メリエルがカースシリーズを発動させて1週間。
彼女はレールディアの様子を見に、寝床である巣にやってきていた。
巣の場所はレールディア本人から教えられていた為、特に何事もなく発見できた。
巣は山中の洞窟だった。
「遺伝子改造と人体実験を組み合わせて、新しい種族を作り出そうと思うんですが、構いませんねっ!?」
メリエルは叫んだ。
溢れ出るエロ魂、それが轟き叫ぶ。
サキュバスを作れ、と。
エロ種族を作れ、と。
エロ漫画みたいな世界に変えろ、と。
「うるさい」
叫びは洞窟内に反響して、大変なことになった。
レールディアは抗議した。
彼女は本来の姿――巨大なドラゴンの姿――で、丸まってメリエルの好きにさせていた。
レールディアの周りには、巣作り祝いに、とメリエルが贈った金銀財宝がこれでもかと置かれている。
なお、メリエルから最初にもらった巨大なダイヤモンドは一段高いところに置かれていた。
ちなみに、元の姿でも大丈夫なように、体のサイズに合わせて変化する王冠がレールディアの頭には乗っかっている。
宝石がふんだんに使われたその王冠はレールディアのお気に入りだ。
「というか、何で来たの?」
「最近、レールディアを見ていないっていうのと、下手をしたら世界の終わりまで寝ていそうな気配を感じたので、巣作りドラゴンを見に来た」
「もう巣を作り終えているから。それに私も寝てばかりじゃない。宝石とかを愛でたり、磨いたり、抱きついたりとか忙しい」
「なるほどね。で、どう? エロい種族を作ることに関して」
「何で私にそんなことを聞くのよ?」
「ラフタリアとかだと馬鹿なことを言ってないで、仕事してくださいって言われるので……」
そりゃそうだろうな、とレールディアは思う。
「あ、ちょっと鱗を貰っていい?」
「承諾する前に毟ろうとするな」
レールディアは仕方がない、とあんまり痛くなさそうなところの鱗を器用に一枚、剥がしてメリエルへの前へと置いた。
メリエルは感謝しながら、それを盾に吸収させた。
「ところでメリエル、トゥリナがこの間、来て状況を説明してくれたんだけど」
「うん」
「面白そうなことになっているじゃないのよ。エリーはどうしたの?」
「最近、死んだように偽装して、シルトヴェルトにきたわ。ところで、あの子、チョロすぎない?」
「チョロいかどうかはさておき、まあ、あれよ、思い込んだら一直線」
「妹ちゃんも思い込んだら一直線だったわよ」
「妹はどこに?」
「同じく死を偽装して、シルトヴェルトに。拷問コースだった子達は皆、死を偽装してこっちに来ているわね」
なるほどとレールディアは頷きながら、言葉を紡ぐ。
「私が言うのもなんだけど、アイツの女って見た目は良いけど、中身はアレなのしかいないから」
「竜帝さん、ブーメランが刺さってますよ」
「竜帝の鱗を舐めるなよ、ブーメランくらい跳ね返してやる」
そう言って、レールディアはメリエルの頬に自分の頬をこすり付ける。
「アシェルは?」
「グリフィンちゃんなら、最後までタクトを信じるって感じだったので、エリーとか妹ちゃんとかと一緒に拷問コースで同じように落とした」
「私が言うのもなんだけど、あなた、本当に性格が悪いわね……あ、だから、アイツの女達と波長が合うのね」
「竜帝さん、特大ブーメランが刺さってますよ」
「竜帝の鱗を舐めるな。というか、私はそもそもドラゴンであって、人間やら亜人やらとは感性が違う」
そりゃそうだ、とメリエルは頷く。
「ドラゴンである私が、人間風情、亜人風情を虫けらみたいに思ったところで、それは当然のこと」
「私は?」
「……あんたは別格だから」
「プライドが高いレールディアに認めさせた、さすが私」
「認めさせたっていうか、認めざるを得ないというか、脅迫されたというか……」
「ドラゴンの霜降りステーキって美味しいのよね。他意はないけど」
物理的に食われると思い、レールディアに寒気が走る。
そんな彼女をけらけら笑い、メリエルは言葉を続ける。
「まあ、そんなことはさておき、私なりに世界平和について考えたら、常識がエロい世界にして、その世界の住民を皆、不老不死にして、空腹にならず、病気にもならず、食事は単なる嗜好品みたいな感じになればいいんじゃないかと」
「……あんたがそうしたいだけでしょ」
「うん。いわゆるエロ漫画的な世界っていいよね」
「エロ漫画が何か分からないけど、要は娼婦で溢れかえった世界でしょ?」
「全然違うわ。ビッチで溢れかえった世界。男はいるけど、見た目とか声とかは完全に女の子な感じで、あとは両性具有と女の子だけの素敵な世界」
「尚更悪いわ」
レールディアは顎でメリエルの頭を軽く小突いた。
この世界に住まう者として、メリエルの全世界総ビッチ化エロ計画なんぞ、認めるわけにはいかない。
とはいえ、レールディアとしてもメリエルが超越的な力を持っているのは何となくだが、予想がつく。
トゥリナによればメリエルの恐ろしさは、ただ単に戦闘力が高いというところではない。
何でもできてしまう、万能性だ。
現に今、こうして荒唐無稽な計画を語っているが、彼女にとっては本当にできてしまうのかもしれない。
「冗談はおいといて」
「冗談なの?」
「冗談よ。さすがに大迷惑を掛けてしまうので」
どうやら本当に冗談だったようだ、とレールディアは安堵する。
「でも、正直な話、色んな亜人はいるけれど、エルフやダークエルフ、オークその他色々な定番な種族がいないのがマイナスポイント」
「どれも聞いたことがない種族だわ」
「作っていいと思う?」
「……迷惑を掛けない範囲ならいいんじゃない?」
「波をぶっ飛ばしたら、作るわ。ところで波って結局、誰がやっているか、知っている?」
「流石に知らないわよ」
「竜帝、役立たず……」
「何とでも言いなさい。知らないものは知らないの」
「敵のときは強そうだけど、味方になったら引きこもりとか……」
「仕方ないじゃない、あなたがこんなに素敵なプレゼントをくれるんだもの」
唐突な言葉にメリエルは目を丸くした。
その反応にレールディアはドラゴンの姿から人の姿へと変化する。
「で、どうなの? 私に手は出さないの? 別にあんただったら、私はいいけど」
「勿論、出すわ。なんだったら、ドラゴンの姿でも……」
「……私が言うのもなんだけど、あんた、変わってるって言われない?」
「私自身、そうは思っていないんだけど、何故かよく言われる。レールディアって本当の姿がドラゴンなら、むしろドラゴンの状態を愛でるのは当然のことだと思うんだけど。まあ、人型のほうが色々やりやすいのは確かね」
メリエルの言葉にレールディアは呆れと嬉しさが同時に込み上げてきた。
アイツは人の姿のときでしか、抱いてくれなかった――
レールディアはすっかり、その気になってしまった。
一方のメリエルは、ドラゴンの姿でレールディアを両性具有にして馬車や城とヤると、大昔に流行ったらしいドラゴンカーセックスやドラゴンキャッスルセックスになるのか、とどうでもいいことを考えていた。
双方の考えは少しどころか、かなり異なっていたが、とにもかくにもメリエルもレールディアもヤる気であるのは間違いなかった。
ドラゴンの姿で、そして人の姿で、両方のレールディアを美味しく頂いたメリエルはシルトヴェルトの屋敷に戻っていた。
「……ご主人様、ドラゴン臭い……」
「ドラゴン臭い……」
フィーロとフィトリアがそれぞれ自分の鼻を摘んで、嫌そうな顔でメリエルを見てきた。
終わった後は綺麗に洗ってきたのだが、2人の嗅覚を誤魔化すことはできなかったようだ。
しかし、メリエルは2人の困った顔にゾクゾクときてしまい、からかってやることにした。
「がおー! ドラゴン臭を移してやるぞー!」」
きゃー、と悲鳴を上げて逃げ出す2人にメリエルは大爆笑する。
「何をやっているんですか……」
偶々やってきて目撃してしまったラフタリアは呆れ顔だった。
傍目には子供を驚かしているダメな大人にしか見えない。
「ちょっと色々あって」
「はぁ……詳しくは聞きませんけど」
「で、タヌキチくん。私が留守にしている間、何かあった?」
「半日程度でしたので、特には何もありませんね。シルトヴェルトやメルロマルクの次の波までは余裕がありますし……ところで何でレールディアさんのところへ行ったんですか?」
「レールディアが引き篭もってるから、様子を見に行った。なんか、トゥリナが度々、訪れているみたいだった」
そのときだった。
見極める為と言いながら、すっかりメリエル専属の中華の料理人となり、最近では不定期に露店まで開いて、それなりに繁盛しているオストがやってきた。
かなり深刻そうな顔だ。
勘の鋭いメリエルはピンときた。
「食材が値上がりしたの?」
「あ、いえ、そういうのじゃないです」
「調理道具が壊れたとか?」
「違います」
「分かった。みかじめ料を払えって言われたのね? どこのどいつ? ちょっと月までぶっ飛ばしてくるから」
「全然違います」
メリエルの鋭い勘はことごとく外れてしまい、肩を落としてしょんぼりとする。
そんな彼女にラフタリアは珍しいものを見た、としげしげと見つめてしまう。
とはいえ、ラフタリアもメリエルが問いかけたのと同じような問題が発生したのでは、と予想していただけに、何が起こったのだろう、と疑問に思う。
そして、オストは告げる。
「実は霊亀の封印が解かれようとしています。メリエル様についていく、と決めてすぐに色んな結界を多数、霊亀の至るところに張り巡らせたのですが、そのうちの一つに侵入者が引っかかりました」
「大事じゃないですか!?」
ラフタリアの叫びにメリエルは大きく頷いた。
「ラフタリア! 殴り込みよ!」
「あ、いえ、霊亀を傷つけないで頂けると……」
「分かりました! エレナさんが任務でいないので、代わりにフィトリアさんにも協力してもらいましょう!」
「あ、あのー、メリエル様だけで……」
オストのお願いも虚しく、メリエルとラフタリアは準備をする為に行ってしまった。
「……ま、いいか」
オストは考えるのをやめた。
転移し、オストの案内で向かった先にいた侵入者は三勇者とそのパーティーメンバーだった。
彼らは現れたメリエル一行に仰天したものの、元康らの霊亀を倒せば良いドロップがあり、討伐の為の下見に来ていたという言い分に対し、メリエルがオストに霊亀を解放するとどうなるかを説明してもらった。
その際に霊亀を倒すよりも、自分を倒した方が良いものをドロップするとメリエルは宣言したが、誰も取り合わなかった。
結局、霊亀の封印を解いたらヤバイということが理解できた三勇者達は封印を解くのを諦めた。
「あ、そうだ。メリエルさん、カルミラ島で活性化が起きているので、良かったらどうですか? 南の島でバカンスついでにレベリングでも」
「行く行く行っちゃう」
元康の誘いにホイホイとメリエルは応じてしまう。
よっしゃあ、と元康はガッツポーズ。
錬と樹はそんな元康に「よくやるなぁ」という感想しか抱けない。
どう見ても彼は下心満載だ。
「カルミラ島でレベリングをしてから、霊亀の封印を解くつもりであったが……下見に来て正解だったな」
「ええ。ゲームとは違うとは思っていましたが、中々、クセが抜けないものです」
そんな2人にメリエルは告げる。
「じゃ、ゲーム感覚を抜く為に、カルミラ島で私と模擬戦をしましょう。冗談抜きで、波がヤバイことになる。レベル三桁とか当たり前、最終的にはレベル四桁とかに……なるようなならないような……」
メリエルの言葉に元康らはいつもの冗談だろう、と信じないが、メリエルは真剣な顔だった。
それを見て、元康は尋ねる。
「……えっと、マジですか?」
「マジなのよ。そこにフィーロのお姉ちゃんみたいな感じの子がいるでしょ?」
メリエルがそう言ってフィトリアを指させば、三勇者達の視線がそちらへと向く。
そこには人の姿のフィトリアがいた。
「実はその子、フィロリアルクイーンで、世界のフィロリアルを統括する立場にあって、非常に長生きしていてね」
「フィトリア。勇者様方、よろしく」
ぺこり、と頭を下げるフィトリアにつられ、三勇者達もそれぞれ名乗って頭を下げる。
「勇者様方、メリエルが言っていることは本当。終末の波が近づいている。今までの敵とは比べ物にならない」
「本当なんだな?」
錬の問いに、フィトリアは頷いた。
「今のままでは対処ができないということでしょうか?」
「現状ではメリエルしか対処できない。けれど、彼女だけに任せるのは、とても……とてもとても不安」
不安の意味合いがメリエルが負けるかもしれない、とかそういう意味ではないことを三勇者達は悟る。
「かつての波でのこと、忘れてはいませんよ」
「ソウルイーターを踏んづけるなんて……」
「グラスさん相手に大魔王みたいなことをやってたよな」
樹、錬、元康の言葉での攻撃にメリエルは視線を逸らして口笛を吹き始めた。
そんなメリエルをジト目で見ながら、フィトリアは告げる。
「メリエルが取り返しのつかないことを仕出かす前に、力をつけて欲しい」
「分かった。メリエルさんだけに任せておくのは男が廃るってもんだよな」
元康の言葉に錬と樹は頷いた。
「何か素直に頷けない……まあ、どっちにしろ鍛えるからいいんだけど」
「だが、そもそも勇者が集まってしまうと経験値が入らないのでは?」
錬の問いにメリエルはにんまりと告げる。
「あなた達もゲーマーの端くれなら、PvPくらいはやったことあるでしょ? 数値上での経験値は入らないけど、プレイヤー本人に蓄積される経験はある。今回はそれが目当て」
確かにと三人は頷いた。
モンスターやレイドボス相手の戦闘とは違い、プレイヤー同士で戦う場合に要求されるのは駆け引きだ。
「というわけで南の島でレベリングとPvPをしましょう。参加賞で景品くらいは出すわよ」
メリエルの太っ腹な言葉に三勇者達は、よりやる気を出すのだった。
霊亀の封印場所から屋敷に戻り、エロ漫画みたいな世界を作っていいか、というメリエルの問いに対して
フィトリア「やはり代償が……」
ラフタリア「平常運転です。いつものことなので。馬鹿なこと言ってないで仕事してください」
メリエル「泣いた」