ドラえもん のび太の獣友冒険記   作:獅子河馬ブウ

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本当に遅れてすいません!色々と忙しかったもので中々小説が書けずしまいでした。ですが、待たせた分より良い話が出来るよう努力していくつもりです。今後ともよろしくお願いします。


あと、投稿が遅れたお詫びに兼ねて私の弟が今回の話のあるシーンの挿絵を描いてくれましたからどうぞご覧になってください。


第11話いちばんのぶっけん

再び森の中を歩き出した一同は次の物件を目指して、先程よりも深い森の奥へと進んでいた。しかし、奥に進むと段々と暗くなっているのを見てカラカルは不安そうにアリツカゲラに話しかける。

 

 

「今度は安全なんでしょうね」

 

「だ、大丈夫です。次はなるべく住んでいる方に危険がない物件を紹介します」

 

「だと良いんだけど……」

 

 

そうは言っても先程まで紹介された物件はアードウルフに全く適していなかった為、カラカルの中のアリツカゲラの印象はあまりよく無かった。

 

 

「大丈夫だよ。アリツさんもさっきので反省しているから」

 

「…まぁ、そこまで言うなら」

 

 

前の2つは流石にやり過ぎたとアリツカゲラも反省している事をオオカミが説明すると、カラカルも渋々納得する。一方でサーバル達は辺りをキョロキョロと見渡しいた。

 

 

「それにしても此処は暗いね」

 

「うん、もしかしたら茂みとかにセルリアンが隠れているかもしれないね」

 

「こ、怖い事を言わないでください!」

 

 

セルリアンが出るかもしれないと聞いてアードウルフはびびってしまい、サーバルもそれを見て謝るが、

 

 

ガサガサ

 

 

「ひっ⁉︎…な、なんですか?」

 

 

その時近くの茂みが揺れ、それを見たアードウルフはビビってしまう。

 

 

「まさか、本当にセルリアン⁉︎」

 

 

キュルルも隠れているのはセルリアンなのではと警戒すると、ドラえもん達も警戒して茂みを見つめる。しかし、アリツカゲラだけは揺れる茂みを見て何かに気付くと警戒を解く。

 

 

「安心してください。あれはセルリアンではありませんよ」

 

「「え?」」

 

 

アリツカゲラの言葉に2人は呆然する。すると、その茂みから眠たそうな顔をしたフレンズが現れ、そのまま通り過ぎて行った。

 

 

「今の子は?」

 

「はい、先ほどの方は私が紹介した物件に住んでいるフレンズさんです」

 

 

どうやら先程出てきたフレンズはアリツカゲラの知り合いのようらしい。すると、サーバルとカラカルは近くに何人かのフレンズの姿や声を自身の目と耳で確認する。

 

 

「此処には他の子達も住んでいるんだね」

 

「はい、この森には隠れるところが多いですし、他のフレンズさん達が住んでいるので協力し合っていけるようになっています」

 

(まるでシェアハウスみたいだ)

 

 

協力していると聞いてドラえもんは安心する。この森に多くのフレンズが住んでいる為、寂しい思いをせず、コミュニケーションを取れる事からアードウルフにピッタリな場所であると思えた。

それから暫く歩くとアリツカゲラは足を止める。

 

 

「それでは紹介します刺客その3…元ナミチスイコウモリさんの巣"コーモリバンサンカン"です」

 

 

一同の目の前には幾つもの木にツタが巻かれていた。サーバル達は今までとまた違った物件に興味深そうに見るが、唯一カラカルだけがその物件を胡散臭く感じていた。

 

 

「…結局刺客なのね」

 

「だ、大丈夫です!今度の物件は安全を重視していますから!」

 

 

また"刺客"と口に出した事にカラカルは呆れた表情を浮かべる。対してアリツカゲラは先程まで紹介した物件もは異なることを説明して誤解を解こうとする。

 

 

「あの、アリツカゲラさん。さっきナミチスイコウモリさんが住んでいたって言うけど、それって他の子にも対応出来ているんですか?」

 

「そういえばそうだね」

 

 

それぞれの住処には動物の特徴を生かした物が多くあるため紹介してもその物件がアードウルフが適さなかったら全く意味が無いのだ。

 

 

「それならご心配ありません。ちゃんと他の方にも住みやすいようにこのコーモリバンサンカンにはハンモックという専用の寝床を用意してあります」

 

 

そう言ってアリツカゲラは木と木の間を繋ぐツタで作られた網目状の寝床(ハンモック)に指を刺す。すると、サーバル達は初めて見るにハンモックに興味津々だ。

 

 

「なんか気持ちよさそうだね」

 

「ねぇねぇ、あれに乗っていい?」

 

「どうぞどうぞ」

 

 

木と木を繋ぐツタで作られたハンモックを見てサーバルはアリツカゲラに許可を貰うと「やったー!」と歓喜の声を上げて大きくジャンプをしてハンモックに乗っかるが、

 

 

「おっと、結構揺れるんだね」

 

 

着地した衝撃でハンモックは大きく揺れ、サーバルはバランスを崩して落ちそうになるがなんとか耐えた。その様子をみたカラカルは心配そうに見つめる。

 

 

「サーバル気をつけなさいよ」

 

「へーきへーき」

 

「いや、平気って…」

 

 

ドラえもんはサーバルの発言に思わず呆れた顔を浮かべる。先程だって平気と言って滝壺に落っこちたばかりだというのにもう忘れてしまったようだ。

 

 

(ひょっとしたらサーバルちゃんって、のび太くんと同じドジかもしれない)

 

 

ドラえもんは内心今までの彼女の行動を振り返って考えた結果、のび太と同等のドジと思っていた。しかし、実際はそれ以上とは思うまい。サーバルはサバンナや他の所に住んでいるフレンズからはサバンナ1のトラブルメーカーという不名誉なあだ名でそれなりに有名なのだ。

 

 

「うわぁ〜、とっても気持ち良いよ〜」

 

「いいな〜」

 

 

一方でサーバルは落ちないようにゆっくりと体を横にすると程々に揺れるハンモックに満足する。キュルルもサーバルの気持ちよさそうな顔を見て羨ましく思った。

 

 

「へぇ〜、あのハンモックって見たところ手作りだけど頑丈に作られているね」

 

「アリツカゲラって物を作ったりする事が出来るのね」

 

 

ドラえもんとカラカルもちょっとやそっとの衝撃で壊れないハンモックを用意したアリツカゲラに感心の声を上げる。

 

 

「まさか、あのハンモックは私が作ったんじゃありませんよ」

 

「「え?」」

 

「違うんですか?じゃあ、あれはだれが作ったんですか?」

 

 

アードウルフもドラえもん達と同じようにアリツカゲラが作ったと思っていたが、違うとなると誰が作ったのか気になっていた。

 

 

「あのハンモックを作ったのはビーバーとプレリードッグだよ」

 

 

すると、アリツカゲラが答えようとする前にオオカミが作った人物について答えた。

 

 

「え⁉︎……ビーバーにプレリードッグ…?」

 

「どうしたのドラえもん?」

 

 

すると何故か急に顔を青ざめるドラえもんにキュルルは不思議そうに思いながら話しかける。

 

 

「な、なんでも無いよ!そ、それよりもその2人は一体どんな子達なの?」

 

 

ドラえもんはキュルル達に誤魔化すようにビーバー達について詳しく聞こうとすると、カラカルが「あっ」と何かを思い出したような声を漏らす。

 

 

「たしか、ビーバーとプレーリードックは"こはんちほー"ってところに住んでいるフレンズよね」

 

「カラカル知っているの?」

 

「いや、私は実際にあった事無いけど色々な物や他のフレンズの住処を作ったりするって噂は聞いたことあるわ」

 

 

どうやらその2人もさばんなちほーに住むカラカル達が知っている事から有名なフレンズのようだ。

 

 

「その通りです。私とビーバーさん達は知り合いで今回のように他のフレンズさんが住みやすくしてもらうようにハンモックを作って貰いました」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

 

他のフレンズと協力している彼女の努力を見てキュルルは凄いと思っていた。対してアリツカゲラはアードウルフにハンモックの機能について説明していた。

 

 

「アードウルフさん如何ですか?ハンモックはただ寝れるだけではなく、高いところに設置されているのでセルリアンなどに襲われないように避難する事が可能ですよ」

 

「確かに良いですね。決めました!私はこn「あら、お客様かしら?」へ?」

 

 

アードウルフはこの物件に住むと答えようとした時に突然木の上から声が聞こえ、ドラえもん達は木の上をみると木の枝に逆向きにぶら下がっている鳥の翼とは異なる翼を背中に生やした少女が見下ろしていた。

 

 

「君はだれ?」

 

「私?私はね…「ナミチスイコウモリさん⁉︎」…あら、アリツカゲラさんもいたのね」

 

 

どうやらこの少女の名前はナミチスイコウモリのようだが、此処でオオカミはある事に気が付く。

 

 

「あれ?アリツさん確かナミチスイコウモリって前まで此処に住んでいて今は住んでいなかったんじゃ?」

 

「そういえばそうだね」

 

 

本来はもう此処に住んでいない為、この"コーモリバンサンカン"をアードウルフに紹介する筈なのにナミチスイコウモリがまだ住んでいる矛盾に一同は疑問を抱いた。

 

 

「どういう事なの?」

 

「す、すいません。どうやら私の記憶違いみたいでした。ナミチスイコウモリさんもお騒がせしてすいません」

 

「キヒヒ〜ッ、別に良いわよ」

 

 

アリツカゲラは自身の記憶違いだった事に勝手に住まいに侵入した事に彼女はナミチスイコウモリに謝ると、彼女は気にしていない様子で上体を起こして何処からかギターを取り出すと弦を弾いて音を鳴らす。

 

 

「それで今日はどうしたの?」

 

「はい、実は此方の方々に物件を紹介しているところなんです」

 

「そう、それはお疲れさん…キヒヒッ」

 

 

アードウルフ達に物件を紹介しているアリツカゲラに彼女は労いの言葉をかけ、更にギターの弦を弾いて"ポロロン"と音を鳴らす。

 

 

「ところで貴方達お腹空いていない?私は今から食事しようと思っていたんだけど」

 

「そういえば私お腹が空いちゃったな」

 

 

先ほどからハンモックに横になっていたサーバルは腹の音を鳴らしていた。それもその筈、先程から動いてばかりいる事もあるが、時間的にそろそろ夕飯の時間帯なのだ。

 

 

「あら、それは良いタイミングね。たった今新鮮なご飯が手に入ったからさ。よかったら一緒にどう?」

 

「えっと、それってつまり……」

 

 

すると、ナミチスイコウモリはサーバルの発言を聞いて一同に食事をしないかと誘う。しかし、キュルルは彼女の話の中にあった"新鮮なご飯"という言葉を聞いて何故か嫌な予感を感じた。

 

 

『ナミチスイコウモリは森林に生息する夜行性の生き物だ〜よ。鋭い前歯を持ち牛や馬などの皮膚を傷つけ血を飲むんだ〜よ』

 

 

その時、タイミング良いのか悪いのか、ラッキーさんはキュルルの言葉に反応してナミチスイコウモリの生態を解説し出した。

 

 

「と、いう事は……」

 

「まさかご飯って……」

 

 

ナミチスイコウモリの生態で"血を飲む"と聞いたキュルルとアードウルフは先程彼女が言った"新鮮なご飯"について段々と想像出来て顔が青ざめていく。

 

 

「さぁ、遠慮なくどうぞ」

 

 

そう言ってナミチスイコウモリは瞳を怪しい光を放ちながら舌を舐めずり回す。

 

 

「「……た」」

 

「「「「「た?」」」」」

 

「「食べないで(ください)ー!!!」」

 

 

その時、キュルルとアードウルフは全速力で走り出してその場から離れて行った。その姿にその場に残ったドラえもん達は数秒ほど放心状態になる。

 

 

「ちょ、待ちなさいよ2人とも!」

 

「あっ、カラカルちゃんも勝手に走ったら危険だよー!」

 

「お、お騒がせしてすいませんでしたナミチスイコウモリさん!待ってくださいよー!」

 

 

正気に戻ったカラカルは2人を追いかけ、その後をドラえもんがラッキーさんを抱えて走り去っていった。アリツカゲラはナミチスイコウモリに謝るとカラカル達の後を追いかけて行き、更にサーバルとオオカミもその後を追った。一方でその場に残されたナミチスイコウモリは彼女達が去った方向を見つめる。

 

 

「……面白そう」

 

 

そう言って去っていく一同の後ろ姿を彼女はその妖しく光る瞳に写していた。

 

 

●●●●●

 

 

その頃、ナミチスイコウモリから逃げたキュルルとアードウルフにカラカル達はなんとか合流できたが、2人は先程彼女にした事に対して罪悪感を感じていた。

 

 

「さっきナミチスイコウモリさんに酷いことしちゃったね」

 

「そうですね…どうやって謝ればいいんでしょうか」

 

 

2人はあくまでもラッキーさんが言ったことを鵜呑みにしてしまい、ナミチスイコウモリが自分たちの血を吸ってくると思い込んでしまって、彼女の前から逃げ出した事にどう謝ったら良いのか悩んでいた。

 

 

「大丈夫だよ。ちゃんと私も一緒に謝るよ」

 

「そうよ。私も付き合うわよ」

 

「2人とも……ありがとう」

 

 

サーバルとカラカルが共に謝ると聞いてキュルルは嬉しく思い2人にお礼を言った。その様子を見たドラえもんは微笑ましく思った。

 

 

「まぁ、でもさっきのはラッキーさんの冗談だよね」

 

「そ、そうですよ!ラッキーさんも場を和ませようとあんな事を言ったから決して悪気はないと思いますよ。いくらなんでも血を吸うなんて無いですよ」

 

 

自分たちを驚かそうとした事だと血を吸うのはラッキーさんの嘘だろうとキュルルとアードウルフは思っているが、

 

 

「いや、ナミチスイコウモリって、本当に血を吸うよ」

 

「「え?」」

 

 

ドラえもんが血を吸うのは本当だと発言した事に2人はドラえもんの方に振り返る。

 

 

「ナミチスイコウモリは吸血蝙蝠って呼ばれていてその名の通り血を吸う動物なんだよ。それにただ吸うだけじゃなく傷口に病原体を媒介させてその動物を病気にさせてしまう事があるんだよ」

 

「「ひぃっ!」」

 

 

ドラえもんの解説の中にあった"病原体を媒介させる"と聞いたキュルルとアードウルフは互いに抱き締めて体を震わせ、更に涙目になっていた。

 

 

「ちょっとドラえもん!余計に怖がらせてどうするの!」

 

「ご、ごめん!そんなつもりじゃなかったんだ」

 

 

ドラえもんはつい何時もの調子で解説を行ったが、それが逆にキュルル達を余計に怖がらせてしまった事に気付き慌てて謝る。

 

 

「ハハハッ、ドラえもん君はなかなか怖がらせるのが上手だね」

 

「オオカミさんは悪ノリしないでください!」

 

 

ドラえもん達の様子を見て面白がるオオカミにアリツカゲラは注意する。

 

 

「いや、たしかに笑うのは…ん?」

 

 

すると、オオカミは話の途中で何故か空を見上げる。

 

 

「どうしたの?」

 

「何かあったんですか?」

 

 

ドラえもんとキュルルは急に空を見上げたオオカミが気になり話しかける。

 

 

「おや?」

 

「これは……」

 

「…降るわね」

 

「そうみたいだね」

 

 

サーバルを含めたフレンズ4人組も急に辺りの匂いを嗅いで何かに気付く。その行動を見てドラえもんとキュルルは益々不思議に思った。

 

 

「降るって何のこと?」

 

 

未だにフレンズ達の行動の意味がわからない2人はオオカミに話しかけると、

 

 

「何って雨だよ」

 

「「え、雨?」」

 

 

その時、遠くの方からゴロゴロと音が鳴りそちらに向く灰色に濁った雲がこちらに近づいていた。2人はそれを見て漸くサーバル達が雨雲が近づいてきている事に察知した事を理解した。

 

 

「あの雲からして沢山降りそうですね」

 

「うん、それに見たところ雷も鳴っているからこの辺り一帯が土砂降りになりそうだね」

 

 

ドラえもんは雨雲の状態からして周りにある木々で雨を凌ぐ事が出来ないと判断して直ぐこの場から離れた方がいいと全員に伝える。

 

 

「それじゃあ、早くバスに戻ろう」

 

「いや、今からバスに戻るったとしても此処からバスまでは結構離れているから、バスに着く前に私たちがずぶ濡れになってしまうよ」

 

 

一刻も早くバスに戻ろうと提案したサーバルだが、オオカミが今からでは間に合わないと告げると焦った表情を見せる。

 

 

「ええっ⁉︎じゃあ、どうしよう…?」

 

 

サーバルもさっき毛皮を乾かしたばかりなのにまたずぶ濡れになるのは嫌な為、何処か雨風を凌ぐ場所がないか周囲を見渡すもなかなかそれらしきものが見つからず焦り始める。するとアリツカゲラが口を開いた。

 

 

「それならこの先に洞窟があるのでそこで雨が止むまで入っていましょうか」

 

 

彼女の提案に一同は賛成すると、雨に濡れる前に彼女の案内の元洞窟に向かうのであった。

 

 

●●●●●

 

 

アリツカゲラの案内で全員は雨が降る前に洞窟に辿り着き、それと同時に雨が降ってきた事から間一髪濡れずに済んだ。

 

 

「皆さん濡れずに済みましたね」

 

「うん、これもアリツカゲラのお陰だよ」

 

 

そう言ってサーバル達はお礼の言葉を贈るが、彼女は若干複雑な気持ちを抱いた。先ほどまでやっていた物件紹介ではあまり良い物件を紹介出来ず、挙句にはまだ他のフレンズが住んでいる物件を紹介すると言う失態を犯したのだ。簡潔に言えば彼女が早くアードウルフに納得できる物件を紹介していれば雨宿りせずに済んだだろうと、罪悪感を感じていたのだ。

 

 

「ところでこの洞窟の奥はどこまで広がっているんですか?」

 

 

その時、先ほどから洞窟の奥を覗き込んでいたアードウルフがアリツカゲラに洞窟の広さについて聞いてきた。

 

 

「いえ、実はこの洞窟は最近見つけたばかりなのでまだ奥の方は把握していません」

 

 

アリツカゲラも把握していないと聞くと全員は洞窟の奥を覗き込む。そこには光は一つもない深い闇が広がっていた。すると、カラカルはキュルルが何やら落ち着きのない顔になっている事に気付いた。

 

 

「キュルルどうしたの?」

 

「い、いや、ただ僕はこの洞窟の奥に何があるんだろうと思っただけだよ」

 

 

カラカルの問いかけになんでも無いと彼女は答えるが、内心は少し恐怖を感じていたのだ。

 

 

「……そう言えばこんな噂を知っているかい?」

 

「「「「「噂?」」」」」

 

 

すると、先程まで黙っていたオオカミが急に話だし、その内容にドラえもん達は疑問符を浮かべながら耳を傾ける。一方でアリツカゲラは何か察したのか呆れた表情を浮かべる。

 

 

「実はこのジャパリパークの洞窟には地下に繋がる道があって、そこにはヒトの街があるらしいんだ」

 

「本当⁉︎なら、ひょっとしてこの洞窟の奥にヒトの街があるのかな」

 

「じゃあ、確かめに行こう!」

 

 

サーバルとキュルルはオオカミの話が本当かもしれないと思い、洞窟の奥へ進もうとする。

 

 

「やめといたほうが良いよ」

 

「え、どうして?」

 

だが、それをオオカミが止める。2人は何故止める

 

 

「その地下にはとても恐ろしい赤い霧があるからさ」

 

「「「「「赤い霧……?」」」」」

 

「そう、その霧に体が触れると体はドロドロに溶けていくんだ」

 

「「ヒィッ⁉︎」」

 

 

キュルルとアードウルフはドロドロと体が溶けると聞いて思わず悲鳴を上げ、ドラえもんの後ろに隠れる。対してアリツカゲラは呆れた表情を浮かべため息を吐き、サーバルは興味津々に聞き、ドラえもんとカラカルは胡散臭そうに思っていた。

 

 

「更にその赤い霧が発生するところにはセルリアンではない大きな怪物が現れて、フレンズを食べてしまうんだ」

 

「「こ、怖い!」」

 

 

赤い霧に出現する怪物がフレンズを食べると聞いて2人は涙目になる。しかし、オオカミは2人の顔を見て「クスクス」と笑い出した。

 

 

「いい顔頂き」

 

「え?」

 

「ど、どう言う事?」

 

 

彼女の発言に3人は何がなんだかわからなかった。すると、痺れを切らしたのかアリツカゲラがオオカミのかわりに訳を話した。

 

 

「キュルルさんアードウルフさん安心してください。オオカミさんは怖い話をして驚かせているんですよ」

 

「てことはさっきの話は……」

 

「最近描いている漫画の内容だよ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

そう言って彼女は数枚の(原稿)を見せると、2人はまんまと騙された事に理解する。

 

 

「酷いよ!」

 

「オオカミさん嘘はいけませんよ!」

 

「いや〜、ごめんごめん」

 

 

自分たちを怖がらせたオオカミに2人は怒るが、対して彼女は謝罪の言葉を言うものの、顔は全く反省していなかった。

 

 

「もう!嘘をつくのは悪い事ですよ」

 

「それはあんただって同じでしょ?」

 

「え?」

 

 

突然話に関わってきたカラカルがオオカミと同じ嘘つき呼ばわりされた事にアードウルフは思わず彼女の方に振り向いた。

 

 

「嘘付いているのが顔に出ているわよ」

 

「な、なんの事ですか?」

 

 

カラカルの発言にアードウルフは一瞬目が泳ぐのだが、カラカルはそれを見逃さなかった。すると、追い討ちをかけるようにドラえもんが話しかけてくる。

 

 

「ねぇ、アードウルフちゃんもしかして、今回の引っ越しってやっぱりカバさんに何か関わりがあるんじゃ無いかな?」

 

「ど、どうして、カバさんが関係してるって……」

 

「だって君は滝のところでさばんなちほーに帰ったらって、相談したら強く拒んだ上にカバさんの名前が出たじゃ無いか。ひょっとしたらアードウルフちゃんはカバさんと何かあったんじゃ無いと思ったからだよ」

 

 

滝壺の時に彼女の話にカバの名前が出た事からカバと何かトラブルがあったのではとドラえもんは指摘する。

 

 

「あ、あれは別にカバさんに迷惑を掛けてるって訳じゃ」

 

「あら、ドラえもんはカバの名前を言っただけで別に迷惑とかは言っていないわよ」

 

「え⁉︎」

 

 

引っ越しの動機について明かさないようにしたアードウルフだが見事にドラえもんとカラカルの誘導尋問に嵌り、石のように表情を固まらせる。

 

 

「アードウルフさん話してくれないかな?僕も仲が良い筈の2人がどうして離れるなんて想像できないよ」

 

「私もだよ。何時も仲良く一緒にいる2人が喧嘩して別れるなんてあり得ないよ」

 

「キュルルさん、サーバルさん……」

 

 

サーバルもアードウルフとカバの2人が仲が良いのは良く理解しており、キュルルも自分の描いた絵を喜んでくれた2人が別れるなんて考えられず、彼女から訳を聞こうとする。そして、アードウルフは4人の真剣な眼差しをみて観念したのか口を開いた。

 

 

「……実はこの引っ越しの目的はカバさんを助ける為なんです」

 

「「カバさんを助けるため?」」

 

 

ドラえもんとキュルルの2人は口を揃えて疑問符を浮かべる。

 

 

「カバに何かあったの⁉︎」

 

「まさか、怪我でもしたの⁉︎」

 

 

一方でサーバルとカラカルは"助ける"と聞いてカバの身に何かあったのか想像してしまう。アードウルフに迫って聞いた。

 

 

「ち、違います!……ただ、私のせいでカバさんに迷惑をかけているんです」

 

「どう言う事?」

 

 

彼女が自身の所為でカバに迷惑を掛けているという発言に一同は首を傾げる。

 

 

「ドラえもんとキュルルさんは知りませんが、サーバルさん達はここ最近カバさんが私やさばんなちほーにいるフレンズの皆さんを守るためセルリアンと戦っていることを知っていますよね」

 

「うん、知っているけど…」

 

 

さばんなちほーに住んでいたサーバル達はアードウルフの話を特に疑問に思わず聞いているが、

 

 

「カバさんって強いの?」

 

 

キュルルは以前アヅアエンでカラカルが思わず口走ったパワフルなフレンズと呼んだ事を思い出すが、実際にカバがセルリアンと戦っているところを見た事がない為、あまりピンとこなかった。すると、彼女の疑問にラッキーさんが反応する。

 

 

『カバは温厚なイメージがあるけど、ライオンやワニに勝る強さを持っているんだ〜よ』

 

「そうなの?」

 

 

ラッキーさんの話を聞いてカバの姿を想像するが、それでも強いイメージは湧かなかった。ましてや百獣の王とも呼ばれるライオンに勝つと聞いて想像しずらかった。

 

 

「まあ、確かに気持ちはわかるけど、実際に動物のカバは3.5mから4mぐらいの大きさで分厚い皮膚と脂肪に覆われているから基本的に肉食動物の牙や爪では傷がつかないんだよ。それに特徴的な顎の力は1tもあるんだ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

まだ納得出来なかった彼女にドラえもんはカバの詳しい生態を説明すると、漸くカバの強さを理解して納得の声を漏らす。

 

 

「そうだよ。カバは戦えない子の代わりにもセルリアンと闘ってくれるんだよ」

 

「まあ、偶に私たちと協力してセルリアンを倒す事もあるけど」

 

 

2人はさばんなちほーにいた頃にカバと共に戦う事があった為、カバの強さをよく理解していた。それは身近にいたアードウルフも理解しているが、顔は俯いたままだ。

 

 

「でも、最近出てくるセルリアンは大きくて更には強いからカバさんも手を焼いてしまうんです」

 

「あのカバが手を焼く?」

 

「まさか、私たちだっていつもじゃないけど、デカイのならギリギリ3匹までなら倒せるけど……カバは1人で2、3匹余裕で倒しちゃうから、あまり手を焼くとは思えないけど」

 

 

2人はカバの実力を知っている為、大型セルリアン相手に手を焼くとは想像しづらくアードウルフの話が信じられなかった。

 

 

「いいえ、カバさんはここ最近毎日1()0()()ぐらいの大型セルリアンと戦っているんです」

 

「「「「「10匹⁉︎」」」」」

 

 

彼女の口から10匹も大型セルリアンと対峙していると聞いて、サーバルとカラカルだけでなくその場にいた全員は驚愕の表情を浮かべ、思わず声を上げてしまう。

 

 

「ちょ、ちょっと待って!カバさんは大型セルリアンを10匹倒しているの⁉︎それも1人で⁉︎」

 

「いや、それ以前にさばんなちほーに大型セルリアンが毎日10匹の数がいるの⁉︎」

 

「わ、私たちも初めて知ったんだけど…」

 

 

アードウルフから明かされた情報にキュルルとドラえもんはさばんなちほーに住んでいたサーバル達も知らなかったようだ。

 

 

「………ふむ」

 

「オオカミさんどうされましたか?」

 

 

一方でオオカミは驚愕の表情を浮かべるサーバル達とは異なり何か神妙な表情を浮かべる。その様子にアリツカゲラは気づいて彼女に質問する。

 

 

「いや、ただ流石に小型セルリアンが大量に発生するならまだしも大型セルリアンが最近異常に発生するなんて明らかに不自然だと思ってね」

 

「そうなんですか?」

 

 

オオカミの話を聞いたドラえもんは口を閉じ考え始めた。ドラえもんとキュルルはジャパリパークを冒険してまだ四日目である為そもそもフレンズを襲うセルリアンについてはまだあまり理解していない。

一体何処から現れてどうやって生まれているのか謎の存在と認識している。

 

 

「ねぇ、今までもそうだけどセルリアンって普段から沢山いるの?」

 

「いや、普通は毎日じゃ無いけど、前までは小さいのが2、3匹が出るくらいなんだ。だけど、最近は何故か大型セルリアンがあちこちで見られる事が多かなっているんだ」

 

 

どうやら以前まではそこまでセルリアンがいなかったが、今のジャパリパークに現れるセルリアンの数は尋常ではないとドラえもんは理解し、改めて危機感を覚えた。

 

 

「セルリアンが大量に現れていることはわかったけど、それとアードウルフさんの引っ越しとどう繋がるの?」

 

 

サバンナちほーではカバが多数の大型セルリアンと対峙していると理解したが、何故アードウルフが引っ越しをすることでカバが助かるのかはまだ理解できずにいた。勿論彼女だけではなく全員も同じ考えだ。

すると、キュルルの問いを聞いたアードウルフはしばらく黙り込むとポツリと語り出す。

 

 

「……私が弱いからです」

 

「え、それはどういうこと?」

 

 

自身が弱い為と言う言葉に全員は首を傾げるものの、そのまま彼女の話を聞いた。

 

 

「カバさんは私のような戦いが苦手な子の分セルリアンと戦っているから、私がカバさんと離れれば負担が減ると思ったんです。引っ越ししようと考えたんです」

 

「アードウルフ……」

 

 

弱い自身を身を挺して守るカバの為、守る対象である己が離れる事によってカバの負担が無くなると聞いた全員はだが、カラカルは黙ってアードウルフに近づくと、

 

 

ベチンッ!

 

「いだっ!」

 

「か、カラカル⁉︎」

 

 

全員は驚いた。それもその筈、カラカルがいきなりアードウルフの額にデコピンをお見舞いしたのだ。すると、頭を抑えている彼女にカラカルは呆れた表情を浮かべる。

 

 

「…あんた馬鹿じゃないの?なんでそばにいるだけでカバの迷惑になると思っているの」

 

「だ、だって、私みたいな力もないフレンズがカバさんの側にいる事が余計な力を使わせてしまって迷惑になってしまっているんですよ!それにカバさんは"ジャパリパークでは自分の力で生きること"だって言っていたじゃないですか」

 

 

痛む額を抑えながらアードウルフはカバ自身が言ったジャパリパークの掟を指摘してカラカルに反論する。

 

 

「でも、カバさんは"自分の力だけで出来ない事があればフレンズ達に助けを求める事"も言っていたよね。何も守られるだけじゃなくてそれ以外の事で助ければ問題ないと思うけど」

 

「そ、それは……」

 

 

だが、隣にいたキュルルにジャパリパークのもう一つの掟にについて指摘されると、アードウルフは戸惑いを見せる。

 

 

「で、でも!私は今までカバさんに助けられるばかりでカバさんの役に立つ事なんて一つm「そんな事ないよ。カバはアードウルフが近くにいるから戦えるんだよ」……え?」

 

 

一つもないと言い切ろうとしたアードウルフだが、サーバルの発言に彼女は思わず耳を傾ける。

 

 

「私が近くにいるから戦える?…それってどういう意味ですか?」

 

「カバは大事な友達であるあんたや他の皆を守りたいという気持ちでセルリアンと戦っているのよ」

 

「それにカバがいくら強くても助けられなかった子だっているのよ」

 

「きっと、カバさんは友達であるアードウルフさんを近くで守る事が出来るから戦えるんだよ」

 

 

アードウルフを慰めようとする皆。しかし、彼女はそれでも躊躇ってしまう。そんな彼女をどうにかして力になれないかとキュルルは悩む。

 

 

(アードウルフさん本当はカバさんと一緒にいたい筈なのに中々本音を言ってくれない……どうしたら良いんだろう)

 

 

中々自身の本音を明かさない彼女をどうにか出来ないか暫く考え始める。

 

 

(こういう時に絵を描いてもあまり役に立つ事が出来なそう……)

 

 

何時もならフレンズ達の絵を描いて笑顔を満たす事が出来るが、今回はただ絵を描いても自身の求める結果が出せないだろうとスケッチブックを鞄の中に入れると、

 

 

(…ん、これは?)

 

 

鞄の底にある何かがスケッチブックに当たっている事に気づき鞄の中に手を入れて()()を取り出してみると、

 

 

(これって、ハサミ?)

 

 

それは紙を切る為のハサミが入っていた。恐らくこれも自身が記憶をなくす前に入れた物であると思いキュルルはこの状況にも関わらずハサミを眺め出した。

 

 

(待てよ……スケッチブックにハサミを使えば……これだ‼︎)

 

 

すると何か閃いたのか、仕舞い込もうとしたスケッチブックから何も描かれていない白紙のページを切り取ると、

 

 

「え、キュルルさん⁉︎」

 

「何しているのよ⁉︎」

 

 

それを鞄の中に入っていたハサミを使ってバラバラにしたのだ。オオカミとアリツカゲラを除く全員はスケッチブックを取り出したから何時ものように絵を描くのかと思い込んだが、実際に予想したものとは全く別の事をし、更には普段絵を描く道具をバラバラにした事に思わず驚く。一方で彼女は幾つかに切り分けた紙を束ねて手に取ると、鞄から色鉛筆も取り出してアードウルフに渡した。

 

 

「はい、これにアードウルフさんとアードウルフさんの友達を描いてみて」

 

「え、私がですか?」

 

 

突然小さい紙の束と色鉛筆を渡されたアードウルフは困惑の表情を浮かべる。

 

 

「キュルルちゃん急にどうしたの?」

 

「そうよいきなりスケッチブックをバラバラにしたと思ったらアードウルフに絵を描いてもらうなんて……」

 

「いや、まって2人とも」

 

 

サーバルとカラカルはキュルルにアードウルフに何をさせるのか問い詰めようとするが、ドラえもんに止められた。

 

 

「此処は黙って2人を見ているんだ」

 

「えぇ?私はキュルルちゃんが何をするのか気になっちゃうよ……」

 

「私もあの子が一体何をするか見当が付かないから少し不安ね」

 

 

しかし、彼女達はキュルルを信頼しているが今までとは全く異なりお家の手がかりとなるスケッチブックの白紙を1枚バラバラに切った事から不安を覚えていた。

 

 

「ここは彼の言う通りにした方がいいよ。ここでネタバレを聞いたらつまらなくなってしまうからね」

 

 

まだ納得できていない2人だったが、オオカミの意見を聞いて渋々納得して黙ってみる事にした。

 

 

(それにあの子もヒトなら()()と同じようにこの困難を必ず乗り越えて見せる筈だ)

 

ドラえもん達が2人を説得している一方でアードウルフはキュルルから髪の束と色鉛筆を受け取ろうとしなかった。

 

 

「でも、私はキュルルさんのように上手くは描けませんよ」

 

「大丈夫。自信を持って描いて見てよ」

 

 

しかし、一歩も引き下がらず説得をするキュルルの姿勢に負け、ついに言われるがまま色鉛筆を使って数分程の時間をかけて何人かフレンズを描いて見せた。

 

 

「うう、やっぱり上手く書けません」

 

「そんな事ないよ。十分上手だよ」

 

「そ、そうですか?」

 

 

書き上がった自身の絵を見たアードウルフは沈むがキュルルはそうでもないと否定する。

 

 

「じゃあ、アードウルフさんが描いてくれた絵をもっと凄い物にしてみせるよ」

 

「私の描いた絵がすごい物に……?」

 

 

フレンズの絵を受け取った彼女はスケッチブックから既に出来上がっているとある絵を切り取った。すると、その絵を見たサーバル達は気づいた。

 

 

「あっ、その絵はアシカ達の時に描いた絵だね」

 

「うん、そうだよ」

 

 

カイジュウエンで描いた夕日の絵をサーバル達に見せると、その時にあった出来事が頭の中で過ぎって行くが、唯一カラカルだけは目を細くしてその絵を見て疑問を浮かべる。

 

 

「でも、フレンズとかは描いていないのね」

 

「あ、本当だ」

 

「この絵は風景画なのかな?」

 

 

誰も描かれていない事を指摘されるとドラえもんとサーバルも気がつく。夕日の絵は綺麗に描かれているが、何時もの様にフレンズやその他は全く描かれていない。3人はその絵を改めて眺めると物足りなさを感じた。

 

 

「何も描かれていないから良いんだよ」

 

「?…それってどう言う事?」

 

 

意味不明な発言にドラえもんはどう言う意味なのか追求するが、彼女は「まぁ見てて」と言って意味を明かさず、鞄に再び手を入れる。そして、彼女は鞄からハサミと同様にサーバル達が見た事ない()を取り出したが、唯一ドラえもんだけはそれがなんなのか見て理解した。

 

 

「それって()()?」

 

 

その手に持つ物は丁度片手で収まる赤いキャップで蓋がされてある液体のりであった。

 

 

「ドラえもんのりってなんなの?」

 

 

また初めてみる道具にカラカルはドラえもんに液体のりについて聞いてきた。

 

 

「簡単に言えば物と物をくっ付ける道具なんだ」

 

「うん、のりはこうしてアードウルフさんの描いた絵の裏に塗って……」

 

 

ドラえもんの解説を肯定すると彼女は海に沈む夕陽の絵にアードウルフが書いたフレンズ(友達)の絵の裏にのりを塗りつけて夕陽の絵に貼り付けた。

 

 

「これは……!」

 

「すごーい!キュルルちゃんの絵とアードウルフの絵が一つになったよ」

 

 

全員はその絵をみて思わず心が奪われた。あまり上手ではないがアードウルフの書いたフレンズの絵は何処となく楽しそうに浜辺を歩いているような絵が出来上がったのだ。

 

 

「2人の描いた絵を1つにするなんて、すごい発想ですね」

 

「私の場合は全て一人で描くけど、こうやって描き方が異なる絵を合わせると全く別の絵に変わるなんてね。作家として一つ勉強になったよ」

 

「い、いや〜、それほどでも…」

 

 

アリツカゲラとオオカミに褒められたキュルルは満更でもなく照れた表情を浮かべた。その様子を見てドラえもんは思わずクスリと笑みが溢れた。

 

 

「あの、キュルルさん……もう一枚絵を描いてくれませんか?」

 

「いいよ」

 

 

一方でアードウルフは自身の絵が凄くなるのを見たくなりキュルルにもう一枚描いてもらうように頼むと、彼女も笑顔を浮かべながら要望に応え再びスケッチブックにスラスラと絵を描きあげる。

 

 

「今度はどんな絵を描きましたか?」

 

「私にも見せて見せてー!」

 

 

早速書き上がった絵を見ようとアードウルフはスケッチブックを受け取り、その隣でサーバルも覗く。次に書いたのは乾燥した草原のある大地の絵だ。すると、それを覗き込むように見たサーバルとカラカルは「あっ」と声を上げる。

 

 

「私ここ知っているよ!」

 

「うん、私たちの縄張りによく似ているわね」

 

「僕は特に意識して描いたつもりはないけど、サーバルちゃん達の住んでいるさばんなちほーをイメージして描いてみたんだ。アードウルフさんこんな感じでどうかな?」

 

 

サーバルとカラカルは好評だった為、アードウルフにも聞いてみると、

 

 

「はい!とっても良いです!」

 

 

どうやらアードウルフも満足のようだ。キュルルは彼女が納得したことを確認するとその絵をスケッチブックから切り取り彼女に渡した。

 

 

「それじゃあ今度はアードウルフさんが好きな場所に貼ってみて」

 

「はい!綺麗に貼って見せます!」

 

 

そしてアードウルフは絵と水のりを受け取ると、自分の書いた友達(フレンズ)の絵の裏にのりを塗りつけて適当な場所に貼り付けていく。

 

 

(あ……)

 

 

しかし、彼女は絵を貼り付けている途中にある物が視界に入り手を止めてしまう。その視線の先にあるのは自分自身の絵とその隣には自身を何時も守ってくれる友達(カバ)の絵があった。

どうやら無意識に自身の絵の隣に貼り付けていた様だ。

 

 

(カバさん……)

 

 

さばんなちほーから黙って出てしまった事に彼女自身は後悔はしていないと言い聞かせていたつもりだったが、自身と仲が良さそうなカバの絵を見てアードウルフは彼女とのさばんなちほーで思い出が映像のように流れる。ある時には腹を空かせた時にジャパリまんを分け合って食べたり、また自分がセルリアンに襲われそうになった時に助けてくれたり、他にも広大な大地や生茂る野原を楽しく散歩していた事などか次々と出てくる。そして、それは次第に彼女の心が揺らぎ、やがて涙が流れてきた。

 

 

「……グスッ、カバさん……」

 

「アードウルフ……」

 

「涙が流れて……」

 

 

涙を流してカバの名を発する事から彼女の姿に全員はそのまま彼女が泣き止むまで暫く待つ事にした。

 

 

●●●●●

 

 

「す、すいません。恥ずかしいところをお見せして……」

 

「ううん、気にしないで良いよ」

 

「うん、逆に僕たちはアードウルフさんが素直になってくれた事が嬉しいから」

 

 

それから数分後、アードウルフは漸く泣き止み頭が冷静になると人前に自身のみっともない姿を見せた事に顔を赤くして全員に謝罪をした。

 

 

「それでアードウルフさんはこれからどうされますか?このまま次の物件を紹介しましょうか、それとも……」

 

 

まだアードウルフの新たな物件について決まっていない為、アリツカゲラは他の物件の資料をアードウルフに見せて紹介しようとするが、

 

 

「……アリツカゲラさん今まで私の我がままに付き合って本当にすいません。やっぱり私はカバさんのところが一番です」

 

 

自身の為に一緒に物件を探し続けていてくれたアリツカゲラの努力を踏みにじる様で申し訳ないと思いながら彼女は物件紹介を断った。

 

 

「うん、それが良いとおもうよ」

 

「どうやらカバさんの隣がアードウルフさんの一番の物件なんですね」

 

「はい!」

 

 

アリツカゲラの問いに元気よく発言した事から彼女はもう悩みは完全になくなった様子だ。

 

 

「それじゃあ、アードウルフはいつサバンナまで戻るの?」

 

「そ、そうですね……来た時はオオカミさんに乗せてくれましたからここまで着いたんですけど、帰り道はセルリアンに合わないように遠回りで行きますよ」

 

 

先ほど帰る決心は付いたものの、サバンナちほーまでセルリアンが出るかもと不安になり仕方なく遠回りをしようとする。

 

 

「それなら、私が明日バスでさばんなちほーまで送るよ」

 

 

しかし、オオカミが彼女をサバンナちほーへ送り届けると手を上げたのだ。

 

 

「え、でもオオカミさんはこの先に用があるんじゃ」

 

 

バスに乗っけて貰えると聞いて一瞬安心するが、元々オオカミはこの先に用があるため態々自身の為に道を引き返すのは心が痛む。

 

 

「まあ、そうだけど、先ほどから話を聞いていればカバには黙って出ていったんだろう?」

 

「うっ、そ、そうです」

 

「なら、彼女も心配していると思うから早く帰ったほうがいいと思うよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「よかったですねアードウルフさん」

 

 

アードウルフはオオカミのご好意を受ける。サーバル達も彼女が早くサバンナに帰れる事に友達として嬉しいようだ。

一方でカラカルは彼女達との会話には混ざらずドラえもんと話をしていた。

 

 

「ねぇ、ドラえもん。あんたならアードウルフを正直にする事が出来たんじゃないの?」

 

「……出来なくはないよ。だけど、僕としては道具に頼るよりも自分自身から正直になった方が一番良いと思うんだ」

 

 

彼女の問いにドラえもんは肯定した。実際に彼はひみつ道具の正直電波という道具を持っているが、この道具はある意味洗脳に近い為使おうと思わなかった。

カラカルもそれを聞いて納得すると、それ以上は追及しなかった。

 

 

(それにしてもキュルルちゃんは凄いなアードウルフちゃんの本音を曝け出す事が出来るなんて……)

 

 

改めて彼女が己の力だけでアードウルフの心の本音を曝け出した事には凄いと思っていた。他人の本音を暴くには結構な時間とコミュニケーション能力が必要であるが、短時間で彼女はそれをやって見せたのだ。

そう考えるとドラえもんはある事に気がついた。

 

 

(そうか、だからキュルルちゃんは何処となくのび太君と似ているのか……)

 

 

今までキュルルは大抵の事は自身の力でフレンズ達の悩みを解決して、流石に出来ない所はドラえもんの道具を使う。一方で最初からドラえもんの道具に何時も頼りきるのび太は禄に自分の力で解決しようとする姿勢は滅多に無い。側から見れば真逆に見える2人であるが、唯一共通する所がある。

それは他人の気持ちを理解する所だ。2人とも姿、性別、性格は異なるがどちらも相手の気持ちを理解し、共感する事の出来る人格を持っている素晴らしい人間だ。ドラえもんはそんな彼女の為にも必ず帰るお家を見つけようと決心する。

 

 

「出来ました」

 

「見せて見せて〜!」

 

「あ、私たちの絵が貼られているわね」

 

 

一方でフレンズの絵を全て貼り切ていなかったアードウルフは残りの絵を全て貼り終えて完成した絵を全員に見せると「おお〜」と声を上げた。何よりサーバルとカラカルは自分たちの絵がある事がとても嬉しかった。

 

 

「あれ、僕たちの絵もあるよ……」

 

「本当だ……」

 

 

一方でドラえもん達4人は自分達の絵が貼られている事に気がつく。すると、貼った本人である彼女は笑顔を浮かべながら話した。

 

 

「皆さんも私の友達なのでちゃんと書いてみました」

 

『アードウルフ(さん)(ちゃん)』

 

 

自分たちもアードウルフの友達であると言われ、ドラえもんとキュルルとアリツカゲラは照れた顔になり、オオカミは3人程ではないが嬉しそうに笑みを浮かべる。

それから全員はしばらく絵を眺めていると、キュルルは何かに気づき恐る恐るアードウルフに話しかけた。

 

 

「あの、アードウルフさんちょっといい?」

 

「なんですか?」

 

「いや、この絵の端っこに描いてあるのは何の絵かなと……」

 

 

そう言ってキュルルは絵のとある部分に指をさすと、全員もその場所を見つめる。

 

 

「え……何これ?」

 

 

ドラえもんも漸くその存在に気がついた。そこにはアードウルフと同じように全身白と黒の縞模様の女の子の姿とその隣には()()()()()()()()()()()()()()()()が存在していた。

 

 

「なにって、私達の友達のサバンナシマウマさんですけど?」

 

「いや、そうじゃ無くてその隣に書いてあるフレンズじゃないのは一体なに?」

 

 

ドラえもんとキュルルの2人は明らかにフレンズでもセルリアンではない存在に内心軽くパニック状態になりつつもアードウルフに追求する。

 

 

「ああ、其方はサバンナシマシマオオナメクジさんですよ」

 

「「サバンナシマシマオオナメクジ!?」」

 

 

謎の存在改めてサバンナシマシマオオナメクジの名を聞いて2人は過去最大の驚愕した表情を見せた。それもそのはず、セルリアンならまだしもフレンズでも明らかに動物じゃない存在を見て驚かない筈がない。

 

 

「そうなんだよ。ナメクジちゃんはシマウマちゃんと何時も一緒にいるんだよ」

 

「そうそう、後ろ姿だとどっちか分からないから」

 

 

そう言ってサバンナ出身のフレンズ達は笑いながら話をするが、ドラえもんとキュルルは"サバンナシマシマオオナメクジ"の絵をまじまじと見つめながら微妙な顔を浮かべる。

 

 

(これって、生き物なの?…というか本当にいるの?)

 

 

決してサーバル達が嘘をついているとは思っていないが、こんなUMAみたいな存在がジャパリパークにいるとは到底思えなかった。


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