「全員てった――――い!」
ベヒモスを見てからのメルドの指示はその一言であった。
その声にクラスの全員はハッと意識を覚醒させ、ベヒモスに背を向けてもと来た道を逆走する。
「みんな急いで!早く!」
「おい!なんだよこれ!どうなってんだ!?」
「知らないわよ!」
「押すなって!ちょ、あぶねーって!」
「なになになに!?何が起きてんの?!」
「早く進めって!」
しかしここで問題が生じる。後ろのほうの後方支援の部隊と前線部隊で指示が伝わらず、狭い路地の中を衝突したため、道がふさがっていた。これにはメルドも冷や汗を流す。
「まずいぞ……!パニックで全員冷静な判断が出来ずに避難が進まない!これじゃあすぐにベヒモスに……」
『追いつく』。その言葉をメルドは喉元ぎりぎりで飲み込んでベヒモスのほうを見やる。
なぜかベヒモスはゆっくりとした動きで歩を進め、じっとこちらを見ていた。今はまだ距離があるから大丈夫だが、いつ気まぐれに牙をむくかわからない。
メルドは覚悟を決める。
「もう少し
メルドは自慢の一振りを抜き、ベヒモスの前に立つ。その所作に生徒たちに避難誘導をしていた畑山は驚く。
「な、なにしてるんですかメルドさん!?早くしてください!」
「アイコさん!俺が一秒でも時間を稼ぎますんで!避難をお願いします!」
「ふざけたこと言わないでください!こんな状況だからこそあなたの命はここで消えてはいけません!お願いですから考え直して!」
畑山は必死にメルドにやめるよう言い渡す。しかしメルドは考えを変えない。
「いや、ここでまだ可能性のある奴らが生き残ったほうが今後のためだ!そのためなら俺はいくらでも犠牲なる!」
「だからって……」
「それに」
「……?」
メルドの含みのある言い方に畑山は小首を傾げる。
するとメルドは振り返り、優しい笑みを浮かべる。
「あなたを救えるのなら、それで十分な命を懸ける理由になる……」
「な!」
「じゃ!」
唐突な告白紛いな気障なセリフにあまり耐性のない畑山は口をパクパクと開閉させる。その隙にメルドはベヒモスに向かい走り出す。
「あ!待って!」
畑山の懇願にメルドは耳を貸さない。そしてメルドは走り去りベヒモスの前に立ちふさがる様に立つ。
「喰らいやがれ!」
メルドは依然ゆっくりと歩の向きを変えないベヒモスの額めがけて渾身の一撃を放つべく飛び上がり、剣を大きく振りかぶる。
ガキィイイイイン……
剣とベヒモスの間に火花が散る。その音からようやくベヒモスの意識がメルドに行く。するとベヒモスは首を少しばかり振ってメルドを叩き落す。
「グホッ!」
メルドは苦悶の声を上げる。一瞬で体中の骨がバキバキに折れ、意識が遠のく。しかし立ち上がろうと腕に力を込めて自分を叱責しつつ剣を握り、前へと進む。
「こっちを……」
メルドは口から血を吹きながらベヒモスに歩み寄る。その顔は鬼のような形相だ。
まだ倒れていない。お前の敵は俺だ。俺を倒していないのに去るのか。逃げるのか。
そんな思いがメルドの顔から浮かび上がる。
野生の本能からそれを察知したのか、ベヒモスがメルドの方を見て足を止める。しかし問題なしと感じたのかそれだけで、一瞬メルドの方を見ただけで、再び歩き始めた。
その一連の動きにメルドは喉が裂けんばかりに声を張り上げる。
「見やがれぇええ!」
再び跳躍。今度は先ほどよりも高く、先ほどよりも大きく振りかぶって剣を振り切る。
先の攻撃と同じ場所を攻撃すべくベヒモスの額を狙ってメルドは剣を振り下ろす。
「「「おりゃああああ!」」」
「……は!?」
自分自身も予想外の連携に自分含めた3方向からの攻撃にベヒモスが苦悶の顔を浮かべ、身悶える。その隙にメルドは左右を確認する。
「おーおー、効いてんな?んじゃあこのまま押し切るか?」
鼻をほじって、呑気な声を上げる
「いや、ここは撤退が最優先の事項だし、ある程度ここを絶えしのげば仕留める必要はないよ。先の事も考えて、少しだけ省エネに行こう」
それに追従する
「おーい!なにしてんの二人とも―!早く逃げるよ!」
「おい南雲!それ以上行くとあぶねぇぞ!」
更には遠くの方を見ると心配してついてきた、南雲と檜山もいた。
「お前ら!何やってんだ!早く避難に!」
「ンなこと言ったって今は通勤ラッシュのJR線も真っ青なレベルで混雑してんだよ。今行ったところで余計に混むだけだし、空くまで
「そうそう、僕らが一緒に戦えば、メルドさんの生存率も上がるし、弱らせた後ならうまくいけばゲットできるかもしれない。良い事づくめだよ」
「それポケモンの話だろうが、あんなごついポケモンいねーよ。せいぜいドラクエジョーカーだろ」
「じゃあスカウトアタックで仲間になるまで殴ればいい。ケッコー確率低いだろうけど」
「なら霜降り肉で確率上げるか」
メルドの叱責を無視して二人はすいすいと足をベヒモスに運ぶ。その姿に呆気を取られていると、南雲と檜山が傍による。
「大丈夫ですか?これポーションです」
「あ、あぁ……すまない。というか、どうしてお前らも……」
「俺は無理やり南雲に付き添われて。おーい!おめぇらぜってーに無理すんなよー!」
「僕はメルドさんが心配で。後はあそこの馬鹿二人が変な事仕出かさないかの付き添いです」
南雲の返答にメルドはポーションを飲みながら目を白黒させる。
何故ならこの二人、無意識からかは分からないが、今戦闘を始めている二人の命の心配をしていないのだ。『無理をするな』や『変な事をしないか』の心配で、『死ぬな』というような心配の気配が一切しないのだ。
その事実に、メルドは一人感心する。
「うおっと!あぶねぇ!」
「気を付けてくれよ坂田君?こいつまだまだ余裕みたいだし!」
「うるせぇな!なんかこいつ俺に対する当たりがつぇえんだよ!」
そうこうしている間に、二人はベヒモスと戦いを繰り広げていた。
先ほどのメルド以上に何故か執拗に坂田を狙いすましたその動きに、メルドは一抹の不安を感じる。
「皆さーん!生徒たちは粗方避難が完了しましたー!早く!」
「坂田くーん!急いで!」
「光輝!」
「早くしろ光輝!あとついでに坂田!」
「檜山おめぇ何南雲にいいように使われてんだ!早くしろ!」
それと同時に畑山の声がメルド達の耳に届く。
見ると畑山の他に白崎と八重樫に坂上、そして檜山グループの斎藤が呼び掛けていた。
それにいち早く気付いた南雲は今だ戦っている二人に呼び掛ける。
「二人とも―!避難は済んだから後は僕たちだけだよ!行くよ!檜山君!メルドさんの方担いで先に行ってて!」
「おめぇほんと図太くなったな!」
そう言いつつも、檜山は南雲の言われる通りメルドの肩を肩を担いで先に進む。
そして南雲の呼びかけに二人は反応を示す。
「分かった!少しこいつを怯ませたら!すぐ!行くよ!」
「おう!わか!った!から!おめぇら!は!先に!行って!ろ!」
天之河は少しばかりの余裕をもって、坂田はかなり切羽詰まって返答する。
坂田にベヒモスが気を取られている間に、光輝は大技を放つ。
「ギュガアア!!!」
その一撃にベヒモスは体を地面に打つ。その隙に二人は走り出し、それを確認して南雲も走り出す。
そしてその距離があと数歩という段階で、その時は訪れた。
「ウゥゥゥ……ガアアアア!」
「へ?う、うわぁああ!」
ベヒモスが最後の抵抗とばかりに暴れ始めたのである。地面を踏み鳴らすと、その岩盤がベヒモスを中心に崩壊を始める。
その崩壊の波にのまれまいと南雲の後ろを行く坂田と天之河はスピードを上げる。
「「うおおおおおおおお!」」
「ええ!?ちょ、はやっ!?」
短距離走ランナーも真っ青な速度で走り抜ける彼らに南雲は抜かされ、崩壊の波がすぐそこまで迫る。
「あっ……」
ついに波に南雲は捕まった。しかし生存本能のなせる業か、南雲は咄嗟に手を伸ばす。
伸ばした先は……
「うぐぉ!」
坂田の足だった。
坂田は急な下からの衝撃に引きずり込まれそうになり前のめりなりながらも、南雲と同じように手を伸ばす。そしてその先は……
「ぐへぁ!」
天之河の腰のベルトだった。
そして二度あることは三度あるで……
「んぐぇ!」
天之河は檜山の装備であるマントに掴んだ。
檜山はとっさの判断でメルドを突き放し崖から落ちると近くにあった根っこに手を伸ばし、掴む。
そうして出来た人型命綱。しかし強度はあまりにも心もとないものだった。
「おいい、ハジメてめぇ何してんだこのやろぉ!ここはお前が落ちとかねぇと話が前に進まねぇだろうがぁ!いい加減ここいらで落ちておめぇの未来の嫁さんと合流して来い!」
「いやだぁああ!ここでの僕は綺麗なままでいたいんだぁ!ここはオリジナル主人公の坂田君が代わりに落ちて僕の奥さんといい感じになって来い!僕は死に目に会うのは嫌だぁ!」
「てめぇふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!ただでさえこの時点で原作との差がおかしな事になってんのにこれ以上差がついたらとんでもない事に何だろうがぁ!とっと落ちて堕天して来いや主人公!」
「もう僕と檜山君が仲良くしてる時点で原作も何もないんだよ!だったらとことん差別化してって別作品にしていってやる!僕が綺麗なままエンドロールを迎えるストーリーにしてやるぅ!」
南雲と坂田は足を掴まれながら言い争いを始める。なかなかにメタいことまで言っているがそんな事は当人たちの問題ではない。
「ちょっと坂田くん!?持つ位置せめて変えてくれないかい!?色々とやばそうなんだけど!?」
「別にいいだろうが!ズボンぐらいよ!持つ位置変えなきゃいけねぇのはテメェの方だろうが!こっちが落ちる前にあいつの意識が落ちるぞ!」
「い、いや……とっさに捕まってしまったから変えたいんだけど、持つ場所がココしかないんだよ……」
光輝と坂田も言い争いを始める。まぁこの辺りは順当だろう。なんせ光輝自身が掴んでいる場所が場所だ。
「ぐ、ぐるぢい……オマエら……いい加減にしろ……」
1番の問題は檜山であった。マントを男子高校生三人分の重さで引っ張られている為首が閉まる閉まる。
顔が徐々になってはいけないような色にまで変色し、段々と血の気が顔から引いてきた。
「南雲くーん!坂田くーん!天ノ河くーん!檜山くーん!大丈夫ですかー!すぐにそっちに行きますからねー!」
「先生!はい!分かりました!」
「おーっす!でもなるべく早くしてくれ!もう色々と限界な奴がいる!」
「急いでください!僕の貞操が守れる内に!」
上から聞こえてきた畑山の声に三人は勢いよく答える。しかし、一人限界が近いものが……
「う……もう、限界……」
檜山の意識が
落ちた。
「「「ああああああああああ!」」」
それと同時に四人が奈落へ落ちる。
運命は回り始めた。
だいぶ適当に仕上げました。
こっからもう少し銀魂感を出していきたいところ