おや……? 盾の勇者の様子が……?   作:やがみ0821

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フィトリアとの情報交換と共有と実力を示す

「盾の勇者様、波のこと、協力して」

「分かった」

 

 即答したメリエルに周りがずっこけた。

 

 グラスが連れてきた人型フィロリアルはメリエルが盾の勇者だとグラスが伝えるなり、言ってきたのだ。

 メリエルは二つ返事で引き受けてしまった。

 

「あの、メリエル様。どこのどちら様かくらいは確認した方がいいんじゃないでしょうか?」

「そうじゃぞ。見たところ、フィロリアルクイーンっぽいが……」

 

 ラフタリアとトゥリナのもっともな言い分にメリエルは鷹揚に頷いた。

 

「じゃあ自己紹介。世界のフィロリアルを統括する女王をしている、フィトリア」

 

 意外と大物であったので、メリエルは張り合うようにその豊満な胸を張り、告げる。

 

「我が名はメリエル! 盾の勇者にして大魔王の道を極めようとする者!」

 

 フィトリアは首を傾げる。

 

「大魔王? 盾の勇者様じゃないの?」

「盾の勇者です。変な人なので、重要な部分以外は聞き流してください。私はラフタリアです」

 

 ラフタリアの名乗りから、トゥリナにヴィオラ、フィーロにティアと名乗っていく。

 変な人認定されたメリエルは頬を膨らませていた。

 

「ドラゴンが一緒にいるのはイヤ」

 

 フィトリアはティアを嫌そうな顔で見つめ、そう告げる。

 

「フィーロはイヤじゃないよ?」

「あなた、フィロリアルなの?」

「フィロリアルだよー?」

「どうしてイヤじゃないの?」

「ずっと一緒だったから。私がお姉ちゃんだし!」

 

 フィトリアに答え、胸を張るフィーロ。

 しかし、そこでティアが待ったとばかりに声を掛ける。

 

「待って。お姉ちゃんはティア」

「違うよー? フィーロだよー?」

 

 むーっと頬を膨らませて見つめ合う2人にメリエルは咳払いをし、真顔で告げる。

 

「どちらがお姉ちゃんであるかに関しては諸説あります」

「盾の勇者様……変人」

「この常識人な私のどこに変人要素が?」

 

 メリエルの問いかけにトゥリナは告げる。

 

「変人は自分が変人であることに気が付かない……アレは変人にも当てはまる格言じゃったかなぁ」

「トゥリナ、あとで覚えてろよ」

「すごいな、あのときとは違って全く怖くないぞ……」

 

 そこでラフタリアが口を挟む。

 

「あのー、話が前に進まないので……」

「……ラフタリア、あなた、苦労人」

 

 フィトリアに同情的な視線を送られ、ラフタリアは優しさに涙が出そうになった。

 

「ともあれ、フィトリア。波に関してはこちらも協力するわ。ところで波ってもしかしてだけど、全世界で起きているの?」

「そう。人里の周りだけじゃない。フィトリア達が対処している」

 

 事実に一同は驚くが、メリエルは何となく予想していた為、そんなに驚きはない。

 ゲームじゃないんだから、都合良く自分達の周りで起きるだけが全てではない、と。

 

 メリエルは問いかける。

 

「波は世界同士の融合現象ってことは知っている?」

「……知らない。盾の勇者様はどうしてそれを?」

「ちょっと色々あってね。それと現七星勇者である、鞭の勇者が他の勇者を殺して武器を奪い、複数所持していることは?」

 

 フィトリアの目が驚愕のあまりに見開かれた。

 

「どうして鞭の勇者様はそんなことを?」

「それがよく分からないんだけど、過去にもそういう例とかは?」

「いがみ合っていたのはある。殺し合いもある。けれど、複数所持というのは知らない。そもそも勇者様の武器は1人1つしか所持できないはず」

「遠からず、四聖勇者の武器を求めて、そいつがこっちに戦争をふっかけてくるんだけど、どうすればいい?」

 

 フィトリアは難しい顔となる。

 

「……勇者同士がいがみ合うのはダメ。話し合いは?」

「試してはみるけれど、あまり期待はできないわね。理由としては、その鞭の勇者様の頭にはこっちを殺して武器を奪うことしかないような感じなので」

「むぅ……」

 

 頬を膨らませるフィトリア。

 メリエルは保護欲が刺激されて、すかさずにその頭へと手を伸ばす。

 

 しかし、フィトリアは素早く回避した。

 

「……やりおるな、お主」

「どさくさに紛れて頭を撫でるなんて、ダメ」

「けちー、フィロリアルー、雑食ー」

「フィトリアはフィロリアルだし、何でも食べる。好き嫌いはダメ」

 

 あれれー、なんかフィトリアもメリエル様と同じような感じがするぞー、とラフタリアとヴィオラは思った。

 一方、グラスとトゥリナは顔を逸らして、メリエルとフィトリアのいい具合のボケっぷりに笑いを堪えた。

 フィーロとティアはフィトリアの揺れる3本アホ毛を見つめている。

 

「ところで、槍と剣と弓の勇者を放っておいて、私のところに来たのは何で?」

「一番協力してくれそうだから。あと一番強い」

「ほらほら、聞いた? フィロリアルにすら広まる私の強さ、そして協調姿勢!」

 

 メリエルのドヤ顔にラフタリア達は呆れ顔だが、メリエルは気にしない。

 

「でも、他の三勇者を放っておいてはダメ。協力して」

「協力するに決まっているわ。ただ、ちょーっと怖がらせたけど」

 

 メリエルの言葉にジト目で見つめるフィトリア。

 

「私が楽できるなら……おっと、失礼。つい本音が」

「盾の勇者様、本当に勇者様? 勇者様っぽくない」

「トゥリナといい、フィトリアといい、失礼しちゃうわ……私の許可なく世界を勝手に滅ぼそうとするなんて、言語道断。だから世界を守る」

 

 フィトリアは溜息を吐いた。

 その反応を見て、メリエルは告げる。

 

「大魔王が勇者ってそれ最強って言われる奴だから、いいじゃないの」

「大魔王なの?」

「やってることは大魔王な気がしないでもない。でも勇者だから」

「ちょっと盾を見せて」

 

 フィトリアの問いに、メリエルは盾を前に出す。

 すると何やらフィトリアの3本アホ毛が淡く光った。

 

「……なるほど、そういうことだったの」

「何がそういうことなの?」

「四聖勇者の候補者は第三候補まである。あなたは第三候補、勇者としての資質は非常に高いけど、精神面に大いに問題あり。極悪非道の大魔王と盾の精霊が言っている」

「おいこの盾野郎! ぶっ壊すぞ!」

「そういうところ」

 

 フィトリアに冷静に指摘され、ラフタリア達もうんうんと頷く。

 でも、とフィトリアは続ける。

 

「盾の精霊も、あなたが結果としてみれば一番当たりって言っている。何をしてきたの?」

「……何ってそりゃねぇ……こう、私に舐め腐った態度を取ってきた連中を月までふっ飛ばしたり……」

 

 視線を逸らすメリエル。

 しかし、そこでラフタリアが告げる。

 

「勇者を利用していた怪しい宗教を潰したり、奴隷を解放してくださったりしました!」

 

 フィトリアはすかさず盾の精霊と交信し、理解する。

 色々と過程に問題があったが、結果としてはそうなっている。

 とはいえ、フィトリアにとっては人間や亜人がどうなろうが、世界が守られるならメリエルが波以外で何をしようが構わない。

 

「盾の精霊も、どんな苦境も理不尽も問答無用でしばき倒せる、あなたを選んだのは間違いじゃなかったって言っている」

「世の中に満ち溢れるそういうものをどうにかするには、残酷な程に圧倒的な暴力が手っ取り早いわ」

「……弱肉強食、間違いじゃない。けれど、それだけでもない。強者もいつかは弱者になる。絶対の強者は存在しない」

 

 フィトリアの言葉にメリエルは勿論だ、と頷いてみせる。

 しかし、とメリエルは獰猛な笑みを浮かべてみせた。

 

「この私が、いつまでも弱者のままであることに我慢できると思うなら、あまりにも無理解だと言わざるを得ない」

 

 そして、彼女は握り拳を作って、言葉を続ける。

 

「どれほどにどん底にまで落ちようが、私は必ず再起する。たとえ、死のうとも、絶対にそうする。諦めないという意志こそが勝利に必要不可欠よ」

「……往生際が悪い」

「往生際が悪かろうが何だろうが、最後に笑えればいいのよ」

 

 ドヤ顔のメリエルにフィトリアは溜息を吐く。

 

「色んな勇者様をフィトリアは見てきた。盾の勇者様……いや、メリエルみたいなのは初めて。精神が誰よりも強い」

「何でわざわざ呼び捨てに言い直したのか、詳しい理由を聞きたいんだけど?」

「フィトリアなりの認めた証。あなたは信頼できる」

「……あなた、眼科にでも行ったほうがいいんじゃないの?」

 

 むー、とフィトリアは思いっきり頬を膨らませるも、理由を伝える。

 

「あなたは自己中心的で、性格も悪い。だけど、話をすればしっかりと答えてくれる……終末の波が近づいている。勇者同士で協力して」

「終末というからには、これまでのお遊びとは桁が違う、と?」

 

 メリエルの問いにフィトリアは頷いた。

 

「分かったわ。三勇者をちょっと鍛える。味方は多ければ多い程いい」

「ほら、答えてくれた。そういうところ、フィトリアは良いと思う」

「いや、それは普通のことじゃない? 世界が無くなっては意味がない。それを防ぐことが最優先」

「それが分からない勇者様も多かった。亜人と人間がいがみ合ってもいいけど、勇者同士がそうしてはダメ」

「……歴代の勇者って、もしかして物事に優先順位をつけられなかったの? 勇者の仕事は世界を守ること。そこに勇者同士の好き嫌いを挟んじゃダメでしょうに」

 

 メリエルの言葉にフィトリアはつくづく、メリエルは勇者の中で一番マトモな考えであることを確信した。

 それができていたら、良かったのに、とフィトリアは思いつつ、告げる。

 

「できなかった。だから、それができるメリエルをフィトリアは認めた」

「なるほどね。とはいえ、まあ、私は他の勇者に好かれるというより嫌われる方なんだけどね」

 

 元々の生きてる環境が違うので、互いの意識にズレがある。

 世界を股にかけて、企業の利益の為に暗躍するのが仕事のメリエルと、極々普通の学生である他3人とでは意識のズレは当たり前といえば当たり前だ。

 また、誰だってテロリストみたいなことを仕事としてやっていた輩には近寄りたくないだろう。

 

「他の勇者はあなたをどう思っているかは知らない。けれど、本当に嫌われていたら、あなたの周りには誰もいない」

 

 フィトリアはラフタリア達へ視線を向けながら、そう告げる。

 メリエルは肩を竦めて答える。

 

「彼女達には給料を払っているからね」

「フィトリアにはお金を貰っているから従っているというようには見えない。フィトリアも、美味しいものをたくさんくれたとしても、嫌いな人と一緒はイヤ」

 

 なるほどとメリエルは頷いた。

 感情的な面から考えた場合、フィトリアの意見は一理ある。

 

 だが、会社勤めのツライところで、嫌いな奴とも一緒に仕事をしなければいけない。

 メリエルが嫌う奴、メリエルを嫌う奴、どっちも大勢いたが、それでも表面的には笑顔で軽口を叩きながら、協力して仕事はしていた。

 

 あいつが嫌いだから仕事しない、では当たり前だが通用せず、そうした奴が即解雇されて終わりだ。

 

 現状ではメリエルにとって盾の勇者とは仕事であり、その肩書によって得られる諸々の利益は給料みたいなものと考えていた。

 だからこそ、メリエルは他の勇者がどれだけ個人的に好きではなくても、その感情を飲み込んで仕事をするのは当たり前だと思っている。

 たとえ他の勇者達がどれほどにメリエルを嫌おうが、メリエルから他の勇者を嫌うことは基本的にはない。

 仕事上の同僚であり、円滑なやり取りが必要である為に。

 

 勿論、その勇者にタクトは含まれていない。

 たとえ仕事上の同僚だろうが、こっちを殺そうとしてくる輩に対して、対話だけで解決しようとは全く考えていない。

 解決が無理ならば後腐れのないように裏切り者として処理するだけだ。

 

 

 とはいえ、メリエルとしても勇者っぽい振る舞いというのには何となく憧れる。

 ネタで正義降臨なんてやってみたりするよりも、本当に純粋に勇者みたいな振る舞いだ。

 

「やっぱりもうちょっと私が若ければ……勇者っぽかったのかなぁ……学生時代にでも……」 

「勇者らしいメリエル様はメリエル様らしくないので、今のままがいいです」

 

 ラフタリアのフォローしているんだか、イマイチよく分からない言葉にメリエルは苦笑する。

 そして、フィトリアは視線を移す。

 

 じーっと彼女はフィーロを見つめる。

 

「な、何?」

「新しいクイーンの候補。フィトリアと戦って」

「ご主人様?」

 

 フィーロの問いにメリエルは軽く頷きつつも告げる。

 

「フィーロの後、私と戦って。たぶんトゥリナやレールディアよりも強そう」

「非常に不本意じゃが、わらわよりもフィトリアはおそらく強いじゃろうな。というか、そもそもわらわは謀りごとが専門で、前に出て戦うなんて本当はイヤじゃ」

 

 トゥリナの言葉にそりゃそうだろうな、とメリエルは頷く。

 メリエルから見てもトゥリナは前線でドンパチすることを好む性格ではないとは一目瞭然だ。

 

 タクトがトゥリナを参謀にして、謀略を仕掛けてきたら面倒くさいことになる可能性があったので彼のミスはメリエルとしては大歓迎だった。

 

 

 

 

 フィーロとフィトリアの対決はいつもラフタリア達が使っている訓練場で行われることとなった。

 大して観戦者などもおらず、せいぜいがシルトヴェルトの偉い人達が話を聞きつけて大急ぎでお供を連れて、伝説のフィロリアルクイーンがどんなものかと見に来たくらいだった。

 

 模擬戦の結果としてはフィトリアの勝利であったが、フィトリア曰く「予想していたよりも強い。合格」とのことで、クイーン候補としてフィーロは選ばれた。

 そしてフィトリアがアホ毛を授与しようとしたとき、メリエルが待ったを掛けて、詳しい説明を求めるとそのアホ毛こそクイーン候補の証みたいなものらしい。

 

「ご主人様はフィーロに変なの生えても大丈夫ー?」

「私は大丈夫。クイーンになるのはいいの?」

「ご主人様みたいに強くなれるなら、いいかなー」

「可愛いやつめ」

 

 うりうりとメリエルはフィーロの頭をぐりぐりと撫でる。

 フィーロは満面の笑みだ。

 

 それを何となく羨ましそうに見ているフィトリア。

 メリエルは、もしやと問いかける。

 

「……フィトリア、あなたも昔はご主人様がいたの?」

 

 問いにフィトリアは小さく頷いた。

 

 寿命なんだろうな、とメリエルは察する。

 触り程度であるが彼女もフィトリアに関する伝承は知っている。

 人間よりも遥かに長い時を生きているとか何とか。

 

 ご主人様との別れも経験しているのだろう。

 

 そこでメリエルは閃いた。

 悲しみにくれるフィトリアを優しく癒やすことは勇者っぽい行いではないか、と。

 

「……邪な気配を感じる。メリエル、何を考えている?」

「フィトリア、私が勝ったら、私のところに毎日ご飯を食べに来なさい。パーティーに入れとは言わないから」

「……? どういう意味か、理解できない」

「そのままの意味よ。メシを食いに来い。そんだけ」

「別に、それなら勝敗関係なく行く。美味しいものは好き」

 

 メリエルはガッツポーズ。

 とにもかくにも、一緒に食事をすることにより、打ち解けやすくなる。

 

 鳥の餌付けという言葉がメリエルの頭を過ったが、気にしない。

 

「それじゃ、勝敗どうこうよりも互いに実力を示すような形で」

 

 メリエルの言葉にフィトリアが頷いたのを確認し、今度はシルトヴェルトの偉い人達へとメリエルは視線を向ける。

 

「フィトリアとの戦いなんだけど、そろそろ私も一つ、シルトヴェルトの皆様方に実力を披露するにちょうどいいと思って」

 

 何だかんだでメルロマルクでしか戦ったことがないメリエル。

 シルトヴェルトは亜人の国であることから、弱肉強食の論理がメルロマルクなどの他の人間国家と比べると尊重されている節がある。

 シルトヴェルトにはゼルドブルと同じようにコロシアムもあり、日々、力に自信のある者達が競い合っている。

 メリエルはどれほどの実力があるのか、というのは上層部はエレナなどからの報告で知っていても、国民全てに広く知れ渡っているというものではない。

 

 

「というわけで、伝説同士の戦いってことでいいかしら? 興行収入的にも良いと思うのだけど」

 

 メリエルは偉い人達に笑顔で問いかけた。

 彼らの返事は当然、決まっていた。

 

「見世物にされるのはイヤ」

「まあまあ、そう言わずに」

 

 メリエルはフィトリアに対し、ユグドラシル産霜降りドラゴン肉を差し出した。

 無言でフィトリアはそれを口に咥えて、ゆっくりと咀嚼して飲み込んだ。

 

 フィトリアは告げる。

 

「……メリエルの実力を皆が知るのは必要なこと」

 

 鳥の餌付けという言葉が2名を除いて頭に浮かんだが、見なかったことにした。

 なお、その2名――フィーロとティアは物欲しそうにメリエルを見つめていた。

 見つめられたメリエルは2人にもフィーロにはドラゴン肉、ティアには牛肉を与えた。

 

 

 

 

 

 僅か2時間。

 コロシアムでメリエルとフィトリアの模擬戦の準備が整えられる為に要した時間だ。

 コロシアムは超満員であり、立ち見ですらもぎゅうぎゅうのすし詰め状態だった。

 

 場内の歓声に手を振って答えながら、メリエルはフィトリアと対峙する。

 

「……フィロリアルの姿なのね?」

「こちらの方が動きやすい」

 

 大きな鳥の姿でありながら、声は変わらない。

 なんとも言えないギャップがあり、メリエルはあることを考える。

 

 フィロリアルをたくさん育てればもふもふふわふわで、パラダイスになれるのでは?

 フィーロやフィトリアみたいなのがいっぱい、それはまさにこの世の楽園なのでは?

 

 メリエルはこの後、フィロリアルの卵を買い占めようと決めた。

 

「じゃあ、行く」

 

 フィトリアの言葉にメリエルは軽く構えた。

 まだ彼女はおしゃれ着姿であり、唯一の装備といえそうなものは盾程度だ。

 

 フィトリアが動いた。

 彼女が動いた瞬間、あまりの速さに轟音が響き渡る。

 レールディアやトゥリナとは桁違いの速さでもって、メリエルに迫り、そして――

 

 その全身を爪でもって切り裂いた。

 メリエルは体中から鮮血が吹き出し、地面を赤く染める。

 

 会場が沈黙で包まれた。

 

 特にラフタリア達の衝撃は凄まじい。

 メリエルの規格外さをこれでもかと知っている為に。

 

 目を見開き、言葉を失ってしまうその状況。

 しかし、フィトリアは気づいていた。

 

「どうして、避けなかったの?」

 

 静まり返ったコロシアムに響くフィトリアの声。

 その問いに観客達がざわめく間もなく、メリエルは全身血だらけにしながら告げる。

 

「どの程度、痛いか知りたかったからよ。あなた、強いわね。だいたい3%くらい、私の体力を消耗させたわ」

 

 そこで、フィトリアは気がついた。

 メリエルから出血が止まっていることに。

 それどころか、服に隠れていない部分にもあった傷口が急速に塞がっていく。

 

「自動回復?」

「あら、そういう概念はこちらにもあるのね」

「勇者様でそれができるのを見たのは初めてかもしれない」

「それは良かったわね」

 

 呑気に会話する2人。

 しかし、観客達は早くもメリエルの規格外さを理解し始めていた。

 

 

「傷の回復って……」

「流石はメリエル様……」

「これでシルトヴェルトは安泰だ」

 

 そんな声がラフタリア達、メリエルのパーティーメンバーにも聞こえてきた。

 それだけならいいんですけど、というのがラフタリアの偽らざる本音だ。

 

「さぁ、今度は私から行くわよ」

 

 フィトリアは身構えたが、メリエルは笑みを浮かべ、怒涛の魔法攻撃が始まった。

 

 

 

 

 観客達は完全に魅せられていた。

 メリエルは次々とド派手な魔法の数々を繰り出し、それをフィトリアは目にも留まらぬ速さで回避していく。

 地面から巨大な土の槍が生えたり、氷柱が飛んだり、炎の柱が立ち上ったり、黒い茨が生えたり、雷が落ちてきたり、竜巻が起きたりとどれもこれも儀式魔法クラスだった。

 

 魔法攻撃は20分程続いたが、そこからは近接戦闘だった。

 フィトリアの爪とメリエルの剣や盾が激突する。

 

 ぶつかり合う度に衝撃波が巻き起こり、両者の力の強さが観客達に如実に伝わる。

 幾度もぶつかり合ったところで、両者はそこに魔法を加えた。

 

 フィトリアの爪とメリエルの剣がぶつかり合い、更にそこに両者はすかさずに魔法を唱え、互いに互いの魔法を回避したり、魔法でもって防御する。

 あるいは魔法に対して同属性の魔法をぶつけて相殺し、互いに爪と剣でぶつかり合う。

 

 物理攻撃と魔法攻撃を高度に、かつ柔軟に組み合わせた戦闘に観客達は度肝を抜かれた。

 

 伝承にあるフィロリアル・クイーンの強さは勿論のこと、盾の勇者であるメリエルの強さを十分に彼らに見せつけることに成功したのだった。

 

 

 

 

 




見ていたトゥリナ「あの鳥強すぎ笑えない」
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