剱の呼吸   作:MKeepr

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第十一話:蟲の毒

「閻魔が現れ人を攫う、ね」

 

「聞いて回りましたが皆さん閻魔様の怒りに触れてしまったと恐れているようでした」

 

「こっちも、地獄の炎を伴って現れただとか血鬼術らしき話も聞けたぞ」

 二人が歩くのは東の比較的発展した町である。日中なので一応日輪刀は隠している。この街で既に行方不明が八人、調査に来た鬼殺隊員も三人が行方不明になっている。

 特徴的なのは発見された死体がすべて舌を引き抜かれていたことで、町の人々が閻魔が現れたと恐れられている原因になっていた。

 そもそも死体が出ること自体、人を食い尽くすことが基本の鬼には珍しい話ではある。

 死体が出ている為、警官も配置されているが"こちらの事情を察した"警官らしく快く状況を教えてくれたがそうでないと少し面倒であった。死体の確認をさせてもらった際は苦痛に歪んだ被害者の顔を見て怒りが湧く。

 

「鬼が閻魔の真似事とはねえ」

 

 閻魔は地獄で鬼を裁く側であって生者の舌を引き抜いたりするわけがないのだが、と鬼扱いされた地獄の閻魔に同情した。

 ただ、情報が本当にない。ここへ調査に来た鬼殺隊員も皆殺しにされてしまっており、彼等の鎹烏も生還できなかった為鬼の情報が無い。奏多とカナエは最近左側頭部辺りに痣ができていたお屋形様から申し訳なさそうに伝えられて送り出された。

 

「話は信憑性が薄くてどうしようもないありませんね、夜間しっかりと巡回して異変の種を見逃さないようにしましょう」

 

 同じく話を聞いて回ってきたカナエも手応えが薄いようだった。

 血鬼術らしき炎の話も出たが、実際に見たというのでは無く噂話の為、警戒するに越したことはないが鵜呑みにも出来ない類のものだ、

 

「とりあえず無茶はしないようにしないと、しのぶにどやされる」

 

「誰がどやすですって? 宿を確保してきましたよ」

 

 先程まで、しのぶが宿を取りに行っていた。

 そのしのぶに出発前の蝶屋敷で「姉さんに怪我させたら怒りますよ」と言われたのである。奏多からすると言われるまでもないといった所だ。

 普段凛としているしのぶにしては珍しい不安がりっぷりであったので奏多とカナエ、共に気になっている。

 殆どの鬼殺隊員は柱を絶対視し尊敬と畏怖を示す。柱が死ぬのは有り得ない、柱ならどんな鬼にでも勝てる、と。

 はじめこそしのぶもそうだった。自慢の姉とその柱たちを絶対視していた。しかし鬼殺隊員になり、姉の鎹烏がしのぶの前でも構わず報告を出すようになってからそれが崩れた。

 

『カァー! "海柱戦死!』

 

『カァー! "嵐柱"戦闘による負傷で引退!』

 

 そんな鎹烏の報告を聞いていると思ってしまうのだ。姉さんも? と。そんな中で柱二人が一つの事件を担当する等、一般隊員が聞いたら諸手を上げて喜び安心する事に逆に不安を感じてしまう。

 

「しのぶご苦労様。情報は集めたからお茶でもしましょう」

 

「そうだなそれが良さそうだ」

 

 そんな不安に気付かれたのか、ここに来てから二人から気遣われるような気配を感じる事が多く、その度しのぶは少し惨めな気分になった。気遣われるのではなく、頼られたい。二人に並び立って共に戦えるようになりたい。

 ただそれにはまだ時間が足りないだけだ。しのぶの歳で柱の領域に至るには血反吐を吐く努力だけでは足りない隔絶した才が必要なのである。

 お茶をした後も昼間の間、しのぶはそんな悶々としたものをかき消すように精力的に情報を片っ端から集めて精査し纏めた。

 まず、異能の鬼であること。コレは被害者の行方不明になった場所が屋内屋外所構わずなのに侵入した痕跡などが無いことからだ。男性の遺体にわずかに残った焦げ跡から噂通り炎を使う可能性が高い。

 次に鬼の嗜好。まず舌は絶対に食べることと、女性は年齢問わず完食していること。コレは死体として残されたのが男性であることからだ。

 異形化していなければの話だが死体についた手の跡から見て七尺近い体格の鬼と仮定された。

 

 

 

 

「お客様、今こんな時ですから女三人で外出は危ないですよ」

 

 宿の人にそんな事を言われてしのぶとカナエに笑われるなどの事がありつつ、外へ出て散開ししのぶの考えた巡回ルートをそれぞれが回る。夜の間しばらく警戒を続けていたが誰も鬼の気配すら発見できず合流することとなった。

 

「今日は収穫なしか」

 

 もう暫くすれば夜が明ける。日光に当たれば死ぬ鬼ももう活動しない時間だろう。

 

「数日このまま何も成果が無いようでしたら他の地域へ移った可能性を考慮する必要がありますね。発見できればこちらのものなんですが」

 

 そう言いながらカナエと奏多をしのぶが見る。わざわざ隠れて出てこないような鬼なら二人が出る幕すら無いとも思っている。

 

「ふふ、頼られると嬉しいわね。奏多くん」

 

「いざという時頼ってもらえるのは嬉しいなぁ」

 

 奏多がフフンと言わんばかりに胸を張ったのでしのぶはイラっときた。

 

「何言ってるんですか。姉さんはともかく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いつもの辛辣ぅ!」

 

()()()()()()

 

「確かに嘘ですが……!?」

 

 異質な声。奏多でもカナエでもなんならしのぶの声ですらない。何処から発声させたのかわからない。

 

「しのぶ!」

 

 しのぶの背後が突如煌めく。火花が散りながら渦巻き腕が現れしのぶの首を掴んだ。

 

"花の呼吸 陸ノ型、渦桃"

 

 しのぶを掴んだ腕が切り裂かれ火花となって消える。解放されたしのぶが距離を取りつつ咳き込みながら日輪刀を抜いた。

 

「どうして邪魔をする。こいつは君たちに嘘をついた悪人だ。罰として私が舌を抜いて食らってやろうというのに」

 

「仲間を殺されかけて邪魔しない馬鹿がいるかエセ閻魔が!」

 

 腕を再生させながら鬼がそう宣う。しのぶが予測した通り七尺ほどの体格に般若のような顔。そして片目には"下六"と刻まれている。

 

"劔の呼吸 弐ノ太刀、布都椿"

 

"血鬼術 火世(かぜ)渡り"

 

 切り裂こうとした頭が消え技が不発となる。例え腕で防御していたとしてもそれごと頸を両断したであろう鋭い斬撃もそもそも当たらなければ意味がない。

 

「なるほど、仲間ならば連帯責任だ。だがまずは嘘つきの舌を抜かねば」

 

 虚空から火花を散らし頭部が現れそう宣う。体も火花を散らし消えていく。

 

 カナエと奏多がしのぶをかばうように周りについたのを見てしのぶは怒る。

 

「姉さん! 奏多さん! 私も鬼殺隊の一員! 例え十二鬼月が相手でも守られる側ではありません‼︎」

 

 しのぶが瓶を取り出し中の液体を日輪刀に振りかけた。

 

「私を信じてください。必ず隙ができます」

 

 滴る日輪刀を構えたしのぶを信じきれなかった事を二人は悔やみ頷くと距離を開けた。

 

"蟲の呼吸 蝶ノ舞、戯れ"

 

 ぼっ、としのぶの足元から火花が散り躱すとそこから足が飛び出してくる。その足に浅く刀を突き刺す。さらに左足、右腕と現れるたびに何度も何度も浅く刺しながら四方八方に飛び躱していく。

 出現した右腕に日輪刀が深く刺さりしのぶの蠱惑的な足運びが止まった。

 

「嘘吐きめ、罪を償うがいい!」

 

 そこに上半身をまとめて現した閻魔鬼の左手が迫る。狙うは嘘吐きの脂の乗った舌である。

 正確無比に突き出された閻魔鬼の左腕がしのぶの頭脇を掠めた。

 決してしのぶが回避をした訳ではない。左腕が勝手にずれ外したのだ。そこで鬼は自覚する。自身の体の異常を。鬼となって初の体験であった。

 

「どうしたんですか? 嘘吐きを殺すのでは?」

 

 体が痺れる。動かない。末席とはいえ藤の花さえ無視できる十二鬼月の体ではあり得ない事象。

 ずれた腕を横に薙げばたやすく折れるのにそれすらできない。

 

「毒? 毒だと⁉︎ おのれ嘘をつくだけでなく毒を盛るなどーーー」

 

 閻魔鬼の視界に奏多とカナエが映る。頸を狙われている。頭を転移させねばならないのにそれさえ鈍い。

 柱相手にその鈍さはあまりにも致命的な隙で、硬い頸も容易く切り裂かれた。

 ぼとりと頸が落ちると、火花が消えその場に分かれた体が落下する。グズグズゆっくりと体が崩壊して行く。

 

「お眠りなさい。せめて黄泉では安らかに」

 

 崩壊していく鬼を哀れみながらカナエが見つめる。その様子に崩壊する鬼の頭は目を閉じ何も言わず消えていった。

 

「すごいもの作ったのね、しのぶ」

 

「対鬼用の麻痺毒です。相当な量を注ぎ込みましたが十二鬼月に効くかは賭けでした」

 

 刺す度刺す度毒を注入し続けようやく効力を発揮したがこれは朗報だ。十二鬼月に効くならば他の鬼にも効くだろう。

 

「おいおい、人に無茶するな言っておいて自分で無茶するんじゃないよ」

 

「それに関してはすみません。でも姉さんも奏多さんも信じてくれてありがとうございます」

 

「あれ、他人行儀はやめた?」

 

「ええ、変な意地を張るのは止めることにしました」

 

 やけに素直だなと思いつつ褒めるようにニコニコしながらカナエと一緒にしのぶの頭を撫でる。これでこれ以上被害が出ることは無いだろう。ひとまずこの件は解決したと三人は思った。

 誰もまさか閻魔鬼が舌を食べた後に、別の鬼がつまみ食いをしていた等思いもよらなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう、やられちゃったか。舌だけ食べてると栄養少なくて良くないって助言してあげたのに守らないから」

 

 あまりにも自然体。まるでそこにいるのが当たり前かのようにいるその男は、顔を悲しみに歪め涙を流している。

 

「なんだお前」

 

 冷や汗を垂らしながら奏多とカナエがしのぶをかばうように前に出る。男のあまりの重圧でしのぶは抗議も出来ず動けなくなってしまっていた。

 

「俺? 俺はね」

 

 浮世離れした金髪に涙に濡れた瞼が開かれれば幻想的な虹が瞳に宿る。そこに刻まれるは"上弦の弐"。

 

「なんてことは無い、しがない鬼さ」

 

 朗らかで爽やかな笑みは余りにも場違いで恐ろしいものだった。

 

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