本日は合計3話投下。
メリエルはフォウルとアトラと共にシルトヴェルトへと戻り、一通りの顔合わせを済ませる。
ラフタリアに兄妹の案内を任せて、メリエルは1人、マルティの住居へと向かう。
シルトヴェルトの城下町、その一等地にある極普通の屋敷だ。
マルティとしても、さすがに長年敵対していたシルトヴェルトで、メルロマルクの王女である自分が派手な行動をするのはマズイという判断によるものだ。
メイドをどうするかという話になったとき、エレナが手を挙げた。
彼女が護衛も兼ねて手配してくれるとのことで、そのまま丸投げしている。
屋敷に到着すると、すぐにマルティが出迎えた。
彼女の背後には何人かの亜人メイドが控えている。
「メリエル様、お待ちしておりました」
美しい赤のドレスに身を包んだマルティをメリエルは優しく抱きしめる。
「大人しくしていた?」
「ええ、勿論……というか、頂いたものが多すぎて試着も大変なの」
綺麗な眉毛をハの字にして、困った顔で彼女は告げた。
本心であった。
マルティは指輪のおかげか、嘘をつくということをしなくなった。
もっとも、既にその指輪はメリエルが外装だけ同じ全く別の指輪とこっそりと交換してあったのだが、ともあれ、良い変化だ。
「あれでも、極一部なんだけど……」
「もう、メリエル様ったら。本当にお金持ちなんだから」
メリエルがマルティに渡したドレスや装飾品、靴などは何の効果もない、見た目だけ良いものだ。
一応、等級的には伝説級であったり聖遺物級であったりなのだが、マルティの目からすると、まさに女神が身に付けるようなものばかりであった。
自分の美しさがより引き立つ、と彼女からすれば非常に嬉しく、自分のことをメリエルがそれだけ大切にしてくれていると強く実感している。
勿論、メリエルが渡したのはそれだけではない。
家具なども全て彼女はマルティに与えているし、何なら屋敷の一室を金塊で埋め尽くしたり、金貨で埋め尽くすなどのこともやっている。
正直、今、マルティはメルロマルクの城にいるときよりも遥かに贅沢な暮らしをしていた。
「ねぇ、メリエル様。来てくださったということは……」
「ええ。そういうことよ」
マルティは満面の笑みを浮かべる。
自分の欲望を全て叶えてくれるからこそ、マルティとしてもメリエルに色々してあげてしまうのだ。
それがたとえ、非常に倒錯的なことですら。
マルティは娼婦になる。メリエル限定で。
マルティとの一時を楽しんで英気を養った後、メリエルはラフタリア達のクラスアップを将来的に実施することを彼女達に告げた。
同時にメリエルはこれまでの模擬戦から、彼女達の戦闘スタイルや得意分野を考慮して助言を与える。
フィーロが毒を吐きたいとか何とか言ってきたが、メリエルならいざしらず、彼女以外の味方にぶっかかった場合はどうするのか、というラフタリア達からの疑問にフィーロは答えることができなかった。
私が治してもいいけど、というメリエルの言葉は黙殺され、彼女は悲しみに包まれた。
ともあれ、直前の波は現状のままとして、その次の波までにはクラスアップを行うとメリエルは指示する。
ユグドラシルみたいに気に入らなければ死んでレベルダウンして、また別のものを取得するなんてことはできないので、考える時間は必要だった。
そして、そのようなことをしているうちにメルロマルクの波が刻一刻と迫っていた。
「パーティーメンバー的にはエレナが加わったくらいで変わりがないのよね」
ラフタリア、ヴィオラ、フィーロ、ティアそしてエレナ。
フォウルとアトラを投入するのはレベル的な不安があったので、今回は見送った形だ。
メルロマルクの王城にある龍刻の砂時計前にて、メリエル一行はその時を待っていた。
そして、待っていたのは彼女らだけではない。
他の三勇者とそのパーティーメンバーもまた同じであった。
「……何か増えてないか?」
元康の問いにメリエルは鼻で笑ってみせる。
「大魔王ぞ? 我、大魔王ぞ?」
「いや、勇者だろ」
「勇者だな」
「勇者ですよね」
元康、錬、樹の三連ツッコミ。
しかし、メリエルは動じない。
「勇者の肩書なんて邪魔くさいものよ。というか、あなた達の尻拭い、やってやったんだから、何かくれないの?」
元康達は一斉に視線を逸らした。
彼らはミレリアがやらかしを把握するや否や、いの一番に知らされていた。
同時に、彼らは自分では解決できないと悟ってしまったが為に。
失態に打ちひしがれつつも、どうにか汚名を返上しようという考えがあった。
「何をすればいい?」
「波に向かって突撃して死ぬってのはどう? 傍目から見ると笑えるわよ?」
錬の問いに、すんげぇいい笑顔で宣うメリエルに、3人は顔を引きつらせた。
「まあ、それよりも、ちょっと武器を触らせてくれないかしら?」
メリエルの言葉に3人は互いに顔を見合わせるも、言われた通りに各々の武器を差し出す。
触るくらいなら、という軽い気持ちだ。
メリエルとしては時限式の武器の耐久値減少の呪い、装備者が猛毒に冒される呪いでも掛けてやろうかと思ったが、今回はそれが目的ではないので自重する。
それぞれの武器に触りつつ、ユグドラシルの鑑定スキルでその性能を見る。
盾と同じく等級としては神器級だ。
破壊することは無理だろう。
もしも万が一、彼らが自分に匹敵する力を身に付けた場合は全力で相手をする必要がある。
それはとても楽しそうなので、自分も負けないようにしっかりと修行をしなければ、とメリエルは決意を新たにする。
「はい、どうも」
メリエルが手を離すと、同時に波のカウントダウンがゼロになった。
緊張感のないまま、彼らは転移した。
転移先はどこかの村であった。
自警団か、騎士団か分からないが、兵士達が避難誘導と村へと侵入しようとするモンスターの排除に取り掛かっているのが遠目に見える。
「まずは非戦闘員の避難を……」
メリエルがそう言い掛かったとき、他の3人とそのパーティーメンバー達は脱兎の如く走り出した。
またこのパターンか、とメリエルは溜息を吐く。
「というわけで、鉄砲玉が飛んでいったから、私達は避難誘導と村へと侵入しようとするモンスターの排除をしましょうか」
「メリエル様、よろしいのですか? そちらは私達だけでも何とかなると思いますが……」
ラフタリアの言葉にメリエルはニヤリと笑ってみせる。
「敵の攻撃を受けられるのがいないパーティーがどうなるか、身をもって体験すればいいと思うの」
「ご主人様性格悪いー」
フィーロの言葉にメリエルは高笑い。
「というわけで、よろしくね。敵は引きつけるから」
メリエルの指示でラフタリア達は動き出した。
一方、我先にと駆け出した三勇者達であったが、彼らも考えもなくそうしたわけではない。
メリエルは圧倒的に強いが、三勇者達を従えているという立場ではない。
別行動をとっても大丈夫だろうという考えで、彼らは自分達の失態を取り返そうと必死だった。
奇しくも、メリエルが直前に言った通り、波に向かって突撃している状況だが、死ぬつもりは全くなかった。
そんなこんなで彼らは意気揚々と突撃していった。
「メリエル様、そろそろ行かないとマズイのでは……?」
ラフタリアの言葉にメリエルは「んー?」という間延びした声を返す。
彼女は今、デッキチェアに身を預けていた。
村の近くからモンスターを完全に駆逐し、村人達や兵士達から感謝されたのはもう3時間くらい前になる。
怪我人の治療ついでに、病弱な老婆にエリクサーを飲ませたら、強い格闘家だったという何とも言えないオチがあった。
それはさておき、ティアとフィーロの遊び相手にちょうどいいとして、彼女達によって、やってくるモンスター達は迅速に処理されており、村は空の色を除けば平穏な時間を取り戻している。
もそもそとメリエルはデッキチェアの傍にあるテーブルへと手を伸ばし、ユグドラシル産最高級ポテチを貪り食う。
テーブルの上にはポテチの袋以外にも、色んなお菓子や料理が乱雑に載っており、他にも本やら何やらが色々とあった。
メリエルはちょうどいい休暇――年中休みみたいなもんだが――とばかりにバカンス気分だった。
ラフタリアもエレナとヴィオラも各々デッキチェアに身を預けて寛いで、メリエルに声を掛けるまで本を読んでいた。
「え? 別にいいんじゃないの? 敵の横取りはマナー違反」
「いや、そういうのじゃなくて……終わらないと帰れないんじゃ……」
「大丈夫、ゲートがあるから、飽きたら帰れるわ」
「これ、私がおかしいんですかね……?」
ラフタリアはエレナとヴィオラへと視線を向けると、2人はそれぞれ手をひらひら振る。
別にいいんじゃないの、という意思表示だ。
エレナもヴィオラも、メリエル以外には特に思い入れはない。
ましてやエレナは任務であったとはいえ、盾以外の勇者を信仰する三勇教に捕まっていたことから、印象は最悪だ。
たとえ三勇者が全く関与していなかったとしても。
それに何よりもエレナは敬虔な盾教の信者だ。
「死んでもいいんじゃないですか。メリエル様がいれば問題ありませんから」
エレナの言葉にラフタリアはそれはそうですけど、と良い反論が見つからない。
「ラフタリア、夕方くらいになっても終わらなかったら、行くっていうのはどう?」
ヴィオラの言葉にラフタリアもそれならまあいいか、と納得する。
「メリエル様、村で採れた野菜です。良かったらどうぞ」
そんな会話をしていると、村人達が野菜をザルに入れて持ってきた。
メリエルはガバっと起き上がる。
「頂くわ。自然の恵みって美味しいわよねー」
にっこにこ笑顔のメリエルに村人達は勿論、ラフタリア達もほっこりと和む。
もうすぐ昼時であった。
そして、メリエル達は皆でお昼ご飯を食べて、昼寝をして、15時のおやつにアイスを食べた。
そうこうしているうちに16時を過ぎ、もうすぐ夕暮れ、しかし空の色は変わらず、波は収まる気配がない。
「……仕方ないわねぇ」
メリエルはようやく、腰を上げた。
その口にアイスの棒を咥えながら。
「そんじゃ、さっさと済ませてくるから」
「あ、メリエル様が1人で行くって感じなんですね」
「食っちゃ寝ばかりしている気がするので、ちょっと運動しておかないと……」
言われて、ラフタリア、エレナ、ヴィオラの3人は各々のお腹を触った。
ちょっと動かないとヤバイ――
「メリエル様、私達は漏れ出てくるモンスターを退治してきます」
「フィーロも!」
「ティアも!」
太るとかそういうことではなく、遊ぶという意味合いでフィーロとティアが元気良く手を挙げた。
「じゃ、遊んでらっしゃい。終わったら帰るからね」
仲良く返事をするフィーロとティアにメリエルはほっこりとし、2人の頭を撫でてやる。
非常に軽い感じで、メリエル達はようやく波の収束へと動いた。
「え、まだボスを湧かせられていないの?」
メリエルは呆れてしまった。
空飛ぶ幽霊船という中々素敵なものを外から攻撃する樹とその仲間達。
彼曰く、像を攻撃してソウルイーターを湧かせないとダメらしい。
それを聞いて一応、幽霊船に乗り込んでみれば、元康と錬がそれぞれ別の敵と戦っており、それぞれが相手にしている敵を倒さないと湧かせられないという。
メリエルは深く溜息を吐いて、再度幽霊船から飛び降りて、樹とそのパーティーメンバーを乱雑に抱えて、幽霊船へと戻る。
そして、メリエルは甲板にいる2体の敵を魔法で拘束するや否や、3人に問いかけた。
「アンタ達、本当にゲーマーなの? こんだけ時間を掛けても、湧かせられないなら、出現ギミックが変わったって考えなさいよ。マイナーアップデートで告知がなく変わることはよくあるでしょうに」
そう言われると3人とも、しかめっ面となる。
あー、これは意地を張って、やり方を変えられなくなったパターンだとメリエルは察する。
「メリエルさんが全部解決すればいいでしょ、もう」
樹の投げ槍な言葉にメリエルは目を輝かせる。
「え、いいの? 本当にいいの?」
その顔に樹は目を丸くしたが、すぐさまメリエルの考えを察知した元康と錬に彼は引っ張られ、後ろを向かせられた。
そして、元康と錬は口々に告げる。
「おい、樹。アレはやべぇぞ」
「ああ。解決はするだろうが、碌でもないことになる……」
言われて、樹は少しだけ首を動かして、メリエルの方を見る。
にっこにこの笑顔だ。
「……すみません、僕の失言でした」
アレはマズイ。
解き放ったら解決はするだろうが、波よりも酷いことになることは間違いない。
樹は悟った。
「とりあえず、俺達は協力しないとマズイ気がする。俺は意地を張っていた」
「同感だ。俺も意固地になっていた」
「僕も、意固地になっていました。それにメリエルさんに全部任せるのは……何か、人としてダメそうな気がします。どうやればボスを湧かせられるでしょうか?」
樹の問いに元康と錬は思案する。
各々が知っている攻略法を試してもダメということはそれ以外のギミックがどこかにある筈だ。
3人はそれぞれ2体の敵をよく観察してみる。
メリエルはうずうずと、まだかまだかと3人が自分に対して丸投げするという選択を待っている。
彼女はスキルにより、ソウルイーターが潜んでいる位置は来たときから分かっている。
だが、せっかくのこのチャンス、ボスだけ倒してオシマイというのは面白くない。
幽霊船ごと消し飛ばせば問題ないという、火力こそ大正義という解決方法を披露するにちょうどいい。
今度こそ
低高度の空中核爆発で地上の汚染は酷いことになるかもしれないが、波は収まるのでセーフ――
だが、メリエルの密かな野望は潰えた。
それは3人がそれぞれの敵の影に違和感を覚えたからだ。
「樹、錬」
元康の呼びかけに、2人は心得たと頷く。
「僕が2体の影を同時に攻撃します」
「骸骨の方は俺が受け持つ」
「じゃあ俺はあっちの蛇みたいな奴だ」
そして3人は動く。
元康と錬が位置につくと同時に、樹は矢を速射し、2体の敵の影を同時に攻撃した。
たちまちのうちに、影からソウルイーターが飛び出してきた。
そして、それがトリガーであったのか、船体のあちこちからソウルイーターが湧き出した。
湧き出したソウルイーター達は1つに集まり、巨大なソウルイーターへと変貌する。
中々やるじゃん、とメリエルは後方彼氏面ならぬ後方大魔王面をしながら三勇者に対する評価を上方修正した。
「連携をするぞ!」
元康は宣言した。
錬と樹も異論はなく、頷いた。
そして、三勇者達とそのパーティーメンバーによる連携した、連続攻撃が加えられる。
だが、敵は硬く、中々攻撃が通らない。
ならばと、三勇者は属性を別のものへと切り替える。
3人共、最初は雷を使っていたが、それぞれが別のものへ。
その際に各々が変更する属性を宣言し、互いに重複しないように心がける。
やるじゃん、とメリエルは感心し、更に3人の評価を上方修正する。
とはいえ、ソウルイーターもやられっぱなしではなく、口に魔力を集中させ、それを解き放つ。
魔力の大きな砲弾が着弾し、その衝撃波で三勇者とそのパーティーメンバーを薙ぎ倒す。
大ダメージを食らったようであったが、しかし、3人の勇者達はそれでも歯を食いしばって立ち上がった。
メリエルにやらせるわけにはいかない、酷いことになるから――
その思いで一致していた。
とはいえ、ソウルイーターは早くも二撃目を撃ちそうであった。
「仕方がないわね、助けてあげる」
その声が聞こえたのと、魔力の砲弾が撃ち出されたのはほぼ同時であった。
迫る砲弾はしかし、3人の前に颯爽と躍り出たメリエルが片手を前に突き出す。
「
鏡のような盾が現れ、飛んできた魔力の砲弾を受け止め、砲弾と共に消失した。
「はい、終わり。
ソウルイーターが真っ二つに切り裂かれた。
どすん、と死体が落下し、メリエルはすかさずそれを盾に吸収させる。
そして、彼女はくるりと振り返りドヤ顔でVサイン。
3人は互いに顔を見合わせた。
普通に倒したことがあまりにも意外だった。
そんな3人を放置し、メリエルはつかつかと歩いていく。
3人とそのパーティーメンバー達は何気なく彼女を視線で追っていく。
やがて、メリエルは立ち止まった。
何の意味が、と誰もが皆、思った瞬間――にょっきりとソウルイーターの2体目が船体から出てきた。
「あっ」
誰かの声。
ソウルイーターの頭が出たところはメリエルの真下だった。
思いっきりメリエルはソウルイーターを踏みつける。
ぐりぐりとそれはもうにこやかな笑顔で。
ソウルイーターは苦悶の声を上げるが、メリエルは踏んづけて逃さない。
「ソウルイーター風情が奇襲をしようなんて、ちゃんちゃらおかしいわ」
高笑いをするメリエルに3人の勇者とそのパーティーメンバーはドン引きである。
「……もう帰りましょう」
「そうだな……」
「ああ……」
疲れた顔で3人は溜息を吐いた。
あの状態のメリエルに関わるのは疲労困憊の現状では分が悪過ぎる。
しかし、そのときだった。
メリエルは一瞬にして、ソウルイーターから飛び退き、僅かに遅れて光の矢のようなものが無数に着弾した。
ソウルイーターは即死し、その死体も矢の嵐に呑まれて消え去った。
そして、空から降ってきたのは――黒髪に着物姿の少女。
「親方! 空から美少女が!」
元康達はメリエルの言葉にずっこけた。
言われた少女もちょっと嬉しかったのか、少しだけ微笑んだ。
「で、獲物を横取りなんて礼儀がなっていないのではなくて?」
「これは失礼しました。あのような雑魚を始末して、そう言われてしまうとは思ってもいませんでしたので」
メリエルは内心ほくそ笑んだ。
久しぶりに煽り合いができそうだと。
「強さの問題じゃないの。私が言っているのはマナーの問題よ。手取り足取り教えてあげましょうか?」
「あら、教えられる力があるのですか?」
「ほう、面白いことを言うわね。試してみなさいよ」
メリエルは無限倉庫から腕時計を取り出し、装着してタイマーをセットする。
そして、彼女は両手を広げ、告げる。
「そうね、30秒くらいは一切反撃をせず攻撃を受けてあげるわ」
「随分と余裕ですね。私の得物は鉄扇ですが、威力は既にお見せしましたよ?」
メリエルはくすり、と笑い告げる。
「あんな蟻を潰した程度で、はしゃいで可愛いわね」
「そうですか。それでは身をもって分からせてあげましょう。あなた、名前は?」
「メリエルよ。よく覚えておきなさい。ちなみにあなたは?」
「私はグラスです。勇者の敵ですよ」
告げて、グラスは技を発動する。
「輪舞零ノ型・逆式雪月花!」
暴風が発生し、赤い刃が舞い踊る。
メリエルはそれを何もせずに真正面から受ける。
彼女の体のあちこちを傷つけ、血が滲み出る。
しかし、それはダメージを与えたというには程遠い。
精々が猫に引っ掻かれた程度の傷でしかない。
グラスは思わず目を見張るが、すぐに彼女は一点突破の技へと切り替える。
「輪舞破ノ型・亀甲割!」
扇を畳み、光の槍のようなものを顕現させる。
そして、それを矢のように解き放つ。
それは狙い過たずメリエルの心臓目掛けて飛んでいき――突き刺さった。
だが、それは衣服を破り、皮膚に到達し、その表面を僅かに傷つけたに過ぎなかった。
光の槍はそれで力を失い、消えさった。
グラスはならばと近接戦闘を仕掛けよう考えた、そのときだった。
『メリエルお姉ちゃん、時間だよ!』
場違いな幼女の声が響き渡る。
メリエルがセットしたタイマーだった。
「昔、友人から貰ったものでね」
さて、とメリエルはにこりと微笑んだ。
「あなたは中々やるわね。私の防御を突破できるなんて」
あの教皇は単純に武器の性能でメリエルの上位物理無効化スキルⅤ――80レベル程度まで無効化する――を突破した。
扱うプレイヤーが低レベルであっても、武器が高性能ならば突破できるということもある。
しかし、今回のグラスは武器の性能もさることながら、本人の実力によるものだ。
単純にメリエルが元々のステータスに加え、盾の勇者であることから素の防御力が極めて高いことからおしゃれ装備であってもこの程度で済んでいる。
相手のレベルは最低でも80以上であり、中々得難い存在だ。
動きも悪くない。
何より貴重な情報源、殺すのはもったいない。
「じゃあ、今度は私から行くわ」
メリエルは告げて、駆ける。
あまりの速さにグラスはメリエルを見失う。
メリエルは一直線にグラス目掛けて進み、そのまま思いっきり彼女の下腹部を殴りつけた。
彼女の体は殴られたところからくの字に折れ曲がり、威力と苦痛に目を見開き、口からは鮮血を吐き出す。
上の口から出たのだけではないが、今更糞尿程度でメリエルが躊躇するわけもない。
衝撃によりその体が吹き飛びそうになるが、しかし、メリエルはそれを許さない。
すかさずグラスの体を魔法により構築した鎖で雁字搦めにして、そのまま彼女の体に手のひらを押し当てたまま唱える。
「
10発の光弾が次々とグラスの体に当たり爆発を起こす。
彼女は痛みに悲鳴を上げるが、そこでメリエルは異変に気がついた。
普通なら下半身が千切れてもおかしくはないのに、グラスの体が全体的に半透明になっていることに。
もしかしてコイツ、非実体系種族か?
中々にレア。
これは捕まえねばダメだと確信する。
意思疎通できる幽霊系和服美少女なんて、メリエルの無駄に広いストライクゾーンにバッチリと突き刺さる。
「
念の為に上から更に重ねがけで移動阻害魔法を掛ける。
グラスは半透明どころか、ほぼ消えかかっているので、メリエルはポーションを掛けてやる。
エリクサーで全快させると、拘束を解かれる可能性がある為だ。
「で、グラス。戦況的に私が圧倒的に有利と思うんだけど、そこんとこどうかしら?」
メリエルはグラスを無理矢理に座らせ、自身も座ってそう問いかける。
彼女は睨みつけてくるだけで何も答えない。
「いいね、ゾクゾクするわ」
これはやりがいがあるとメリエルはにんまりと笑う。
「私を捕まえて、どうする気ですか!」
「まずは情報ね。洗いざらい吐きなさい」
「そんなことは――」
「自爆されても面倒くさいので……
するとグラスの態度は一変した。
「全てお話し致します」
そう言って、グラスは恭しく頭を下げた。
「ありゃ、大魔王だ」
「大魔王だな」
「大魔王ですね……」
一部始終を目撃してしまった三勇者達は口々にそう言ったが、メリエルからすれば重要な情報源を得られたことに感謝してほしいくらいだった。
グラスの攻撃!
メリエルに猫に引っ掻かれた程度のダメージを与えた!
メリエルはグラスの着物の裾を見ている。
ミス! 絶対領域により中身は見えない!
グラスの攻撃!
メリエルに針に刺された程度のダメージを与えた!
メリエルは微笑んでいる。
メリエルお姉ちゃん、時間だよ!
幼女の声が響き渡る。
メリエルが攻撃態勢に入った!
メリエルの攻撃!
痛恨の一撃!
グラスに大ダメージ!
メリエルは呪文を唱えた!
グラスに大ダメージ!
グラスは負けてしまった……