剱の呼吸   作:MKeepr

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ご感想ありがとうございます
本編もアニメもいいぞぉ


第二十一話:装い

「やっぱり奏多はこの格好も似合うわね」

 

「正直勘弁してほしい、歩きにくい」

 

 蝶屋敷の廊下を歩いているのはカナエと奏多だ。奏多は以前宇髄の三人嫁達に着せ替えられた着物を着てカナエに化粧やら髪型やらをやってもらったのだ。嫁にやられた女装を夫に披露するとかなんの因果と言わざるを得ない。

 その二人を廊下の陰から見つけ家政婦の如く笑顔で見つめている男がいた。善逸である。

 

(なんだぁぁあぁぁああの美女は!)

 

 カナエの隣を歩く謎の美女に善逸大興奮であった。顔だけで食っていけそうである。音がなんだか奏多と似ている気がしたが、揺るぐことの無さそうな澄んだ鐘の音を思わせる奏多に比べ似てはいるものの、こちらの美女の音は鈴を鳴らすように何処か恥じらいがある澄んだ音であった。

 気付け善逸、羞恥心が音に影響を出しているだけだ。以前など勝手にやられている位で全く気にしていなかったのが、自分からカナエに頼んだのとかわいいかわいい連呼されながら化粧やら何やらまでベタベタ触られまくりながらやられた所為なのだ。

 

(はっまさか奏多さんの妹とか……!? いや俺には禰豆子ちゃんが……しかしお近づきになりたい‼︎ 奏多お兄様‼︎ 妹さんを俺に紹介してください‼︎)

 

 無駄な隠密性を発揮しながら後ろをついて回る善逸、奏多の顔は伊之助と同タイプだが、伊之助と同じく女装することなどあり得ないという認識と自己の都合の良い解釈で罠にかかっていた。

 そうとは知らぬカナエと奏多は天元の待つ応接間に到着し中に入る。外では善逸が聞き耳を立てている。

 

「はい、お待たせしました天元さん。ご希望の子ですよ!」

 

 カナエの指導により立ち方を少し女性らしくしつつ奏多が微笑む。内心で何やってんだ俺となっているがその乱れを察せているのは外の善逸だけである。

 宇髄が専用に用意されたド派手に装飾された湯呑みを置いて吟味するようにジロジロと舐め回すかの如く奏多を見る。そうしてふうと息を吐いた。

 

「ダメだ派手に交代で」

 

「はーーー」

 

「はぁぁぁぁぁ⁉︎ なんだお前何様のつもり⁉︎ こんな清楚美人の心根清らかな音の出せる乙女相手にして何が交代だぼぁっきゃろう⁉︎」

 

 扉を凄い勢いで開いて善逸が乱入した。凄まじい形相である。

 三人の目が点になった。

 

「おいカナエに奏多、なんだこのガキは」

 

「あー、煉獄が鍛えてる子達の一人」

 

「えっその声えっえっ奏多……さん?」

 

 何かに気がついてしまった善逸は正気を失い血涙を流しながら床に倒れ伏せた。何やってんだと思いつつ気を取り直して奏多も額に青筋浮かべて攻撃的な笑みを作る。

 

「で、人に女装させといてどういうつもりだ?」

 

 最初難色示したらいやでもお前なんでも手伝うつって言ったよねと説得されたと言うのにあんまりである。

 

「そうよ! こんなに美人なのに!」

 

 いや違うそうじゃないからと言いたげに奏多がカナエを見るがカナエは可愛いわよと言わんばかりにウィンクする。

 

「美人すぎなんだよ、どう考えても遊郭に売られてくる類じゃねえだろ、嫁達に聞いて予想してたものの遥か上を行っとるわ。どうするこれ、そうだここくる時に女隊員居ただろ、あれ借りていいか?」

 

「ダメですよ、蝶屋敷の機能を麻痺させる気ですか?」

 

 カナエが若干強めに拒否する。宇髄としても医療施設の機能が麻痺すると言われたら連れて行けるものでもない。

 と、宇髄が倒れ伏した善逸を見ていい笑顔をした。ショックで気絶した善逸が復活した時、その身は既に椅子に縛り付けられ、目の前には筋肉宇髄と美女カナエと気の毒そうな顔をした女装奏多が立っていた。

 

「ぁぁぁーーーーーーーッ‼︎」

 

 蝶屋敷に情けない悲鳴が木霊した。

 

 

 

「今回は怪我がなくて良かったな伊之助」

 

「ああ、ちょっとでも怪我するとカナエのヤツが構い倒してくるししのぶに怒られるし散々だっておん? あそこに誰か立ってるぜ」

 

「アレ? 本当だ」

 

 炭治郎と伊之助が任務を終わらせ蝶屋敷に帰還する。すると見たことない子が居た。綺麗な黄色い刺繍の着物を着て玄関の方に頭を向け突っ立っている。

 化粧と香水の香りがすごく炭治郎が若干顔をしかめたが失礼なのですぐにそれを戻して笑顔になる。

 

「こんにちは! 何かご用事ですか? もしかしてお怪我ですか? 怪我しでしたらカナエさんを呼んできますよ?」

 

 綺麗に梳かれた()()の少女へ二人は近づいていき炭治郎が声をかけた。

 そして反応を示さないので訝しんだ炭治郎と伊之助が近寄っていく。

 

「あの?」

 

 香水などに紛れていたが、その身から悲しみや怒り、絶望といった感情の匂いが漂っている。炭治郎は尚の事、放って置けなかった。

 二人がその背後近くまで寄った時、風が巻き起こるほどに少女が高速で体を回す。

 その少女の、少女にしてはやけに骨太な腕が炭治郎と伊之助がの肩を掴んだ。メキリ、と肩に手が食い込むほどの力で掴まれているので腕力も並ではない。

 

「み、ち、づ、れ、だ」

 

 それは女装しているものの隠しきれない善逸感を出した善逸であった。

 

「ぜんいーーー」

 

「もんいーーー」

 

 驚愕の表情を見せた炭治郎と伊之助の頭が掴まれる。

 

「なるほど、こいつらか」

 

「あっこの匂い」

 

 柱合会議の時に嗅いだことのある匂いであった。つまり今二人の頭を掴んでいるのは柱である。

 

「ちょっと顔借りるぞ」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁあーーーッ!」

 

「うわあぁぁあぁぁあーーーッ!」

 

 野太い悲鳴が蝶屋敷に木霊した。

 

 

 

「一つ言いたいんだが」

 

 奏多が頭痛を堪えるように頭を押さえカナエが勿体無いと言わんばかりに手で口元を覆っている。

 目の前にいるのは炭治郎だった者と伊之助だった者だ。宇髄がドヤ顔をしている。

 

「さっすがに下手くそすぎないか? 宇髄お前忍者なんだろもっと変装頑張れよ」

 

 惨事であった。百歩譲って炭治郎は仕方ないとしよう、確かに炭子と化して男だとはわかりにくい。だが別に化粧しなくても伊之助なんかは大丈夫のはずなのに酷かった。

 

「お前俺が女装する事態になると思ってるのか」

 

「悪かった」

 

 筋骨隆々で背も奏多よりなお高い宇髄に女装は無理である。

 

「でも派手だろ?」

 

「いや派手派手だけどさ」

 

(いや派手なブスだろ下手くそかよ、伊之助ならもうちょっとどうにかなったろ)

 

 口には出さないが善逸、脳内で罵倒である。比較対象が居るので特に伊之助に対する女装評価が辛口であった。

 

「まあいいこれでなんとかなるだろ、さてお前らこれから楽しい潜入任務だ、奏多もよろしく頼む」

 

「え? 俺はダメだったんじゃ?」

 

「誰かと抱き合わせなら行けるだろ。戦力は多いに越したことはない」

 

「てか甘露寺は?」

 

「潜入させた店が飢饉に陥るわ」

 

「本気か………はー、カナエ、カナヲの明日の鍛錬予定の道具が俺の屋敷に置きっ放しだから誰か力持ち呼んで運んでくれ」

 

 善逸はそれを聞いて思い出したようにカナヲは⁉︎ 女装させる必要ないじゃん⁉︎ な顔をして宇髄を見たが、宇髄がボソリと呟いた。

 

「馬鹿お前、継子を遊郭に連れてかせろなんて胡蝶に殺されるだろ」

 

 蝶屋敷出禁不可避は流石の宇髄も避けたいようだ。

 

「経過やら経緯やらは道中で話す、時間が惜しい出発するぞ」

 

 カナエに見送られながら五人は出発した。

 

「いいか、俺は神、柱は神だ。それが二人もいるわけだ。敬えよ」

 

「具体的に何を司ってる神なんですか」

 

「いい質問だ、俺は派手を司る…祭りの神、奏多はそうだな……なんかこう、剱柱だし剱の神だな」

 

「おい雑だな」

 

 蝶屋敷を出て、伊之助が経緯の説明でぶん殴られたり交友を深めつつ混沌の地吉原へと到着した。

 

 

「よろしくお願いします」

 

「一生懸命働きます!」

 

 奏子、炭子と抱き合わせ販売により就職決定。

 

「あら珍しい髪の子、おいくらかしら?」

 

「はい毎度!」

 

 善子、就職決定。

 

「ちょいと旦那、この子うちで引き取らせてもらうよ? いいかい?」

 

「荻本屋さん! そりゃありがたい!」

 

 猪子、就職決定。

 

 四人とも無事? 就職が決定するのだった。


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