翌朝、不信感マシマシの3人は出された朝食を穴があくほどに見つめていたが、メリエルがまず食べて大丈夫だと告げるとゆっくりと食べた。
そして、その後、いよいよ王が集めた仲間と対面ということで再度、4人は謁見の間に呼ばれた。
あんまり変なことは言わないように、と事前にメリエルから釘を刺されていたので、3人はオルトクレイに会うなり、睡眠薬の件や盗み聞きの件を問い詰めるようなことはしなかった。
とはいえ、不信感は隠せない。
彼ら3人はメリエルとは違って単なる大学生と高校生に過ぎないのだ。
しかし、オルトクレイも中々やるもので、3人が問い詰めてこないことをむしろ、己から明かした。
「実は恥ずかしい話であるが、昨晩の夕食に薬が盛られた件と盗み聞きの件でな……勇者を利用しようという賊のやったことだ」
嘘くさい、というメリエルも含めた4人からの視線。
しかし、そこでオルトクレイは4人の予想外の行動に出た。
彼は玉座から立ち上がって、深々と頭を下げたのだ。
申し訳なかった、という謝罪の言葉。
ここまでされると大抵の者は信じてしまう。
ましてや、一国の王がそうしているのならば尚更だ。
元康達はすっかりと日本人的な「いえいえ、そんな、そこまでしなくても」という感じで許してしまう。
そんな彼らのやり取りを聞きながらメリエルは知らん顔だ。
リアルでの職業柄、こういう心理的なテクニックはよく知られたものだったが為に。
オルトクレイに対する評価をメリエルは上方修正する。
「さて、勇者の同行者として共に進もうという者を募った。どうやら皆の者も、同行したい勇者が居るようじゃ」
オルトクレイの言葉に新たに12人が扉から現れる。
「さぁ、未来の英雄達よ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」
オルトクレイの言葉にメリエル達は横一列に並ぶよう家臣からの指示。
その通りに並ぶと、12人がそれぞれ各勇者達の前に並んでいく。
メリエルの前には誰も並ばなかった。
「……私の美しさに嫉妬しているわね。これは間違いない」
「う、うむぅ……さすがにこれは予想外じゃった」
メリエルは深く溜息を吐いた。
まあ、逆に言えば色々と好き勝手できるというもの。
「じゃ、私は1人で行くから。そういうことで」
メリエルはそう告げて、さっさと歩き出した。
いやいやいや、と元康達は思わずツッコミを入れる。
「あ、それなら私が行きます」
そう宣言したのは赤毛をセミロングにした女の子だ。
「同情はいらないわよ。1人は慣れているので」
「そんなこと言わずに……ね?」
メリエルは再度、溜息を吐いた。
「仕方あるまい。他の者はどうだ?」
オルトクレイは問いかけるが、誰もいない。
「メリエル殿は気に入った仲間を自身でスカウトして貰う他あるまい。無論、今回の援助金は他の勇者よりも多く渡そう」
ラッキー、とメリエルは内心小躍りした。
「これからどうします?」
マイン・スフィアと名乗った彼女の問いにメリエルは不思議そうに首を傾げた。
「レベル上げに決まっているじゃないの」
「それなら武器と防具を揃える必要がありますね。良い店を……」
「そんな暇はないわ」
メリエルはマインの手を握り、城下町の出入り口となっている城門を睨みつける。
「行くわよ、マイン。レベリングよ」
「えっ」
マインは風になった。
「えぇ……」
マインは困惑していた。
何なんだこいつ、というのが彼女の心境だ。
どんなモンスターも全く相手にならず、ワンパンで消し飛ぶ始末。
しかも、メリエルは留まるところを知らない。
すなわち、モンスターを狩り尽くしてその死体を盾に吸収させたら、マインを引っ掴んで――当初は手であったが、もはや猫を掴むような形になっている――新たな狩場へと移動し、またモンスター狩りだ。
おまけに移動先には必ずモンスターがいるという、まるで生息地でも分かっているかのような。
マインの予定では酒に酔わせて、女同士の性行為という倒錯的行為に及ぼうとしたということで強姦魔にでっち上げ、ついでに金品も頂く予定であったのだが――そんなものは消えていた。
既にメルロマルクの城下町は遥か彼方。
1人で帰るなんてことは到底できない。
メリエルの移動速度は明らかに尋常ではなく、盾の勇者が持ち得るような能力ではない。
「ここはこんなもんかしら」
モンスターを虐殺した後、メリエルは返り血一つない姿。
マインは思い切って尋ねる。
「あの、勇者様。あなたはいったい……?」
「通りすがりの大魔王」
一瞬、マインは信じかけたが、すぐにむーっと頬を膨らませる。
「その前に猫被りはやめたら? それが本性じゃないでしょうに」
「何を言っているのか……わかりません」
「そう。それならいいけど、私についたほうが、甘い汁を吸えるわよ?」
その問いにマインは訝しむような視線を送る。
くすり、とメリエルは笑う。
「一つ忠告しておくけど、私だけは敵に回さない方がいい。気が変わったら、いつでも教えて頂戴ね。たとえ、やらかした後でもあなたなら受け入れてあげるから」
「はぁ……」
マインは曖昧に返事を返しながらも、盾の勇者の癖に生意気だ、と内心思う。
ちょっと移動速度が速いくらいで、何だ、と。
第一、自分よりも美しいところや余裕ぶっているところも気に入らない。
どうにかして、計画を元に戻そう、とマインは考え、言葉を紡ぐ。
「さすがに城下町から遠く離れ過ぎましたから、戻りませんか?」
「ええ、構わないわよ」
メリエルはマインの後ろ襟を引っ掴んだ。
マインはまたこれか、と諦めた。
メルロマルクの城下町に帰ってきた後、メリエルはマインの案内で城下町を見て回り、最後に彼女がオススメする武器屋に立ち寄り、宿で別れた。
メリエルはもっと高級なところがいいんじゃないか、と提案したが、いきなりそれは問題があるとのことで、マインが諌めた。
夕食時にマインが勧めてきたワインをメリエルは飲んで、そのまま部屋に向かった。
「私の耐性を貫通したいなら、最低でも神器級のアイテムを使用しなさいよね」
せっかくなので、ユグドラシルで購入しておいた料理や酒などで1人、酒盛りを行う。
現実化したそれらはこの世のものとは思えない程の美味であり、メリエルは舌鼓をうちながらも、これからを考える。
わざわざ睡眠薬を盛るということは何かしらの罠にハメるつもりだということは想像に容易い。
とはいえ、相手は女、こっちも女なら盗人の類だろう。
「召喚魔法でも使ってやろうか、それとも太陽や隕石、月でも落とすか、あるいは核爆発でも起こすか……」
反撃手段は無限にある。
こちらの一撃は国を消し飛ばしてお釣りがくるくらいだ。
とはいえ、メリエルとしてはこのリアルでは失われた景観や環境が愛しくて仕方がない。
そこで彼女はあることに気がついた。
「……ユグドラシルの制限とこいつの制限、取っ払っておくか」
勇者は自分の所持する伝説武器以外を戦闘に使うことはできない、とかいうふざけたものだ。
メリエルからすれば職業などのおかげで、武芸百般、盾のみでもそこらの連中ならミンチにできるくらいの技量はあるが、それでもその程度だ。
強い奴と戦うときに盾しか扱えませんなんて、とんだ縛りプレイもいいところ。
昼間に武器屋で見せてもらった武具のときは電撃が迸った。
完全耐性があるのでダメージは負わないが、かなり鬱陶しい。
「……ユグドラシルのやつならどうかしら」
メリエルはおもむろに無限倉庫に手を突っ込んで、愛剣であるレーヴァテインを取り出した。
この剣もフレーバーテキストが色々と書かれており、それが現実化している為、相当にヤバイことになっている。
「おーおー、嫉妬しちゃってまぁ」
レーヴァテインを鞘から抜くや否や、メリエルの手にある盾に思いっきり炎を飛ばした。
炎は盾に命中し、盾はイヤイヤと首を横に振るかのように揺れている。
「はいはい、レーヴァテイン。ちょっと抑えてね」
宥めるとレーヴァテインは小さく火の粉を飛ばして、それきり沈黙した。
盾のほうもどうにか炎が消えたようだ。
レーヴァテインは唯一メリエルしか持ち主、担い手として認めないというフレーバーテキストが変な具合に反映されているのかもしれない、とメリエルは思いつつ、愛剣のフレーバーテキストを念の為に確認する。
タブラと一緒になって盛り上がって、アレコレ付け足した設定は非常に長い。
「あー、原因はこれね。そういやペロロンチーノが武器に精霊が宿ったり擬人化したりするってアリですよねとか言って……」
ヤンデレとかそういう物騒な文言があった。
「というか、普通に持てているわね」
待ってました、と言わんばかりに目の前に文章が浮かび上がってきた。
特殊武器が装備されました――
伝説武器の規則事項「専用武器以外の所持」の一部を限定解除します――
「レーヴァテインが怖いからっていう理由じゃないわよね?」
ジト目で盾を見つめるも、盾は何も答えない。
きっとそうなんだな、とメリエルは思いつつ、扉の外にある気配にやれやれ、と溜息を吐く。
マインをどん底まで突き落として、手を差し伸べた方が裏切らないだろう、と。
食事も睡眠もメリエルには装備の効果により不要だ。
とはいえ、このままではマインが一晩ずーっと扉の前で過ごすことになるので、仕方がないと罠にハマってやることにした。
しかし、それだけでは面白くない。
料金は頂くことにした。
メリエルがベッドに入り、寝息を立て始めたことを確認したマインは静かに扉を開けて、部屋の中に入った。
テーブルに置かれた銀貨の詰まった袋に手を差し出したところで、マインは後ろから唐突に抱きしめられた。
マインは声にならない悲鳴を上げた。
「それ、あげるから一晩の過ちというやつをやらないかしら?」
「な、何を……」
振り向いたマイン、そこにはメリエルの顔があり、彼女は微笑みながら、そのままマインの唇に口づけた。
マインは暴れるもメリエルの力は強く、びくともしない。
そのままマインを抱きかかえ、メリエルはベッドへマインを下ろす。
そして、その上にのしかかった。
マインは混乱したが、これは紛れもないチャンスだと確信する。
なぜならば嘘の証言などではなく、本当にレイプされたと主張できるからだ。
「……仕方ないわね。いいわよ」
女同士だし、まあいいか、とマインは軽い気持ちでOKしてしまった。
メリエルはにっこりと笑った。
「それなら遠慮なく」
マインはこの夜、メリエルとの一時をかなり楽しんだ。
マイン「良かった」
メリエル「良かった」
マイン「だが冤罪をなすりつける」
メリエル「^^」