挨拶をする。
するとこいしは軽く手を振って返してくれた。
「何ともない?」
「うん、おかげさまで。方法については何も言うまい……」
「そう。今みんな別の部屋で集まってるんだけど、歩ける?」
「大丈夫、歩けるよ……うわっ!?」
楓華はベッドから出て立ち上がろうとする。
が、脚に力が入らずによろけて転んでしまった。
それを見るや否や、こいしは楓華を抱き上げて背負う。
「強がりは早死にの元だよ」
「ご、ごめん……」
そうして楓華を連れたこいしは部屋を出て、皆が居るという場所へ向かう。
***
少し歩いて着いたのは食堂。
中央に大きな長テーブルが置いてあり、その横には複数の椅子が設置されている。
ここに来るまでに見た物にも言えることではあるが、デザインはどれもこれも高級品らしく、豪華な造りだ。
特にご飯のいい香りがするという訳でもないようだが、恐らく大人数で集まるのには最適な場所だったのだろう。そこには見たことのある人物が数人座っている。
霊夢に魔理沙にレミリア、フランドール、パチュリー。
咲夜はレミリアの隣に立ち、まさにメイドな感じの雰囲気をしている。
門番さんは咲夜の言葉からして多分シメられたのだろう。
して、楓華はそこに入ると同時になんか自分の方……ちょっとズレてこいしの方になんか凄く鋭い視線が向けられているのに気が付く。
その視線を辿ってみると、フランドールが凄いジト目で睨んでいるのに気が付いた。
理由はお察しで罪深いアレだろうが、それからすぐに霊夢が話しかけて来たので一旦気を逸らされておく事にした。
「楓華、丁度良かったわ。とりあえず座りなさい」
こいし共々席に着いてから聞いてみると、楓華が起きるまでの待機がてらフランドールが暴走したそもそもの原因についての談義と言う名の雑談をしていたらしい事を聞かされる。
魔理沙が何かに操られていたようであるのを見抜いたことと、楓華の魔力でそれが治ったことから、やはり瘴気や異形に関わることなんじゃないかという予想がなされているようだ。
楓華にも心当たりはそこそこある上少し気になる事でもあった為、今回の騒動の発端になったとされるフランドールに対して、そうなる前に何があったかを聞いてみる。
「貴方が来る前に一応言ったんだけど、赤黒いモヤの塊があったから近くで観察してたのよ。興味本位で。そこからの記憶はあんまり無いわ」
「わあ……そっかあ……」
……楓華は項垂れた。
興味本位で変なものに触られた挙句にあんな暴れ回られる他の住人の気持ちを考えると、何とも言えない気持ちになったからだ。
ともかく、これで瘴気(異形)の仕業であることがほぼ確信出来た。
憑依紛いの事も可能とは、やはり事前の情報通り怨霊に近い性質を持っているようだ。
「全くもう。いつもは賢明なのに変なところで迂闊なんだから……」
「で、それはもう良いのよ。私はそこの妙に存在感薄いヤツを問い詰めたいんだけど」
確かに食べ物の恨みは恐ろしいものだが、今言うか。
……なんて心の中での突っ込みも露知らず、こいしへの追求を始める。
が、それは当のこいしが
「つまみ食いの事なら嘘だよ。確かに美味しそうだったし、楓華が戦ってなければやっちゃったかもしれないけどね」
「……」
数秒の沈黙の後、フランドールは長く深い溜息を吐き、厨房から何か甘そうなものを取って来た。
そして席に着いたかと思うと、頬杖をつきながら食べ始める。
その目は依然としてこいしを睨んでいるが、先ほどよりも殺意が幾分か和らいでいる。
恨みの目というよりも、呆れ顔という方が近いだろうか。
そんな状況に心なしか皆の目線が生温かくなった気がするが、楓華は明後日の方向を向いて何とか無視した。
閑話休題。
さてここからどうするかと、今度は楓華が話題を変えて話し始める。
「えっと、これからどうしよう?」
「そうね……もう遅いし、泊まって行くと良いわ。助けられた恩もあるし」
そう言ってレミリアが提案をする。
生まれてこの方他者に泊めてもらうという経験が無かった楓華は、何か悪い気がしてしまい言葉を渋る。
「私からは貴方の能力が気になるって事で、軽いお願いとして言わせてもらおうかな。魔法にも活かせそうだしね」
が、フランドールのお願いで泊まっていく事にしたようだ。お願いされては仕方がない。それに能力の事は楓華自身も気になる。
こいしは言われなくともそうするつもりだったような雰囲気をこれでもかと醸し出している。
中々に厚かましい。
と、そう決まった所で霊夢と魔理沙は席を立った。
「じゃあ、そういう事なら私たちは一旦帰るわ。別々に探った方が効率的だろうし。行くわよ魔理沙」
「おう。これから忙しくなりそうだ。……あ、そうだパチュリー。本借りてくぜ」
どうやら、やる事があるらしく。
楓華は何故だか少し名残惜しさを感じたものの、霊夢が遠回しに言った“いつでも来なさい”という趣旨の言葉で吹っ切れたようだ。
こうして魔理沙に対し両中指を立てるパチュリーを背に二人は去って行く。
そこから、ごく短い間の紅魔館生活が始まる事となった。
***
また部屋へ移動して。
ふと窓から外を覗いてみればすっかり日は沈み、暗くなっている。
しかし眠くなってくるだとかそういう事はなく、不思議と目は冴えていた。
……色々考えるべき事はあるものの、フランドールの質問攻めが始まった為に思考を切り替える事となった。
その内容はと言うと、“魔力を纏う以外に何か出来るのか” “物質の創造なんかも出来るのか” “魔力が変わった動き方をしているのが気になる”などといった、能力に関するものばかりだ。
「ねえ、どうなの? ちょっとやってみてよ」
言われるがまま試してみる。
まずは手を起点に道具か何かを生成してみたり……
が、駄目。
出来そうな雰囲気はあるのだが、いまいちコツが掴めない。
「出来ないなぁ……」
「纏えるのが分かった時はどうだった?」
ここで、朝にあった事を思い出してみる。
確かあの時は、何かを左手に溜めるように集中して……
と、ここで楓華は気付いた。まずはイメージする事が大事なのだと。
当たり前と言えば当たり前だが、殆どの事は最初から直感で出来るものではないというのは失念しがちな事だ。
一度別のことが出来てしまえば尚更。
「そうか、これなら――」
その気付きを元にもう一度試してみる。
具現で言うならば……例えばこいしが持ってるナイフとか。
そのイメージを強めながら、広げた両の掌に意識を向けて集中する。
「もう少し……っ、駄目だ!」
掌が光って魔力が集まり始めた感覚はあった。
しかし集中力か、あるいは体力が不足しているのか、完全に形にする事が出来ずに消えてしまった。
「あ、一応出来そうね」
「うん……だけどまだ慣れが必要みたい。もうちょっと強くならなきゃ」
楓華は面目ないと苦笑した。
……と、ここで楓華のお腹が鳴り、強い空腹感を感じる。
同時に今日は何も食べていなかったという事を思い出す。それではお腹も空くというものだ。
「あら」
「あ……えへへ」
こうして自らの腹から音が鳴った事に照れたその時、突然部屋の扉が開く。
そちらに目を向けてみると、こいしが何か運んで入って来ているのが分かった。
「やっほー。キッチン借りてご飯作ってきちゃったよ」
「あっ嘘つき影薄青目玉」
楓華の視線に合わせてフランドールも気付いたようで、目が合うなり変なあだ名で呼ぶ。
が、それを意にも介さず、こいしは部屋に備え付けられていた机にご飯を置いて楓華に向き直った。
「さ、楓華。どーぞ」
「(天使かな?)」
かなりお腹が減った今の楓華にとって、こいしはこの上なく救いに見えている事だろう。
至って普通な顔で上記のようななんか変な事を考えながら席に着いた。
既にその赤い目は犠牲者を捉えた獣の如く、爛々と輝いている。
それでいてここからは喰らうのみと言わんばかりの静けさを醸し出してい――
「ねえ、なんか
「さあ? 会ったの今朝だし」
「えっ今朝?」
――二人の会話を耳に入れる気も無しに、楓華は食事を始める。もちろんいただきますを言ってから。
メニューはハムエッグに焼いたパンと言うまでもなく晩飯には不相応なものだが、その味は驚く程上質なものだった。
程よく焼かれた白身は丁度良い焦げと弾力を持ち、一方黄身はよくやる“三分の二熟”みたいなものではなく、きっちりと半熟でとろとろだ。
これにハムの塩気も加わり、枯れ果てた塩分の最低必要量を大きく上回る形で満たしてくれる。ような気がする。
パンも絶妙な焼き加減に仕上がっており、外は焦げないぐらいにサクサクな上に中はふっくらとしていて、焼きだけでもその技量を推し量る事が容易なほどの仕上がりになっていた。
そのようにして口に広がる味は優しく、言うなれば実家のような安――
……とにかく、溢れ出る女子力を味蕾で感じられるいい味だった。
楓華はその
「もう一人分あるよ。あとプリンも」「食べる」
こいしはそんな楓華をほんわかした顔で見つめながらフランドールに言ったが、即答である。余程プリンが好きなのかこやつは。
……そんなこんなあって食事が終わった。
二人共ご満悦な様子で、完全に餌付けされている。
片付けもさっさと済ませてあり、中々仕事が早い。
「美味しかった……すごい美味しかった……」
「料理上手なのね……結構やるじゃない」
こんな二人をのほほんとした顔で眺めるこいしだが、段々うとうとしてきた。
朝から楓華について来ている上に二人(レミリアもだが)が気絶していた間もずっと起きていたようで、もう睡魔が襲ってくる頃合なのだろう。
「……ねえ、お腹一杯になったらなんか眠くなる事ってない?」
「あるわ……晩ご飯食べるとすぐ眠くなる」
とは言え気絶と睡眠は別物で、それでは疲れもあんまり取れない。
追って二人もすぐにうとうとし始めた。
「まあ、寝たい時に寝るのが一番よね……ああ、移動するの面倒だし今日はここで寝るから。おやすみ……」
と話しつつフランドールは眠りに落ちてしまった。
こいしに至っては既に寝てしまっている。
「あ、二人とも寝ちゃった。じゃあ僕も……あっ」
まだ起きてた楓華は睡魔で頭がよく回らないながらも気付いた。
ベッドは今この部屋に一つしかなく、かといってそこまで大きくもない為、二人が使う程度で限界だろうと。
……今現在世話になっている館の主の妹を変な場所で寝かせる訳には行かないし、かと言ってこいしなら良いわけもなく。
二人をベッドに寝かせて掛け布団を掛けてやった後、楓華は何処で寝ようかと考える。
で、辿り着いたのが床で寝るという奇策。
何も眠くてハイになった結果の奇行という訳ではなく、やはり横になって寝たほうが良いと思ったからだ。
経験上その方が疲れもよく取れた事が多いし、何より寝やすい。
汚くなるという考えも出たには出たが、眠気がもう限界に達していたのでもうどうでもよくなっていた。
そして、そのまま意識は遠のいていき――。