現在
[オープン・ボタン]
[身長]
[話が長い!]
がございます。
[オープン・ボタン]
「会議の時は言わなかったが、その服装どうしたんだ?」
「えっやっぱりこれ変なの⁉︎ 二人とも普通の隊服着てるし、女性隊員の人はみんなこうだって聞いたのに……普通のデザインもあるのね、もー!」
「例のあいつか……」
「これをどうぞ蜜璃さん」
「あ、でも不死川さんも同じような格好をしてたし」
たしかに不死川も胸元全開である。本人曰く暑いだの動きづらいだの。行冥も割と開いてる、ムキムキすぎて閉まらないのである。宇髄なんかは腕がムキムキなので袖なしだ。
「あれは本人の趣味だから」
新たな柱を迎えた後、伊黒がネチネチを一切せず速攻で帰るという緊急事態に見舞われ、しのぶと奏多も新たな柱の服で思うところがあったので蝶屋敷に連れてきた。
目の前で顔を真っ赤にしている
しのぶは蝶屋敷標準装備の油とマッチを手渡した。
「背丈は同じくらいだから私のお古で良ければ着てみましょう?」
カナエも甘露寺も背が比較的高い。この中で一番小さいのはしのぶである。
「ありがとうー! 早速着てみるわ!」
ふわふわしたイメージのあるカナエだが、前田の服は普通に火にかける。なのでカナエの隊服も標準的なものだ。
カナエの持ってきた服を見て甘露寺が脱ぎ始めたので奏多は座った姿勢から跳躍し音もなく襖を開けて外に出ると音もなく襖を閉じた。
「あれ? 奏多ちゃんどうして外に行ったのかしら」
「……気づいてませんでしたか、奏多さんは一応男ですよ」
脱ぐ途中の姿勢のまま驚きの声を甘露寺があげた。
カナエが以前撮った写真を取り出す。どう見てもただの長身和服美女と化した奏多の写真だった。おだてられ乗せられそのまま写真屋に行った際に撮ったのだ。
「サイズもほとんどぴったりです!」
「奏多さん、入ってきて大丈夫ですよ」
それを聞いて奏多が入ってくると隊服の全力ではだけていた胸元がしっかり閉じられお淑やかな感じになっていた。
「ごめんね奏多さん、奏多ちゃんじゃなかったんだね」
「なにその敬称の違い」
奏多が困惑する。全員がそれをスルーした。人の見た目で判断しないのは美徳だが奏多は自分の容姿に頓着が無いのはダメである。
甘露寺が着心地を確認するように柔軟体操をしている。
「一応、剣術の確認しておいた方がいいんじゃない?」
「そうですね。庭なら空いてますよ」
「ありがとう! それなら失礼して」
外に出ると甘露寺が刀を抜く。柱の中でも特に異形の日輪刀でまるで鞭のような刀だ。
"恋の呼吸 壱ノ型、初恋のわななき"
高速で振るわれた刀が前方の空間を滅多切りにする。刀と思えないロングレンジと間合いの掴みにくさは岩の呼吸の鎖術に近い。操作を少しでも誤れば自身を切りかねない扱いの難しい刀を巧みに扱っていた。
まさに舞踏の如く連続で繰り出される型のうち、伍ノ型でそれは起こった。
なにかバツンッと大きな音がして観戦していた奏多の額に何か突き刺さる。
「〜〜〜ッ‼︎」
奏多が額を抑えて転げ回った。予想外の激痛に悶え苦しんでいる。しのぶがその飛来物を拾い上げてみると、詰襟のボタンであった。
転げながら自分の腕を殴って頭の痛みをごまかそうとしている奏多の脇でしのぶが遠い目を、カナエがあらあら、と困った風に甘露寺を見ていた。甘露寺は予想外のことに顔を真っ赤にしている。
前田の作った詰襟と同じ部分のボタンが弾け飛んでいた。体の可動性の確保のためにはボタンを開けておく必要があったらしい。しかしガン開きなのは趣味に走る男前田のせいである。必要な仕事はしっかりとこなす癖に欲望に忠実な男であった。
[身長]
「カナヲも背が伸びたわねえ」
カナヲの頭に置かれた定規を経由して蝶屋敷の柱に線が書かれる。線の脇には"ヲ"と一文字カナヲを指すカタカナが書き込まれている。
その線の少し下にはしのぶと書かれた線がある。この度めでたくカナヲがしのぶの背を抜いたのである。他の柱にも蝶屋敷の子たちの名前が線とともに書かれている。
「しのぶ、何してるの?」
「姉さん、私はまだ負けていません。それを証明しようとしてるだけです」
仰向けに寝転がって手足を蝶屋敷の子に引っ張ってもらっているしのぶが大真面目な顔で答える。カナヲがニコニコしたままその様子を見ている。
しばらく引っ張られた後しのぶが満を持して柱に背をつけた。現実は非情である。以前書かれたしのぶの背の線と誤差しかない。
「ねえカナヲ、背の伸びる秘訣とかあるの?」
「ご飯を食べています」
カナヲがニコニコしたまま答える。背を伸ばしたい努力をする人間にはこれ以上ない煽りだが実際カナヲは特に何かしているわけではないし、自発的に行動はほぼとらないので秘訣も何もないのである。
カナヲは背の伸びが良い。栄養状態が極悪の状況から改善されてここまで伸びるのだから最初からここにいたならもっと早くにしのぶの背を抜いていたのではと予測された。
カナヲには最初は花の呼吸と蟲の呼吸両方を指南してた。しばらくして本人がどちらの方が良いかと聞くと花の呼吸の方が相性が良いようなので、最近ではそちらに完全移行してカナエが型の訓練を、しのぶが指揮などの部隊運用を教えている。
言われないと行動できないカナヲだがこの時ばかりはこれが良い方へ作用した。言われたことを愚直にしっかりこなし基礎を積み上げていき、己の糧として消化するのだ。
後はたまにやってくる奏多に太刀筋の指南をしてもらっている。柱において切れないものは無いと言わしめる剱柱の太刀筋指導は効果的だったようで、花の呼吸なのに少し挙動がカナエの頃より攻撃的になった。しかもそれが花の呼吸としての型を崩さず上手く溶け込んでいる。
そんなわけでカナヲは既に並の隊員よりも強い。最終選抜に出しても何ら問題ないレベルである。しかし今の今まで最終選抜に送り出されなかった事は、蝶屋敷出身の隊員二人が鬼に食われたことと無関係ではないだろう。
「フゥゥー、カナヲ、あなたを次の最終選抜に送り出します。無事に帰ってきてください。私は私の継子の事を信じてますよ」
深くため息を吐いてしのぶはカナヲの頭を撫でる。
「フフ、藤襲山に行くまでに食べるお弁当はどうしましょうか」
「姉さん、呑気すぎでは?」
「そんなことないわよ。だってカナヲは可愛いし強いしでこれはもう無敵だもの、綺麗なまま突破できるわよ!」
ねー、と言わんばかりにカナヲの手を取って掲げてえいえいおーっとする。
この時カナヲ内部の指示一覧に最終選抜を無傷で綺麗なまま突破するという目標が追加されたのだった。
[話が長い!]
那田蜘蛛山に十二鬼月との情報により、柱二名が派遣されることが決定し、山の西側からしのぶと義勇が侵入した。その少し後ろをカナヲと隠が追従する。
「カナヲ、自身と隠の安全、一般人の保護を優先してください。この繭も中に人が取り残されていた場合は保護してください」
ドスリ、としのぶが繭を突くと、ぐちゃぐちゃに溶けて骨しか原型を留めていない死体が流れ出す。繭は十四、全てがこうなっているかよりひどい可能性の方が高いが見捨てるわけにはいかない。
カナヲが頷く。それを見てしのぶは先行した義勇を追いかける。
少し進んで開けたところで毒に侵された金髪の隊員や一般人を見つけ解毒作用のある薬を打って特殊な包帯でぐるぐる巻きにし、応急処置をしながら進む。
「それでは隠の皆さん、安全なので私についてきてください」
その頃、ニコニコと朗らかにカナヲは隠を護衛しながら生存者を探して進み出す。繭内の人々が全滅なのを確認ししのぶへ鎹烏を飛ばした。
その報告を受け顔をしかめながら、さらに進んだ先で出会った鬼と向き合う。
「さて、もう一度聞きますが何人殺しましたか? 命令されて仕方なかった鬼さん?」
「だから五人よ」
「聞こえませんでしたか? あなたが何人殺したか聞いているんです、命令されて殺した数だけなんて虫が良いと思いませんか?」
「どうしてそんな事を聞くの? 鬼と人は仲良くできるって」
しのぶが微笑む。
「確かに、そうは言いましたがそれは人を襲ってない前提でして、私としては人を襲った癖に仲良く、は都合が良すぎると思ってるんですよ。なので、殺した数だけあなたを拷問し罪を償ってもらおうかと」
鬼が一歩引く。しのぶが一歩進む。
「私の見立てですが、八十人以上は平気で食っているでしょう? 私としては譲歩して嘘でなければあなたの申告を参考にしようと思ってるんですが」
鬼の顔からどんどん生気が消えていく。ガタガタと牙同士がかち合って音を立てている。
「大丈夫、首は切りませんから死なないですよ、ちょっと今まで人を食った罪に対する罰を全力で味わってもらうだけなので」
鬼がヤケクソと言わんばかりに血鬼術を繰り出した。が、それが命中することはない。全身複数箇所に同時に衝撃、トンっとしのぶが着地した音に振り向く。
"蟲の呼吸 蝶ノ舞、戯れ"
全身至る所から出血しても鬼は死なない、だと言うのに鬼は苦しそうに顔を歪めながら息絶えた。
「私は柱の中で唯一、"首を切らなくとも"鬼を殺せる毒を作ったちょっとすごい柱なんですよって、もう聞こえてませんか」
死体を一瞥すると新たに作られた繭を破り隊員を救う。時間がそう経ってなかったので溶けたのは服だけでしのぶは安心した。
そうして救護しながら山の中を駆け回っていると、倒れた鬼に隊員、その前に義勇がいるのが目に入る。
「鬼に隊員を人質に取られましたか、義勇さんはドジっ子ですね」
位置関係的にあの鬼の不意をついて殺すことができる。上手くいけば隊員も義勇も無傷で大勝利である。
息を吸い目にも留まらぬ速さで接近する。金属が衝突する音が森にこだまする。完璧な不意打ちを防いだのはあろう事か義勇だ。
「義勇さん? 私は別にあなたがたを狙ったわけじゃないですよ? ほら坊や、それは鬼ですから退いてください?」
「禰豆子は俺の妹なんです」
「妹、それは可哀想に」
義勇が切りかかってくるのをしのぶが防ぐ。
「もう少し説明をくれませんか? そんなんだから嫌われるんですよ」
鍔迫り合いの状態で義勇が何も言わずに押し込む。
「走れ炭治郎!」
「あっ」
隊員が鬼を抱えて走って行ってしまった。それに呆気にとられていると、義勇がしのぶに組みついて首を締め落とそうとしてくる。片腕をねじ込んで完全に決まるのを防いだ。
「あの? 義勇さん? 何か事情があるのかもしれませんが、説明してくれませんか?」
「……」
「何か言いましょうよ」
「あれは2年前だったか……あの少年、竈門炭治郎と禰豆子に出会った。彼等の一家は惨殺され、偶然にも生き残った少年と恐らく無惨の血が混入し鬼化した少女の兄妹だ。俺も初めは殺そうとしたが、あの鬼禰豆子は極度の飢餓状態にも関わらず人を喰らわず守る仕草をした。だから俺は育手である元柱の鱗滝さんに手紙を出し二人を鬼殺の剣士として推薦した。炭治郎は妹を治すために剣士になると、水の呼吸の正当な使い手が生まれると俺も嬉しかった。彼等はーーー」
しのぶを締めたままの姿勢で義勇は語り出ししのぶは鎹烏が伝令を持ってくるまで締められたまま話を聞く羽目になった。
拘束を解かれた後しのぶは義勇の腹を二十発ほどぶん殴るのだった。