おや……? 盾の勇者の様子が……?   作:やがみ0821

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企業の死刑執行人

 三勇教による革命騒ぎとその顛末はメルロマルクの国中に瞬く間に広まった。

 ミレリアが影達を使って情報の浸透を早めたこともあり、また革命の鎮圧に大きく貢献したということでメリエルの功績がアピールされた。

 

 実のところ、メリエルは積極的にメルロマルクにおける自身の汚名返上には動いていなかった為、民衆の間ではリユート村での功績でちょっとだけ話題に上ったものの、その程度だった。

 

 強姦未遂を犯した危険人物が心を入れ替えて勇者をやっているという程度の認識がほとんどだ。

 基本的にメリエルはメルロマルクにおいては物の売り買いなどを除けば一般市民と会話することが全くなかった。

 色々と有益な話ができたのはマルティを除けばミレリアだけだ。

 

 とはいえ、手のひらを返すのも早いのが民衆である。

 革命の夜、被害が及びそうな場所からは逃げ出していた者達も多かったが、巻き込まれないようにこっそりと遠くからその様子を見ていた者達も多い。

 

 さすがにメリエルの戦域内には取り込まれていないが、それまでの戦いは目撃している。

 そして、目撃者の中には冒険者は勿論、魔法を生業とする者達も多くいた。

 

 彼らの多くは目を血走らせて、その魔法に見入った。

 あまりにもメリエルの使用する魔法が超越していたが為に、少しでも自分の魔法を高めることに役立てようと考えて。

 

 冒険者らも似たようなもので、人智を超えた戦闘に明らかにメリエルは圧倒的に格が違うことを嫌でも思い知ることとなった。

 

 彼ら専門家の証言もあり、メリエルは盾の勇者として認識されることとなった。

 とはいえ、異名みたいなものが多くつけられることになり、盾の勇者と呼ばれるよりも死の女神とか死の花嫁とか告死女神とか盾の大魔王とかで呼ばれるほうが多かった。

 

 死の花嫁というのは、ガチ装備のときの見た目が花嫁っぽいから、あと花嫁にしたい、と下心のある男達によるものだったりする。

 勿論、彼らも中身がヤバイことは知っているので、ちゃんと形容詞がついているのだ。

 

 そんな感じで民衆対策は進んでいたが、ミレリアにとってもはやメリエルはいなくてはならない存在になっていた。

 それは女のミレリアが必要としているという意味ではなく、女王として必要としているという意味だ。

 

 

 メリエルは復興資金として金貨1万枚相当の金塊をポンと出してくれたのだ。

 無論、金塊をそのまま放出すれば物価が大変なことになる為、それを担保としてあちこちの商人達から金貨を借り入れるという形になるが、担保できるものを提供してくれたことにミレリアからすれば感謝しかない。

 

 三勇教の総本山があった跡地には四聖教の大聖堂や関連施設を建設することをメリエルに約束した。 

 

 これらの動きと並行し、メリエルはミレリアから依頼された仕事を行っていた。

 その仕事とはずばり、レールディアとトゥリナへの聞き取り調査だ。

 

 そして、聞き取り調査の報告書がミレリアの下へメリエルから提出されたのだが――

 

 

「……流石ですね」

 

 ミレリアは感心してしまった。

 その報告書の内容は多岐に渡り、また詳細であった。

 タクト個人については勿論で、フォーブレイの内情、2人の蓄えてきた知識など有益な情報の宝庫だった。

 

 特にレベル100の限界を突破する儀式は戦力強化に有用だ。

 

 もうこれだけで爵位を授与するくらいの功績であり、メルロマルクが独占したいという思いしかないのだが、そんなことをすればシルトヴェルトとの全面戦争しかない。

 そして、全面戦争になったら、メリエルが横合いから茶々を入れて漁夫の利を得てにっこりと笑う姿まで容易に想像ができた。

 

 また、得られた情報はそれだけではない。

 タクトはどうやら複数の勇者の武器を所有者を殺して奪っているらしい。

 事実だとすれば到底看過できるものではない。

 

 課題が山積みであり、ミレリアは溜息しか出なかった。

 

 

 

 

 一方その頃、メリエルはというと色々と頼まれごとも片付いたということで、三勇者と城下町にあるレストランにて食事をしていた。

 彼女にとって三勇者は貴重なツッコミ役なので大事にしたいという下心がある。

 三勇者達にとってもメリエルに関しては非常に興味がある。

 

「メリエルさんって本当は何をしていた人なんだ?」

 

 元康が意を決して、問いかけた。

 対するメリエルはにこりと微笑む。

 

「それを知って、どうするのかしら?」

「ただの興味……と言いたいところだけど、メリエルさんって人を殺すことに躊躇がないことが気になって」

 

 元康の言葉に錬と樹もまた頷く。

 革命騒動のとき、彼らはレールディアやトゥリナとの戦闘だけではなく、それ以前から目撃していた。

 兵士や騎士が内部から爆発していくところを。

 メリエルは何の感情も浮かべることなく、淡々と実行していた。

 

 まるで事務作業でもしているかのように。

 

「NPCなんて何百万殺したところで何ともないでしょう?」

「嘘だな」

 

 錬が即座に否定した。

 

「あなたは、この世界をゲームとは思ってはいない」

「その理由は?」

「あなたの強さにある。もしもゲームだと思っていたなら、もっと好き放題にしている筈だ」

 

 錬の言葉に続けるように、樹が告げる。

 

「僕達はあなたの出身世界に惑わされていました。あれだけ酷い環境にある世界なら、精神も強いだろう、と。でも、それは違う気がします。かといって、あなたは無差別に殺人を犯すような異常者でもない」

 

 メリエルは微笑む。

 学生達が頑張って推理したのだと。

 

「で、私について教えたところで、私に何のメリットが?」

「あなたを信頼するというのはどうだろうか?」

 

 元康の問いに、メリエルは3人の顔をそれぞれ見ていく。

 あんまり接する機会はなかったが、今まで見たこともないくらいに真剣な表情だ。

 

 利益としては皆無に等しい。

 明かしたところで、彼らから得られるのは精々が余計な茶々を入れてこなくなるというものだろう。

 だが、それは現状でも達成できている。

 

「足りないわね。他に何かないの?」

「メリエルさんの指示に従うというのはどうでしょうか?」

「樹、それは今でも達成できていることよ。私の指示に従うのと、惨たらしく死ぬのだとどっちがいいって選択肢で、後者を選べるの?」

 

 その言葉に元康達はますます確信を深める。

 彼らにはある程度の予想がついていた。

 

 メリエルはマフィアのボスではないか――?

 

「選べませんね。ただ、どうでしょうか、あなたの正体を明かすことであなたにメリットはないでしょうけれど、あなたを楽しませることはできると思います」

 

 樹の返しに、メリエルは軽く頷いてみせる。

 

「確かに。あなた達が私の正体を知って、どういう反応をするか、というのはとても面白そうだわ」

 

 けれど、と続ける。

 

「あいにくと、その程度で口を割るようなら、生きていけない世界なのよ」

「予想だけは言ってもいいか?」

「どうぞ? 合っていたなら、ちゃんと答えてあげる」

「マフィアのボス」

「違うわ」

 

 メリエルの即答に元康達は渋い顔となった。

 そんな彼らを笑い、彼女は告げる。

 

「ま、波のときとかそういう場合はちゃんと協力してあげるわ。波への対処は勇者の仕事だから」

「都合の良いときだけ、勇者を持ち出してくるんだな」

「当然よ、錬。都合の良いところは切り取って使い、都合の悪いところは知らん顔。社会ってそういうものよ」

 

 汚い大人だ、と元康達はメリエルに対して感想を抱く。

 

「じゃ、また食事をしましょう。お誘い、待っているわ」

 

 メリエルは手をひらひらさせ、部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

「よろしいのですか?」

 

 食事の場であったレストランを出て、しばらく経ったところで、メリエルについている影が問いかけてきた。

 基本的に女王との連絡係兼護衛役の彼女が話しかけてくるというのは滅多にないことだ。

 

「よろしいのよ。あなたも、自分のことをペラペラ話したりはしないでしょう?」

「それは、そうですが……」

「それにもう終わった話だわ」

 

 メリエルはそう答え、歩みを進める。

 特に行く宛はない。

 

 影もそれきり黙ってついてくる。

 やがて、小さな公園のようなところに出た。

 

 その公園は住宅街の真ん中にあり、人工的に作られた、というには荒く、かといって自然が作り上げた、というには不自然な程度に人の手が入っている。

 

 近所の住民が暇を見つけて手入れでもしているのかもしれない。

 公園にはブランコなどの遊具は何もなく、樹木と花壇、あとはベンチ程度しかない。 

 メリエルはベンチに座って、周囲を見回していくつかの箇所で視線を止めた後、そのまま空へ視線を向けた。

 影もメリエルと同じく、周囲に視線を巡らせて見るが、誰もいない。

 

 空は青く、ところどころにある雲がゆっくりと流れているのが見える。

 

「……あなたは疎遠になったとはいえ、友人を殺したことはある?」

 

 唐突なメリエルの言葉。

 影以外に人はいないが為、自分に話しかけられていると確信する。

 

「ありません」

「プライベートと仕事は分けている?」

「はい」

「良いことだわ」

 

 メリエルは微笑み、思い出す。

 

 ナザリックでの日々だ。

 メリエルは仕事とプライベートを完全に分けている。

 プライベートには仕事は持ち込まないし、当然、仕事にプライベートは持ち込まない。

 

 だからこそ、彼女は自分に関することをゲーム内では一切話していない。

 企業の偉い人とか中間管理職とかそういう情報を冗談めかして告げた程度だ。

 

 ナザリックでギルメンが社会への不満、企業への不満その他諸々の不平不満を愚痴っていたとしても、聞かなかったことにしていた。

 ウルベルトはテロリストらしかったが、メリエルは悪にコダワリを持つ男としてしか扱わなかった。

 たっち・みーは現職警察官で、もしかしたらリアルに仕事で会ったことがあるかもしれなかったが、メリエルは特撮ヒーローオタクにしてライバルとしか扱わなかった。

 

 勿論、メリエルがオフ会に参加したことも一度もない。

 

 メリエルはゲーム内で知り得たギルメンの情報を仕事に活かしていれば、非常に有益であったとしても決して仕事に持ち込まなかった。

 仕事のとき、頭の中に浮かんできても、裏取りのないガセだと処理した。

 

 だからこそ、アインズ・ウール・ゴウンはギルドとして何事もなく続いたのだ。

 とはいえ、いずれ起こりうる残念な事態を早い段階からメリエルは予想し、それは的中した。

 

 

 ベルリバーの件だ。

 彼の案件は流出した情報のレベルが極めてマズイものと判断されたが為に、役員に指示され、メリエルが自ら指揮を執り、動いた。

 

 いつも通りに事故にみせかけて標的を処理し、押収したパソコンの中身を覗いてみたら、ギルメンのベルリバーだったことが判明した。

 その時は既にユグドラシルの終末期であり、基本的にモモンガ以外の者との関係は疎遠になっていた。

 ゲーム外で連絡を取るということをメリエルはしていない。

 モモンガも例外ではなく、彼ですら、メリエルの連絡先は最後まで知らなかった。

 

 ともあれ、メリエルは割り切っていた。

 こういう仕事をしていれば、友人や知人がそういう対象になる場合もある、と。

 

 

 

「別の者が言っておりましたが……我々と同じ仕事を?」

「さぁ、どうかしらね。少なくとも、あなた方のように、使命の為に動くというものではないわ」

「商会が運営する闇ギルド……ですか?」

 

 問いにメリエルは答えない。

 影はそれを正解だと確信する。

 

「我々の会社を舐めるな。お前達は大義や理想の為に死ぬのではなく、虫のように駆除されるのだ」

 

 歌うようにメリエルが突然告げた。

 そして、その黄金の瞳でまっすぐに影の仮面の中にある瞳を見据える。

 ただ見つめられたというだけなのに、影は寒気がした。

 

 まるで蛇にでも睨まれたかのように。

 

「ボスである私のところにまで、元気な状態で連れてこられるのは稀でね。だから敬意を称して、そういう言葉を送ってやったのよ」

「……物騒な方ですね」

「死刑執行人、権力の野獣、死神その他色々と名付けられたもんだわ。権力の野獣なんて部下達が名付けたのよ。失礼しちゃうわ」

 

 数百年も前の人物に手腕が何となく似ている、と部下達からは言われたもので、見た目も性格も全く違うというのに、彼のあだ名をもじって、権力の野獣という有り難くない異名をつけられた。

 

 そもそも件の人物と同じ性格をしていたならば、そういうことを言った連中は纏めて粛清しているが、メリエルはしなかった。

 敵対者には冷酷無比の死刑執行人だが、必要がなければ無差別に殺したりはしない。

 もっとも、必要があれば無差別に殺したりもするのだが。

 

 そして今、メリエルの関心事はフォーブレイであり、タクトであった。

 トゥリナとレールディアに飛行機の絵を描かせてみたら、戦闘機は大昔の日本の零戦に、爆撃機はこれまた大昔のアメリカのB17に似ている。

 

 WW2レベルであっても、この世界では脅威だ。

 また、どうやらタクトは側近の女達にはマスケット銃ではない、現代的な小銃っぽいものを配備しているらしい。

 

 悲しいことにメリエルが求めた古き良き戦列歩兵の戦いをすることはできないようだ。

 

 ならば、仕方ない。

 彼らと同じような土俵で戦ってやることにしよう。

 ウィッシュ・アポン・ア・スターの実験にちょうどいい。

 

 

「さて、頑張っている子達もいるし、行動で語りましょうか」

 

 メリエルはベンチから立ち上がった。

 影は目を丸くした。

 

 それはどういう意味で、と。

 影が問う間もなく、メリエルはさっさと歩いていく。

 

 そして、建物の陰となっているところで足を止め、そこを数秒眺めたが、視線を外して呟く。

 傍目から見れば独り言だ。

 勇気と頑張りに免じて、これまでのヒントに加え、特大のヒントをくれてやろう、というものだ。

 自分にメリットはないが、たまにはこういうのもいいだろう。

 

「私が所属していた部門の研修先は幾つかあるけれど、よく行ったのはバージニア州ラングレー(・・・・・・・・・・・)よ」

 

 メリエルは歩みを再開した。

 影はその後を追う。

 

 建物の陰となっているところを念の為に見たが、誰もいない。

 彼女はそのままメリエルについていった。

 

 

 それから数分が過ぎたところで、誰もいなかったその場に3人が現れた。

 彼らは隠蔽系のスキルで隠れていたのだ。

 三勇者であった。

 

 彼らは一様に、荒い息をし、顔色を青くしていた。

 メリエルがすぐ横で立ち止まったとき、その緊張はピークに達し、同時に、これまで経験したことのないプレッシャーを与えられた。

 それは悪さをして生活指導の教師に呼び出されて面と向かって怒られる直前の何百倍も恐ろしいものだった。

 

「バージニア州ラングレーって、何があるか分かるか?」

 

 どうにか息を整えた元康の問いに、樹は首を横に振ったが、錬は小さく頷いた。

 彼は告げる。

 

「CIAの本部だ」

 

 元康も樹も、すぐに意味を理解した。

 そして、自分達が本当にとんでもない人物に対して、やらかしていたことを悟る。

 錬は己の予想を2人に対して述べる。

 

「会話から考えると、おそらくメリエルさんは企業の暗部のトップだ。彼女の世界は国よりも企業が上にある。そして、そういった暗部を持てる程の企業となると、世界的な大企業だろう」

「三勇教に対するテロも、もしかして……?」

 

 樹の問いに、錬は告げる。

 

「メリエルさんがやったに違いない。やり口が巧妙だ」

 

 3人とも、件のテロ事件に関する調査報告については聞いている。

 実行犯は子供だが、黒幕は不明。

 独特な言葉を叫んだ後に子供が持っていた水晶が爆発したらしい。

 

 確かに、それを考え、実行に移せる意思を持てるのは一般人では無理だ。

 例えば元康達3人がメリエルと同じだけの力を持ち、テロを実行できるとしても、決して実行はしないだろう。

 

 最後の一線というもの――倫理や道徳――が阻止してくれる為に。

 

「……知らないほうが良いことだったが、それでもスッキリしたな」

 

 元康はそう告げた。

 彼からすればミステリアスとかそういうのを超えて、得体の知れない怪しさがあったメリエルの正体を知ることができた、というのは喜ばしいことだ。

 

「確かにそれはそうだが……」

「蓋を開けて出てきたのがドラゴンでしたよ。いえ、この場合は白頭鷲でしょうか……?」

「彼女は国家の所属ではないだろうから、白頭鷲ではないな。それに、それだけじゃない。おそらく研修先はモスクワのルビャンカやロンドンのヴォクソールにも……」

 

 なんだそれは、という視線を2人から向けられた錬は補足説明する。

 

「ルビャンカはFSB、いや、KGBといったほうが分かりやすいか? ヴォクソールはMI6だ。メリエルさんはそういうところでも研修を受けたんだろう。スパイの英才教育みたいなものだ」

 

 なるほど、と頷く2人。

 そこで樹は問いかける。

 

「ところで何で、そういうことを知っているんですか? まさかあなたも……」

「……かっこいいって思って、昔、調べたんだ……」

 

 錬は視線を逸らしながら、そう言った。

 かっこいいと思ったなら仕方がないな、と元康と樹は納得した。

 厨二病は誰しもが通る道、特に男ならば。

 

「というか、メリエルさん、普通に007みたいなんじゃ……やっべ、サイン貰おう」

「007というにはおちゃらけてますけど……」

「どっちかというと敵役だな」

 

 それだ、と錬の言葉に元康と樹は答え、3人で顔を見合わせて笑ってしまう。

 

「で、どうする? メリエルさん、想像以上にやべー人だったけど」

「特に変わりはないな。何かしらをやらかすのは既に体験している」

「ええ。スパイの親玉でした、と言われても、そうですか、としか返しようがないですね……元の世界でも色々とやらかしているでしょうけど、今更ですよ……」

 

 物騒なことしかしていない、というのは彼ら3人のメリエルに対する共通認識だ。

 正直、スパイの親玉で、殺人に対して抵抗はない、元の世界でも汚いことをやっている、と言われても、元康にしろ錬にしろ、樹と同じようにそうだろうな、というくらいの感想しか抱けない。

 

「ともあれ、俺達は俺達の仕事をするだけだ」

 

 元康の言葉に錬も樹も頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、彼らとは別のところではエレナとその同僚達が興奮気味に会話をしていた。

 エレナもまた三勇者との食事の件を聞きつけ、メルロマルクに潜入していた同僚達と共にメリエルがどういう話をするのか、隠蔽魔法を使って見ていたのだ。

 

 幸いにも彼女達は耳が良いので、レストランの外からでも十分だった。

 そして、レストランを出たメリエルの後を追ってきて、この公園で予想外の話を聞けた。

 

 自分達の同業者どころか、むしろ上司的な地位にあったという事実。

 シルトヴェルトの上層部からはメリエルの女になれ、とせっつかれていたが――エレナにしろ、同僚達にしろ命令ではなくても、喜んでそうするつもりだった――今回の情報は喜ばしいものだ。

 

 何しろ、不規則でハードな仕事だ。

 男と寝たことも一度や二度ではない。

 

 更には引退するにしても、守秘義務やら何やらの色々と面倒くさいものがある。

 盾の勇者とか強さとかそういうは勿論あるが、こういった仕事特有の事情もちゃんと分かってくれるかどうかが、何よりも彼女達にとっては重要だった。

 

 

 

 

 

 

 その頃、メリエルはミレリアの下へとやってきていた。

 とある提案をメリエルは彼女に持ってきたのだ。

 

「ミレリア、タクトは近いうちに彼の意志でとんでもないことをやらかす可能性があるわ」

「根拠は?」

「レールディアとトゥリナから聞き出したタクトの人物像よ。彼には明確な思想や行動理念……例えばあなたなら、メルロマルクを守る、国民を守る、といったようなものが存在しない」

 

 ミレリアは頷き、続きをメリエルに促す。

 

「判断基準も曖昧で、場当たり的なものよ。傍目から見ればフォーブレイの発展や、人助け、あるいは迫害されている者の受け入れと、行動に問題があるようには見えないけど、レールディアとトゥリナが言うには女を手に入れる為よ」

「……あなたも似たようなことをしていたりしませんか?」

 

 ミレリアはジト目で問いかけるが、メリエルは首を傾げる。

 

「私には私が面白いか、楽しいか、利益があるか、という3つの基準と女は愛でるもの、という考えで動いているわ。あと善人ヅラしていないし」

「それはそれで問題しかないような気がしますけど、まあいいでしょう。続けてください」

 

 ミレリアの言葉にむーっとした不満の顔をメリエルが見せると、ミレリアはくすくすと笑ってしまう。

 メリエルは咳払いをして、話を戻す。

 

「タクトは誤った正義感にでも駆られて、クーデターでも起こして、メルロマルクに戦争を仕掛けるんじゃないかしら? 近い内に」

「誤った正義感というのは?」

「簡単よ。彼が鞭の勇者で、更に複数の勇者の武器を所有しているらしいことは知っているわね?」

 

 問いに、ミレリアは頷いた。

 

「ここには四聖勇者がいる。その武器を奪おうとしてくるでしょう。勇者の武器を複数持つ自分は神であり、神である自分が世界を正しく導いてやろうとでも思いながら」

「愚かですね……」

 

 タクトがいかに強かろうとも、目の前にいる規格外の輩に勝てる光景は残念ながらミレリアには思い浮かばなかった。

 そこでメリエルは提案する。

 

「ミレリア、フォーブレイを潰せる案があるんだけど、どうかしら?」

「あなたが行って、潰してくるっていうのはナシですよ?」

 

 ミレリアの問いにメリエルは首を横に振ってみせる。

 そして、彼女は告げる。

 

「戦争をコントロールするのよ。メルロマルク一国が戦うなんて、そんなバカな話はない。損をするなら全員でそうするべきよ。フォーブレイが全ての国に対して戦争を仕掛けるよう仕向けるの」

「つまり?」

「内部の切り崩しと引き抜き、タクトには思考誘導を仕掛けるわ。同時に敵国の重要人物の拉致」

「具体的には?」

 

 メリエルはにっこりと笑う。

 

「内部の切り崩しとタクトの思考誘導の為にマルティを使うわ。彼女は、この仕事に最適よ」

 

 ミレリアは目から鱗であった。

 確かにマルティはタクトと過去に関係を持ち、その悪知恵の働き具合は天才的で、人を陥れることが大好きなのだ。

 

 ミレリアには容易に理解できた。

 マルティがタクトの女達に不和を撒き散らし、更にはタクト自身に対して言葉でもって彼の思考を誘導するのだろう。

 

 そして最後にタクトが破滅するところが見られればマルティも大満足、いい仕事をした、と実感するだろうことは間違いない。

 

「タクトの女達はなるべく交渉でこちら側に。シルトフリーデンの代表なんて大物もいるわ。交渉役はトゥリナに任せたい」

 

 メリエルの予想であったが、レールディアよりはトゥリナの方がそういうのは得意そうな印象を受けた。

 

「あと、拉致は私が行うわ」

「分かりました。支援などは必要ですか?」

「欲しいときに伝えるので、その都度頂戴……もし失敗したら、私が後始末をする。詳細な計画書は明日には仕上げて持ってくるから」

「草案状態なのですか?」

「いいえ、まだ頭の中」

 

 メリエルの答えにミレリアは呆れ顔をみせる。

 

「というわけで、動き出すから。仕事をするのは久しぶりだわ」

 

 そんなことを言いながらメリエルは手をひらひらさせ、転移していった。

 ミレリアは思う。

 

 メリエルが味方で、本当に良かった、と。

 単純な力の強さもさることながら、暗躍されたら外交的に身動きが取れなくなってしまったり、国の重要人物が次々と事故にみせかけて暗殺されてしまうことだろう。

 

 自分の身や娘達も差し出したが、それだけの価値はあったとミレリアは確信した。

 

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