東方浄華石 ~ Chaotic mist and tender girl 作:例の饅頭
行き先を考えながら再び館を巡る楓華達。
なんの変哲もないその辺の部屋とかこの辺の部屋とかばかり目立つが、そうして色々回っていく内にふと、フランドールの頭に一つの疑問が浮かび上がった。
「……一つ重要なこと聞くけど」
「うん?」
「どこまで戦えるの? 貴方は」
とてつもなく重要なことである。
何故ならこれから異形と戦っていく上で、そうでなくてもこれからまあまあ目立って幻想郷で暮らしていく上で、戦えないと単純にマズいからだ。
どこかに所属するなりして生きるのであればまだしも、一匹狼な感じではまず生きていけない。
「一応弱い妖怪なら多分……だけどそれじゃダメだよね。少なくとも昨日の事を考えたら、お世辞にも良いとは――」
「聞き方を変えるわ。技術はあるの? 武器の扱いとかそういうの」
「あー……」
心当たりはあるらしく、何かを思い起こすように立ち止まって考える。
やがてしっかり思い出せたのか、語り出す。
「そうだ、だいぶ昔に剣術……刀のね。それを少しだけやった記憶があるかな。……色々と事情があるもんだから、本当に齧る程度しか出来なかったんだけど」
「え、それだけ?」
本当にそれだけなのである。
フランドールは楓華の有るのか無いのか分からない、どちらかと言うと無い方に見える将来性に肩を落とした。
「……じゃあ、旅立つ前に
「美鈴?」
「
「あっ、あの人? か。多分妖怪なんだろうけど」
そう言えば、と思い浮かべる。
確かに門番を任せられるぐらいなのだから、格闘が出来てもおかしくない。
あとなんか体つきとかが強そうだったし。
「じゃあそこに行ってみようか。……ところでこいしはまた何処か行ってるのかな?」
「抱えられてちゃどこにも行けないよ」
「あ、うん……」
***
と、門まで移動して来た。
見てみると案の定美鈴はぐっすりと眠っていて、どこからどう見ても隙だらけのように見える。
「相変わらずの快眠で……」
「ぐっすりだねー」
こいしはいたずらっぽく、楓華は何故か納得したように頷きながら見つめる。
その光景を流し目に見つつ、フランドールは日傘を片手に門を閉じ、鍵を閉め始めた。
「……あれ、何やってるの?」
「美鈴を起こす為の準備よ」
「ほほう」
こいしはその行動の目指す先を理解したようだが、楓華は頭に?を浮かべているような状態で見ている。
そして、フランドールはその答え合わせをするようにレーヴァテインを召喚し、門が壊れない程度に勢いよく打ち付ける。
かくして鳴り響く甲高い金属音は、美鈴の耳までしっかり届き……
「……ッ!」
直後、美鈴は寝たまま反射的に鋭い突きを放つ。
フランドールはそれを剣の腹でしっかり受け止め、そこに美鈴が声をかける。
「何者? ここは紅魔館……えっ」
目を覚まし、自らが突きを放った相手が何者であるかをはっきり認識した刹那、数歩後ろの距離に飛び退く。
そして、地を穿たんばかりの速度で膝をつき手で正確な正三角形を描きながら頭を垂れて繰り出された体勢、すなわち土下座はこの世のどの土下座よりも整い、もはや芸術の領域にまで――。
「いや、大丈夫だから頭上げて。そこまでされると逆に困る」
「し、しかし……」
「元々このつもりだから。さあ立った立った」
半泣きになっている美鈴をなだめつつ、フランドールは二人の紹介と共に事情を話した。
昨日からこの館に来ている事、弱いけど助けられた事など色々だ。
中でも、素人ほどに弱いのが気になるので少しだけでも鍛えて欲しいという。
「……という訳よ」
「戦いの技術……ですか」
「そう。こいしはともかく、楓華は今のままじゃ頼りなさ過ぎるからね」
「分かりました。ここは私が諸肌脱ぎましょう!」
そう言うと美鈴は教え始め……
「と、その前に。教えられる期間によってどこまでやれるか変わってくるけど……どう?」
る前に、楓華に問う。
教えるのにも時間が要るのだから当然と言えば当然である。
「あー……実は今日にでも出発しようかと」
「ふむ……そうなると基本程度が限界かな」
「大丈夫、基本があれば後はきっと何とかなるよ。……基本すら無いのに比べればね。はは……」
方針が決まった事により、今度こそ美鈴は楓華に教え始める。
「まず、拳の握り方からね。まず張り手の状態から親指以外を折り畳むでしょ? そこから握ると指の間に空間が出来ないから堅くなって破壊力も増すし、自分の手も痛めにくいのよ」
「本当だ、すこしやりやすくなってる」
といった感じに教えられる、握り拳や受け流し、受身などの基礎技術を次々とこなしてゆく楓華。
どうやら、吸収力に関しては高い水準のものを持っているらしい。
***
そこから数時間程度が経った時の事。
日陰で訓練の光景を眺めていた他二人は、たまーに会話などを交わしていた。
「ねえ、何で楓華の戦闘能力を気にかけてるの?」
こいしが問う。
この後すぐ出発するならばフランドールが気にすることでは無いはずだ、と。
「ああ、それはね――」
……その理由を語るフランドールは何故だろうか、どことなくそわそわしていた。
***
「……よし、これで基本はバッチリ。覚えが早い!」
「お忙しい? 所ありがとう、さっきより大分強くなった気がするよ!」
「いえいえ。それに基本とは言えこういう事するのってあんまり無いから、私も楽しかったわ」
やがて訓練は終わり、楓華は基本的な技術を身に付けた。
期間故に完全ではないが、これで幾分かはマシな戦い方が出来るようになった事だろう。
後は鍛錬を重ねていくのみだ。
「って、あれ? フランは?」
ふと気がつき、こいしに問う。
「一旦中に戻ってるよ」
「そうだったんだ。……日差しとかキツかったかな」
「ううん。そういう訳じゃないと思うよ?」
そんなこいしの発言に疑問を呈していると、フランドールが館の中から出てきた。
……何故か鞄を背負い、日傘を持ち、マフラーまで巻きながら。
「遅くなったわ」
「あ、フラン。……その荷物は?」
「このタイミングでこれ、といったらね」
決まってるでしょ、とでも言いたげだ。
そんな様子を見た楓華は嫌な……という訳ではないが、予感というか予想が付き始めていた。
「逃げ……もとい、貴方の旅についてくのよ。不満?」
「え!? いや、不満って訳じゃあないけど……いきなり?」
あまりに唐突な宣言に困惑するが、それを傍から見ていた美鈴は合点が行ったような表情をしている。
そして、それを不思議そうに見ている楓華に向かい直って話し出す。
曰く、お嬢様から伝言があるとのことで。
「伝言?」
「“妹をよろしく頼む”と」
「あー……うん。まあ、善処しますとだけ……」
おてんば(?)二人を抱える事となった不安とある種の期待が入り混じった感情を何とか制御しつつ、出来うる最大限の返事をした。
「そうと決まったら出発よ。色々といつバレるか分かんないもの。咲夜にもよろしく言っといたから大丈夫よ」
「そ、そうだね……」
「さ、善は急げって言うでしょ。さっさと歩く」
「分かったから押さないでー……」
フランドールは楓華の背中を押し、さっさと出発するように促す。
やっぱりそわそわしながら。
楓華は美鈴に手を振り、押されるがまま紅魔館を後にした。
「ところでフラン、色々とバレるって言ってたけど、具体的に何したの……?」
聞きたくは無い気もしたが、やっぱり気になるので聞いてしまった。
「えーとお姉様の部屋の爆裂トラップ設置でしょ、それから今回の軍資金調達に金庫破りもさっきやったし……」
といった調子で、フランドールの口から次々と悪行が告白される。
当然ながらその一つ一つが言及される度に楓華の顔は青ざめていく。
「なーにやってんの!?」
「大丈夫よ――」
直後に爆音とキンキンに凍りつくような音が響き渡り、続いてレミリアの悲鳴や怒号が聞こえて来た。
「うぎゃーっ!?」
この分だとガチギレ、戻ったら半日は拘束されるかもしれない。
「あ、一つバレた。でももう出てるからセーフね」
「何がセーフだ! 仕方ないから逃げるよ、もう! ……もうっ!」
「牛?」
「誰が牛か!」
……もちろんフランドールに戻るなどという選択肢は無く、楓華も流れのままに逃げ始める。
そうして全力で走り出し、先行していたこいしと合流した所で、楓華達の旅はまた新たな出発を迎えることとなった。
「――改めて自己紹介しておくわ。私はフランドール・スカーレット。よろしく」
「ああ、うん。まあ……よろしく!」
「よろしくねー。フランちゃん」
「……好きなように呼びなさい」
フランドール・スカーレット。
新たに彼女が同行した事で、一層旅は賑やかになる事だろう。
とは言え旅を初めてからまだ一箇所、紅魔館しか行っていないが。
……さて、次は何処へ行こうか。