ツバサがkill!   作:晴月

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三つの顔

「これで全員か...」

 

深夜、ツバサはナイトレイドの任務で今日も暗殺へと赴いていた。

 

今日のターゲットは、王都内で至福を肥やしていた政治家一家であった。

 

しかし、ツバサの手に掛かれば断末魔を上げさせる事なく、全員始末することに成功したのだ。

 

現在、任務を終えて政治家一家の家の屋根から夜空を見上げていた。

 

「......つまらないな。」

 

それだけ呟くと、 屋根から飛び降りる。しかし、その先にツバサは居なかった。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

「...はぁ。」

 

「どうしました隊長、今日三度目のため息ですよ。」

 

「今の俺は隊長じゃないぞ...ちゃんと店長と呼べ店長と。」

 

店員の一人、 レムスに声を掛けられそう返す。

 

「まぁ、ため息も出ますよね....この状況じゃ。」

 

そこには、客数が普段よりもかなり少なくなった店内があった。

 

「このままじゃ今日の売上は赤字だぞ···はぁ。」

 

再びため息を漏らすツバサ。その時、店の扉が開かれる。

 

お客さんが来たと思ったレムスは、入口へと向かい決まり文句を口にしようとした所、

 

「いらっしゃいま....」

 

入ってきた人物を見て、レムスは固まった。

 

「ツバサは居るか?....話がある。」

 

突然の来訪者にあたふたとし、どうすべきかと悩んでいた所で、

 

「俺に何か用か?....ケンガン」

 

ケンガンと呼ばれた男は、ツバサを見ると嫌らしい笑みを浮かべた。

 

━━━━━━━━━━

 

「話ってなんだ?」

 

ケンガンを睨み付けながらツバサは本題に入る。二人は店のスタッフルームにて話をしている。

 

「相変わらずつれねぇな...昔は同僚だったろうがよ」

 

ツバサを見てニヤニヤと笑みを浮かべるケンガン。

 

「....そうだな、お前が悪徳に手を染めなかった頃はな...!」

 

このケンガンという男、ツバサの帝国時代の同僚である。

 

ツバサは初め、互いに信頼のおける関係だと思っていた。

 

しかし、ある時ケンガンは大臣同様、自身の欲望のままに行動するようになってしまった。

 

それを知ったツバサは、ケンガンを改心させようとしたが、聞く耳を持たなかった。その結果、二人は袂を分かったのである。

 

「···単刀直入に言わせてもらう....ツバサ、帝国に戻れ。」

 

「な....ふざけるな!!!

 

ケンガンの言葉にツバサは戸惑いを見せたが、直ぐ様怒りを剥き出しにした。

 

「奴らの.....クズどもの下で働けというのか!」

 

「ああそうだ。」

 

怒りを剥き出しにしているツバサとは対称的に、ケンガンは至って冷静であった。

 

「俺がどんな気持ちで帝国についていたか....俺がどんな気持ちで...」

 

「お前の意見など聞いていない....お前にはYES(はい)と答える他に選択肢は無い。」

 

「...どういう意味だ...!?」

 

「お前が断れば、お前の店の従業員を人質に取れと命じられている。」

 

「貴様...!」

 

ケンガンの言葉にツバサの怒りが沸々と沸き上がってくる。

 

「そこまで堕ちたかケンガン!....貴様ぁ!」

 

ケンガンの首を掴み、壁に叩きつけて首を腕で押さえ込む。

 

「···因みに、俺にこれ以上危害を加えるようなら部隊を突入させても構わないと指示もされている。」

 

「な...!?」

 

「さぁ...どうする?」

 

もはやツバサに選択肢など無かった。始めからツバサに自由など無かったかのようにケンガンは問いかける。

 

ツバサは即座にケンガンから離れ、俯いた。

 

「...此所で、店を続けさせて貰えるのなら働く......そう伝えろ。」

 

「意見なんかできると思ってるのか?....と、言いたい所だが、それぐらいなら構わない....明日の朝8時に王都に来い、詳しい事はそこで説明する。」

 

「....ああ。」

 

それだけ言い残し、ケンガンは去っていった。

 

「はぁ~」

 

大きくため息を吐いて今後の事を考え始めるツバサ。

 

「どうするんですか店長!」

 

「どうするも何も決まった事だ...俺は行く...幸い、店は続けさせて貰えるみたいだしな。」

 

自虐的に笑いながらそう言うが、ツバサの心境は穏やかなものではなかった。

 

━━━━━━━━━━

 

翌朝 王都にて、

 

「.....」

 

コンコンと目の前の扉をノックする。

 

「どうぞ。」

 

中からの返答を聞いてから扉を開ける。

 

「失礼します。」

 

「来たか...."元"暗殺部隊隊長ツバサ。」

 

「......。」

 

敬意を込めてそう呼ばれたが、ツバサは警戒して口を告ぐんだ。

 

「そう警戒するな....お前にはある部隊(・・)を率いてもらいたいだけだ。」

 

部隊(・・)....?」

 

部隊という言葉に反応を見せるツバサ。

 

「入ってくれ。」

 

男が扉に向かってそう言うと、

 

「失礼します。」

 

扉を開けて入ってきた人物が一人。

 

「セリュー・ユビキタス、今日からお前が指揮する部隊の一人だ。」

 

その人物は、少女であった。

 

栗色の髪をポニーテールにしており、その後ろに二足歩行する白黒の犬を連れていた。

 

「ご紹介に預かりましたセリュー・ユビキタスです。」

 

少女は敬礼を男とツバサにした。

 

「...ツバサだ、今日から宜しく頼む。」

 

ツバサもセリューに対して敬礼を返した。

 

「...ではツバサ、お前がこれから所属する帝都警備隊について説明する。」

 

帝都警備隊とは、その名の通り帝都で起こった犯罪等を取り締まる為に帝都の警備を行う部隊の事である。

 

(とんだ皮肉だな...帝都を守る為に暗躍していた俺が、再び帝都に戻ってくるなんてな。)

 

そんな事を考えたが、自分が従わなければかつての部下であり、同僚が殺されてしまう為、今は従うしかない。そう割り切るしかなかった。

 

━━━━━━━━━━

 

「それでは、警備隊の駐屯地へ案内します。」

 

「ああ。」

 

セリューの後に続いて、警備隊の駐屯地へとツバサは付いていく。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

「以上がこの帝都警備隊の駐屯地になります....質問はありますか?」

 

「......特に無い。」

 

セリューに質問の有無を尋ねられても、ツバサは直ぐに理解してしまったので質問する必要性は感じないと思った。

 

「あの....私から質問しても良いですか?」

 

「?...何だ?」

 

「ツバサ隊長にとって..."正義"って何ですか?」

 

「"正義"...?...これまた唐突だな....。」

 

突然そんな事を尋ねられても...とは思ったが、ここは隊長らしく何か答えないと....そう思っていると、セリューが再び口を開いた。

 

「私にとって、正義とは...決して悪に屈してはならないものだと思ってます...だから、」

 

次の瞬間、セリューから信じられない言葉が飛び出してきた。

 

「悪は必ず滅ぼします....悪人は全て殺す....それが私にとっての正義です。」

 

先程の優しい笑顔から一変してセリューの表情は、まるで悪魔に取り憑かれたように変化した。

 

「それは違う。」

 

セリューの言葉を聞いて、ツバサは異を唱えた。

 

「正義ってのは、人によって変化するものだ....例えば、俺ら警備隊が取り締まる犯罪者達にとっては、俺達警備隊を含めた帝都の軍人が悪であり、それを降す為に戦う自分達が正義であるように···俺達警備隊にとって、犯罪者が悪であり、それを取り締まる俺達は正義といった感じで正義って言葉の意味は人によって変化する。」

 

セリューを諭すように自分にとっての正義を語るツバサ。だが、

 

セリューにはそうではない。

 

「それは違います!...私達こそが正義であり、悪は必ず滅ぼさなければならないものです!」

 

セリューの言葉にツバサは呆れてしまう。

 

「ハァ...あのさぁ...何か勘違いしてないか?」

 

「はい?」

 

「俺達警備隊は、犯罪者を"取り締まる"事が仕事の筈だ、それなのにセリュー、お前は犯罪者を"殺す"事が正義だと言い張る...それは意味合いとしては矛盾している筈だ。」

 

「それ...は...」

 

ツバサの正論に対抗する言葉を持ち合わせていなかった為か、セリューは言葉を詰まらせてしまう。

 

「それともう一つ....俺達の仕事は、犯罪者を取り締まり更正させることだ....それを"殺す"だと?....処刑人になったつもりか!今一度考え直せ!セリュー・ユビキタス!」

 

それだけ言って、ツバサは屯所から出ていった。

 

「私は....父さんの言葉を.....私は...」

 

今まで妄信的に信じてきた正義という自身の価値観が崩されたことによってセリューは崩れ落ちる。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

暫くしてツバサは、自分の店の近くにある『貸本屋』へと来ていた。

 

「いらっしゃい。」

 

「やぁラバック。」

 

店主であり、『ナイトレイド』の仲間ラバックに軽く挨拶を交わすと周りに見えないように"手紙"を渡す。

 

「後で読んでくれ。」

 

「...分かった。」

 

ツバサはラバックにそれだけ伝えると、店を後にした。

 

「.....」

 

「おい」

 

そのまま自宅へと帰ろうとした矢先、ケンガンに呼び止められる。

 

「......なんだ?」

 

うっとおしいと思いながらもツバサは反応した。

 

「お前、あの店主と何してた?」

 

「....何の事だ?」

 

いきなり何を言い出すのだろうか?あの店内には気配を入れても自分とラバックしかいなかった筈だ。そう思った。

 

「しらばっくれてんじゃねぇよ」

 

しかし、ケンガンの問いかけはまるで先程の自分の様子を見てきたかのようにツバサを問い詰めている。

 

「...成る程、帝具か。」

 

ケンガンの問いかけの理由に、ツバサは帝具が関係していると判断し問い掛けた。

 

「...あぁそうだ...帝具 "バロールの眼"コイツで今日一日、テメェを見ていた。」

 

そう言うとケンガンは、付けていた額当てを指差す。

 

「成る程ね...」

 

さて、どうしたものかと頭を悩ませるツバサ

 

「さぁ、何をしていたのか話して貰おうか?」

 

「······」

 

これ以上の沈黙はマズイ。なにか返答しなければ、と考えた時

 

「···!」

 

咄嗟に思い付く。

 

「コレだ。」

 

ツバサはケンガンにあるモノを見せる。

 

「······ん?」

 

それは男ならば必ず見るであろう成人向け雑誌であった。

 

「コイツを借りられないかって事で話をして貸して貰ってたんだが···なにか不味かったか?」

 

わざとらしく首を傾げ、ケンガンにそう問い詰めるツバサ。

 

「い、いや何でもない···何も無いならばいいんだ。」

 

それだけ話すとケンガンはその場から離れていくのだった。

 

━━━━━━━━━━━

 

「そうか。」

 

今日一日 ケンガンに監視され、分身を使ってリーダー ナジェンダに報告を行う事にしたツバサ。今現在、本体は動けないでいるためである。

 

「参ったな、そうなると今後ツバサの動きに制限が掛かってしまう訳か···」

 

「それに、王都の奴らは俺を呼びつけたかと思いきや、いきなり警備隊の隊長をやれ···ですからねぇ···俺の手綱を握るため、ご丁寧に部下を人質にしてるぐらいですからね。」

 

呆れてものも言えないとはこのことだとツバサは嘆息を吐いた。

 

(···念の為、布石は打っておいた方がいいか···)

 

分身は即座に本体のツバサに連絡を取ることにした。

 

――――――――――――――――

 

(···了解)

 

分身からの連絡を受け、時が過ぎるのを待つことにしたツバサだったが、直ぐに任務が入った。

 

何でも、帝都で窃盗事件が発生したそうだ。

 

「成程、こういった仕事も俺ら警備隊の役割って事か。」

 

そう呟くと、ツバサは窃盗事件が発生した現場へと向かおうとして···

 

「待って下さい隊長!」

 

「!」

 

不意に呼び止められ、振り向くと其処にはセリューが犬を連れて立っていた。

 

「···セリューか。」

 

昨日、彼女に対して怒鳴るように言った手前、どう話し掛けようかと戸惑っていると、

 

「···あの後、私なりに考えてみました···”正義“とは何か···」

 

「···それで、答えは出たのか?」

 

ツバサはセリューにそう問い掛ける。しかし、セリューは首を横に振った。

 

「正直、まだ分からないんです···もし、隊長の言った事が正しいのなら···私は間違っているのか。」

 

「···フッ」

 

悩むセリューの顔を一瞥し、ツバサは笑みを浮かべる。

 

「!?」

 

するとツバサはセリューの頭を撫で始めた。

 

かつての部下達の姿を思い出し、懐かしく思えたからであった。

 

「そんだけ悩んでんならいい···これからも答えの無い問題は次々にやってくる。····その時は、悩め。」

 

「悩む?」

 

「そうだ。悩んで悩んで····そうして、自分で考えて出した答えが···必ず、お前を助けてくれるだろうさ。」

 

「自分で···考えて···答えを出す。」

 

反芻するようにセリューはツバサの言葉を繰り返す。

 

「ま、今はそれでいいだろう···それよりも、仕事だ···行くぞ副隊長どの。」

 

「!···はい!隊長!」

 

先程まで悩んでいたのが嘘のような晴れやかな顔でツバサの後を追いかけるセリュー。彼女の目にはツバサが映り込んでいた。

 

―――――――――――――

 

深夜、ツバサの自宅。そこにはツバサの店の従業員達がツバサと共同生活を送っている。その周辺に位置する建物の屋根 そこには、ケンガンをリーダーとした部隊がツバサの元部下達兼現従業員達を暗殺しに来ていたのだ。

 

ツバサとの契約などケンガン達は始めから守るつもりなど毛頭も無かった。

 

ただ、何も知らないツバサを自分達の思うがまま操る。そう考えただけでケンガンは下卑た笑みを浮かべずにはいられなかった。

 

「そろそろ時間だ···皆、手筈通りに···」

 

そう部下達に告げようと振り向く。

 

「!」

 

其処には部下達は居らず、居るとするならば部下達だった肉塊が幾つかその場に転がっていた。

 

「な···!」

 

ケンガンは最初から警戒をしていた。油断することなく例え誰かに襲われたとしても直ぐに対応できるようにしていた。しかし、ケンガンのほんの僅か一瞬の隙を突いて、部下達は即座に処断されたのだ。

 

「やはりな。」

 

「!」

 

背後から聞き慣れた声が聞こえ、振り向くも其処には誰も居らず。

 

「お前が最初から“こうする”事は理解していた。」

 

再び振り向くとそこには、黒装束に身を包んだツバサが立っていた。

 

「ツバサ···貴様ぁ···!」

 

「···」

 

呆れたような憐れんでいるような表情を浮かべるツバサ。もはや彼にとってケンガンは邪魔者でしか無かった。一息、溜息を漏らすと一言。

 

「お前は···超えてはならない一線を超えた···!」

 

「!」

 

ツバサの言葉には怒りが孕んでおり、ケンガンはそんなツバサに恐怖を覚えた。

 

「ま、まさか···俺を殺す気か!?···言った筈だ、俺に危害を加えようとすれば···」

 

「俺の部下···もとい、従業員達を人質にとったとの名目で暗殺する··だろ?」

 

「あ···あぁ。なら、」

 

「だがな···お前は端から俺との契約を反故にした···なら、俺がお前との契約を反故にしたとしても何も悪くないよなぁ····!」

 

「!!!」

 

ツバサはケンガンを殺すつもりでいた。当然である。自分が命を懸けて守ったものを、この男は蔑ろにしようとしたのだから。

 

「お前は···必ず殺す···どういう形であれ、お前は必ず。」

 

もはや修羅と化したツバサ。 鬼気迫る殺意の波動にケンガンは恐怖を感じ、腰を抜かす。

 

「ヒ、ヒィ···だ、誰か···助けt···」

 

「お前は···そう言って助けを求めた相手を助けたことがあるのか?」

 

「ふえ?」

 

突然の問い掛けにケンガンは怯えながらも振り向いた。

 

「ある訳無いよな···お前みたいなゴミクズ···助けを求めた奴らを殺してきたお前が····助けを求めてんじゃねぇよ!!!!」

 

ツバサは天叢雲を刀に変化させ、ケンガンの首を斬った。

 

「だ···ずげ···で···」

 

ケンガンは最期まで助けを求めたが、今まで許しを請うたものや助けを懇願してきた者達を次々に殺してきた男だ。当然誰も助けてなんかくれない。自業自得の末路であった。

 

斬られた断面からは鮮血が迸り、頭はそのまま屋根の下へと落下していった。それを見送ったツバサの手には、ケンガンが所持していた帝具が握られていた。!

 

「···帝具“バロールの眼”···回収完了。」

 

冷めた目で帝具を見つめ、振り向いて自宅から漏れ出る灯りを一瞥する。

 

中では自分の守った部下達が楽しそうに暮らしている。

 

(これからも俺は···お前たちを守っていく。それだけは···例えこの身を犠牲にしてでも···成し遂げてやる。)

 

そう決意したツバサであった。

 

―――――――――――

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

「今、あそこにツバサさんがいたような···?」

 

「まさか!そんな訳無いだろ。」

 

そう言って窓から指差した場所を見やる。

 

しかし、そこには誰も居らず暗闇が広がっていた。

 

「あれ?確かに居た気がするんだけど···?」

 

「夢でも見たんじゃないのか?」

 

「ちょっ!なんでそうなるのさ!」

 

家の中からは談笑が聞こえてくる。これがツバサにとって、かけがえのない大切な存在なのだと教えてくれているかの様である。

 

―――――――――――――――

 

次の日、

 

「ほら、とっとと料理を運ぶ!」

 

「はい!」

 

今日も今日とて『レガリア』は大繁盛。

 

忙しなく料理を作るツバサとキッチン担当の従業員達。

 

その作られた料理を運ぶウェイター。

 

こんな日がずっと続けばいいいのに···そう願わずにはいられないツバサであった。

 

そして、

 

「此処が帝都か···」

 

帝都を高台から見下ろす一人の少年。

 

「待ってろ···必ず稼いでやるからな!」

 

今、物語は始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

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