東方浄華石 ~ Chaotic mist and tender girl 作:例の饅頭
「温まったぁ」
「よし、上がったわね。……床で寝るとかどういう神経してるのよ、ほんと」
早朝の紅魔館。
楓華は今、フランドールに連れられて風呂にぶち込まれて上がって来た所だ。
何故かと言えば知っての通り、床で寝ていたからである。
土足の部屋の床で寝るとかマジありえねーのである。
「ベッドが一杯で……」
「気にせず自分が使えば良かったじゃない」
「だって女の子床に寝かせる訳には行かないし……」
「貴方は女じゃないの?」
妹様の自由なお言葉に参りつつも言い返すが、楓華も楓華でごもっともな指摘を受けることになってしまった。
といった話も程々として、今日の行動の方針を決める事に。
勿論このまま帰るという訳はなく、折角来たからにはここの住人との交流もしておきたい所だ。
……が、何処から回れば良いのかが全く分からない。
フランドールにしてもついては来るが案内とかをする気は全くないらしいので、とりあえず自分の興味のままに動いてみる事にした。
***
で、辿り着いたのが紅魔館地下に位置する大図書館。
改めて見回してみれば背丈の数十倍はある本棚に様々な書物が保管してあるのが見え、それらのジャンルは娯楽用のライトな本に学術系の難しい本、果ては魔導書とかなり幅広い。
これだけ揃っているのを見ると早速何か読みたくなるが、それは図書館に再び訪れた喧騒によって先延ばしにされた。
「ちょっ、待ちなさい!? ここで爆裂魔法なんて放ったら――」
叫ぶパチュリーの声を遮るように響く爆発音。
そこから遅れて本がぼてぼて落ちる音とページがめくれる音が短い間隔で断続的に鳴る。
何事かとそちらへ向かうと、そこにはうつ伏せに倒れるパチュリーと魔導書を持って浮いてるこいし、そして本が抜け落ちた本棚に散乱した本の数々が目に入った。
「……何やってるのかな!?」
「おはよー。ちょっと適当な魔法をね」
とこいしはゆるく微笑むが、その被害はそんなに大きくないとは言え、どう考えても“適当な魔法”程度のものではなかった。
一応床のちょっとしたひび割れ以外大した地形の破壊も本の焼失も無く、むしろ不思議なことにその全てが無傷だったが、本そのものは散乱してしまっている。
「ああ、思い出した。地底の……道理で魔力もある筈だわ」
パチュリーは気だるげに起き上がった。
怪我は無いようだが、周囲の散乱具合から結構可哀想な事になっている。
「むぎゅう……全くもう、また片付けなきゃ。片付け始める前までだったら勝手に本読んでていいから、そいつしっかり見といて」
「う、うん……」
そう返事する間に近付いてきたこいしをガッチリ制するようにして本探しを始めた。
とは言っても、何を読むか決めていた訳ではない。
ただ何か良さそうな本は無いかと適当に探しているだけである。
「楓華、これ」
そんな楓華に対し、フランドールは一冊の本を差し出す。
「これは?」
「“
「うわ、ありがちでポップなタイトル……なんでこれを?」
「魔力が扱えるのなら魔法は使えるのかな、ってね。まずは読んでみて」
言われるがまま本を開き、中身を読み進めて……行こうと思ったが、こいしを抱えたままでは読めないのでフランドールが本を開いて見せてくれる。
そこには……
「“世界には層があり、今見えている物理の層とは別に魔法や精神が働く心理の層が存在する。これらは相互に作用して世界を構成し――”……へぇー、そんなものが」
……などといった色んな基礎知識が分かりやすく書かれ、タイトル通り頭がそんなに強くない(幻想郷比)楓華にもすぐに分かった。
そして初心者用の呪文まで完備と、入門書として中々至れり尽くせりだ。
これなら子供とまでは行かないが、まずまずの教育を受けていれば人間でも簡単に魔法を習得出来るだろう。
「魔法ってこうなってたんだね」
「理解は出来たみたいね。じゃ、実践しようか」
初心者用呪文のページを開いて見せる。
そして楓華は言われるがまま、そこに書いてある通りに唱えた。
……唱えたが、発動しない。
何度も何度も唱えたが、やはり発動しない。
どころか、その前兆すら見受けられないのだ。
「あら」
「あれー? やっぱり何処か間違ってたりは……」
「たった一行よ、こんなにやって間違える事は無いはず。というか聴く限り合ってた。それに魔力だってしっかりあるように思えるし……でも、なるほど。これはこれで」
今のところ尽く特異な体質を見せてくれる楓華を、フランドールは興味深そうに見つめる。
「魔力を感覚で扱えるから、技術や知識で扱う魔法は回りくどくて出来ないとか?」
楓華に抱えられたままこいしは意見を提示した。
実際のところ魔法に必要な要素の大半は運が占めているらしく、とは言っても能動的に作用させる為の技術などは必要とされてくる訳であるが、それを楓華は何気なく行えるので魔法の形式じみた動作は回りくどいのだと。
「確かにその可能性もあるわね。あるいは単にバカ未満か」
「ひどくない? ……ってそれじゃあ僕、魔法使えないの? それはちょっと……いや結構ショックだなぁ」
「そんな魔法も要らなそうなインチキじみた能力持ってるのに?」
「だって、魔法唱えて発動するとかかっこいいじゃん……憧れじゃん……」
普通に考えれば片手間で発動出来るのもそれはそれでかっこいいものなのであるが、楓華はお気に召さなかったようだ。
……そんな、なんともお気楽な楓華の考えにフランドールは呆れた。
「あー、お楽しみのところ悪いんだけど。そろそろ図書館の大掃除始めるからどっか行って」
そんなこんなしていた所で、パチュリーが少し声を上げる。
昨日の戦闘やこいしの魔法ぶっぱで色々散らかったり崩れたりした事の後始末だ。
「ああ……うん、ごめんね。何か手伝えることとか……」
「いい。ある程度の勝手を知らない奴には任せない事にしてるから」
「わ、わかった……じゃあ別の所行こうか」
フランドールに本を戻してもらいながら言い、図書館を後にした。
***
「次はどこに行こうかなぁ」
「そうだねー」
楓華とこいしが呟く。
というのも本を読みながら次の目的地を考えようとしていた訳で、そこを中断せざるを得なくなったから当然と言えば当然である。
……一応弁明しておくと、こいしが散らかさなくても遅かれ早かれ同じことになったはずなので、そこは間違わぬよう。
えっ散らかした事自体? いやまぁその。
「行き先に困ってるなら、お姉様に悪戯でもしに行けばいいじゃない」
「わあ、面白そう!」
「ならん!」
「えー」「えー」
楓華は当然部屋まで借りた上に(半ば勝手に)食材まで頂いた館の主にそんな事をする訳が無く、二人を戒めた。
いや、身内のフランドールはともかくこいしが。
「……けど挨拶には行く。色々迷惑とか掛けちゃったし」
「えー?」「えー?」
とは言え何処へ行くか決まった訳でもなく。
とりあえず挨拶には行くことにした為、結局目的地は一緒となった。
***
で、またまた場所は変わりレミリアの部屋。
その扉はどことなく重々しい空気を放っており、近づくのが何となく躊躇われる。
「おりゃあ!」「きゃっ!?」
「入るわよお姉様!」
しかしそこは身内、フランドールがストレートに勢いよく蹴り開ける。
部屋の中にいたレミリアはいきなり開いた扉に一瞬驚きの声を上げた。
「フ、フラン。それに貴方達も。何の用かしら?」
楓華は世話になったこと、そして色々な迷惑をかけた事に対する謝辞を述べる。
それを見て、なんとも当たり障りのないヤツだ、ちょっとくらいやんちゃすればいいのに……とフランドールは思った。
「……あら、律儀なのね」
「いやー。本当は修理とか色々手伝うべきだったんだろうし、せめて言葉だけでもと……」
それに対しレミリアは、客人だしむしろ助けられたのだから気にしなくていいと言う。
なんとも懐の深い。
して、その光景を尻目にこいしとフランドールの二人は部屋を回る事にしたようで。
適当な会話を交わしつつ、タンスなどを物色していた。
これが俗に言う勇者ムーブである。
勇者じゃないけど。
どちらかと言えば魔王の方が近いけど。
「設置型爆裂魔法でも付けとこうかしら」
「わあ。じゃあ私は凍結にしようかな」
「貴方それ図書館の魔導書じゃない。いつの間に持って来たんだか……」
前言撤回、ただの悪質な悪戯である。
物色もそれはそれで悪質だが、これはただの悪戯である。というかテロ。
……しかし、そんな事を行いながらも抜かりのないフランドール。
今までの様子で気になる事を指摘する。
「ま、それは良いけど。ところで貴方、楓華と会ったのは昨日だって言うじゃない」
「うん」
「本当はもっと何か、ふか~い事情があるんじゃないの?」
というのも、会ってすぐというには不自然にも見える点があるからだ。
それは微妙な距離感の近さだったり、どう考えても楓華にわざわざついて行くような律儀さは見えなかったり。
たった昨日会っただけにしては妙に感じられるのだ。
「どうだろうねー?」
「……ま、言えないなら言わなくても良いわ。そんな知りたい訳でもないし」
しかし、適当にごまかされてしまう。
とはいえ元々そこまで興味がある訳でもなかったので、食い下がるような事もせずに話を終えた。
「ん。そこ、こうした方がもっと強くなるわよ」
「あ、本当だ。……他のとこにもやろうかな?」
そうしている内に楓華は……
「ところで、出発は今日?」
「うん、一通り回ってからね。あんまり長居しても色々と良くないだろうし」
どうやら話を切り上げる方向に向かっている様子。
……館にも部屋にもいきなり押しかけた身であるという事もあるのだろう。
早めに去るようだ。
「じゃあ、そろそろ行こうかな」
「そう。……フランの相手は大変だろうけど、しっかり頼むわよ」
「は、はーい……」
軽く挨拶をし、二人を回収してから部屋を出た。