剱の呼吸   作:MKeepr

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誤字修正しました。6cmが30cm伸びてました


第五話:焼き入れ

 藤襲山。鬼殺隊に入る為行われる最終選別の場所であり、一年中狂い咲く藤の花により鬼を閉じ込めておくことが可能な土地である。

 暑さも和らいできたこの時期に美しく咲く藤の花はどこか現実感が無く異界にでも迷い込んでしまっているような感覚に陥りそうだ。

 実際問題この先は一般人からすれば異界そのものだろう。選別の説明をする女性によれば、藤の花により閉じ込められた鬼たちから七日間生き残ることが選別を通過する条件なのだそうだ。妊婦さんらしくお腹が大きいのだがこんな所に来てて大丈夫なのだろうかと奏多は思った。

 奏多といえばここにくる途中、伏銅の助言通り町で買った鮮やかな藍の組紐をいじってみたり、同じく勢いに任せて買ったブーツで地面を蹴ってみたりしていた。移動初日に買ってそのあと走り回ったり踏み込みで修練をしつつここまで来たので既に新品の輝きが消えている。

 周りを見渡せば刀を持った志同じく鬼殺隊を目指す仲間たちがいる。一年間丸々選別が行われなかった影響で三十人近くの人がいた。

 これだけの人が居たらまた鬼が全滅してしまうのではと思ったが、選別が始まってからその考えは吹き飛んだ。

 意気揚々とそれぞれ散らばっていった後山のそこらじゅうで悲鳴が響いたのだ。原因は考えるまでもなく鬼である。

 奏多の前にも鬼が現れた。ボロボロになった洋服を着たそれは奏多を認識すると涎を垂らし出す。

 

「こんな所に女だ! 柔らかい肉だ!」

 

 常識を超えた動きで木を足場に突撃してきた鬼が抜刀とともに頸を切り飛ばされる。

 

「女じゃないぞ、目腐ってんのか」

 

 宵闇に紛れていても夜目の利く奏多の目はごまかせない抜刀したまま木に向かう。

 

"剱の呼吸 壱の太刀 草薙"

 

 円運動で増強された切れ味が空に向けまっすぐ伸びる木を一文字に切り裂く。そしてその背後に隠れていた鬼の頸をも両断した。ボロボロと鬼の頭と体が崩れていく。

 

「助けてくれ! うわー!」

 

「耐えろ! 今行くぞ!」

 

 悲鳴の元にたどり着くと奏多と同い年ぐらいの少年が鬼の牙が迫るのを刀で必死で押しとどめている所だった。頸を失った鬼を押し倒して崩れていく体に刀を滅多刺しにしている。

 

「落ち着け、一緒に行けるか?」

 

「あ、ああ……」

 

 チラリと視界の端に誰かが見えた。花柄の衣。

 

「おい誰だ? まて!」

 

 助けた少年と共に後を追う。

 誰もいなくなった場所をずしり、ずしりと鬼が歩んできた。

 

「ん〜、面をつけた奴は今回いないなぁ。残念だなぁ、鱗滝の奴に復讐したかったんだがなぁ。まあ二、三人食べればいいかぁククク」

 

 全身を腕で覆われた異形の鬼は頸をへし折られ死んでいた青年を丸呑みにすると、その腕を用いて地面に潜り眠りにつくのだった。

 

 

 

 一日目の朝となり日が藤襲山を照らす。あの後悲鳴を追い十人にまで増えた仲間と共にそれを喜んだ。昼間襲撃される危険がないことから持参されていた包帯を怪我人に巻いたり、枝を切って添え木にして骨折を固定したりする。十人と言うものの負傷者が多い。特に足を骨折してしまった後藤は気さくで良い人だが戦うことは完全に無理だ。

 奏多一人が突出して山の鬼を皆殺しにして仕舞えばいいのではと彼には提案されたが奏多は首を横に振った。自身が突出している間に襲われれば十人が守れないから、と。

 それを聞いた後藤や他の仲間は少し悲しそうな顔をした。自分達の力を信用して貰えないことか、奏多の足手まといになってしまっていることかは彼らにしかわからない。

 さらに昼の間に合流等で人数は十五人に膨れ上がる。

 奏多達は夕日側に陣取り、夜になるとともに負傷者を真ん中にして円形に警戒しながら朝日の登る側に移動する作戦にした。なるべく日の当たる時間を長くして襲撃を減らすためだ。

 最も危険だったのは三日目だった。複数の鬼による同時襲撃である。鬼同士が敵対していなければ守りきれず死人が出ていただろう。時折現れる花柄の着物の少女の影を追うも、鬼も人も見つけられず終わる。

 そして五日目、鬼の襲撃を受けなくなる。

 そこからはいつ襲われるかわからない状態に皆が精神をすり減らしつつも襲われることなく七日目を迎えた。

 仲間同士で助け合いながら日に照らされる広場にたどり着くと、初日の妊婦の女性ではなく黒子のような格好をした男性がいた。

 

「最終選別突破、おめでとうございます」

 

 喜びの声を上げる周りを見る。花柄の着物を着た人物はいない。死んでしまったのか、奏多自身の見間違えなのかわからなかった。三十人近くいたのに、突破できたのはたった二十人程度だ。自分がもっと強ければ、と思う奏多だった。

 

「それでは皆様には隊服と鎹烏を。寸法を測っての隊服の支給と最期に階級を刻ませていただきます」

 

 どこからかカラスが飛んできて奏多の頭に乗った。肩に乗れと頭を振っても一切降りようとしない。なんかどこかで会ったか気がする奏多だった。

 

 階級を刻まれ、刀を打つ為の鋼を選び、服を受け取ったのでとりあえず巌滝山に戻るかと考えていると、説明をしていた黒子のような人、隠の服部と言う人が声をかけてきた。

 

燻御(くすみ)殿、燻御殿?」

 

「…………あ、いやすいません苗字で呼ばれたのなんてもう何年も前で」

 

「では、奏多殿、日野坂殿がお呼びですのでこれを付けてください」

 

 差し出されたのは目隠し、耳栓、鼻栓、袋であった。

 

「これは?」

 

「目隠しと耳栓と鼻栓です。全部つけてから頭に袋を被って下さい」

 

 渡されたそれと服部さんの顔を奏多の目が往復する。

 

「日野坂殿が居るのは秘匿された里なのでこのような処置をする必要があるのです」

 

「な、なるほど」

 

 いそいそと全部つけてから袋をかぶるが、外から見ればどう見ても誘拐される人だろう。何も見えない中手を引かれるのに従うとおんぶされる。

 

(この状況、袋のせいで息しにくいし何も見えないし暇だなぁ)

 

(そうだ、動かなくていいし呼吸の修練してよ)

 

「ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ、ヒュウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ」

 

 服部は真顔になった。呼吸のことは知っている。ただおんぶされて後頭部のあたりですごい音を立てながらやるのは結構うるさい。袋をかぶっているにもかかわらず走る際の風の流れと別の風の流れが服部の後頭部あたりで生まれていた。服部から八度ほど別の隠に受け渡され全員にうるさいと思われた奏多だった。

 

「着いたぞ」

 

 そう言われて袋をを外し目隠し耳栓鼻栓を取るとそこは温泉街のような印象を受ける建物群が立ち並んでいた。歩く人が全員意匠は違えどひょっとこの面をしている。

 

「もう三十になるんだからいい人ぐらい見つけたらどうだ!」

 

「結婚なんぞするか‼︎ くそったれめ俺は刀を打つんだよ! ええい離せ刀を打つんだよ‼︎」

 

 なんだか暴れているひょっとことそれを取り押さえるひょっとこもいるが幻覚ということにしてこの風光明媚な場所、刀鍛冶の里の景色を遠い目をしながら楽しむ。

 

「それで俺はど「奏多くーーーん!」ギャプッ⁉︎」

 

 どこからか現れた筋肉達磨ひょっとこ、日野坂龍彦の体当たりを背後から受け抱きしめられる。

 

「最終選別突破おめでとう! 奏多くんなら大丈夫だと信じていたよ!」

 

「…………」

 

「この里には温泉があるんだ! ぜひ疲れを癒してくれ! あその後でいいから奏多くんの技を見せて欲しい!」

 

「…………」

 

「奏多くん?」

 

「おい、極まってる」

 

 隠の人がつんつんして龍彦が抱きつくのをやめるとブハァと奏多が息を吐いた。

 

「し、死ぬかと思った、筋肉ムキムキになった行冥が念仏唱えながら手招きしてた……」

 

「すまない奏多くん。興奮しすぎてしまってね、というわけでゆっくり休んでくるんだ」

 

「いえ、先に技を、何か目標は……」

 

「あ、奏多くんそこの辺りの松なら切って大丈夫だよ、松炭にするからね」

 

「とは言っても三つしかないんですが」

 

 三つの技を見せる為松が三本犠牲になりつつ、隠の人も龍彦も拍手をする。

 

「奏多くん流石だ! 作るにあたっての要望はあるかな?」

 

 刀を鞘に納めて龍彦に渡す。

 

「これより二寸くらい刃渡り長いほうが使いやすい気がします。あと、三の太刀の時の切り返しが自分でも納得いかないのでどうにかしたいのと、鞘を鉄拵えにして欲しいです」

 

「割と要望が多いな! しかしそれに答えてこその刀鍛冶というもの。任せておきたまえ」

 

 ひょっとこの口から気炎を吐き出しながら龍彦は胸を張った。

 

「十五日後を楽しみにしたまえ!」

 

 食事と温泉をいただいた後、再び目隠し耳栓鼻栓をされて袋を被らされると、巌滝山に連れられる奏多だった。

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