メリエルは傍らに眠るミレリアの寝顔をじーっと眺めていた。
綺麗なものだ。
ミレリアは最初こそ遠慮がちであり、また歳がいっていることや出産を経験していることから、気持ち良くないのではとか色々と心配していた。
メリエルにとってはその全てが最高に興奮する要素でしかなかった。
ミレリアの理性を言葉と前戯で溶かし、女としての本性を引き出せば、メルティを産んで以降、夫の年齢的なものもあり、欲求不満というものが出てきた。
流石にミレリアの年齢までは聞けないが、見た目は勿論、肌のハリや艶は20代にしか思えない。
ともあれ、メリエルはそんなミレリアを優しく、そして情熱的に抱いた。
結果、1度では終わらず2度3度と中々に燃え上がった。
最後の方はミレリアも女王とは思えないような言葉を口走ったりしていた為、メリエルは大満足だ。
これから慣れてくればマルティのようにプレイに幅を持たせていきたい、と考えているメリエルからすると、楽しみで仕方がない。
その為にはミレリアの為にも、メルロマルクに利益をもたらしてやろうと考えている。
そんなことを考えていると、ミレリアは身じろぎし、目を開けた。
「少し、寝てしまったようです」
そう言うも、まだ何だか眠そうだ。
「久しぶりで疲れたでしょうから、寝ていていいわよ?」
メリエルがそう告げると、ミレリアは何となく恥ずかしそうな顔をする。
「……その、見られていると」
「寝顔が綺麗だったので」
にこにこ笑顔のメリエルにミレリアはますます恥ずかしくなる。
しかし、そのとき、メリエルは突然、顔を窓の方へと向けた。
ミレリアは目をパチクリとさせる。
「あの、どうか――」
ミレリアが問いかけようとした、そのときだった。
メリエルは躊躇なく窓を開け放ち、そのまま両手を前に出した。
そして、叫ぶ。
「
対象もしくは範囲で指定できるが今回は範囲指定。
指定した範囲は城全体。
傍目には変化がないが、メリエルには知覚できていた。
透明な膜が展開され、あっという間に城全体が覆われていく。
メリエルの職業たるワールド・ガーディアン。
ワールド・ガーディアンのみが習得できる1日あたりに発動できる回数が限られている最上級の防御スキルであり、ワールドアイテム以外の全ての物理・魔法攻撃やアイテムによる干渉効果を完全に遮断する。
ワールド・チャンピオンにおける防御スキル、次元断層の下位互換だ。
メリエルがそれを展開して、数秒程経過したとき、ソレは天空から落ちてきた。
眩い光にミレリアは思わず瞼を閉じた。
城を包み込む程の光の奔流。
だが、それらは城を破壊することなく、まるで雨が窓ガラスに当たって、滑り落ちていくように透明な膜によって逸らされていく。
1分程、光は続いたが、それは唐突に消えた。
「どうやら舐め腐った連中が仕掛けてきたみたいね」
メリエルの言葉にミレリアは我に返る。
こんなことを仕出かすのは三勇教くらいしかいない。
そのとき安否確認の為、影達が部屋へと入ってきた。
「陛下! ご無事ですか!?」
「私は無事です。メリエル様が守ってくださいました。状況は? 敵はどこですか?」
ミレリアの問いに影達は答えられない。
そのとき、メリエルが口を挟む。
「半径100m以内でいいなら分かるわ。今、私の探知範囲に入ってきたから。少人数で散開しながら、城に向かってきているわ。おそらく全方向から」
メリエルはそう告げると、獰猛な笑みを浮かべてみせる。
「本当に人を舐めている。平和的に解決して、生かしてやったのに。それに、あんな雑魚ばかりで私をどうこうできると思っているのかしら」
そこでメリエルは唱える。
「
探知範囲内に入った敵全てを標的とし、内部から爆散させる。
悲鳴を上げる間もなく、敵は風船のように体を膨らませて爆発四散していく。
何が起こったのか、把握する暇も与えない。
とはいえ、せっかくのチャンスなのでメリエルはカッコつけようと思い、ミレリアに近寄り両手で彼女の頬を包み込む。
「あなたの国、守ってあげるわ」
そう言って、メリエルはミレリアの唇に口づけると、すぐに窓の方へと向かう。
そして、そのまま窓から飛び降りていった。
残されたミレリアは無意識的に自身の唇を優しく撫でる。
盲目的には信じない、と言ったのに、こんなことをされると盲目的に信じてしまいたくなる――
そんな思いが込み上げてくるが、それは今考えるべきことではない。
「城内にいる全ての戦える者達を集めなさい。隠し通路や通風孔などから侵入される可能性があります。城下町へはメリエル様の邪魔になる可能性がありますから、積極的に攻勢に出ることはしません」
兵力は向こうが上、だが、メリエルならば負けることはない。
また一般市民を人質に取ることもしない、と彼女は考える。
何故ならば、そんなことをすればその後の統治に問題が出る可能性が高い。
たとえ王族を打倒しても、民に対して危害を加えたという事実があるならば民はついてこない。
今回は国民が起こした革命ではなく、三勇教による悪あがきの革命だ。
どこかの国が後ろ盾にいるかもしれないが、それでもきっとどうにかできるとミレリアは確信していた。
「儀式魔法を防いだ!?」
「嘘じゃろ!?」
一方、レールディアとトゥリナは完全に動揺していた。
先の儀式魔法は彼女らであっても、全力で防御したとして、重傷は免れない。
しかし、相手は完全な奇襲であるにも関わらず、城全体を完璧に防御してみせた。
城の周囲は魔法の直撃を食らったが、そこには人家などはなく、ただ石畳があっただけだ。
そして、その轟音により、庶民達は何事かと窓を開け、すぐに事態を理解したのか、慌てて住居から飛び出し、逃げていくのが見える。
「……ちょっと本気でやらないといけないみたいね」
「そのようじゃな。戦闘の様子を見に行こうではないか。盾の勇者は中々やりおるようじゃしな」
「ええ、そうしましょう」
そして、2人は戦闘が行われているだろう城周辺が良く見える場所へ移動する。
そこで目撃したのは戦闘とは到底呼べないものだった。
兵士が、騎士が、信者が、攻撃すらできずに体を膨れ上がらせ爆発していく。
おそらくは魔法であるのだろうが、レールディアもトゥリナもあんな魔法は聞いたことがない。
そして、それを実行している者を2人は見た。
その長い、黄金の髪を風に靡かせながら、誰もが見惚れるほどの女神の如き美貌。
レールディアもトゥリナも、素直にその美しさには負けたと思えてしまう。
だが、そこに浮かべた表情はとても恐ろしいものだ。
死の女神と言っても過言ではない。
レールディアもトゥリナも直感する。
アレが盾の勇者であると。
そこへ兵士達が跪いて泣き喚きながら、命乞いをしてきたのが2人に見えた。
命乞いをする兵士達を彼女は無表情に見つめ――そのまま兵士達はどこからともなく出てきた鎖により雁字搦めとなった。
「発動は見えたか?」
「いや、見えない。何だ、あの魔法は……?」
口が動いたのは2人には見えた。
だが、それは非常に短い。
詠唱はなく、ただ呪文名のみを唱えているようだ。
一応、そういうことはできなくはないだが、威力やその他諸々の点で、しっかりと詠唱した場合よりも劣るのが一般的だ。
稀に詠唱をせず呪文名を唱えただけで、とんでもない威力を出す輩もいるが。
それから更に2人は死の女神を観察する。
彼女の歩みは止まらない。
命乞いをする者は鎖で縛り、刃向かう者には等しく死を与えている。
メリエルの姿を常に捕捉し続けていることはできず、建物の陰に入ったりしてしまうが、彼女の進行方向には大広場しかないので問題はないと判断した。
大広場へと視線を移したところで、レールディアとトゥリナは目を丸くした。
教皇が兵士達や騎士達、あるいは信者達を集めていたからだ。
確かにその行動は作戦通りであったが、時期が違う。
教皇が死んだらこちらの負けである為、敵の排除がほとんど完了した段階――最終段階に教皇は出てくる筈だった。
何だかよく分からないが、ともかく自分達はタクトから託された真の目標――盾の勇者の説得もしくは確保を行うまでだ。
2人はこのまま状況を見守ることにした。
一方のメリエルは勇者らしく協力プレイの一つでもしてやろうかと考えていた。
だからこそ、彼女は敢えて遠くから覗き見している2人に攻撃を加えることはせず、好きにさせている。
念の為に、と対プレイヤーを想定した各種スクロールやアイテムを物陰で使用したことが幸いした。
その2人はレベル300超えの大物だ。
レベル300超えといえば、まさしくワールドエネミークラス。
その割には情報収集系魔法に関する対策が皆無であったが、逆に考えればそれだけの実力があるという自信の表れだとメリエルは考える。
強者の油断や慢心は余裕というものであるからだ。
おそらく、
さすがに初見のワールドエネミー、それも2体同時に相手取るのはメリエルとしても荷が重い。
何よりも
最悪、モモンガを本当に呼ばないといけない事態になる可能性もある。
メリエルは
メリエルがシルトヴェルト、それもラフタリアの部屋に出ると、そこではラフタリアがちょうど寝るところだったのか、パジャマ姿だった。
「め、メリエル様!? そ、その……」
何故かラフタリアは耳をぺたんとし、尻尾をぶんぶか振る。
彼女は何だか酷く動揺しているが、時間がないのでメリエルはさっさと告げる。
そうなっているのは医者から赤ちゃんのでき方を聞いた結果の反応であるということを、メリエルはすっかり忘れている。
ワールドエネミークラス出現の衝撃は大きかった。
「ラフタリア、出撃よ。戦闘準備」
「は、はい……はい?」
ラフタリアは目を丸くする。
「メルロマルクで革命騒動よ。
そう告げると、メリエルは
メルロマルクで革命騒動。ただちに戦闘の準備をするように、今すぐ迎えに行く――
フォウルとアトラに伝えたのは今後、彼らもパーティーに加えるつもりであったので、見学だ。
またメリエルはマルティに戦わせる気は毛頭ない為、彼女もまた見学である。
仰天した声やら何やら色々と返ってくるが、伝えることは伝えたのでメリエルは
そして、ぽかんとしているラフタリアに告げる。
「早くして」
「は、はい!」
急かすメリエルという珍しい光景に、状況は良くないとラフタリアは確信し、すぐに準備を始めた。
メリエルが全員を引き連れて、メルロマルクに再度舞い戻ったのは10分後のことだった。
「あの、フォウルさんとアトラさんは分かりますが、何でマルティさんも?」
「カッコいいところを見せてやろうという魂胆」
メリエルの返事に問いかけたラフタリアだけでなく、マルティ以外の全員がやれやれ、という顔になった。
急がせたわりに、意外と余裕があるんじゃないか、と。
「ちなみに、ボスとしてレベル300超えの奴らが出てくるから」
マルティとフォウルとアトラ以外の全員が真顔になった。
「良い? 作戦はこうよ――」
メリエルはそんな反応を無視して、さっさと作戦を説明し始めた。
そして、5分後、メリエルは作戦通りに1人で大広場方面へと向かう。
そちらに敵が集結している為に。