国境を越え、シルトヴェルトへと向かう道中、小休止の為に適当な村に立ち寄ったところで、メリエルはマルティを呼び出した。
「マルティ、この前に言ったように試練を与えるから」
「えっ、あれって周りを納得させるための方便じゃなかったの?」
「えっ?」
「えっ?」
マルティとメリエルは2人して顔をまじまじと見つめる。
メリエルは咳払い。
「むしろ、私があなたを無条件に信じられると思っているの? やらかした後でも受け入れるって言ったけど、それなりのケジメはつけてもらわないと」
「それはそうだけど……」
「といっても、本当に難しいものじゃないわ。要するにただ、嘘をつかなければいいというだけなので」
「あ、それなら簡単ね。だって、メリエル様に対して嘘をつく理由なんてないもの」
「それじゃ、この指輪をはめて、質問に答えてね」
メリエルはそう言って、指輪をマルティへと渡す。
綺麗な装飾の指輪に彼女は見惚れながら、それを左の薬指につけた。
意味が分かっているのかしら、いやいやここは異世界、地球と常識が違うんだろうとメリエルは思いながら、指輪の説明を行う。
「その指輪はちょっとした細工がしてあって、私以外では外すことができない」
「そうなのね」
「で、装着者が嘘をつくと蛙になる呪いが掛かっている。げろげーろ」
「……え?」
そんなヤバイ代物だったなんて、とマルティは身を震わせつつも、逆にこれを乗り越えれば信じてもらえる筈だと彼女は奮起する。
「いいわ。何でも聞いて頂戴。嘘偽りなく、答えるから」
「じゃ、質問を開始するわ。ちなみに私は美少女が呪いで異形のものに変わっていくのを見ると興奮するタイプなので」
蛙になっても愛でてあげるとメリエルは告げ、マルティは嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになりながら、メリエルからの質問を待つ。
「それじゃ最初に……私のところに来た理由を教えて頂戴」
「あなたのことが好きになったから。心の底から、こんな気持ちになったのは初めて」
マルティに変化はない。
メリエルは軽く頷いた。
「次よ。私を裏切る予定や未来はあるかしら?」
「ないわ。あなたとずっと一緒にいたい。養ってほしいけど……」
メリエルは数秒の間をおくも、マルティに変化はない。
「あなたは亜人を嫌っているかしら?」
「嫌いよ。下賤な輩だと思っている」
「殺したい程に憎い? この世から亜人を根絶したい?」
「……別にそこまでではないわ」
答えるまでに間があったものの、変化はない。
「私のところにいるラフタリア達に対しては?」
「たとえあなたのものだとしても、あんまり好きじゃないわ」
「亜人を嫌う理由は?」
メリエルに問いかけられ、マルティは答えに詰まった。
どうして自分は亜人が嫌いなのだ、と。
マルティは明確な理由が見つけられない。
ただ父親や、教育係、その他周りの多くの人間がそうだったからに過ぎない。
「……分からないわ。私は亜人に恨みがあるわけでもないし……」
聞いた話によれば父親が嫌っているのは、メルロマルクに移住する前に色々あったらしい。
マルティにとってはそれは父親の事情に過ぎないので、どうでもいいものだった。
「じゃ、別に問題はないわね。好きになる必要はないし、かといって嫌悪する必要もない。そうね?」
「ええ。そうね」
マルティが頷いたことを確認し、メリエルは続ける。
「私が見たところ、あなたは利用価値で誰につくかを決めると思うのだけど、どう?」
「そうよ。私は自分にとって、一番利益がある人につくわ。最初から、あなたは私に気づいていたわよね? それはどうして?」
マルティの問いにメリエルは肩を竦めてみせる。
「最初から私の前に立って、パーティメンバーになっておくべきだったわね」
マルティは思い出す。
あのときの謁見の間での出来事を。
メリエルは盾の悪魔ということが信じられており、誰も同行する者がいなかった。
そこにわざわざ横から、私が行ってもいいですよ、と志願するなんて、明らかに何かあると言っているようなものだった。
「……メリエル様って凄いわ」
「そのくらいは分からないと、すぐに蹴落とされる世界に生きていたので。さて、マルティ、他に何かあるかしら? 世間一般的にいうところの、悪行とかしていたりとかは?」
メリエルの問いにマルティは笑みを浮かべて、告げる。
「私は他人を騙して陥れるのが大好きなの。楽しいから」
「何をやったの? 覚えている限りでいいから教えて」
「ええ、いいわよ」
そして、マルティは語りだす。
これまでに自身が行ってきた世間一般的には悪行とされることを。
その対象は亜人もいれば人間もおり、種族による区別などは一切なかった。
等しく、マルティによって多くの者達が破滅させられていた。
彼女による悪行の告白は30分にも及んだ。
「覚えている限りだと、そのくらいかしらね。軽蔑する? クズと罵る?」
マルティは挑発的な笑みを浮かべて、メリエルに問いかける。
しかし、彼女はにっこりと笑う。
「いいえ。ただ破滅させただけなんて、あなたはとても優しいのね」
マルティは、予想外の反応に目を丸くした。
「だって、私だったら、破滅させただけに留まらないもの。生かさず殺さず、寿命が尽きるまで使うから。破滅させて、はい終わりなんて、本当に優しいわ」
マルティは興奮に体が震えてきた。
それをどうにか抑えつつも、彼女は告げる。
うっとりとした顔と声で。
「メリエル様って……本当に凄いわ」
「それほどでもない。ただ、有効に使っているだけよ。さて、質問を続けるけど……あなたの初めての相手は誰? いつの話?」
「フォーブレイに留学していたときで、タクトっていうフォーブレイの末席の王子よ。彼、手当たり次第に女に手を出しているから。もしかして、私が処女じゃなかったことを気にしているの?」
「いいえ、まさか。王女であるあなたが実は非処女っていうのは興奮した」
「じゃあ、何で聞いたの?」
マルティの問いにメリエルはとても爽やかな笑みを浮かべる。
「簡単よ。だって、一国の王女の処女を奪った相手よ。たとえそれが大国のフォーブレイの王子であったとしても、外交問題化は避けられない。あなた、口はうまいほうでしょうし」
メリエルは本気で裏側で動いて戦争を引き起こしてやろうかと考える。
両国が争って、どちらにも色んなルートを通じて物資や武器を売却し利益を得て、程よく疲弊した後に横合いから自分が殴りつければ、どっちもあっさりと軍門に降るという寸法だ。
無関係の国同士を争わせて漁夫の利を得るのは基本中の基本なのである。
「マルティ、あなた、国が欲しい?」
「国は仕事が面倒くさいからいらないけど、贅沢はしたいかな。女王として君臨して、贅沢の限りを尽くすっていうならいいかも」
清々しいまでの最低な発言であったが、メリエルからすればこのくらいのほうが一緒にいて面白い。
「じゃあ、国取りはやめましょう。あなたの住居として、黄金で城を作るってのは?」
「欲しい!」
「金貨の池とか欲しい?」
「欲しい! あと、エステとか服とか色々欲しい!」
「欲しいもの、全部あげる」
マルティは感極まって、体を震わせて、メリエルへと抱きついた。
「ねぇ、メリエル様。そんなにしてくれるなら、私、何でもしてあげたいな……」
「それなら、あなたの忠誠と愛をもらえるかしら? 私だけに尽くして」
「うん、尽くす……メリエル様、私以外にも女が欲しい? 欲しいなら、紹介するけど……」
「じゃ、紹介して。私もハーレム作ってみようかしら。ああ、あなたが気に入らないからって他の子に、やらかすのはナシよ?」
「そんなことしないわ。勇者ってハーレムを作るのが使命みたいなところがあるし……」
なるほど、とメリエルは軽く頷く。
彼女が調べた限りでは勇者の血を王族に取り入れるのはフォーブレイが有名であるが、他国であってもそれは大っぴらにしていないだけで行われている。
そして、それは国レベルではなく民間レベルであっても。
勇者との間に子供ができた、となれば母親の種族や生まれなどに関係なく、勇者本人からは勿論、国からも支援を受けることができる為に。
カネと名誉、どっちも手に入れられる手っ取り早い手段として、勇者の女になるというのは公然の秘密だった。
「ところでマルティ。フォーブレイって勇者の血を取り入れ続けているのに、何だか王族が大変なことになっているのは……」
「それが不思議なのよね」
マルティも分からないらしく、困った顔だった。
フォーブレイは一部の例外を除いて、クズの家系と化している。
勇者の血を取り入れ続けているにも関わらず。
メリエルもフォーブレイに関してはメルロマルクでは得られる情報に限りがあった為、詳しく分からないが、王族から勇者に嫁ぐ、あるいは妾となる女は才色兼備の者も多かったらしい。
優秀な両親から優秀な子が生まれるとは限らないとはいえ、メリエルが分かる範囲でメルロマルクで調べたところ、フォーブレイの今の王族は外れがほとんどであり、当たりと言える輩は1割もいないというあり得ない状態だ。
能力的にはそれなりであっても、性格に問題がありすぎるのが多い。
アレではフォーブレイは落ちていく一方ではないか、とメリエルは心配になってしまう。
とはいえ、メリエルからすれば個人的にフォーブレイの王とは会ってみたいという思いがある。
豚のように醜悪な外見らしいが、調べた限りでは彼とは女のことで馬が合いそうだという予感があった。
メリエルは仮説を立てる。
王族側の女は勿論のこと、生まれた子は帝王学などを叩き込まれるだろうから、教育にも問題がないとすれば――答えは一つしかないのではないか。
「勇者の種に問題があるのかしらね……」
まあ、自分みたいなのが子供を産ませたら、そうなるかもとメリエルは納得する。
彼女としても自分の性格が悪いどころか、最悪という自覚はあるが、改める気は全く無いので余計にタチが悪い。
「メリエル様の種に問題があるわけがないわ。確かに、ちょっと特殊な体だから、孕みにくいかもしれないけど……」
「私の性格の話よ」
「メリエル様の性格ってとても良いと思うけど……」
メリエルは溜息をついた。
マルティは本当にそう思っていることが分かった為に。
メリエルがマルティに仕掛けたものは指輪だけではなく、真意看破の魔法も使っており、ダブルチェックしていた。
指輪の呪いに対する耐性があるかもしれなかったが為に。
結果、マルティのこれまでの発言は全て真実であり、かつ本心から出たものであることがメリエルには理解できた。
マルティはどうやら常人とは違った感覚であることが分かった。
その最たるものが、彼女は本気でメリエルの性格がとても良いと思っていることだ。
オルトクレイはフォーブレイでは末席の王子だった。
そしてフォーブレイの王族はクズの家系であり、マルティにその血が色濃く出たと考えれば不思議ではない。
「ともかく、これで終わりよ。指輪はどうする?」
「メリエル様から貰ったものだから、つけてるわ。効果はともかく、結構綺麗だし……」
そう言って指輪に口づけるマルティにメリエルは肩を竦める。
指輪の効果は勿論、真意看破もまだ発動している。
マルティは本気でそう思っているのだ。
「うっかり嘘を言うと蛙になるから、気をつけなさいよ」
「ええ、構わないわ。だって、そうなってもメリエル様なら治してくれそうだし……何より、私が蛙になっていく姿を見て、興奮してくれそう……」
その美しい瞳を潤ませて、メリエルを見つめるマルティ。
メリエルは思った。
もしかして、自分は彼女の新しい扉を開いてしまったのではないか、と。
まあいいや、とメリエルはすぐに考えることをやめた。
マルティとメリエルの会話は耳が良いラフタリア達に聞こえていた。
勿論、彼女達がマルティとメリエルが2人きりになるということで、何を話すのか興味があったから、というのもある。
メリエルは気づいていたが、別に聞かれて困る内容でもなかったので放置した。
「……悪魔と大魔王の会話にしか聞こえません……」
ラフタリアの言葉にヴィオラとエレナは頷いた。
「私としては、本当に勇者様になって欲しいんです。メリエル様はとてもお優しい方ですから……懐だって深いですし……」
「私だってそうだけど……ねぇ……?」
ヴィオラはラフタリアに答えつつも、エレナへと視線を向ける。
盾教を信仰している彼女としては色々と大問題なのでは、という意味を込めたものだ。
「おそらく、歴代のどの勇者様方よりも強く、頼もしい方だと個人的には思います」
エレナの言葉にラフタリアとヴィオラも頷かざるを得ない。
正直なところ、メリエルにできないことはこの世の誰にもできないんじゃないか、と思ってしまうくらいには彼女は万能だ。
実は勇者じゃなくて造物主です、と言われても信じてしまえるくらいに。
「それよりも、メリエル様がハーレムを作ると仰られたことの方が重要です」
エレナの言葉にラフタリアとヴィオラは赤面し、何も言えなくなってしまった。
そういう目で見ていたのかという思いと、愛でるとか何とか言っていた記憶があるような、ないような、そんな気もした為に。
そんな2人の様子を見ながら、エレナは確信する。
まだこの2人はメリエルと深い仲になってはいない、と。
王女の方は既に関係を持っているようであったが、その程度を気にするエレナではない。
ハーレムを作るのは勇者の裏の使命のようなところがあるので、それは仕方がない。
シルトヴェルトの為、何よりも自分の為に、そして自分を助けてくれた恩返しも兼ねてエレナはメリエルに狙いを定めていた。
メリエル「ハーレム作るか~~!(特殊性癖てんこ盛り大好き)(性癖のブラックホール)(無限大のストライクゾーン)(妾の生活費から遊興費まで何もかも全て面倒をみる)」