帝都の最南端のある建物前に辿り着いたツバサ。
「.....」
(こんな...何の変哲もない建物の中で)
以前の自分を思い出す、もう使わないと決めていた力を再び使い始めたあの日から...自分は再び、暗殺者としてここに立っている。
「そろそろ時間か....よし。」
ツバサは帝具を使用、即座に自分の見た目を女性に変化させる。
その姿は見るからに美人で胸も大きい、はっきり言って最高のプロポーションを持った女性そのものである。
(これでよし...後は、)
建物の中に入り、娼婦として捕らえられ、首輪を付けられた女性達の中に入っていく。女性達の様子は憔悴しきっており、まるで廃人のようである。
(女達から薬の匂いがするな...。)
ツバサの言うとおり、女達には"とある薬"が使用されており、その性で女達は逃げ出す事が出来ずにいた。
(待ってろ...必ず助けてやるからな。)
天叢雲で首輪を作り、近くの女性の首輪に付いた鎖と接続する。
(準備完了....後は、リーダー『クロッカス』を抹殺するだけ。)
目の前には、女達が付けられている首輪に付けられた鎖を一手に握りしめている巨漢の男の背中がツバサの視界を被い尽くしている。
(こいつも『リンドウ』のメンバーか...全く、どいつもこいつも救いようがない。)
そして男は、ある扉の前で立ち止まった。
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「"クロッカス"様、本日の女達を献上しに参りました。」
(クロッカス...!)
男の目の前にある扉。その先に『リンドウ』のリーダー クロッカスが待ち構えている。
「....入れ。」
扉が開き、中へ入るとそこには男が一人 その場に立ち尽くしていた。
(こいつがクロッカスか...。)
男は、金髪でオールバック そして身体の至るところに金のアクセサリーを纏っている。
「ほう....こいつらが、」
「はい、本日捕らえた女達でございます。」
(ああ、成る程...."納得"した。..女達は拐われて此所に連れてこられ、そして最後はゴミのように捨てる...まるで消耗品のように...。)
ツバサは怒りと殺気が漏れそうになるのを、必死で抑え、自分が奴に選ばれるように前へ前へと歩み寄る。
「ふむ.....どいつから頂こうか....。」
その時、クロッカスの目に一人の女性が写りこんだ。
それは、『天叢雲』で見た目を変化させたツバサであった。
「決めたぞ、お前にしよう。」
そう言ってツバサの首輪に繋がれた鎖を掴んで、自分の方へ引っ張る。
「キャッ!」
ツバサは自分が男だとバレないように最大限、女性のフリをしてクロッカスに近付く。
「俺はコイツの具合を見ておく、お前達は引き続き女達を捕らえてこい。」
「はっ、直ちに。」
クロッカスは部下達に指示を出すと、部屋の奥 クロッカスの寝室へとツバサを連れていく。
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「キャッ!」
ツバサをベッドに押し倒し、衣服を脱いでいく。
「私を、どうするつもりですか...!」
出来る限りの嫌がるフリをして暗殺の機会を伺う。
「今からお前を犯すのさ。」
クロッカスはこちらに向かってある"モノ"を見せつける。
それを見てツバサは、
(えっ、ちっさ)
とだけ思い、口を開いた。
「こんなことをして...タダで済むと思ってるの...!」
「フッ、フハハハハハハ!!!....当たり前だろ、俺達を裁くものなんて何処にも居やしない....つまり、何をやっても許されるのさ!」
と、高らかに宣言した。
「.....ホント、救い用がない。」
「は?」
するとツバサは、身体に纏っていた『天叢雲』の毒をクロッカスに飛ばした。
「ぐあっ!...な、何だこれは!?」
クロッカスは突然の事態に慌てふためき、取り乱す。
「成る程、確かにお前の言うとおり...裁くものが居なければ地外報件だ...だがな、もし裁くものが居るならば...それは俺達の事だ...ゴミが!」
いつの間にかクロッカスの背後に回り込んでおり、頸動脈を狙って首を斬る。
「ぐあぁぁぁぁぁ!?!!」
斬られたクロッカスは混乱していた。
いつの間に自分の背後に回り込んだのか、先程の女は何処へ行ったのか、いつの間にこの部屋に忍び込んだのか、
そんな疑問が幾つも浮かんでは消えていく。そして首から吹き出す血を見て即座に我に帰る。
「き、貴様ァァァァ!!!」
吹き出す血を右手で押さえながら部屋の扉に手を掛け、部屋を飛び出す。
そこにあったのは、
「な!?」
先程まで会話をしていた部下達の死体が山積みになっており、その上にアカメが座っていた。
「そっちは終わったか。」
「ああ。」
アカメとの会話はそれで終了し、二人はクロッカスに目を向ける。
「な、何だお前ら....何なんだよォォォォォ!!?」
「うーん...話した方がいいのか?」
アカメがきょとんとした顔で首をかしげる。
「言わなくてもいいんじゃないか?....どうせ直ぐに死ぬ。」
ツバサはアカメにそう言うと再びクロッカスの見た。
「どういう意味ッ!!!?」
クロッカスは自身の体内に何か強烈な痛みを感じた。
「グァァァァァ!!....ァァァァァ!!!」
クロッカスはその場に踞ると、転げ回るように苦しみ始めた。
「俺の『天叢雲』は、斬ったと同時に、"毒"を対象に射ち込む帝具でな....俺が射った毒は、
ツバサはクロッカスに背を向け、歩いていく。アカメも死体の山の上から降りてツバサの後に続く。
「今まで女性達を苦しめた分、テメェが苦しめ...クソ野郎...!」
この日からまた一つ、
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翌日、
「失礼します、ランチメニューになります。」
レストランでキリキリと働くツバサ達の姿がそこにあった。
「少し休憩してくる。」
「は~い。」
漸く、客足が途絶えて休憩出来る時間帯となり 裏の休憩室へと歩いていく。
(それにしても....昨日の出来事がまるで嘘みたいだな。)
昨夜、自分が殺した男 『クロッカス』が何者かによって殺されたという情報は広まり、客足が多かったのもそれが理由であった。
(そういや客の大半は娘や妻を誘拐された人達だったな。)
以前からリンドウの活動は知れ渡っており、今回の一件でそれが明るみとなり、今まで奴隷として売り捌かれた女達は全て革命軍が保護したそうだ。
(まったく、革命軍様々だな....。)
自分が昨日から所属したナイトレイドは革命軍あっての暗殺部隊、過去に自分が隊長として所属した部隊とは違うのだと自分に言い聞かせながらも、それでも散っていった仲間達の事を思い出さずにはいられないのであった。
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閉店後、
「さて、と」
店の戸締まりをしてから従業員を家まで送り届け、自分も家路に着こうと夜道を歩いていた。
「オイ」
「ん?」
ふと声を掛けられ振り向くと、そこには
昨夜壊滅させた組織『リンドウ』の構成メンバーの一人であった男がこちらを睨み付けていた。
「...何か用?」
仕事で疲れていたのでめんどくさそうに男を睨み付ける。
「テメェのせいで....俺達は、俺達はァァァァ!!!」
(あー...つまりは逆恨みか...全く、自分達の事を棚上げしてよくもまぁ...)
半分呆れながらも、剣を振り下ろしてきた男に一撃を与える。
「え...?」
「あれはテメェらの自業自得...こっちは逆恨みされる理由なんて一つも無い...だからこれは...俺の単なる...実験...今からお前は俺のおもちゃだ...!」
その時のツバサは口角が上がり、表現するならば...まるで新しいおもちゃを見つけた時の子供のような喜び様であった。
「ひ...ひぃぃぃぃ...!!!」
ツバサの放つ異様な雰囲気にすっかり怯えきってしまった男は腰が抜け、何とかその場から立ち去ろうとしてほふく前進のようになってしまう。
「おいおい...逃げてんじゃねぇよ...言ったろ?"今からお前は俺のおもちゃ"だって...な?」
「い...嫌だ...たす、助けて....」
「い~い表情だ...それでこそ楽しみがいがある...さぁ、良い声で
その日を境に『リンドウ』は壊滅、残されたメンバー達も全て消息を絶ったそうな
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翌日、
この日は店が定休日となっていたのでツバサは普段からウェイターとして働いてくれている少女 レムスと食品の買い出しに来ていた。
「さて、先ずはどれから買っていこうか...。」
自分で用意した買い物メモを見ながら悩む。
「先ずは一番近い店から見ていきましょうよ...隊...じゃなくて店長。」
「おぅ...そうするか...それと、もう俺はお前達の隊長じゃないから...そのまま店長で通してくれよ。」
「は、はい。」
因みに彼女はアカメと同様、ツバサの指揮する部隊に所属していたが、ある戦いで重症を負ってしまい、味方の軍に薬を盛られて処分される所をツバサが薬の成分を中和して助け、今はこうしてツバサの店で働いている。
まぁ、それはそうとして...
二人が近くの店から出てきた時、ザワザワと街の中心部が騒がしくなっていた。
「何だ?」
「あっちからです...行ってみましょう。」
レムスに連れられ、街の中心部に向かう。するとそこには、
「これは.....!」
「惨い...。」
十字架に張り付けにされた男女がそこにいた。
(これは恐らく見せしめ....大臣に逆らった者達への...)
ツバサの読みは正しい。
この場に張り付けられている者達は大臣のやり方に反発し、反旗を翻した者達の、謂わば一つの結末であった。
失敗し、捕らえられ、四肢の一部を切断され、自分に逆らえば次はお前達がこうなる。そういった反乱分子に対する見せしめである。
「なぁ、これは何時まで此処にあるんだ?」
ふと、何かを思い付き、近くにいた男性に訪ねてみた。
「あぁ、明日の朝までだな。」
その返答を聞いてツバサは、自分の考えを実行することが出来ると悟り、笑いを堪えるのに必死であった。
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深夜、街の中心部
「誰だ?」
張り付けられている一人の女性が訪ねる。
「あんた達と取引に来た。」
ツバサは何時もの黒装束を身に纏っており、それだけを女性に告げた。
「取引....だと?....大臣暗殺に失敗し、明日の朝には処刑されてしまう私達にか?」
「あぁ...そちらにも悪い話ではない。」
「.......」
女性は少し考え、ツバサが嘘を付いていないことを理解すると、
「分かった....取引に応じよう。」
そう言ってツバサの提案を呑んでくれた。
「感謝する。」
「それで?....取引ってのはどういった内容だい?」
「簡単な話だ...俺はあんた達全員を助け、切断された四肢を元に戻す....その代わり、あんた達には俺が作る"部隊"に参加してもらいたい。」
「部隊?...いや、その前に...あんた今、何て言った?...私達の切断された四肢を"元"に戻す?」
「あぁ...と言っても、正確には新しい四肢をこちらで用意する...といったものだが。」
「面白い....何なら今すぐ用意して貰おうじゃないか。」
ハッタリだ。そう思いながら女性は眼下のツバサを文字通り見下す。
「ならその前に...」
ツバサが十字架を指差すと、まるで最初からそこに存在していなかったように十字架が消えていた。
「え?....は?」
張り付けにされていた面々の反応はそんな感じであった。
「さて、さっきの続きといこう....切断面を見せてくれ。」
包帯で傷口を巻かれている四肢を確認するとツバサは指を鳴らした。
すると彼女達の切断面に、新しい腕や脚が付いていた。
「暫くは歩く練習とかをした方が良さそうだな...」
と、呟いたあと
「これで満足か?」
と、女性に問いただした。
「あ、ああ。」
女性は確信した。この男なら大臣を殺れると。
「さて、次に俺の作る部隊って話だが...」
女性達はツバサの言葉に耳を傾け、彼の作る部隊についてそれならば奴らの不意を付けると喜んだのである。
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「それで?話とは?」
現在ツバサはナイトレイドのアジト内、ナジェンダの部屋で一つの案を話し始めた。
「俺が考えているある部隊の編成を認めて欲しい...というものです。」
ツバサが用意した計画書にはデカデカと"
「これは?」
「簡単に言えば、街の広場で張り付けにされていた人達を集めて奇襲をかける部隊を編成したい....という事です。」
「成る程...」
ナジェンダは計画書を捲り、一枚一枚、内容を読み込んでいった。
「個人的には面白いとは思うが、どうやって奴らに死人だと認識させるんだ?」
「簡単な話ですよ...彼らにはそのまま反乱分子を"処刑"してもらいます。」
「!....成る程...流石と言った所か。」
「どうでしょうか?...戦力は多い方が有利だと思われますが?」
ナジェンダの顔色を伺いながら計画の採用の有無を待つ。
「...私から本部に話しておく...それまで少し待ってくれ。」
「ありがとうございます。」
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「それで...本部から許可が下りて、無事に生きる屍部隊が結成出来たと...?」
「まぁそうだな...。」
ツバサはラバックに結果を伝え、今後は忙しくなると嬉しそうに語った。
「別に部隊編成するのは良いんだけどさ....その指揮...お前が執るの?」
「?...まぁ、そのつもりではいたけど...」
「けど?」
「本部にその役回り、盗られちゃった。」
アハハ、と笑うしかないツバサ
それを見てラバックは
こいつホントにあのアカメと行動を共にしてたのか?
と、疑ってしまうラバックであった。
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そして、そんな王都でも動きがあった。
「"奴"を呼び戻せ。」
「はっ!」
大臣が一枚の写真を手に、部下に命じる。
その写真には....ツバサの姿があった。
果たしてツバサの運命は如何に━━━━━━