おや……? 盾の勇者の様子が……?   作:やがみ0821

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混ぜるな危険

 メリエルは非常に忙しかった。

 クラスアップを行い、レベル上限が解放されたラフタリア達との模擬戦に励み、世界のどこかで波が起これば、フィトリアが呼びに来て、彼女と共にメリエルはラフタリア達を連れて、波を殲滅しに行く。

 ついでに約束通りにメリエルは毎食フィトリアに――彼女が引き連れているフィロリアル達にも勿論――料理を提供し、その食べる姿に存分に癒やされたりする。

 

 嫁や妾にどうですかと、紹介された色んな種族の姫や貴族の令嬢といった女の子達とイチャイチャし、合間合間にクラブに通い、ママをはじめとした女の子達と店外デートに繰り出す。

 

 そんな具合にほどほどに爛れた生活を送っていたが、メリエルはフォーブレイの案件に関して抜かりはない。

 タクトと共に住んでいる女達を粗方引き抜いたメリエルは、一緒に住んではいない女達や彼の派閥に属する者達の引き抜きを実行している。

 それだけではなく、メルロマルクのミレリアやシルトヴェルトの代表達、シルトフリーデンの代表としてのネリシェンとも協議を重ねて、タクトに関する件について、関係各所に十分な根回しを行っていた。

 

 そのような中で、メリエルはタクトに関する最終的な解決の為、フォーブレイ王との会談に臨むこととなった。

 

 

 

 

「フォーブレイ王、この度は私の呼びかけに応じて頂き……」

「あー、そういうのはいらん。ワシとそなたの仲ではないか!」

 

 フォーブレイの王、通称豚王は豪快に笑う。

 彼との橋渡し役はマルティとネリシェンであり、早い段階でメリエルからの書簡が豚王に届けられていた。

 

 その書簡はとてもではないが、一国の王に宛てた内容とは言い難く、変態が変態に対して、こういうプレイとかこういう女っていいよね、という変態的な内容だった。

 豚王はメリエルを同好の士であると即座に見抜き、彼は嬉々として彼女との書簡のやり取りを始めた。

 

 日によっては1日のうちに10回近く、書簡のやり取りが行われ、あっという間に2人の仲は深まった。

 

 今回、こうして会談が実現したのもメリエルの謁見したい、という要望に豚王が快諾した為だ。

 

 一応、謁見の間ということもあって、豚王は女を侍らせたりはしていない。

 

「じゃあ、普段通りに……まずお願いなんだけど、いらなくなった女、壊れていていいからくれない? 興奮するので」

「ちょうど廃棄に困っているのがいっぱいいる。勿論、やるぞ。ただし、ヤルときは映像に撮ってくれ」

 

 メリエルはサムズアップ。

 豚王もまたにっこり笑顔でサムズアップ。

 

「で、今度は政治の話なんだけど、タクトが近いうちにやらかすわ。クーデターを起こさせるので、うまく立ち回って欲しい」

「ふむ……奴は何だかんだで有能じゃ。証拠に関しては?」

「他の勇者を殺して、武器を奪っているわ。証拠は山程あるし、何なら目撃者も多数いる」

 

 豚王は感心したように頷いてみせる。

 

「それが真ならば、とんでもないことだな。我が国の最善の立ち回りは?」

「彼には世界の敵として死んでもらうってのはどうかしら? その過程で、彼の一派を炙り出せる。ついでにそれ以外の膿も」

 

 即答するメリエルに豚王は意味を察する。

 タクトがやった功績は大きいが、その分、負の遺産も多い。

 

 後の影響を考えずに単純に力で解決してしまうことも多く、後始末には豚王も手を焼かされたこともある。

 

 基本的に豚王は女癖を除けば、見た目に反して可もなく不可もない、普通の王だった。

 目立った功績はないが、かといって致命的な失点もない。

 民から慕われているわけでもないが、酷く嫌われているというわけでもない。

 

 豚王は色んなことをタクトに押し付けることに決めた。

 全部タクトが悪いんだ、とそれで押し通すつもりだ。

 その為には、彼は加害者であり、自分は被害者となる必要がある。

 

 そこまで彼が考えていると、メリエルが言葉を紡いだ。

 

「それと、タクトと一緒に住んでいる女達は粗方引き抜いた。他のシンパも引き抜ける連中は引き抜きつつあるから」

「手回しがいい。どうじゃ? フォーブレイとも関係を持たんか?」

「喜んで」

「そなたと相性が良さそうな、ちょうどいいのがいる。ワシの長女でな。第一王女なんじゃが、ワシに似て性癖が中々受け入れられなくて」

「具体的な情報を教えて」

 

 問いに豚王は告げる。

 

「うむ。あやつは三十路手前だが、顔もスタイルも最高……とはいえ性癖が特殊でな。男嫌いで、女好き」

「私のことは?」

「無論、話をしてある。両性具有というものに興味津々じゃったぞ。見た目が女性なら生えていてもいいとか何とか……」

「今度、会いたい」

 

 そう言って、メリエルはサムズアップ。

 豚王も行き遅れている長女の相手が見つかり、満足してサムズアップ。

 

「他にも女の子がいたら頂戴。未亡人とか貴族の令嬢とか貰えるものは貰うので」

「無論じゃ。ただし、見たいので撮影をしてくれ。それと我が国に利益をくれ」

「私、自分の女の母国にも利益を与えることにしているのよ。そこは安心して欲しい」

 

 豚王は満足し、頷く。

 

「ところで、その……ものは相談なんじゃが……なんかこう、いい感じの薬はないか?」

 

 問いにメリエルは察する。

 これまでの書簡でのやり取りから彼女は彼の言葉の意味を容易に理解できてしまうのだ。

 

「……美女とか美少女になる薬という意味でよろしいか?」

「そういう意味でよろしいぞ。ワシの理想、それはワシ自身がワシの理想の女になることだ! そして美女を嬲る! これは最高ではないか!?」

「生える薬は?」

「勿論くれ。もうワシ、何でもそなたにしてあげちゃう。フォーブレイ、全面協力。そこらの女、攫っていいよ法律作っちゃう」

「根回しはしっかりしておきなさいよ?」

「無論じゃ。まあ、幸いにも家臣共はワシの性癖を熟知しておる。目の前で飲んでみせれば納得するじゃろ」

 

 家臣の皆さんの苦労をメリエルは察したが、豚王を止める気は全くなかった。

 そして、善は急げとばかりに豚王はすぐさま主だったタクトの息がかかっていない家臣達を集め、そして、メリエルの立ち会いの下、美しさの薬――名前の通り、美しさを上げる薬――をまず飲み干した。

 

 お肌がツヤツヤスベスベ、全体的に血色が良く、健康的な体となった豚王が現れた。

 豚王のまま、美しさの薬の効果通りに美しさが上がった。

 

 家臣達は目が潰れそうになったが、すぐにメリエルが彼の口に性転換薬(両性具有)の入った瓶を押し込んだ。

 ごくごくとそれを飲み干すと、豚王の体はみるみるうちに変化し――現れたのは背の高い銀髪の美女だった。

 

 美しい顔、白い肌と豊満な胸とすらっとした手足。

 豚王が纏っていた衣服はぶかぶかとなって滑り落ちていくが、大事なところはうまい具合に隠れた。

 衣服の大きさが半端ではなかったことが幸いし、今の豚王はローブを纏ったような形となっている。

 

 豚王にすかさずメリエルは手鏡を差し出した。

 

「……美しい」

 

 その口から出た声もまた、美しいものだった。

 

「とりあえず、言葉とか名前とか色々変えるところから始めなさいよ」

「分かった。メリエル、そなたはまさにワシの恩人じゃ! どうじゃ!? ワシと一晩! 普通にやるぞ!」

「ちゃんと女としての振る舞いを身に着けたらいいわよ」

「ぐふふふ……女神のようなそなたを抱ける日が来るなんて……というか、ワシがメリエルに嫁入りすれば万事解決では?」

 

 王様――もとい、女王様が不穏なことを言い始めたので、家臣の1人がおずおずと告げる。

 

「陛下、その、国民へはどう説明を?」

「水晶で映像を記録している。それをただちに国内全土、そして各国へと示すのじゃ。フォーブレイは新たに生まれ変わる! あ、でもタクトには知らせてはならんぞ」

「はぁ……そうですか……たぶん、彼に知られないというのは無理だと思いますけど……」

 

 疲れた顔の家臣。

 彼だけでなく、他の家臣達もげんなりとした顔だった。

 そんな彼らに豚王はドヤ顔で告げる。

 

「お主らも、ワシみたいな美女に仕える方がいいじゃろ?」

 

 家臣達から溜息が聞こえてきた。

 美女であることに異論はない。

 だが、以前を知っているが為に、豚王のイメージがちらついてしょうがなかった。

 

「ワシらは被害者、タクトは加害者。これこそ、大義は我らにあり。奴を合法的に始末するにはちょうどいい」

「最初に撃たせてやれば、反撃でぶっ殺してもどこからも文句は出ないものね」

「そういうことじゃ」

 

 ぐへへへ、と美女達が怪しく笑い合う。

 何も知らなければ目の保養にでもなるだろうが、家臣達は片方は豚王、もう片方は豚王と同じくらいの変態であることを知っていたので、目の保養どころかこれからのことを思い、溜息しか出なかった。

 

「近いうちにこっそりと会談を行って欲しい。相手はメルロマルクの女王、シルトヴェルトの代表達、あとシルトフリーデンのネリシェンよ」

「戦争と戦後に関してじゃな? うむ、分かった。日時や場所、その他一切はそなたに任せる」

「任せて」

 

 こうして、フォーブレイの王との会談は無事に終了した。

 タクトの件は勿論のこと、何よりも同好の士の願いを叶えたのは善行であるとメリエルは大満足だ。

 豚王が美女へとなった映像はすぐに公開され、あちこちが大混乱に陥ったのは言うまでもない。

 豚王は特に気にしなかったが、メリエルとしてはその大混乱は狙っていたものだ。

 

 あのフォーブレイの王が美女になったという衝撃が強すぎて、なぜ、フォーブレイの王に四聖勇者の1人であるメリエルが謁見したのか、どういう目的があったのか、というところをメリエルの狙い通りにうまく覆い隠してしまった。

 同席していた家臣達も、あの時のことは衝撃が強すぎてなるべく思い出したくないということで、誰もが皆、口を固く閉ざした為に漏れることがなかった。

 

 

 なお、豚王の一件を知った大勢の変態達が自分もメリエルに頼んで美女や美少女、美幼女、あるいは両性具有にしてもらおうと己の欲望を胸に秘め、シルトヴェルトに押しかけてくるのはそう遠くない未来の話だった。

 

 

 

 

 

 豚王との会談を終えたメリエルは今度はメルロマルクへと赴いて、ミレリアとの会談を行った。

 彼女には作戦開始から事細かにメリエルは報告をしており、今回のフォーブレイの王との会談について報告し、また会談の日程等について協議する。

 それらが終われば、休むことなくシルトヴェルトへと行き、代表達とフォーブレイ、メルロマルクでの会談について報告し、日程等の協議を行う。

 

 最後にメリエルはシルトフリーデンに戻っているネリシェンの下へと行き、これまでのことを報告し、会談の日程等について協議する。

 それらが終わった後、ネリシェンが誘ってきたので、そのまま頂いて、メリエルはようやく、シルトヴェルトの拠点としている屋敷に帰ってきた。

 

 いつまでもシルトヴェルトの城にお世話になるのもダメだろう、ということでメリエルがタクトに関する工作を始める直前に屋敷を購入したのだ。

 

 

 

 

「何で私、外交官みたいなことやっているの?」

 

 メリエルは気がついた。

 気楽なニート生活を満喫していた筈なのに、いつのまにか主要国を飛び回って、仲介と利益の調整、日程すり合わせなどまで行っていると。

 最近では各国の事務方とも仲良くなってしまい、勇者としてではなく、他国との仲介役みたいな感じで接待を受ける始末。

 

 個人用の連絡端末とかそういうのがなくてよかった、とメリエルは心から思う。

 もしもそんなのがあったら、それこそリアルと同じか、それよりも多く各国から連絡が入ってきただろう。

 

 

「お疲れ様です、メリエル様」

「私のタヌキちゃん。ねぇ、どうして私、働いているの?」

「従者としては真面目に仕事してくださっているようで、本当に嬉しいです」

 

 にっこり笑顔でラフタリアに言われ、メリエルは不満げに頬を膨らませる。

 

「いやこれ、明らかに勇者の仕事じゃないわよね? 勇者の仕事って波をぶっ殺して終わりよね?」

「それはそうですけど……そもそも自衛の為とはいえ、ちょっかいを掛けたのはメリエル様ですし……」

「まあ、そうなのよね。実はすごーく簡単で、私が行ってタクトとかその他色々を纏めて始末すれば終わる話なんだけど……」

「何でそうしないんですか?」

「私が面白くないので」

「自業自得ですね」

 

 ばっさり斬り捨てられ、メリエルはベッドに倒れ込んだ。

 

「とはいえ、メリエル様のおかげで、今回の一件をきっかけに、メルロマルクとシルトヴェルト、更にはシルトフリーデンとシルトヴェルトも関係改善ができそうですし、いいんじゃないですか?」

「まぁそうね。過去の遺恨を乗り越えて、なんて言えば聞こえはいいけど、要は戦後の利益の為に仲良くやりましょうってのが真相だけど」

 

 はて、とラフタリアは首を傾げる。

 戦後の利益ってなんだろう、と。

 彼女の疑問を見透かしたように、メリエルは答える。

 

「フォーブレイも実質的に味方であって、敗戦国にはならない。ただ、どうもタクトの奴、莫大なカネを溜め込んでいるみたいでね。それとは別に色々と私も支援を約束しているし」

「メリエル様の支援はともかくとして、お金を溜め込んでいるんですか?」

「そうなのよ。情報源はネリシェンで、隠し場所とかも知っているって。ま、それを皆で分け合って、ついでに戦争で体制側にとって過激な連中を皆、最前線送りにして処理すれば万々歳ってね」

 

 ラフタリアはえげつないやり方に渋い顔になった。

 とはいえ、有効な策であることは彼女も理解できる。

 

「戦後の枠組みはもうおおよそ決まっている。戦争ってのは始まる前から諸々の調整をしておかないと、あとでぐだぐだになるのよね。メルロマルク、シルトヴェルト、シルトフリーデン、フォーブレイ、この4カ国が世界を引っ張っていくことになる……ただ、ゼルドブルも滑り込んでくるかも」

 

 シルトヴェルトの代表達によれば、ゼルドブルも動きを掴んだらしく、一枚噛ませて欲しいと水面下で接触してきたとのことだ。

 

「ゼルドブルですか?」

「ゼルドブル。てっきり、中立を保ってどっちにも物資やら傭兵やらを供給して丸儲けをするって予想していたのだけど」

「メリエル様のことを知っていれば、それが悪手だと理解できると思いますよ」

「あら、よくご存知ね」

「おかげさまで」

 

 ラフタリアの言葉にメリエルはくすりと笑う。

 

「戦争となると私は容赦しないから。裏で敵に支援なんてしたら、速攻で経済制裁を食らわせて、座ったまま死ぬか、戦って死ぬかの二択を突きつけてやる」

「いきいきとした顔で凄いこと言ってますね……」

 

 やれやれ、とラフタリアは溜息を吐いた。

 

「そういえばリファナとキールは元気?」

「元気ですよ。リファナちゃんもキールくんも、メリエル様の力になりたいって訓練してますけど」

「リファナちゃんのあの小動物的可愛さは凄い」

「私はどうですか?」

 

 拗ねたような顔で問いかけるラフタリアにメリエルはにっこり笑う。

 そして、彼女はラフタリアの顔を自分の胸に埋めさせて、そのまま頭を撫でる。

 

「もう可愛いんだから。ラフタリアは生真面目で可愛いと思う」

「えへへ……」

 

 メリエルに抱きしめられながら、頭を撫でられ至福の一時をラフタリアは過ごしていると、フォウルがやってきた。

 

「あ、トラさん」

「フォウルだ! 全く合っていないし、変な感じがするからその呼び方はやめろ!」

「冴えたツッコミ、さすがね。で、私はタヌキチちゃんと戯れるのに忙しいんだけど、何か用?」

「アトラのこと、責任を取れ」

 

 メリエルは首を傾げる。

 全く身に覚えがない。

 そもそもアトラの傍には必ずフォウルがいる。

 何よりも、健康になったアトラは色んなものを見たがり、それにフォウルは連れ回されていた。

 そして、メリエルがあちこちを飛び回っていることもあって、最近は全く会っていない。

 

「俺だってアトラを治してくれて、生活の面倒を見てくれていることは感謝する……あと、何故か差別とかそういうのもないし……」

「経歴とか出生とかを抜きに、私のものに手を出したら、どうなるかは分かっていると思うので」

「……お前、本当に大魔王だな。ともあれ、そんなお前にアトラが夢中なんだ。あちこち行っているが、メリエル様と来たいなーってよく言っていて」

「単純といえば単純だけど、私のやっていることって神とかそういうもの染みているので、そうなるのも無理はないなと思う」

 

 呑気に感想を述べるメリエルにフォウルはジト目で見つめる。

 

「お前、もうちょっと自分の万能性をだな……」

「これ、私が頑張れば女の子100万人ゲットできそう」

「お前、バカだろ? 頭がいいけど、バカだろ?」

「失礼な。ちゃんと丁寧に御馬鹿と言いなさい」

 

 何なんだこの掛け合いは、とラフタリアは思ったが、メリエルによる頭の撫で撫では続いているので、特に問題はない。

 

「ともあれ、アトラのことを大事にしろ。お前なら……まあ、認めるのもやぶさかではない」

「強がっているけど、このフォウル君。私はデコピン1発で木っ端微塵にできます。あと生活費の支払いを止めれば彼は体を売るしかなくなります」

「この外道がぁ!」

「フォウル君みたいな子って、女は勿論だけど男にも一定の需要があるので……じゅるり」

「わざとらしく口で舌なめずりするような音を出すな! 俺は帰る! こんなところにいられるか!」

 

 ずんずんと扉へと歩いていくフォウルにメリエルは告げる。

 

「アトラのこと、悲しませることはしないので」

 

 フォウルは立ち止まり、殺気の篭った視線をメリエルへと向け、告げる。

 

「当然だ。そうしたら殺す。絶対に殺す」

「あまり強い言葉を使うな。弱く見えるぞ」

「うるせー! 知らねー! このド変態馬鹿女!」

 

 叫んで、フォウルは部屋から出ていった。

 

「……うーん、面白い」

「あんまりからかうと可哀想ですよ」

「じゃあラフタリアを愛でることにする。耳も尻尾も覚悟しろよ」

 

 ぐへへへと怪しく笑って、メリエルはラフタリアの耳と尻尾を存分に堪能した。

 ラフタリアは耳と尻尾だけであったことに不満だが、気持ち良かったので満足した。

 

 

 

 

 

 ラフタリアとの一時の後、心地よさに寝てしまった彼女を置いて、メリエルは夜食を食べようと思った。

 なので、フィトリアを伝言(メッセージ)で呼び出した。

 フィトリアの食べる姿はフィーロとはまた違った癒やしがある。

 フィーロとフィトリアが並んで食べる姿は、まさに至高の癒やしであったが、既にフィーロは夢の中であった為、今回はフィトリアだけだ。

 

 もぐもぐと頬張って咀嚼するその姿にメリエルはうっとりとしていたが、そんな中、あることを思い出す。

 

「カースシリーズって何? フォーブレイで歴代の勇者について調べてたら、出てきた単語なんだけど」

 

 どうしてフォーブレイの王族は性格に問題があるのばかりなのか、その答えを探る為、メリエルがフォーブレイの図書館で暇な時間に勇者について調べていたら、出てきた単語だ。

 

 問いに、口の中のものをごっくんと飲み込んで、フィトリアは答える。

 

「使っちゃダメ」

 

 フィトリアの問いに、メリエルはすんげぇいい笑顔を浮かべた。

 使う、というとてもわかり易い意思表示だった。

 

 フィトリアは、深く溜息を吐く。

 

「そんな力に頼らなくても、あなたは強いから」

「使っちゃダメって言われると、使いたくなるんだけど、どうやって発動させるのか分からない」

「……あなたでは無理だから」

 

 フィトリアの言葉にメリエルはすんげぇ不満そうな顔になる。

 廃人相手にそういう言葉を使うと何が何でもやろうとするのだが、フィトリアにはネトゲ廃人の気持ちは分からない。

 

 カースシリーズが解放される条件はシンプルなものだ。

 勇者に自ら死を選ぶに至る程のトラウマや強い負の感情を糧によりカースシリーズが発動する。

 

 しかし、フィトリアにはメリエルがそうなるところがどうしても想像できない。

 というか、そもそもメリエルが負の感情を抱くときって、それ世界の滅亡なんじゃ、という思いからフィトリアは無理だと告げた。

 

 カースシリーズが発動するほどの負の感情をメリエルが抱いたら、自前の力で世界を終わらせているのは想像に難くない。

 

「教えてくれないの?」

「ダメ」

「ふーん……」

 

 メリエルは椅子から立ち上がり、フィトリアの横へと回り込んだ。

 

「……フィトリアの口を割らせようとしても無駄」

 

 そう告げるフィトリアにメリエルは両手をわきわきさせ、そのままフィトリアの両頬に自らの両手をあてた。

 その動きは無駄に素早く、フィトリアをもってしても捉えられなかった。

 逃げようとフィトリアが思った、その瞬間――

 

 メリエルはフィトリアの頬を手で優しく揉み始めた。

 

「教えてくれないとほっぺむにむにの刑よ!」

「ひゃめて!」

 

 むにむにむにとメリエルはフィトリアのほっぺたを揉みまくる。

 長生きしていようとも、子供のようなもちもちほっぺ。

 メリエルは、その感触に大いに感動する。

 

「さぁ、教えなさい!」

 

 メリエルは10分くらい、フィトリアのほっぺたを堪能した。

 

 

 

「……いじわる」

 

 フィトリアは涙目でメリエルを睨んだ。

 しかし、それだけだ。

 フィトリアは逃げようとしていない。

 彼女はほっぺたを揉まれながら――とても揉み方が優しくて、何だか気持ち良かった――考えた。

 

 変なタイミングで万が一カースシリーズが発動して、大変なことになるよりも、あらかじめ教えておいたほうがやらかさないのではないか、と。

 

「分かった、教える。でも、使っちゃダメ。代償が……代償……代償がある……のかな?」

 

 フィトリアは思った。

 発動するタイプにより色んな代償があるのだが、そもそもぶっ飛んでいるメリエルにとって、代償は代償になるのだろうか、と。

 むしろ、今とあんまり変わらないのでは、と思ってしまった。

 

「いや、私に聞かれても……で?」

「勇者が自ら死を選ぶ、または死に至るほどのトラウマや、強い負の感情によってカースシリーズは発動する」

「死を選ぶとかトラウマは無理なので、強い負の感情を頑張ってみます」

「頑張らないで」

 

 至極もっともなツッコミにメリエルはけらけら笑う。

 そのとき、彼女は気がついた。

 

 負の感情――カルマ値。

 カルマ値をマイナスにすれば、いけるんじゃね、と。

 

「フィトリア、ちょっと実験がしたいので」

「……フィトリアも立ち会う。イヤだけど、止める役は必要」

 

 フィトリアは回し蹴りをしてみせる。

 見た目からは想像もできないくらいにその蹴りは鋭く、洗練されていた。

 

 そんなこんなで食堂ではなく、庭で実験となった。

 すっかり真っ暗であったが、メリエルもフィトリアも暗闇でも昼間と同等の視界を得ることができるので問題はない。

 

「よっしゃ、じゃあ、いきます!」

「いつでもこい」

 

 メリエルの宣言にフィトリアは身構えた。

 それを見て、メリエルは盾を装着して、カルマ値をマイナスへと傾けていく。

 スキルを使用し、マイナス500――極悪へと。

 

 見た目は全く変わらなかったが、フィトリアは敏感に感じ取っていた。

 メリエルの纏う雰囲気が冗談抜きで、禍々しいものへと変化したことを。

 

 思わず、フィトリアは唾を飲み込み、出てきた冷や汗を拭う。

 しかし、メリエルは呑気なものだった。

 次々と解放されるものにニヤニヤと笑ってしまうくらいに。

 

 ただ、その内容を見て、彼女は渋い顔になった。

 

「いっぱい解放された。七つの大罪、色欲、嫉妬、怠惰、憤怒、強欲、暴食、傲慢の7つ……ってコンプリートしているじゃないの」

 

 それで終わりかと思いきや、まだまだ解放は続いた。

 メリエルは出てきたものに目を丸くした。

 

「新・七つの大罪……ってこれ、新しい方はほとんど私、やったことあるものなんだけど。それのせいか、こっちもコンプリートしているわね」

 

 フィトリアはドン引きした。

 というか、新・七つの大罪ってなんだ、と彼女は疑問に思う。

 

「遺伝子改造、人体実験、環境汚染、社会的不公正、過度な裕福さ、貧困、薬物中毒……うーん、環境汚染以外は全部やったことあったわ」

 

 直接的ではなかったが、間接的に遺伝子改造と人体実験は関わっていた。

 社会的不公正、企業の為に暗躍していたのでそれがお仕事。

 過度な裕福さ――言わずもがな、ユグドラシルへの廃課金。

 貧困に喘ぐ連中を搾取していたり、争わせたり色々したのでしょうがない。

 邪魔な輩を薬物中毒にするのは常套手段だ。

 

 環境汚染は元から汚染されてどうしようもなかったので、むしろ環境を復活させる為に間接的に頑張っていた方だ。

 でも核のテロをやらせたりしていたので、やっぱりやったことになるかもしれない。

 

 メリエルは左右に首を振って、やっちまったなぁ、と溜息を吐く。

 

「新しいのはともかくとして、七つの大罪をコンプリートしているのは納得がいかない。一万歩譲って、色欲と怠惰はしょうがないって思うけど」

「そういうところが傲慢。あと自分の為に過度に利益を求めているところが、強欲。底なしに色んなものを食べたりしているところが暴食……怒ったことはあるの?」

「舐められた態度をされたとき、ちょっとだけ……」

「嫉妬したことはあるの?」

「私にできないことができる奴、私よりも強い奴……そういうのに対して悔しい悔しいズルいズルい、だから強くなってやるって思ったことは過去に……」

 

 フィトリアは首を傾げる。

 

「今のことではなく、過去のことが反映されている? 不思議、おかしい。普通は今のことでそうなるはず」

「まあ、普通はこういうのって強い感情が沸き起こったときに発動するんだろうからね。今の私、別に怒ったりとか何にもしていない」

「……非常識」

 

 非常識と言われてもまあ、仕方がないとメリエルは受け入れる。

 とはいえ、何となくだが予想はできる。

 

 カルマ値を極悪にまで傾けたことで、極々僅かな感情の揺らぎでもそれらは極大に増幅されており、それによりカースシリーズが解放されたのではないか。

 また、メリエルは以前にウィッシュ・アポン・ア・スターで伝説武器に関する制限を解除している。

 それの影響により、七つの大罪や新・七つの大罪に関する感情や行動が過去に一度でもしたことがあった場合、それが反映されてしまったのではないか。

 これら2つが合わさった結果、こうなったのではないだろうか。

 

 ちなみに、今の感情的には夜食の続きとかえっちなことしたいとかニートになりたいとかそういう考えがちょろっとだけメリエルの頭にあるくらいだ。

 

「……使っちゃ、ダメだよ?」

「……ちょっとだけ……ダメ?」

「ダメ」

「えー、やだやだやだー使いたいー」

「ダメ」

「フィトリアが傍にいないときに使うわ」

 

 フィトリアは、もしかして最初からそれが狙いか、とメリエルをジト目で見つめる。

 とはいえ、メリエルを野放しにするのが良くないというのも確かである。

 また、食事ごとにメリエルのところへやってくるのも面倒といえば面倒。

 これは一石二鳥なのだとフィトリアは確信する。

 

「……分かった。フィトリアも今から傍にいる」

「ぐへへ、フィトリアとフィーロのやり取りが見られるなんて……あ、そうだ、フィロリアルの卵を買い占めないと……」

「変なことをやらないで」

「フィロリアルは可愛いので、他の奴に育てられるくらいなら……」

 

 そんなことを言いながら、メリエルは盾とカルマ値を元に戻す。

 禍々しい気配はすっかりと消え去った。

 それを見ながら、フィトリアは問いかける。

 

「代償はあった?」

「特に感じられなかった。適当なスキルでも使ったほうが良かったかしら?」

「それはダメ」

「けちー」

 

 頬を膨らませるメリエル。

 やられっぱなしはイヤなので、フィトリアはその膨らんだ頬を突っついた。

 柔らかくて、むにむにしており、その感触にフィトリアは感動する。

 

「……これ、好き」

「仕方がないから、私の頬を突くことを許可しよう」

「……元の姿で突いてもいい?」

「フィトリア、あなたの全てを許そう……正直、人型は勿論だけど、本来の姿も非常に可愛いのよね」

 

 そうやって言われるとフィトリアも悪い気はしない。

 遠慮なく元の姿に戻って、そのクチバシでメリエルの頬を突っつく。

 

 普通なら痛いところであるのだが、メリエルにとっては程よい気持ち良さだった。

 フィトリアの方もクチバシの健康に何となく良さそうな感じがする柔らかさと弾力で、大満足だった。

 

「あ、フィトリア。その姿のまま、羽毛に包まれて寝たい」

「……分かった。けど、変なことはダメ」

「分かっているわよ」

 

 そして、フィトリアの羽毛に包まれて、メリエルは寝た。

 

 

 

 

 翌朝、フィトリアがメリエルの頬を突っつく姿を目撃したフィーロが羨ましがって、フィトリアとは反対側の頬を突き始めるのは当然のことだった。

 いつの間にか2人共、本来の姿となり、クチバシで突きはじめ、両側から頬を突かれるメリエルを見た者は誰一人例外なく、大爆笑の渦に包まれた。

 

 なお、ティアはドラゴンである自分にクチバシがないことを大いに嘆き、フィロリアルに対する敗北を感じたのだった。

 

 

 

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