アニメ最高です。
「うまい! おかわりをお願いする!」
「あ、あの煉獄様? あまり食べすぎると逆に体に悪いですよ?」
「それは済まない! しかし最後にもう一杯だけお願い出来ないだろうか!
「あっはい」
バクバクと凄まじい勢いで飯を食らうのは炎柱の煉獄である。蝶屋敷の病室のベッドで無ければさぞかし周囲の食欲を誘う見事な食べっぷりであった。蝶屋敷の子達は食事の準備でてんてこ舞いである。
その騒乱と大食いが終わるまで脇で丸椅子を出してもらって座る伊黒と奏多が待機していた。
「で、そんなズタボロにされて負けてきたと?」
蝶屋敷の子たちが空になった鍋や釜を片しているのを背景にしながらふんすと伊黒がねちねちしだした。重傷者の病室なので相方の蛇はカナエに回収されて外で待たされている為か若干機嫌が悪い。
「そうだな! 判明した情報としては以前燻御の遭遇した岸壁爆散鬼が上弦の参だったこと、そしてその名は猗窩座! 非常に正確性の高い迎撃能力を持った体術使いだということだ! あと地味に衝撃波の遠距離攻撃が鬱陶しい!」
元気そうだが今まで二週間の意識不明、左手は複雑骨折、右手は一部の腱が切れ、肋骨全部骨折および一部が肺に突き刺さる、左目失明、右足の肉離れ、擦過傷多数の重症である。激痛に苛まれている筈だがそれをおくびにも出さない辺りは流石の柱か。
詳細を滔々と語っていく。謎の氷の結晶のような文様が出たあとから正確性が増したことからアレがなんらかの補助効果があるのではなどだ。
「戦線復帰も一応は可能らしいな、柱が欠け無いことは良いぞ。さっさと怪我を治して上弦の参など滅殺してしまえ」
「そうとも、奴を仕留められなかった! それだけが心残りだ! 今後奴の被害に遭う者がいると考えるとハラワタが煮えくり返って焼け死んでしまいそうだ! だが俺は希望を見たぞ二人とも! 燻御! 君の手紙にあった三人ともう一人、禰豆子だ!」
煉獄は右手を握り込んだ。伊黒は話が飲み込めないのか目を細める。奏多が説明すると伊黒はつまらなさそうにフンっと息を吐いた。
「そんなのに構っててどうする。それよりお前が」
「ありがとう伊黒、君は優しいな」
煉獄が顔に似合わない微笑みを見せる。伊黒と奏多が苦虫を噛み潰したような顔になった。柱として戦線復帰は可能であるが、それは今までの煉獄と同等ではない。完治しても片目を失ったことで遠近感が狂い、切れた腱が枷となって斬撃から鋭さを奪うだろう。
「れ、れ、煉獄さん!」
ドタドタと足をもつれさせながら炭治郎が病室にやってきた。泣きそうというか泣いている。カナエが気を遣って鎹烏を飛ばしてくれたのである。
「おお、竈門少年! 元気そうだな!」
「すいませんでした‼︎」
「何謝ることはない! 前にも言ったが柱として当然のことをしたまでだ!」
来るなり
「いえ、れ、煉獄さんのお父さんに頭突きをしてしまいました!」
「「「???」」」
煉獄奏多伊黒の三人でハテナを作った。
「いえ、その、色々言われて我を忘れてしまってその」
「元柱の父に一撃入れるとは二週間でなお成長したようだな竈門少年!」
違うそうじゃないだろと奏多と伊黒が頭を抱えた。
「ところで竈門少年! 遺言のような事を頼んでしまったがこの通り無事なので伝えずにいてくれたか?」
「あっしっかり伝えました!」
「成る程! 穴があったら! 入りたい!」
生きているのに遺言を伝えられてしまうのは恥ずかしい。煉獄だって流石に恥ずかしいのである。死ぬと思っていたし、何故か先に亡くなった母の霊に褒められると共にまだ気が早いですと引っ叩かれ帰ってきたのはある種予想外であった。
「今は入ると墓穴みたいになるからやめるんだ煉獄」
「確かに! 今は墓穴に入っている場合ではないな! 竈門少年に猪頭少年、我妻少年とまとめて面倒を見るのだから!」
「ぜひよろしくお願いします! でも怪我が治ってからで」
「問題なし! 口を出すことはできるからな!」
「気炎吐いてそう」
わいわい大騒ぎする三人に再び伊黒が頭を抱えていた。個性の塊柱二人に期待の頭突きが合わさり柱の中ではツッコミ役の伊黒の許容量を超えたのである。小言と言う名の心配性を垂れ流して伊黒は帰った。
それからしばらくの間、炭治郎善逸伊之助にカナヲも加えて蝶屋敷で煉獄による訓練を受けることとなった。
一ヶ月ほどで煉獄がなんとか炎柱として復帰し、蝶屋敷は賑わいを見せていた。炭治郎達三人は拷問装置(善逸命名)を利用した鍛錬や鬼狩の任務へ出向くなど多忙な日々を送っている。
そうしてある日、奏多と煉獄は奏多の屋敷の道場で実戦に近い激しい試合を行なっていた。
「シッ‼︎」
「ムン‼︎」
互いが裂帛の気合いを込めて振るう木刀が交錯し半ばからへし折れてしまう。
「大分戻ったけど、やっぱりまだまだ厳しそうだな」
「少なくとも猗窩座と対峙した己に比べれば劣化も良いところだ、不甲斐なし!」
「いや普通片目が潰れたら引退でも問題ない気がする」
名実共に最強と言われる行冥が全盲な所為でそのあたりの感覚がおかしくなっている気がする。その辺りお館様である輝哉はちゃんとしていて、煉獄が引退を届けていたら許可していた。
奏多は目が良いが片目が潰れて数ヶ月でここまでこなせるかと言うと怪しい。良い分頼ってしまっているからだ。
「腱が切れた影響も大きい、玖ノ型を打つのはもう不可能と言っていいだろう!」
玖ノ型は煉獄によると思い入れが強いらしい。その鋭さのためには握りや足運びが必須であり今の煉獄では満たすことができない。他の型も以前と比べればどうしても精彩を欠いていた。剣の威力だけ見れば木刀同士で交錯すれば折れるのは本来奏多の木刀だけである。
煉獄としては辛いところがあるがその辺りの事情を汲んでか柱としての任務は以前と比べかなり限定的にされている。そも異例の十人体制と柱がなっていた為意外にも問題なく業務は回っている。
「それで、比べてみてどう思う?」
道場に散った木刀の破片を二人で屈んで探しながら奏多は問いを投げかけた。
「燻御、率直に言おう! 単独では君であっても無理だろう! 以前遭遇した上弦の弍の情報に比べ方向性が違うが、奴は単純な反応速度が異常に早い! 初見の技の出だしの時点で迎撃の用意が終わっている、まるで未来予知が何かだ!」
対謎の近接鬼、今の猗窩座を想定して始まった柱合後訓練を最初からずっとやっていた煉獄でさえこの有様だ。求められるのは単純なほど簡単だ。馬鹿みたいな再生力と高い技量を兼ね備えた鬼を技量のみで圧倒的に上回り短期決戦を仕掛けるだけだ。要求される技量が青天井すぎて誰も到達し得ない可能性すらあるが。
「単純なほど崩しにくいものは無いな」
上弦の参も最低でも柱二人体制以上で当たらねば厳しいのが現実だ。奏多や煉獄があの四人の鍛錬に付き合っているのも伸び代の高さを期待しているところがある。あの年齢で常中をこなせる彼らは間違いなく後の柱の器だろう。
「煉獄このあと予定は?」
破片を拾い終わりスクッと二人は立ち上がった、
「蝶屋敷に検診だ!」
「俺も暇だしついてくぞ」
昼食はもう取っていたのでのんびりと二人は蝶屋敷に向かった。
ちなみに昼飯は奏多が手料理を振る舞ったが凄い勢いで食べる煉獄に奏多の料理人魂が燃え上がり屋敷の食材は底をついた。
「おっすアオイちゃん、元気?」
「あっ奏多様、良いところに、煉獄様は検診ですね、カナヲー!」
どこからかシュバッと現れたカナヲが着地する。
「こんにちは、煉獄様。こちらへどうぞ」
カナヲも最近は自発的に行動するようになってきて良い兆しである。そのカナヲに連れられ煉獄は蝶屋敷の中に入っていった。
「あ、奏多さんはこっちです」
煉獄が居なくなって速攻で口調を崩すのは誰に似たのか。
アオイに連れられて蝶屋敷の応接間に通されると、椅子にどっかりと座るド派手な奴がいた。
「おお奏多、待ちわびたぜ。すまんが頼みがある」
ド派手な忍者の音柱、宇髄天元である。頼み事をきいたことは一度もない天元が頼み事をしてくるなど一大事だと奏多は気を引き締め向かい合った椅子に座る。
「よほどのことみたいだな、なんでも協力させてくれ」
「感謝する。奏多………」
天元が目を閉じて少し呼吸を置いた。
後ろに控えるアオイが固唾を飲んで様子を見守る。
「………女装してくれ」
「………は?」
奏多は真顔になった。