これにて本日終了。
メリエルとミレリアは互いに食事の席は重要な場であることを認識していた。
食事だけではなく、用談も行ういわゆるワーキングランチ――時間的にワーキングディナーとでも言うべきかもしれない――であった。
メルロマルクにおける様々な国内問題、三勇教の動向、国外におけるメルロマルクの立ち位置、シルトヴェルトとの関係についてなどミレリアから説明を受ける。
またメリエルからは波に関する協力、シルトヴェルトとの関係改善に関する協力といったことがミレリアへ伝えられる。
1時間程で食事を終えた後、ミレリアは部屋から出て行き、また同時にメリエルも影により別の部屋へと案内された。
案内された部屋は賓客が宿泊する為の部屋のようで、一際大きなベッドが目につく。
部屋で待つこと20分程、ミレリアがやってきた。
女王の象徴であり、また同時に証でもあるティアラが頭になく、髪も下ろして、服装も非常にラフなものだ。
ここからはプライベートな時間というこれ以上ないくらいの意思表示にメリエルとしては感心してしまう。
同時に部屋の周囲から警護役の影達の気配が少し離れたのが分かった。
何が起きても問題にしない、という意味合いであることをメリエルは悟る。
「普段の女王姿も良いけれど、そちらのほうも素敵ね、というのは誘い文句としては陳腐かしら?」
「大丈夫ですよ」
何なんだろう、風俗に来ているみたいだ、とメリエルは妙な感覚に襲われるが、気を取り直す。
「ところでマルティから勇者がハーレムを作るのは使命みたいなことを聞いたんだけど、本当なの?」
「本当ですね。異世界から来られた方は特にその傾向が強いです」
「刺されたりとかしないの? あなたも知っているでしょうけど、女同士が1人の男を取り合うっていうのは……」
メリエルの言葉にミレリアは答える。
「そういうのは聞いたことがありません。洗脳魔法とかそういうものを使ったとかいう記録もありませんが、刺した刺されたの刀傷沙汰というケースはありません」
「不思議ね。ハーレムの女達が全員、大人しいのばかりというわけでもあるまいし……」
「人心掌握術とかでしょうか?」
「人心掌握術というよりか、感知できないような力でも使っているんじゃないかしら。まあ、私は正当なやり方でマルティを落とさせてもらったわ」
メリエルの言葉にミレリアは肩を竦めてみせる。
「以前よりシルトヴェルトに潜り込んでいる影によれば、マルティは王族よりも良い暮らしをしているそうですね。おかげで、あなたにベタ惚れだとか」
「ええ。彼女にどうやら権力欲はないわ。ただ贅沢したかったというだけで、女王になればカネを好き勝手できるって思っていたみたい」
「あの子は正直……フォーブレイのよろしくない血が色濃く出てしまったのかもしれません。可哀想なことですけれど、こればかりはどうにも……」
メリエルはちょうどいいとばかりに問いかける。
「フォーブレイって歴代の勇者の血を取り入れているのに、私が軽く調べた限りだと能力的にはともかく、どうして性格的に問題ばかりなの? 私の予想だと教育に問題があるとは思えない」
メリエルの言葉にミレリアはその意味を察し、告げる。
「歴代の勇者様方の性格に……その、色々と問題があったようです。その血を取り入れ続けた結果、そうなってしまったのかと……」
「才色兼備の王女や貴族令嬢も多かったのに、そういう輩に喜んで孕まされたというわけかしら?」
「そういうことです」
それはそれでコーフンするわね、とメリエルは内心思う。
そういう状況を妄想すると中々に捗る――とそこで彼女は気がつく。
「自分で提案しておいてアレなんだけど……私の性格はたぶん歴代勇者とやらよりももっと悪いけど、いいの?」
「少なくともあなたは利益をこちらに齎しますから。勇者様だから、と盲目的に、あるいは慣習的に信じているわけではありません」
そこでミレリアはメリエルに艷やかな笑みを浮かべ、彼女の耳元で囁く。
「メルロマルクは、あなたの女の祖国ですよ? 勿論、私もあなたには女として尽くしますから」
メリエルはその意味を理解しながら、そのままミレリアを抱きしめ、その唇に口づける。
「……ふふ、一線を越えてしまいました。もう戻れませんよ?」
悪戯に成功したかのような笑みを浮かべるミレリアにメリエルは不敵な笑みを浮かべてみせる。
「これまで国は潰すもの、利用するものだったけど、偶には国や、世界の為に尽力してやるのもいいかもしれないわね。何より、私以外の輩が勝手に世界をどうこうしようというのが気に入らない」
「……本当に何をなさっていたんですか?」
「複合企業……あー、なんというか世界中に店舗を構える超巨大な商会の専属闇ギルド的なところのボスをやっていた」
ミレリアは納得する。
それならば、裏仕事に精通している筈だと。
そこで彼女は気がついた。
「……あの、つかぬことをお聞きしますが、夫が代理をしていたとき、その……何か持っていきましたか?」
「メルロマルクの王城や城下町に駐屯している騎士と兵士の総数と警備場所と巡回ルートと巡回時間を知っていたりするような気がする」
普通に機密情報をすっぱ抜かれていた。
そして、ミレリアの女王としての勘はそれだけではないと告げる。
「あの、本当はどこまで……?」
「まあ、シルトヴェルトに流せば泣いて喜んで土下座する程度には……」
「……全部持っていかれているんですね?」
「有り体に言うと財務・軍事・外交その他色々全部ね」
「やめてください、本当に……」
懇願するミレリアにメリエルはゲスな笑みを浮かべてみせる。
「それはあなた次第かしらね」
そう言って、メリエルはミレリアをベッドへと押し倒す。
そして、彼女はミレリアの耳元で告げる。
「自分の女の悲しむ顔は見たくはないから、そうはしないわ。ねぇ、ミレリア。私の前でだけ、女王ではない、女としてのあなたを見せて?」
夜はこれからだった。
「ようやくですね」
夜も更けた頃、教皇は遠くに王城を見て、そう呟いた。
既に手筈は整っている。
儀式魔法の詠唱に必要な数の信者達は城下町各所に目立たぬよう、少人数で配置済み。
同じく兵士達や騎士達も。
正直なところ、盾の悪魔の能力は全くの想定外であったが、しかし、彼は神は自分を見捨てていなかったという確信がある。
国境での一件から、敬虔な者達を引き連れて、逃げ延び、再起を図っていたが、まさかフォーブレイのタクト王子が協力を申し出てくるなど、全くの予想外だ。
しかも、派遣されてきた2人の女は非常に強いときた。
彼は鞭の勇者であり、三勇教の信仰対象からは外れているが、これも盾の悪魔を始末する為だ。
おかげでこうやって簡単に城下町に戻ってきた。
女王の影達の監視網を容易く食い破りながら。
あの連中なら、盾の悪魔すらも簡単に始末できるだろうと彼は確信する。
幸いにも邪教指定はまだされておらず、更には城下町から遠くなればなるほど、情報に疎い。
おかげで信者を補充することができた。
儀式魔法による攻撃、それでもダメならばタクトから派遣されてきた女達が対処する。
その後に教皇をトップとした統治機構を構築し、フォーブレイと同盟を結ぶ。
協力への見返りとしてタクトが求めてきたのが同盟であったからだが、教皇としては大国が後ろ盾になってくれるならば心強い。
「全ては神の御心のままに」
全ての準備は整い、あとは作戦開始の時間を待つばかりであった。
「過剰戦力ではないか?」
2本の狐の尻尾を生やした少女だ。
彼女に同意するように、トカゲの尻尾を生やした女が頷いた。
2人は念の為に、と予備戦力として待機しているが、正直、出番はないだろうという予感があった。
「でもまあ、タクトのことだし、きっと何か考えがあるんでしょ。楽な仕事をこなして、褒めてくれるんだから。運が良かった」
「しかしな、レールディアよ。相手は盾の勇者じゃろ? 攻撃能力は皆無で……」
「トゥリナ、美人らしいわよ」
「……そういうことか。まあ、タクトの事を知れば仲間になってくれるじゃろうが、いきなり攻撃は如何なものか?」
「何か色々と事情があるらしいわよ」
そういうもんか、とトゥリナは思う。
「夜更けまであと数時間ってところかしら」
「今すぐでもいいんじゃないか?」
「完全な奇襲にしたいらしいわよ」
「慎重じゃなぁ。鎧袖一触じゃろうに……」
まあ、逃げたりはせんじゃろ、とトゥリナはのんびり待つことにした。
教皇「あの2人は強いですね。これなら盾の悪魔も楽勝ですね(舐めプ)」
その2人「よゆーよゆー(舐めプ)」
メリエル「は?(真顔)(廃人のプライド)(舐めることは許さない)(天災降臨)(イキリ魂に火をつけろ)」