ある町のとあるレストラン
「ランチメニューAです。」
一人の青年が厨房から料理を客に運んでくる。
彼の名前はツバサ このレストラン『レガリア』の店長兼調理担当を勤めている。
現在は昼の12時 最も客入りが多い時間帯であり、店内は混雑しておりツバサも忙しく働いている。
「店長、12卓のお客様からの注文です。」
ウェイターから客の注文を聞くと直ぐに調理に取り掛かり、あっという間に料理を完成させてしまった。
「はい、次!」
「今度は20卓からの注文です。」
ツバサは忙しそうにしながらも、なんとかこの店の経営を成り立たせており、それは店内の様子を確認する事で明らかとなった。
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時刻は切り替わって、深夜 城下町にて
黒装束の男が町を闊歩する。
それはツバサであった。
彼は正体を隠すために黒衣を身に纏い、手にはダガーらしき物を携えている。
「.......此所か。」
彼が立ち止まった場所、それは殆ど使っていなかったのだろうボロボロの元一軒家である。
「スーッ、ハーッ........よし。」
深呼吸をして一息入れてから扉を蹴破る。
扉はドガッ!、と音を立てて屋内へと倒れる。
「な、何だ!?」
ツバサが中へ入ると周囲からざわついた男達の声が聞こえた。
「......お前らか。」
男達は以前街中で暴れ、女性に対して乱暴を働こうとした際、ツバサに動けなくなるまでボコボコにされ、警備兵に突き出されていたのだが.....
「....噂は本当だったらしいな....どいつもこいつも腐ってやがる.....!!!」
男達の前で怒りを露にするツバサ。
「さっきから...何言ってんだ...テメェ!!!」
男はツバサに対して拳を振り下ろす。
「やっちまえ!」
男の仲間達が奥から囃し立てる...だが、
ブシャー、と血飛沫が男の首から溢れ出してくる。
「あ...が......!!!」
男はドサッ! と背中から倒れ、ピクリとも動かなくなってしまった。
「テメェら....何で釈放されてんだ?......答えろ。」
襲いかかってきた男を殺してから他の男達を睨み付け、質問をする。
「...だ、大臣様が..しゃ、釈放してくれたんだよ..。」
「オイ馬鹿!なに喋ってんだ!!」
「だ、だってよぉ....。」
男達がいざこざを始めるがツバサはそんな事は知らんとばかりに無視して考えた。
「ふむ....大臣....か。」
やはり噂は本当だったかと考え始めるツバサ。
「よし分かった....俺が聞きたいのはそれだけだ。」
男達の顔に安堵の表情が浮かび上がる。
ツバサは近くにいた男に近付いて、
「...じゃあ死ね。」
それだけ言うと、またも首を斬って殺す。
「な....何で、ちゃんと喋ったじゃないか!!!?」
「誰が喋ったら殺さないなんて言った?......俺はテメェら全員殺しにきてんだから全員殺すのは....当たり前だろ?」
悪魔のように笑いながら次々に男達を殺していく。
それはまるで一つの作業をするかのように淡々としていた。
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「....フゥ、終わった終わった。」
入った時とは違い、返り血まみれの黒衣を纏って廃屋から出てくるツバサ どうやら全員殺し終えたらしい。
これがツバサの『裏』の顔、そして普段レストランで働いている時は『表』の顔である。
ツバサはこの暗殺紛いの殺戮を約半年間も続けており、その噂はこの王都内で響き渡っていた。
「....こんなものか。」
脱走した犯罪者達を惨たらしく殺した後にそう呟いて闇の中に消えていくツバサ。その日以降、街を襲う犯罪者の数が半数にまで減ったそうな。
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翌日、『レガリア』にて、
「ふぅ.......疲れた。」
昨日、夜遅くまで脱走した犯罪者を複数ミンチにしていたツバサは、現在店内で休んでいた。
休憩室で休んでいると声を掛ける人物が一人、
「お疲れ様です、店長。」
「ああ、お疲れ。」
ツバサに声を掛けた人物は、最近この『レガリア』にバイトとして入ってきたシェリーという眼鏡を掛けた女性だ。
今業務を終えて着替える為に別室へ向かう途中、
「ん?」
ふと、ツバサの目に何かが写り混んだ。
「ちょっと待った。」
「へ?...な、何ですか?」
ツバサはシェリーの手を握って彼女の行く手を阻む。
「......君、最近寝不足なんじゃないか?目の下にクマが出来ている....それに、その傷。」
「えっ...あっ....!」
指摘されたシェリーは慌てて握られた手を振りほどき、両手で傷口を隠す。
その傷は彼女の背中に大きく付けられており、見るからに痛々しいものであった。
「....ちょっと待ってて。」
それを見たツバサはシェリーをその場に取り残し、何処かへ行ってしまった。
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「お待たせ。」
戻ってきたツバサは両手に救急箱を抱えていた。
「取り敢えず、上を脱いでくれないか?」
「え、ええっ!!?....こ、此所で...ですか?...せ、せめて人気の無い場所なら...。」
「え?....包帯巻くから上を脱いで貰いたいだけなんだけど。」
「え?」
「え?」
その場に流れる変な空気。
「あー...悪い、誤解させるつもりは無かったんだけど..."その傷、見るからに痛々しいからさ....せめて包帯巻くくらいはしとかないとって思ったんだけど...必要無かったか?」
「あ、いえ...出来れば...その....お願いします。」
「分かった....なら、後ろを向いて上だけ脱いでくれ。」
「....はい。」
そう言うとシェリーは上を脱いで下着姿をツバサに晒した。
「.......」
ツバサは右手に自身の帝具『
その後、ツバサは手慣れた様子でシェリーの背中を消毒してから、するすると包帯を巻き付けていった。
「はい、終わり.....それにしても、何処でこんな傷つけたんだ?」
「え....えーっと....ですね...。」
シェリーは答えたくないのか急に口ごもり始めた。
「....まぁ、なんだって良い...それよりも俺が言いたいのは、どんなかすり傷でもちゃんと治療しないと後で大変な事になるから気を付けろよ。」
シェリーにそう言うとツバサは帝具を即座に隠して救急箱を片付けに行ってしまった。
「さっきの.....やっぱり....。」
シェリーは先程のツバサの言動に何処か思うところがあるのかそう呟いたのだった。
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その日の深夜、
ツバサは昨日と同様に黒装束を身に纏っており、正体を隠して今日も大臣が逃がしたであろう犯罪者達をミンチにしていた。
「さて、今日はこの辺にしとくか。」
明日は料理の仕込みをしないとな、なんて事を考えていると、自分を影から監視している視線を何処からか感じ取った。
(俺を見ているのか...?)
だが、実害が無い事を考えるとそのまま放置しても良いものなのかと彼の中で疑問が浮かび上がる。
(....まぁいい....それよりも今は、)
視線を感じた方向から顔を背け、今は目の前の悪を殺し尽くすだけだと思い返し、目の前の建物に入っていった。
そして数時間後、様々な悲鳴や断末魔の叫び声が建物内から響き渡り、それはまるでオーケストラが奏でるシンフォニーのようであった。
「ふぃー...終わった終わった。」
(今回は強敵だったな。)
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遡ること数時間前、
ツバサが建物に侵入すると其処には、武装した犯罪者達がツバサを見ていた。それはまるでツバサが殺しに来る事を悟っていたようであった。
「は!?....何で!?」
一瞬、固まったが即座に『天叢雲』を使い、眼前にいた男達複数人を真っ二つに切り裂いた。
断面からは壊れた蛇口のように血が噴出している。
「来たぞ!『
(え?....もしかしてそれが俺の二つ名....?...何かダサいんだけど....まぁ、いいか。)
俺はただ、目の前の悪を切り捨てるだけだ。
そう自分に言い聞かせて殺す。
殺し終わったのは、それから数時間後のことであった。
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「さて。」
ツバサは気配を感じた方向に向かって、
「其処の二人組、隠れてないで出てきたらどうだ?」
声を掛ける。
するとツバサの背後から何かが巻き付いてきた。
「何だこれ....ロープ?」
「糸さ。」
「...後ろか!?」
「いいや、前だ。」
気が付いた時には、二人組の男女に拘束されてしまい、目の前の女性はツバサに銃口を向けている。
「.....参ったな。」
(どうにもならないな.....この状況。)
「大人しくしていろ。」
「さて、どうしますか?」
現状、ツバサに打開する手段や手立ては何もなく、二人の隙を見て逃げるしかないが、
(この二人組....全く隙が無い....!)
それほどまでに二人と自分の力量に差がある事を思い知らされてしまう。
「......それで、お二人さんは俺に何の用で?」
こうなりゃ、腹を括るしかない。 そう諦めて、二人に降参のジェスチャーを送る。
「いやなに、君の実力を試してみたかっただけなんだが、.....こうも隙が大きいと、直ぐに殺されてしまうな。」
女性からは随分と辛口な評価が出される。
「でも、初心者としては合格ラインでしょうよ?」
「馬鹿者、ギリギリ合格だ......背後をとられては暗殺者として失格だ。」
呆れた様子で女性はやれやれと首を横に振る。
「へぇ.....背後をとられては暗殺者として失格.....成る程ね。」
ニヤリとほくそ笑んで二人組を睨み付ける。
「何が可笑しい?」
「いや.....だって今二人とも.....」
次の瞬間、ツバサの口から発せられる声と同時に首筋に冷たい物を二人は感じた。
「"俺に"背後をとられてる....その時点で二人の方が暗殺者として失格だぜ。」
「「な!?」」
二人の背後には"もう一人"のツバサが立っていた。......
「ば、馬鹿な....一体どうやって私達の背後に回ったんだ...?...いや、それどころか...気配すら感じられなかった。」
「そりゃそうだろ...."こいつ"の
「.....!」
「幻覚...だと....!?」
今までに見たことも聞いた事もない能力に驚愕してしまう二人組。
そして、
「..なん..だ...!?」
「力が....入らない....?」
二人組は次第に身体に力が入らなくなってきている。
「
「
「そのままの意味さ、やっと仕掛けた
「毒!?」
「とは言ったが....これは、毒というよりも筋弛緩剤の方が正しいな。」
(一体何時、私達に筋弛緩剤を仕込んだんだ?....)
思考する様子のツバサを一瞥し、女性は何時自分達に薬を仕込んだのかを考える。
「さて、次はこちらの質問だ......何故、俺を狙ったか答えてもらおう....今は少し息苦しいだけの軽い毒を流しているが....返答によっては、即死する毒をお前らに散布する。」
ツバサは今まで犯罪者を殺した時と同じ冷たい表情で二人を睨んだ。
(....素直に答えた方が身のためだな。)
その後、女性はツバサを狙った理由と動機を話し始めた。
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「私の名はナジェンダ、此方はラバック....私達は所謂殺し屋だ...と言ってもただの殺し屋じゃない、革命軍だ。」
「革命軍?」
ツバサも名前だけは聞いたことがある。
この街の犯罪発生率が高くなっておりその理由として、大臣が裏で糸を引いている。それがきっかけで革命軍が地方で活動を行っているということを噂で聞いていた。
「....噂は本当だった訳だ。」
ラバックとナジェンダは互いに向き合って頷く。
「我々は王都のやり方に反発し、革命軍を組織した。」
ナジェンダが口を開いて説明を始める。
「そして今は、戦力強化のために仲間を集めている...って訳。」
次にラバックが説明をする。
「....その仲間になれと、俺をスカウトに来たのか。」
ツバサはいずれはこうなる事を予期していたのかそう答えた。
「そうだ。」
ナジェンダは肯定し、ツバサの答えを待つ。
「分かった......但し、条件がある。」
「....何だ?」
「....ウチの従業員を匿ってはくれないか?」
「...?どういう事だ?」
女性は分からないという表情でツバサを見据える。
「...実は、ウチの従業員は全員...王都で暗殺専門の部隊として非人道的な実験を受けていた。」
「.....!!!」
ツバサの言葉を聞いてナジェンダは戦慄した。
その部隊というのは、数年前に反乱分子を粛清という名の殺人を行わせる為に王都が編成した暗殺専門の部隊のことである。
「....用済みとして捨てられるところを俺が救い出してウチの従業員として働かせている。」
「まさか」
「ああ、まさか
ラバックの言葉にツバサは耳を疑った。
「...今、アカメといったか?」
「?......ああ、言ったが?」
ラバックからその言葉を聞いたツバサはその場に泣き崩れた。
「お...おい!」
「良かった.....あいつ、生きてたのか...!」
その表情は何処か晴れやかでとても幸せそうであった。
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「あんたらの仲間になろう。」
ツバサはナジェンダに仲間の証として右手で握手を求める。
「....っ!」
それに対してナジェンダは少しだけ躊躇いを見せる。
「おっと...失礼した...左手にすれば良かったか?」
ツバサは配慮が足りなかったと思い、右手を下げようとするが、
「...いや、こちらの手で構わない。」
ナジェンダは義手を突き出してツバサと握手を交わす。
「これから宜しく頼む...えっと...」
「失礼、まだ此方からは名乗っていなかったな...ツバサだ。」
「ツバサ、これから宜しく頼む。」
「此方こそですよ....ナジェさん。」
これが王都の歴史上、最強と称された暗殺者 ツバサの物語の始まりである。