おや……? 盾の勇者の様子が……?   作:やがみ0821

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尻拭い

 

 

 ミレリアはメリエルが求めた通りに必要な情報を提供し、また同行する為の旅支度も整えられた。

 それらは全て30分以内に準備が終わったのだが――

 

 

「いや、何か仰々しいわね」

 

 メリエルは思わずツッコミを入れた。

 ミレリア自らが見届けるというのだから、ある意味当然の処置かもしれない。

 今回、ミレリアの護衛に就くのは影だけではない。

 見目麗しい女性騎士のみで構成された騎士団だ。

 

 女騎士って現実に初めて見たけど、やっぱりいいもんだ――

 

 何人か、どころの騒ぎではなく騎士団全員お持ち帰りしたいくらいにメリエルはニヤニヤと笑ってしまう。

 

 私も騎士団つくろっかなー、とか何とか彼女が考えていると、フォウルが恐る恐る声を掛けてきた。

 

「なぁ、メリエル」

「様を付けろデコスケ……じゃなかったわね、トラ野郎でいいのかしら」

「いや、何だよそれ。お前、何をしたんだ?」

「何って、ちょっとお話をしただけ」

 

 すんげぇ胡散臭い目で見てくるフォウルを無視して、メリエルはアトラへと目を向ける。

 彼女は初めて見るものばかりであり、きらきらと目を輝かせている。

 

「メリエル様、お待たせ致しました」

 

 何やら戦争にでも行くような格好をしてやってきたミレリアに見届るという意味について問いかけたくなったメリエルだが、価値観の違いだと思うことにした。

 

「それでは早速出発ですが……どのように現地まで? とてもではありませんが、次の波までは……」

転移門(ゲート)

 

 黒い靄みたいなものがメリエルの前に出現した。

 ミレリアをはじめ、そこにいた全員がぎょっとした。

 

「……何ですかそれ?」

「入ってみれば分かる。入ってこないと置いてくから」

 

 説明するのが面倒だったので、メリエルはさっさと入っていった。

 慌ててフォウルはアトラの手を引っ張って、彼女の後を追う。

 彼らはメリエルに置いていかれるというのは死活問題なので、何が起こるか分からなくても、ついていかないという選択肢はない。

 

「い、行きます!」

 

 ミレリアが意を決して、そう告げたとき、それよりも早く影が数名、黒い靄に突入した。

 そして、すぐに戻ってきた。

 

「陛下、どうやら一種の転送系魔法……のようです。この先は全く別の場所に繋がっています」

「なるほど、これでメリエル様は神出鬼没なわけね」

 

 ミレリアは感心してしまう。

 こんな魔法、見たことも聞いたこともない。

 それだけでメリエルの実力の片鱗が分かるというものだ。

 

 勇者にして強大な魔法使い、それがメリエルなのだろうとミレリアは予想する。

 

「行きましょう」

 

 

 

 

 

 ミレリア達が黒い靄に入ると、その先は影の報告通りに別の場所であった。

 

「ようやく来たわね? さっさと暴れまわっている植物とやらを処理しましょう」

 

 メリエルが溜息交じりにそう告げ、さっさと歩き出した。

 どうやら植物に呑み込まれた村の近くのようだ。

 大量の蔓が蠢いて、その支配領域を広げつつある。

 

 メリエルは蔓に近づいて、それを片手で軽く握った。

 そして、力任せに引っ張った。

 ぶちっという音と共に蔓が千切れた。

 

 千切ったところはすぐに再生し、また蔓を伸ばす。

 

「再生系ね。ふーん……」

 

 何やら興味深そうに見ているが、メリエルはすぐに歩みを再開した。

 盾を取り出し、蔓を吸収させているのがミレリア達には見えた。

 

「なぁ、メリエル。どうするんだこれ?」

「除草剤とかそういうのを使いますか?」

 

 フォウルとアトラにメリエルは顎に手を当てる。

 

「私が持っているのだとちょっと強すぎて、ぺんぺん草も生えない死の大地になる可能性が……」

「ダメです」

 

 ミレリアが即座に却下した。

 フォウルとアトラも同感らしく、うんうんと頷く。

 

「じゃあ、根本を潰すしかないわね。大抵、こういうのは心臓にあたる部分があって、それを潰せば全部枯れるのよ」

「そーゆーもんなのか?」

「そーゆーもんなのよ。もし、そういう心臓がない場合は全体を一気に高火力で焼き払うから」

 

 核爆発(ニュークリア・ブラスト)を使うときがきた、とメリエルはちょっとワクワクする。

 アレなら広範囲を焼き払うには最適だ。

 

 デバフを撒き散らすことになるが、植物は除去できるからセーフ――

 とりあえず核を使ってみたい、というメリエルの傍迷惑な願望、だがそれは呆気なく潰えることになった。

 

 

 

 村――というよりか難民キャンプに到着し、村人達は女王自らの訪問ということで仰天しながらも、状況を説明する。

 やはりというか元康のやらかしであった。

 

 村から追い出され、着の身着のまま、幸いにも食料は植物から取れる為、飢えてはいない。

 村は完全に魔物化した植物に呑み込まれてしまったとのこと。

 

 その状況を聞いた上で、メリエルは事もなげに告げる。

 

「じゃ、行くから。ついてきて頂戴」

 

 メリエルはそう言って、さっさと歩き出した。

 さすがに困惑する一同であったが、すぐにそれは驚愕へと変わる。

 

連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)

 

 白い稲妻が龍のような形をつくり、のたうち回るかのようにして広範囲の植物を焼いていく。

 それなりのダメージを与えたようで、再生は遅い。

 

 第7位階程度でダメージを与えられたことから、レベル的には大したことがなさそうとメリエルは判断する。

 

「さ、どんどん行くわよ」

 

 メリエルは魔法をどんどこ唱えた。

 主として唱えられたのは炎系魔法であり、ミレリアをはじめ、誰も見たことも聞いたこともないものであり、発動速度に優れ、また威力においても目を見張るものがあった。

 

 あっという間にメリエルとその一行は植物の本体へと辿り着き、難なく本体を撃破した。

 僅か30分程度の出来事だ。

 メリエルは一応、その植物の種子を盾に吸収させておいた。

 ドロップアイテムがあれば、手を出さずにはいられない、悲しい廃人の性だった。

 

 

 

 

 そして、そのままメリエル一行は疫病が蔓延している村へと赴いた。

 近くまで転移し、そこから徒歩で向かったのだが――村は酷い有様だった。

 

 ミレリアやその護衛達は悲痛な顔だった。

 自分達ではどうにもできない、と悟ってしまったのだろう。

 

「この村はもう……」

 

 絶望的な顔をする医師と看護師に、メリエルは何も言わずにエリクサーを無限倉庫から取り出して、近くの患者にぶっかけた。

 突然の凶行にフォウルとアトラを除いた誰も彼もが驚き――そして、唖然とした。

 死にかけていた患者が、あっという間に顔色も良くなり、上体を起こしたのだ。

 

「はいはい、エリクサーエリクサー」

 

 そう言いながらメリエルは片っ端から患者たちにエリクサーをぶっかけていく。

 非常に奇跡的なことではあるのだが、感動は全くない。

 

 まるでいつまでも寝ている輩に、水をぶっかけて叩き起こすかのような所業だ。

 

 たった15分程で全ての患者達はすっかり元気になり、さらに最後のおまけとばかりにメリエルは医師と看護師にエリクサーをぶっかけた。

 2人も疫病に罹りかけていたのだが、あっという間に体が軽く、気力が漲ってきた。

 

「まるで、疲労がポンと取れたような……そんな感じです」

「ヒロポンという名称で、販売しませんか?」

「非売品なのでダメ」

 

 メリエルの拒否に2人はがっかりしたものの、喜ばしいことは確かだ。

 

 それらを見ていたミレリアは確信する。

 

 メリエルがいると、あらゆる悲劇は喜劇になるのだと。

 そう思っていると、メリエルは何気なく問いかけた。 

 

「原因はドラゴンの死体だっけ? たぶんだけど、私の予想が正しければドラゴンゾンビとかになってると思う。それでも来る?」

「勿論です。私は見届ける義務がありますから」

「あっそう。まあ、守ってあげるから」

 

 そして、いよいよドラゴンの死体へと向かったのだが――

 

 

 

 

 

 

「えぇ……」

 

 メリエルは困惑していた。

 ドラゴンゾンビを発見し、向こうもまたメリエル達に敵意を向け、その腐った巨体を起こしたところまでは良かった。

 

 そのときにメリエルは無意識的に対アンデッド系の神聖魔法を撃ち込んだ。

 ユグドラシルではドラゴンゾンビなどのアンデッド系ドラゴンは開幕にデバフを大量に付与するブレスを吐いてくる。

 だからこそ、相手よりも早く動いて一撃を入れて怯ませることで、開幕ブレスを封じるというのがセオリーであり、常識であった。

 だからこそ、意図せず、いつもの癖でメリエルはやってしまった。

 

 それをやった結果、ドラゴンゾンビは消し飛んだ。

 周囲の瘴気はメリエルの神聖魔法による影響で、すっかりと浄化されている。

 

 ミレリア達が呆気に取られている中、メリエルはとりあえずドラゴンゾンビがドロップしたと思われるものを盾に吸収させ、全て自分の作戦通りと言わんばかりにドヤ顔をしてみせた。

 

 事情を知らなければ分からない筈だと考えたのだ。

 

「……メリエル様、あなたは本当に規格外なのですね……」

 

 我に返ったミレリアは疲れた顔で、そう言ってきた。

 その反応に、とりあえず誤魔化せたようだ、とメリエルは安堵した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 樹のやらかしはある意味でもっとも被害範囲が大きかった。

 革命を起こしたのだから、それも当然だ。

 

 メルロマルクの人間がこれまでと同じようについていくのは問題があるということで、最低限の護衛と共にミレリアも変装しての同行となった。

 

 ミレリアからもたらされた事前情報によると、元国王は圧政を敷いていたわけではなく、単純に現実的な判断から税を引き上げざるを得ない状況だったようだ。

 飢饉でどうにもならないが、その隙をついて、どっかの国が攻めてくるかもしれない、波が自国で起こるかもしれない、という妥当な理由だ。

 波とかいうどうにもならない災害があるわりには、国同士で争ったりするので、人類共通の敵が現れても一致団結できないのだろう、とメリエルは思う。

 

 

 メルロマルクから出て、その国へと入って、すぐのところにある村では飢えた住民で溢れかえっていた。

 

 事情を聞くと、やはり事前の情報通りのものだ。

 ミレリアは樹のやらかしたことを現地の住民達から改めて聞いて呆れ返っている。

 住民達から話を聞き、メリエルは決断する。

 

「なるほど、分かった。待ってて頂戴」

 

 ミレリアをはじめ、その護衛達。

 そして、フォウルは嫌な予感がした。

 

 しかし、アトラが無邪気に問いかける。

 

「メリエル様、どうされるのですか?」

「要するに、干ばつとかそういうのが原因なので、それをどうにかすればいいのよね」

 

 メリエルの言葉に住民達は頷く。

 ならば、とメリエルは唱えた。

 効果範囲を拡大し、さらに影響が及ぶ距離を延長する呪文を唱えた上で。

 

天候操作(コントロール・ウェザー)

 

 たちまちのうちに、雲一つなかった空は黒い雲に覆われ、あっという間に雨が降り出した。

 

 住民達も、ミレリア達も誰も彼もが唖然とした。

 天気を自在に操るなど、もはや人智の及ぶところではなかった。

 

「というわけで、雨を降らせたので、あとはまあ頑張って」

 

 メリエルの言葉に住民達は我に返り、頭を深く下げた。

 

「ありがとうございます……! あの、お名前は何と……?」

「メリエルよ。盾の勇者兼大魔王をやっているの」

「メリエル様、あなたは命の恩人です……!」

 

 勇者なのか、とか大魔王ってなんだ、とかツッコミどころはあったが、そんなものを気にする住民達は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで移動時間その他色々込みで5時間くらいで終わったんだけど、どう? 点数をつけるなら」

「満点としか言いようがないですね……」

「そりゃ良かったわ」

 

 メリエルはけらけら笑う。

 ミレリアもつられて、微笑んだ。

 

 メルロマルクの王城へと帰還し、メリエルはミレリアと2人、応接室にいた。

 

「メリエル様、分かっていたことですが、改めて……あなたは人の領域を超えていますよね?」

「だから大魔王って言っているじゃないの」

「それもそうでしたね。それはさておき、正直なところ、波はどうですか? 正体とか原因とか……」

「まだ1回しか体験していないから何とも言えないわね。まあ、どうにかできると思う」

 

 ミレリアはメリエルにそう言われると、とても気が楽になる。

 

「あなたがいると、どんな悲劇も喜劇になります」

「非常に低確率で、幸運にも、私にそうするだけの力があるので。まあ、あと私は人を驚かせるのと自分の力を見せびらかすのが大好きなので」

「あなたのようなやり方なら、大歓迎です」

 

 ミレリアの言葉は本心だった。

 方法が斜め上過ぎるが、問題を根本的に解決しているのは確かだ。

 

「それじゃ、私は一旦シルトヴェルトに戻るから。波のときにまた来るので」

 

 フォウルとアトラも顔合わせの為に一度は連れていくべきか、とメリエルは考えながら、応接室を後にした。

 

 

 

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