剱の呼吸   作:MKeepr

30 / 30
大変お久しぶりです。
こういうのは苦手なので拙いのはご了承を、


第二十六話:青空

 蝶屋敷は今大慌てである。上弦撃破の立役者の内二人が瀕死の重傷で運ばれてきたからだ。特に炭治郎の傷の深さが不味い、応急手当てが的確だった為難を逃れたが一歩間違えれば失血死もあり得た。

 治療を終えたカナエ達や医療担当の隠の面々が疲れた顔で各々椅子やソファー、床に倒れこんだ。

 

「やっぱり柱やばいって、目切られてるのに自分でやるから大丈夫って何? 柱怖い」

 

「あの時のカナエ様の剣幕も怖い、あの音柱様が大人しく従うんだもんなぁ」

 

 ガタガタとその様子を思い出して震えだす。

 

ーーー

 

「いや胡蝶、俺、忍だし? これくらい道具貸してくれれば」

 

 両脇を嫁に支えられた宇髄がちょっと申し訳なさそうな顔をしながらそんなことを言っている。両脇の雛鶴とまきをもなんだかむず痒そうな嬉しそうな何とも言えない顔をしつつも宇髄の言葉を肯定する様にうんうん頷いている。

 

「座ってください」

 

 それをピシャリと切って捨てて微笑みながらカナエは椅子に手を差し出す。

 

「大丈夫ですよカナエ様! 私達に任せを!」

 

 宇髄の巨体で隠れていた須磨が横から顔を出してそんなことを言う。

 

「ダメです。須磨さん達を疑っているわけではありませんが治療後は屋敷で絶対安静にしてもらいます」

 

「いや俺なりに気を遣って」

 

「それなら、座ってください」

 

 いい笑顔で朗らかな笑顔を見せたカナエだが威圧感がすごい。須磨がガクガクし出して宇髄の後ろに引っ込んだ。直接あてられている訳ではない医療担当の隠の面々でさえ変な汗が出てきていた。

 

「ハイ……」

 

 さすがの宇髄も観念したのか首を垂れて椅子に座るのだった。

 

ーーー

 

 有無を言わせぬ迫力は元柱とは言え衰えを見せていない。そんな凄味もどこへやら、柔らかな微笑みで労ってくれるカナエの姿に隠は疲れが吹き飛んだ気分であった。

 

「皆さん、お疲れ様でした。山場は越えたのでゆっくり休んでください」

 

 カナエがそう告げて、看護などを蝶屋敷の女の子達に引き継ぎを行う。重症度の高い炭治郎はなるべく医療室の近くの部屋に運び込むことになった。

 

「あら? カナヲ、どうしたの?」

 

 カナヲが後ろを着いてくるのでカナエは首を傾げながら問う。カナヲは最近感情が表に出てくるようになった。良い傾向だ。好きな男の子が出来たのだろう。というかカナエには思い当たる人物がいる。

 

「あの、その、炭治郎の看護、私がしたいです」

 

「いいわよ、カナヲ頑張って!」

 

 予測大当たりである。全力でやってくれるだろうと安心して任せられる。カナエ、ガッツポーズである。しのぶが居ないのが悔やまれた。居たならカナヲの成長にキャッキャしてはしゃぎたい程だ。

 実際しのぶがそれを聞いたら「姉さんこそ頑張ってくださいよ……」と呆れられるであろうが。

 一時的なテンションの高揚で疲れを忘れてルンルン気分で廊下を歩いていると、中庭の縁側で座ったまま柱に身を預け居眠りしている奏多がいた。帰還時は怪我人のドタバタで「おかえりなさい」「ただいま」の軽いやりとりだけで終わってしまったがあの時顔が赤かった為体調不良ではと思ったのだが、今は穏やかに居眠りしていてその気はなさそうだとカナエは安心する。

 並んで縁側に座れば暖かな日差しが疲れた体を癒すように熱をもたらしてくれる。それで少し、気が緩んだのかもしれない。

 

「……大好きですよ、奏多さん。愛してると、いつ気づきますか?」

 

 眠っている相手に言っても自己満足だと少し気恥ずかしくなった。相手は鈍感が高すぎるのか、それとなーく誘導してみても気付かない。理由付けをされているとは言っても化粧棚まで家に持ち込んでいるのだから察してもいいのではないだろうか。外堀埋めどころか内堀まで埋まる勢いで周りに手が回ってしまっている。

 穏やかに寝息を立てる横顔は出会った時のただの美少女顔だった頃に比べ凛々しさが増した。特に頬の傷跡がその印象を強めている。そうしてよく見れば、薄紅色の傷痕と同じように形の良い耳も赤く染まっていた。

 カナエは徐に庭を眺めた。どこか現実を認めないように微笑み事実確認をする様に口を開く。

 

「……どこで起きたんですか?」

 

「……隣に座った時に」

 

 ゆっくり横を見れば顔が逸らされているが耳が茹で蛸の如く赤くなっている奏多がいた。つられてカナエも火が出たように顔面に熱が溜まり出す。奏多であれば成る程、居眠り程度の浅い眠りでは隣に誰か来れば起きるのは当たり前である。自分相手だから起きないと油断したのが仇となった。

 

「カナエ、その、あのだな……」

 

 奏多が口籠っているとカナエは唐突に逃げ出したい感覚に囚われた。いざ自分が当事者になると思いの外いじらしくなってしまっていると自覚はしていたが、こんな不意打ち状態で奏多からの返答が良いものと想像できない辺り相当だとカナエは自嘲した。

 奏多は感情には竹を割ったように正直で、ただ自身に向けられている好意が"恋愛"ではなく"親愛"なのも分かってしまっていた故にカナエは一歩を踏み出せなかった。求めた物と違う好意でも、踏み出せばそれすら無くなるのではという可能性を捨てられなかった。外堀埋めも結局は奏多に察して欲しかったのである。

 なお本人本物の竹よりなお真っ直ぐすぎて気付かず。正直奏多が悪い。なんなら知ってるのに恋愛に口出しすべきじゃ無いと黙ってた行冥も悪い。

 

"悪い、家族と思っているが、恋人には……"

 

 ガンッ‼︎

 

 悪い想像をし、何故だか視界が歪み立ち上がろうとしたカナエの目の前で奏多が柱に頭を叩きつけた。音に驚いてカナエの動きが止まる。

 

「カナエ、俺と一生を、添い遂げてくれないか‼︎」

 

 縁側にそのまま正座して頭をさらに床にまで叩きつけながら奏多が告白をした。柱に頭を叩きつけた衝撃でズレた屋根瓦が庭に落ちた。

 奏多も本当はこんな告白をするつもりは無かった。宇髄に指摘されて自覚してから帰りの道中助言を受けつつ告白の言葉を考えていたのだ。隣にカナエが座ったのに気付き起きた時もどう告白するか頭の中で回していたのだ。まあカナエの不意打ち言葉に詰まった時にカナエが見せた泣きそうな顔を見て小洒落た言い回しや贈り物の計画なんかも全部吹っ飛んだが、奏多に後悔はない。カナエの泣き顔を見て、親愛に恋が紛れ込んだ瞬間をはっきりと自覚した。奏多がカナエの泣いた顔を見たのは二度目だ。そうして、もう二度と、カナエが悲しむ姿を見たくないのだ。

 カナエの方と言えば、初めにやってきたのは困惑であった。自分に都合の良い妄想でも聞こえているのではと自身の聴力さえ疑った程だ。

 "同情から言ってくれただけなのでは?"と内なる自分が喜びに陰気な蓋をする。だが、それを誠実な奏多が一時の同情心でそんな事するはずはないという信頼が粉砕して滅していく。蓋が全て消えれば、そこから溢れ出すのは歓喜の暴風だ。そのまま全て吹き飛ばしてしまいそうなほどの奔流が、目から滴となって零れ落ちた。

 

「是非、是非添い遂げさせてください」

 

 カナエも同じように正座をして頭を下げた。奏多が顔をあげればカナエもあげていて、なんだか互いに気恥ずかしくなって顔を真っ赤にしながら他所を向いてしまった。

 屋敷の方を向いた奏多が固まった。つられてカナエもそちらを見て固まった。

 奏多が柱と床に頭を叩きつけた音に驚いてやってきていたアオイ含めた蝶屋敷の子達や隠の方々。あと宇髄本人に嫁の三人含めた全員がふすまの隙間からガッツポーズをしてこっちを見ていたのである。

 奏多とカナエは人生史上最大に顔を赤くする事となった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。