おや……? 盾の勇者の様子が……?   作:やがみ0821

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色々な進展があるけれど、一番の被害者はジャミラスさんです

 

 ミレリアは危機的状況だった。

 彼女は三勇教の勢力を削ったり、復興支援やら何やらで大忙しだ。

 また、教会の龍刻の砂時計は吹っ飛んだので、王城の奥に保管してあった予備を引っ張り出して、調整などの必要な作業を施し、城内に仮設置が完了している。

 

 それにより、次の波までの日数が分かったのだが――あと2日しかなかった。

 幸いなことに三勇者はいる。

 いるのだが、メリエルに関して、大なり小なりショックを受けている。

 あまりに隔絶した力の差とそのメンタリティに。

 

 ミレリアも報告書を読んだが、王室が保管していたものを過去に三勇教が盗んで、勝手に使用したあたりで怒りしか湧いてこなかったが、それでメリエルの首を刎ねようとして皮膚の薄皮1枚を切り裂くだけに留まったところで目眩がした。

 

 そして、メリエル曰く、平和的な解決とやらでその剣を腕力のみでへし折った挙げ句、ゴミを捨てはいけないとか言って彼女に回収されてしまったとのこと。

 

 ミレリアは報告書の内容がぶっ飛びすぎていて、この報告書を書いた輩を呼び出して本当のことなのか、と問いかけたくらいだった。

 

 また、ミレリアがおかしく思ったことはもう一つある。

 メリエルは三勇教が捕らえていただろう多くの奴隷達を引き連れてシルトヴェルトへと向かった。

 その輸送手段となったのは馬車であるが、その馬車を引いているのが1台を除いてフィロリアルではなく、8本足の馬であり、恐ろしく速いとのことだ。

 

 通常なら陸路であっても片道1ヶ月はかかるが、あの移動速度なら遥かに速く到着できるだろう、とのこと。

 

 メリエルはどこでその馬を手に入れたのか、という疑問だ。

 8本足の馬なんぞミレリアは聞いたことがない。

 

 メルティには影を護衛につけて、シルトヴェルトへと急がせたが、波には到底間に合わない。

 次の波はメリエル無しで、どうにかするしかない。

 

 メリエルにとって、メルロマルクが滅んだところで大して痛手ではないとミレリアは考える。

 ついていったマルティに期待はハナからしていない。

 精々、ちょっとでもこっちの印象を良くできればいいな、という程度だ。

 

 報告書によれば土下座してメリエルに許しを乞うたとのこと。

 あのマルティが、とミレリアとしては信じられないが目撃者も多数おり、本当のことらしい。

 

 成長が嬉しいような、何かを企んでいるのが疑わしいような、複雑な気持ちだった。

 

 波への対策ははっきり言って全く進んでいない。

 三勇者が頑張ってくれることを祈るしかなく、騎士も兵士も三勇教に染まりすぎた連中を除去している真っ最中だ。

 

 とはいえ、その三勇者もやらかしていることがある。

 封印されていた危険過ぎる種子を解き放ったり、ドラゴンを倒したまま放置した為に疫病が発生していたり、レジスタンス側に参加して既存の秩序を転覆したり――

 

 正直、こっちがやったから報復してきたメリエルは感情的にも論理的にもよく分かる。

 彼女はやられたからやり返したに過ぎない。

 報復の規模はさておいて。

 

 しかし、他の3人は全くダメだった。

 ちょっと考えれば影響とかその他諸々が分かりそうなのに、何でそういうことをしてしまうのか、ミレリアの悩みの種は尽きない。

 

 総合的に考えるとメリエルが一番マシなのではとミレリアはちょっぴり思っている節があった。

 

 

 

「陛下」

 

 ミレリアが溜息を吐いたとき、彼女を呼ぶ声が。

 いつの間にか彼女の前に影が平伏していた。

 

「何か?」

「城下町の奴隷商より、メリエル様が現れ、イドル=レイディアの領地へ向かったとのこと」

「それで?」

「帰りに再度、奴隷商のところへ寄るそうです」

「城へ招待を。ただし、ひっそりと。あと、メルティをすぐに呼び戻しなさい」

 

 何という僥倖だ、とミレリアは天に感謝した。

 この機を逃す訳にはいかない。

 タイミング的にも次の波への対処にギリギリだ。

 メリエルが城下町に来るならば、メルティを呼び戻すのは早いほうがいい。

 

 影は御意と答え、再び音もなく消え去った。

 

「……三勇教も変な動きをしなければいいのだけど」

 

 国境での一件の後、三勇者や大勢の兵士達は帰還したが、教皇や一部の兵士、教会の騎士団などは行方不明になっている。

 三勇教の影が手引きした、という報告もあるが、実際はどうなのか分からない。

 

 狂信的な信者達を集めて、クーデターを仕掛けてくる可能性もあるが、現在のメルロマルクにそれをどうにかできる術はない。

 

 単純に信頼できる兵力が足りない。

 

 長年国教であっただけに三勇教の信者は社会のあらゆる階層に存在する。

 国教を四聖教への改宗する為準備を進めているが、時間は掛かる。

 ましてや、三勇教の信者達が四聖教へと改宗するにはより多くの時間を要するだろう。

 メリエルから提供された映像を元に三勇教を邪教指定することも同時に進めているが、うまくやらねば反発は必至だ。

 

 もっとも、三勇教自体はメリエルが三勇教の総本山や城下町にあったいくつかの教会をふっ飛ばしたおかげで、相当に弱体化できていると思いたいが、宗教勢力というのは非常に厄介なものだ。

 そのしぶとさは半端ではない。

 

 いっそのこと、三勇教に関してもメリエルの力を借りてしまうか、とミレリアは思う。

 とにもかくにも、まずは会って謝罪し、それからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 メリエルはラフタリア達をシルトヴェルトへと届けた後、予定通りに奴隷商のもとへとやってきていた。

 そして、奴隷商がオススメする奴隷の紹介となったのだが――

 

 

「何というか……えーと」

 

 兄はメリエルを睨みつけ、その背後に妹を庇っている、という状況だ。

 とはいえ、妹の方は体調が良くないらしく、横になっている。

 また彼女は全身包帯姿であり、酷い状態であることは容易に理解できた。

 

「……オススメ?」

 

 メリエルは奴隷商に問いかけると、勿論です、と彼は頷いた。

 

「ハクコ種でしてね。妹の方は遺伝病で生まれつき目が見えず、歩けず、余命幾ばくもないので、特殊な娼館にでも売り飛ばして、兄の方を妹は生きているとか何とか言って、こき使うのが基本的なやり方でしょう」

「そこらのチンピラくらいしかやらないやり方ね……」

「これは失礼。何分、浅学非才の身でして」

「しかもそれ、本人達の前で言ったら意味がないじゃないのよ」

 

 おっと、そうでした、と奴隷商は笑ってみせる。

 わざとらしい振る舞いであった。

 

 要するに、新しい奴隷をどう扱うか、というのが見たいのだろう。

 

「まあ、ハクコって強いらしいし……そういや、何だっけ、舐め腐ったのがいたから、あとで分からせとかないと……アレはライオンだったっけか」

 

 シルトヴェルトでチヤホヤされていた1週間だが、始末しないといけない連中をメリエルはあぶり出していた。

 亜人の神みたいな感じで祀り上げられているが、人間がそうであるように亜人もまたそうであった。

 要は自分の為にメリエルを利用しよう、という連中だ。

 それでも彼女としては軽いものなら大目に見るつもりであったが、看過できないものもある。

 

 メリエルに毒入りの酒を渡してきた奴などが最たるものだ。

 目の前で飲み干して、何ともない彼女を見て驚いていた顔が印象的だ。

 

「……ジャミラス? 確かジャミラスとかそれっぽい名前だった筈。ライオンの獣人って聞いた」

 

 記憶力は良いほうだが、大して強くもない敵の名前は覚える必要性を感じないので、メリエルとしてはいい加減なものである。

 そいつの住居は既に把握しているので、姿を隠して行ってベッドで寝ているところを処理して終わり。

 真なる死(トゥルー・デス)を使えば心臓だけ止められるので、突然の心臓発作ということで病死として処理できるので後始末も楽々だ。

 

「ジャミラスというのが、メリエル様に喧嘩でも売ってきたんですか?」

「あいつ、私に毒を盛ってきたので、今度、分からせとくわ」

「それは命知らずですね」

 

 奴隷商からすれば、本心から出た言葉だった。

 

「で、話を戻すけど……まあ、そうね。大魔王な感じでいくわ」

「大魔王ですか?」

「大魔王なのよ。勇者って肩書は私には似合わないので」

 

 そりゃそうだろうな、とうっかり言いそうになったが、奴隷商はどうにか言葉を飲み込んだ。

 命が危ない。

 そんな彼は無視して、メリエルはびしっとハクコ種の兄を指差す。

 

「さて、そこの兄」

「な、何だよ!」

「大魔王ぞ? 我、大魔王ぞ?」

 

 え、そういう風にやるんですか、と奴隷商は驚愕する。

 

 

 何だコイツ、という視線をメリエルに送る兄であるが、彼女は気にしない。

 メリエルは無限倉庫からエリクサーの入った瓶を取り出し、蓋を取った。

 そのまま彼女は妹へと近付こうとするが、兄がすかさず回り込む。

 

 メリエルは、にやりと笑った。

 

「カバディ……カバディ……」

「お、おう?」

 

 不思議な単語を言い始めたメリエルに兄は困惑するが、妹に近づけさせるわけにはいかない。

 しかし、彼は知らなかった。

 メリエルの素早さを。

 

 一瞬の隙を突いて、メリエルは兄の横を駆け抜けた。

 驚愕のままに、ただ彼は彼女を見送るしかなかった。

 そして、メリエルは横になっている妹の傍で、座り、優しく上体を起こして、その口元にエリクサーの入った瓶の口を近づけ、少しずつ飲ませ始めた。

 妹の顔色はみるみる良くなっていく。 

 

 そこでようやく奴隷商と兄はメリエルが持っていた瓶には薬が入っていたのだと気がついた。

 

 がくっと、奴隷商と兄は崩れ落ちそうになった。

 妹に近づくまでのくだりはやる必要があったのか、会話で薬を飲ませると伝えるのではダメなのか、と。

 

「大魔王って、破天荒という意味がありましたかな……?」

 

 奴隷商がそう呟いたときだった。

 

「……見え、ます……! 見えます!」

 

 そんな声が聞こえてきた。

 奴隷商と兄はすかさず妹へと駆け寄った。

 

「お兄様……」

「アトラ……お前、目が……」

「念の為に2本目を投入」

 

 しかし、メリエルはそういう感動のシーンを台無しにする。

 彼女はエリクサーの蓋を開けて、妹の頭からぶっかけた。

 

「冷たいです……」

「おい」

 

 しょんぼりする妹と睨みつける兄。

 メリエルは悪びれる様子もなく、けらけら笑う。

 

「治ったみたいです」

 

 そう言って、妹は自身に巻かれた包帯をするすると解いていき――メリエルはすかさず彼女に無限倉庫から取り出したマントを羽織らせた。

 間一髪で少女の裸体が披露されることは防がれた。

 そして、メリエルは問いかける。

 

「3本目、いっとく?」

「もう大丈夫です。あなたは、とても不思議な方ですね。清らかさと邪な気配を同時に感じます。それによって、その見た目から受ける印象も全く違ったものに……」

「大魔王なので」

 

 メリエルに任せておくと話が進まないと奴隷商は口を挟むことにする。

 この後の予定も既に女王直属の影から聞いているが為に。

 

「メリエル様、一応、もう一つの方を名乗っておくと分かりやすいかと……」

「実は盾の勇者なのよ」

 

 兄妹は驚いたようにメリエルを見る。

 その反応に彼女は肩を竦めながら、奴隷商へと告げる。

 

「というわけで買った。いくら?」

「金貨50枚ですな」

「はいよ」

 

 金貨50枚の入った袋を渡し、さらに5枚をチップとして彼に渡した。

 奴隷商はにんまりと笑う。

 

「今後ともご贔屓に。さぁ手続きを行いましょう!」

「手短にね。外でずーっと待っている連中がいるから」

 

 奴隷商は笑みを引きつらせる。

 彼はメリエルの恐ろしさを改めて感じた。

 

「あー、その……ありがとう。妹を治してくれて……」

「ありがとうございます」

 

 兄と妹の言葉にメリエルは手をひらひらさせる。

 

「私はメリエルよ。気軽にメリエル様と呼んで頂戴」

「いや、様付けなのかよ!」

「我、勇者ぞ? 我、大魔王ぞ?」

「もうそれはいいから!」

 

 見事なツッコミにメリエルは感心してしまう。

 ラフタリアにはない、勢いと激しさを感じた。

 

「もう、お兄様。メリエル様に失礼のないように……私はアトラと申します」

「いや、だってな……と、ともかく、俺はフォウルだ」

 

 素直な妹と素直じゃない兄にメリエルはくすくすと笑う。

 

「ところで私は今はシルトヴェルトを拠点にしているけれど、そっちでいい?」

「……あそこはハーフは歓迎されない」

「ハーフなの?」

「ああ。人間とのな」

 

 そーなんだ、とメリエルは頷いて、ピンときた。

 

「盾の勇者が命じる、ハーフを受け入れろ。さもなければ死だってのはどうかしら?」

「いやお前本当に大魔王だな!?」

 

 フォウルのツッコミにメリエルは大満足だった。

 

 

 

 

 

 メリエルは奴隷商のテントから出て、予想通りに待ち構えていた影達に会う。

 ミレリアが会いたいとのことで、メリエルは承諾するも、フォウルとアトラをどうするか、と問いかけると同伴しても構わないということだった。

 とはいえ、さすがに込み入った話になる為、別室で2人を待機させるようメリエルは要請し、それはそのまま受け入れられた。

 

 そして、メリエルはメルロマルクの正式な国家元首であるミレリアとの会談に臨む。

 

 

 

 

 

「初めまして、私がメリエルよ」

「メルロマルクの女王、ミレリア=Q=メルロマルクです」

 

 謁見の間ではなく、応接室であった。

 ミレリアは少し緊張した面持ちで、対するメリエルはいつもと変わらないリラックスしたものだ。

 

「まずは謝罪を。数々のご迷惑をお掛けし、誠に申し訳ありませんでした」

 

 ミレリアは立ち上がって深々と頭を下げる。

 

「謝って済むなら治安組織はいらないわ」

「仰る通りです」

 

 メリエルの言葉にそう答え、ミレリアは顔を上げる。

 彼女としても謝罪の言葉は単なる交渉の取っ掛かりに過ぎない。

 

「率直に尋ねるけれど、どのように収める気かしら?」

「我々の法に則って、賠償金をお支払いするという形になります」

「具体的な金額は?」

「王族をはじめ、多くの者達が案件に関わっているので金貨3000枚といったところです。即日、お支払いできます」

 

 なるほど、とメリエルは頷く。

 

「じゃあ、その賠償金を頂いて、それでメルロマルクとは手切れという形で良いわね?」

 

 きたな、とミレリアは内心思いつつ、困り顔をしてみせる。

 メリエルの言葉は予想された問いかけだった。

 

「実は他の三勇者が……」

「メルロマルクの国教は三勇教、あなた方の神々に助けて頂くのがスジというものよね? 何しろ、私は盾の悪魔なので。まさか悪魔に助けを求めるなんて、言わないでしょう?」

 

 ミレリアはメリエルが予想通りのやり手であることに、内心舌打ちをする。

 見た目通りの10代後半くらいの少女ではない、と。

 

「三勇教は邪教とし、世界で広く共通した宗教である四聖教へと改宗を進めています」

「そうすぐには変えられないと思うのだけど?」

「ええ。ですから、メリエル様には是非ともご尽力を頂きたく」

 

 ミレリアはここが突破口だと畳み掛けるべく、告げる。

 

「メルロマルクでの波をメリエル様が防ぐということを行っていただければ、我々が責任を持って事実を公表します。そうすれば改宗も早く進むでしょう」

 

 

 ミレリアの言葉にメリエルは察する。

 次の波が迫っているのだろう、と。

 だが、正直な話、彼女からすれば他人にどう思われようがそんなのはどうでもいい。

 

 鬼畜、悪魔などとはリアルではネットでよく言われたことだ。

 メンタルがタフでなければ、企業の暗部を司る内務統括委員会の代表なんぞ務まらない。

 

 とはいえ、一国の国家元首にワガママを言えるという状況は中々に愉快であり、素敵なことだ。

 もっとも、もうちょっとからかってもバチは当たらないとメリエルは考える。

 

「私からすればメルロマルクがなくなろうと、どうでもいいのよね。というか、汝、己の信じたいものを信じよ。人間も亜人もそんなものだし、何より他人の宗教観についてとやかく言うのはマナー違反」

「そこを何とかなりませんか?」

「さぁ、どうかしら。あなたの立場も理解できるけれど、私は何もあなたから恩恵を貰っていないもの。あなたはマイナスをゼロにしようとしているだけに過ぎないわ」

「では、金銭の援助などを……」

 

 

 そう告げようとするミレリアにメリエルは指を一つ鳴らしてみせる。

 すると、応接室の隙間という隙間に黄金のインゴットが山と積まれた状態で現れた。

 

 眩い輝きにミレリアは唖然としてしまう。

 ドヤ顔でメリエルは胸を張って告げる。

 

「私の方があなたより金持ちよ」

「……メリエル様、あなたは金塊を作り出せるのですか?」

「さて、それはどうかしら。ただ単純に世界を埋め尽くす程の金塊を持っているだけで、作り出すことはできないかもしれない」

「御冗談を。あなたの財力の正体はそれですね」

 

 断言するミレリアにメリエルは微笑んでみせる。

 それが答えであった。

 

「金銭や領地でもあなたは動きそうにありませんね……」

「ええ。それらは私が欲しいと思ったなら、簡単に手に入るものだもの」

 

 

 いよいよ、ミレリアには打つ手が無くなってきた。

 金銭でも領地などでも全く動かない相手というのは一番骨が折れる相手だ。

 しかも、メリエルに関する情報は皆無に等しく、彼女の好きな食べ物とかそういう何気ない情報ですらも全く分からない。

 

 更に厄介なことに、下手な事を言えばそれがそのままシルトヴェルトに伝わり、内容次第では戦争になりかねない。

 メリエルはきっとそれを止めないだろうことも想像がつく。

 なぜなら、彼女はメルロマルクがどうなろうが知ったことではないからだ。

 

 とはいえ、ミレリアには最後の手段がある。

 メリエルが提示してきた安直な手段だ。

 

 だが、その前に現状を説明しておく必要がある。

 

「三勇者のやらかしたことについて、ご存知ですか?」

「問題でも起こしたの?」

「ええ。封印されていた種子を撒き散らしたり、ドラゴンの死体を放置して疫病が発生したり、挙げ句の果てにレジスタンスに参加して王を打倒したり……」

「前の2つは何となくまあ、分からなくもないけど……最後のは何よ?」

「……樹様が正体を隠して、苦しんでいる民の為にそうしたものです。結果、より難民で溢れかえりました」

「あー、うん……」

 

 さすがのメリエルも言葉に詰まってしまったが、あのくらいの歳の子では革命を起こすよりも、起こした後、統治を安定させるほうが難しいっていうのは分からないよなぁ、と納得する。

 メリエルからすれば革命は自分達にとって都合の良い政権作りの手段なので、よく支援したものであり、経験からくるものだ。

 

 ともあれ、彼女は問いかける。

 根本的なことを。

 

「それ、勇者の仕事じゃないわよね?」

「はい。元康様と錬様の行動は理解できなくはないのですが、樹様はちょっと……他にも色々と彼はやらかしています。やった後のことを考えて頂けないようで……」

 

 メリエルはジト目でミレリアを見つめる。

 

「私に彼らの尻拭いをしろって言うの?」

「……それをしていただくと、助かりますし、正直メリエル様くらいしか解決できそうにない事態でもあります。元康様と錬様の件は特に……」

 

 メリエルは嫌だと拒むこともできるが、そろそろ頃合いだと考えて、尋ねる。

 

「報酬は?」

「マルティではダメですか?」

「ダメね。この話が出る前から彼女は私のものだったから。それに彼女を王族としておくのは大いに問題があるのではなくて?」

 

 メリエルの言葉にミレリアは溜息を吐きたくなった。

 マルティは中身が問題しかないことはミレリアがよく知っている。

 

「そこまで分かっていながら、どうしてマルティを?」

「ああいう女は面白いのよ。仕込めば相当な悪女になれるわ」

 

 褒められているのか、貶されているのか、ミレリアにはイマイチ判断がつかなかった。

 ともあれ、気を取り直して尋ねる。

  

「メルティはご存知ですか?」

「小耳に挟んだ程度には知っているわ」

「どうでしょうか? メルティとの交際というのは……?」

「それだとどれか一つね。次の波まで、時間がないのでしょう? だから、あなたは私をどうにか引き留めようと焦っている」

 

 ずばりと言い当てられて、ミレリアは押し黙る。

 メリエルは不敵な笑みを浮かべながら、無限倉庫から書類の束を取り出した。

 

 ミレリアは何気なくその表紙へと視線をやり――驚愕した。

 彼女はメリエルの顔をまじまじと見つめる。

 

「メリエル様、どこでこれを?」

「そこらに落ちてた」

 

 メリエルのふざけた物言いであったが、ミレリアは断定する。

 

「やはり、あなたが三勇教の大聖堂や教会を吹き飛ばしたのですね?」

「さてね。あなたの想像にお任せするわ」

 

 メリエルが出した書類の表紙は人体実験に関する報告書だ。

 表紙には幾つかの名前があり、それらはミレリアも知っている三勇教の中でも高位な神官達だった。

 先の爆発で行方不明となっているが、死亡したと考えられている。

 

「……他にも?」

「それはあなた次第。ただ、三勇教の信用が地に堕ちる程度には色々あるわよ。勿論、映像も」

「……率直に尋ねますが、私をお望みですか?」

「女王の地位を望んでいるのか、とは問わないのね」

「ええ。あなたは、それすらも容易く手に入れることができるでしょうから。カネでも地位でも土地でも動かない。とすれば……」

 

 そこで言葉を切り、ミレリアはメリエルの片手を自身の両手で包み込む。

 

「女ですね」

「まあ、そういうことね。多くの女を愛でるのは花や宝石を愛でるのと同じよ。皆それぞれ違うから、それぞれの楽しみがある……それにあなたには大義名分があるわ」

 

 ミレリアは艶っぽい笑みを浮かべる。

 

「勇者の血、それも実力がもっとも優れている、あなたの血をメルロマルクに取り入れる」

「メルロマルクの未来を考えれば、悪くない提案よ。私は自分の女のワガママは聞くタイプなので」

 

 ミレリアは軽く頷きながら、問いかける。

 

「ただ、私は歳がいっておりますし、夫もいます。それでも?」

「構わないわ。愛して欲しいなんて言わないもの。あなたの夫も杖の勇者らしいけれど、四聖勇者の一角である私には及ばない。それに愛想を尽かした、とまではいかなくとも、感情的には色々とあるでしょう?」

 

 メリエルの問いにミレリアは僅かに頷く。

 

「要は妾よ。私があなたを勝手に愛でるだけで……もし、そういうのを禁止する法律があるなら、ただし勇者は例外とするの一文でも付け加えればいい」

「分かりました。メルティはどうしますか?」

「頂くわ」

 

 即答するメリエルにミレリアは最初から女で攻めれば良かったかな、と思う。

 ここまで女に弱いというのは想像の外であった。

 

 とはいえ、これでメルロマルクの波にメリエルが参加する上に、三勇者の尻拭いもおそらくしてくれるだろうとミレリアは確信する。

 国の未来を考えた場合、メリエルが政治に口を出してくるかは未知数であったが、少なくとも物理的な脅威からは守ることができる。

 更には、メリエルを橋渡し役としてシルトヴェルトとの関係を深めることも可能かもしれない。

 ミレリアとしては、自分の身一つでメリエルという最強のカードが手に入るのならば、安いものだと考えた。

 

 一方のメリエルとしても、内心ほくそ笑んでいた。

 女として愛でるのは勿論であったが、現女王のミレリア、継承権を持つ王女2人。

 その全てを手に入れたというのは重大な影響をメルロマルクに及ぼせることを意味する。

 

 無論、そのくらいはミレリアも察知しているだろうことは容易に想像がつく。

 苦肉の策であったのだろう。

 波から国を守る為に。

 

 とはいえ、メリエルとしてはメルロマルクの政治にアレコレ口を出そうとは今のところ思ってはいない。

 ようやく仕事から解放されて、好き放題ヒャッハーしているのに、どうしてまたそんな仕事を抱えなければならないのか、と。

 彼女はいわば、ニート生活を満喫しているようなものだ。

 

 メリエルは問いかける。

 

 

「次の波までは?」

「48時間を切っています」

「じゃあ24時間以内に三勇者のやらかしについて、処理してあげるわ。具体的な場所と状況を教えて頂戴。念の為に見届人は……誰が来る?」

「メルティに行かせたいところですが、今、あの子はシルトヴェルトへの途上にありますので私が行きましょう。すぐに用意を致しますので……」

「30分以内に」

 

 メリエルの言葉にミレリアは深く頷いた。

 そして、そのまま彼女は身を乗り出し、メリエルの額に口づける。

 

 思わぬ攻撃にメリエルはきょとんとした顔をみせる。

 ミレリアはくすくすと笑う。

 

「私も楽しませてもらいますから」

 

 メリエル相手には女王としてではなく、女として振る舞った方が面白そうだった。

 

 




メリエル「ジャミラスとかいう奴を"""分からせる"""」(唐突なドラクエ)
ジャミラス「ふぁ!?」
ジャラリス「セーフ!!!」
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