「では、今から我々のアジトに案内しよう。付いてこい。」
ナジェンダはラバックと共にそそくさと先に行ってしまう。
ツバサもナジェンダを見失うまいと、後を追いかける。
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夜が明けて、朝となったがツバサ達は何処かを目指して歩き続けていた。
「それで?俺を何処に連れていくんです?...革命軍のアジトですか?」
「......少し違うな、というかまだ説明してなかったな。」
「?....何の話です?」
先頭のナジェンダが立ち止まり、振り向く。
「私達は革命軍の一員だが、本当は『ナイトレイド』という暗殺者集団なんだ。」
「『ナイトレイド』.....。」
聞き覚えがない名前に戸惑いを隠せないツバサ。
「ま、聞いたことが無いのも無理ない....俺達は周囲に気付かれる事なく、此処までやってきたんだから。」
と、ラバックが語る。
(聞いたことがないが、暗殺者集団としては名の知れた組織なのだろう....でなければ俺がスカウトされる事もないだろうしな。)
と、少し調子に乗ったツバサ。
そして暫く歩いて行くと山の中に入っていく。
そして、
「此処だ。」
「へ?」
辿り着いた場所にあったのは、崖を背にした建物が一件。
「ここ....なんですか?」
「まぁ、中に入れば分かるって。」
ラバックにそう言われて二人の後に付いていくと、そこには...
「おお.....!!」
中に入るとかなり大きな居住スペースが設けられており、集団生活をしている事が伺える。
「ようこそ、我ら『ナイトレイド』のアジトへ。」
「凄い......これが、アジト....!」
ツバサの心境は、例えるならば小学生が秘密基地になりそうな場所を見つけた時のそれに近いものである。
「今は任務ででばってる奴もいるから全員は紹介出来ないな。」
ナジェンダがツバサにそう言うが、今のツバサにはその言葉は聞こえていなかった。
「たっだいま~!」
「ぐえっ!」
突如として、ツバサ達が入ってきた入り口から飛び込んできた人物が一人 そのままツバサの上にのし掛かり、ツバサは気絶してしまった。
「お~ナジェンダとラバックじゃん、もう帰ってたのか。」
その場に座り込み、露出の多い服を着た女性がニシシ、と笑う。
「....レオーネ、それよりも早く退いてやれ...ツバサが潰れてしまう。」
「え?....うわっ!?...何でこんなところに人が倒れてるんだ?」
「姐さん....自分でやっといてそりゃないぜ。」
その後、ツバサが目覚めるまで全員待つことにしたのだった。
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「先ほど、お前にのし掛かったのがメンバーの一人、レオーネだ。」
「どうも~私レオーネ、宜しくな。」
「あ、ああ、よろしく。」
目覚めたツバサはメンバーの一人、レオーネと握手を交わす。
「ところでボス、コイツ誰?」
レオーネ以外の全員がその場でずっこけた。
「レオーネ...知らずに握手してたのか....。」
そう言えばまだ自己紹介してなかったなと気付き、余興のつもりで、
「ツバサだ....それともこう言った方がいいかな...."元"反乱分子暗殺部隊隊長 ツバサ...と。」
「「「!!!」」」
その瞬間、ツバサの雰囲気が先程とは打って変わって優しいものから暗殺者特有のものに変わっていた。
「ちょっと待て...暗殺部隊って....!」
「数年前、アカメが所属していた部隊だ。」
「そんな奴が...新入り...!?」
三人は今のツバサに少なからず恐怖心を抱いた。
「...でもまぁ、今はあんた達の仲間だ...争うつもりはない..そこだけは保証する。」
そう言ったツバサの雰囲気は暗殺者特有のものから優しいものへと戻っていた。
(とんでもない新人が入ったな。)
"彼女"の頼みでスカウトしたはいいもののこれから先、手を焼きそうだと思うナジェンダであった。
「皆の反応を見る限り、やっぱり居るんだな....アカメ。」
「ああ、今は河原の方にいる筈だ。」
「ああ....納得した。」
ツバサの表情はやっぱりか、と言いたげな面持ちだ。
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レオーネに案内されてツバサはアカメの様子を確認しようと河原に向かう。
「この先に居る筈...あっ、いた。」
レオーネの言葉に反応したツバサが見たもの、それは巨大な怪鳥を串刺しにして焼きながら、その肉を喰らっている少女の、後ろ姿がそこにあった。
「....」
レオーネが後ろから近付いて来るのに気付いたのか、黒髪の少女
アカメが振り向く。
「相変わらず野性味溢れてるな...アカメ。」
ツバサが声を掛けるとアカメは殺気をツバサに向ける...が、顔を見た途端、彼女から殺気が煙のように消える。
「....!...ツバサ!」
「よぉ、久しぶり。」
ツバサがアカメに近付いて頭を撫でる。
「ちゃんと飯食ってるか?....じゃないと大きくなれないぞ。」
まるで実の兄のようにアカメに接するツバサ。アカメも何処か嬉しそうに目を細める。
レオーネはその様子を見て、唖然としていた。
(あのアカメが、優しい目をしている....!?)
「あのーツバサさん?」
「ん?何?レオーネ。」
「あ、いや....その、アカメとどういう関係なのかな...って。」
「?...隊長とその部下?」
「そうだな。」
「にしては、まるで兄弟のようなやり取りを...」
「まぁ、俺がこいつらの兄貴分だったし...兄弟みたいに見えたなら仕方ない。」
「こいつ
「....その話はまた今度だ...さて、」
ふと、何かを思い付いたのか、ツバサはアジトの方を見て突然走りだした。
「ちょっと!?何処に行くの?」
「少し待っててくれ。」
それだけ言い残すとツバサはアジトへと向かっていき、アカメだけでなくレオーネまで取り残されるのだった。
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「お待たせ。」
「遅い!...一体何やって...!?」
戻ってきたツバサの手には、定番のショートケーキが二切れと紅茶が入ったポットが携えられていた。
「はい、どうぞ。」
「あ、ありがとう。」
「ほら、アカメも。」
「うん、戴こう。」
二人同時にケーキを手に取り、口に運ぶ。
「何これうっまい!」
「うん、やっぱりツバサの作るものは美味しい。」
「喜んで頂けて何よりです。」
そう言って、執事のような振る舞いを二人に見せたツバサ。この出来事が切っ掛けで、食事当番は暫くの間、ツバサが担当することになったそうな。
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「さて、これから新しい任務が入った....が、その前にツバサ」
「はい。」
「お前の帝具の事を説明してくれ。」
「ああ、はい。」
ナジェンダの言葉に従ってツバサは右腕を前に突き出す。
「?....何もないけど?」
レオーネがそう言った時、
「!?」
いつの間にかツバサの手に刀が握られていた。
「これが俺の帝具...『天叢雲』、能力は様々な毒を生成、及び解毒する事。そして固体、液体、気体の三つの性質を併せ持つ。」
「ふむ....面白い。」
「因みに、能力を応用して見た目を変化させる事も可能だ。」
そう言って刀を消した。
「さて、俺の紹介よりも他のメンバーに会わせてくれないですかね?」
皮肉っぽく言ってメンバー紹介を促す。
「...そうだな、流石に自分達だけ名乗らないのもな...なぁ、お前達?」
ナジェンダが振り向いた場所には、彼女の言うメンバーなのだろうか、こちらの様子を伺っている様子の二人組がいた。
「.....」
一人はツインテールの少女で見るからに機嫌が悪そうな様子。
「彼女の名前はマイン。」
そしてもう一人は、
「あれっ!?...シェリー!?」
ツバサにとっては見覚えのある女性がそこにいた。
「彼女はシェーレ、我らの仲間だ。」
ナジェンダが助け船を出して彼女をフォローする。
「因みに、君をスカウトするように頼んだのは彼女だ。」
「マジですか...。」
(何故、シェリー...いや、シェーレが俺に近付いて俺をスカウトするように頼んだのか....まるで分からない。)
「シェーレ...でいいのか?」
「あ...はい。」
「何で俺なんだ?」
シェーレに何故自分をスカウトするように頼んだのか聞いてみることに、
「ちょっとあんた、いきなりシェーレに対して馴れ馴れしいわよ!」
その事に対して、マインがシェーレを守るようにツバサの眼前に立ち塞がる。
「......」
「......」
ツバサとマインは互いに睨みあい、互いに次の打つ手を模索していた。
「あのっ...ですね。」
「ん?」
「以前、街でツバサさんが犯罪者を暗殺している所を目撃しまして。」
「...それで、俺をスカウトした...そういうこと?」
「はい。」
「ふーん...。」
「何よ、そのふーんって。」
「いや、別に。」
ツバサの言葉に対してマインは少しムッとした様子。
「言っとくけど、アカメの所属していた部隊の隊長だったからって私は認めないからね!」
「...ならそれでいい、今の俺は目的の為に殺しを手段としているだけだ。」
とこれを軽く一蹴、マインはバツが悪そうな様子である。
「ボス、そろそろ教えてくれ...『ナイトレイド』とは何だ?」
ボスであるナジェンダに顔を向けてツバサは問いかける。
「...私達が革命軍に所属しているという話はしたな?」
「ええ。」
「革命軍は最初、小さな集団だった...が、現在は大規模な組織に成長している。...すると必然的に情報の収集や暗殺など日の当たらない部隊が設立された。」
「成る程、それが『ナイトレイド』という訳か。」
首を縦に振って肯定の意を示すナジェンダ。
「我々の目標は、軍が決起した際混乱に乗じて腐敗の原因である大臣をこの手で討つ!」
「俺と目的が一致しているな...それで、策はあるんですね?」
「流石に決起の時期について詳しくは言えんが...勝つ為の策は用意している....その時が来れば、確実にこの国は変わる。」
ナジェンダの言葉に強い意思と覚悟を感じ取ったツバサ。これ以上聞くことは無いな、と気持ちを切り替える。
「さて、ここからが本題だ。」
ナジェンダの言葉にその場にいた全員の雰囲気がガラリと変わる。
「帝都内で違法に売春を斡旋している組織がある。」
「組織名は『リンドウ』そして、その組織のリーダーはクロッカスという男だ...今回の任務は組織の壊滅、及びリーダーの抹殺だ。」
「ならボス、その男の始末は私に...「その男の始末は俺にやらせてくれ。」!!?」
マインが立候補しようとした時、ツバサが立候補する。
「ちょっとアンタ!...今回は私がやるつもりだったのよ!」
「だからどうした?」
「ハァ!?」
「俺も最初は、誰かに任せるつもりでいた...だが、気が変わった。」
「ほう?...威勢が良いのは別に構わないが、今回はかなり重要な任務だぞ?」
ナジェンダの目を見ると出会った頃と同じ目をしてこちらを見ていた。
「...俺は今までの殺しで失敗したことは一度もないし失敗するつもりもない...そこは信用してもらいたい。」
「ボス、私からも頼む。」
「アカメも!?」
「...分かった。今回はツバサに任せよう...だが、確実に仕留めてこい。」
「了解。」
ツバサの頼みを擁護するようにアカメまで頭を下げる事に何かを見出だしたのか、ツバサを指名することにしたようだ。
「では、作戦開始だ!」
ナジェンダの言葉を皮切りにしてツバサ達はアジトを飛び出す。
依頼をこなす為、又帝都の悪を取り除く為に...