カルミラ島へ到着した一行は領主であるハーベンブルグから簡単な説明を受けた後、各々自由行動となった。
今回の目的はレベリングとPvP、そしてバカンスだ。
そして、無駄に向上心が高いメリエルはヒャッハー皆殺しだーと叫びながら、森の中へ消えていった。
そう、誰も彼も置いて、1人で目にも留まらぬ速さで。
「……えーと、ラフタリアさん。とりあえず、荷物とかそういうのを……」
唖然となる中、元康がとりあえず声を掛けた。
ラフタリアはこれでもかと深い溜息を吐いて、頷いた。
「さすがはメリエル様! 誰よりも強くなることを求めるなんて!」
そんな声とともに、メイドとか王女っぽいのとかメリエルが連れてきた何人もの女達が目を輝かせているのが見えた。
変な子達だと元康達は彼女達を見て思う。
そこまでメリエルに惚れ込んでいる、というのならば分からなくもないが――
変な視線を向けている元康達に気がついたのか、フォクス種のスタイル抜群の女性が2本の尻尾を揺らして、彼らに近づいてきた。
「おぬしらの言いたいこと、よく分かるぞ」
「あ、はい、どうも……えっと、どちら様?」
元康の問いにその女性は首を傾げる。
「わらわはトゥリナじゃ。顔は見ているじゃろ?」
元康達は目を丸くした。
大人じゃなくて、もっと少女じゃなかったか、と。
その様子にトゥリナは頬を膨らませる。
「わらわにとって、姿形などどうとでもなる。とはいえ、年齢的にはこの姿が正しいぞ」
胸の下から腕を組めば、大きな胸がぽよんと揺れる。
元康は鼻の下を伸ばし、錬と樹は顔を赤くした。
そんな3人をけらけら笑い、トゥリナは告げる。
「で、あっちのエリーやナナ達じゃが……まあ、あれじゃ。メリエルが気合を入れて、やり過ぎてしまってな」
元康達はエリー達から若干距離を取った。
「奴めは神のような力を持っているから、分からんでもない。さしずめ、エリー達はメリエルという神の信者といったところじゃ」
「……何だろうな、あんまり羨ましくはない……」
元康の口からそういう言葉が飛び出してくるとは思ってもみず、錬と樹は仰天した。
「何か悪いものでも食べましたか?」
「大丈夫か?」
「おい、お前ら。俺をどういう目で見てるんだ? 俺が求めているのは、あくまで対等な関係だ。そりゃ、歳上のお姉さんとか年下の義妹とか後輩とかそういう子からのアプローチは大歓迎だがな!」
ダメだこりゃと錬と樹は首を左右に振った。
「エリー達は対象がタクトからメリエルに変わっただけのようでもあるがな。メリエルが介入するまではタクトに対してあんな感じじゃった」
「……何でああなんでしょうか?」
樹の問いにトゥリナは肩を竦める。
「長命ではない、普通の人間や亜人の女など大抵はあんなものじゃ。そなたらだって、強さなどは全てそのままで中身が綺麗で清楚なメリエルがいて、関係を迫ってきたら、たとえ恋人がいた場合、乗り換えるまでいかなくとも、悩むじゃろ?」
そう言われると元康達も沈黙せざるを得ない。
中身が綺麗で清楚という不可能な点を除けば、見た目も強さも文句がないのがメリエルだ。
「否定はできん。この俺であっても、ぶっちゃけ即答できない」
元康ですら悩み、苦しそうな声でそう伝える。
うんうん、とトゥリナは頷き、錬と樹へ視線を向ける。
「女との経験がある槍の勇者ですらそうじゃ。童貞の剣と弓の2人なぞ、ひとたまりもなかろう」
トゥリナの言葉に元康は告げる。
「ということは、まさに彼女達にとってはその例えでの俺らということか。より良い条件の子がいたから、乗り換えたと」
「そういうことじゃ。しかも、エリー達は側近中の側近、忠誠も高かった。だからこそ、メリエルは気合を入れて口説いた」
トゥリナも見たが、あれは酷いものだった。
一度に全員を口説いたのではなく、1人1人、メリエルは地道に口説いた。
優しく、甘美な言葉を囁きながら。
結婚詐欺師とかになれそうだとトゥリナが思ってしまった。
その結果が、今、目の前にいるエリー達だ。
今の彼女達はメリエルが命じれば何でもするだろう。
それこそ、どんなに凄惨なことであろうとも。
メリエルの本当の狙いは好きに使えて、切り捨てることもできる兵隊が欲しかったんじゃないのか、とトゥリナは思っている。
例えばメリエルが虐殺を命じ、それをエリー達が実行したとする。
それに対するメリエルの言葉はこうだろう。
改心したと思ったが、やはりタクトの一派だった――
受け入れた私が馬鹿だった、私が責任を持って処理するし、遺族に対して支援金を渡す――
それで世間の同情が買えれば儲けもの。
その言葉を信じる者がおらずとも、表面的には丸く収まる。
勿論、メリエルのことだから実行したエリー達はなるべく再利用しようとする。
切り捨てるのは簡単だが、彼女達のレベルだけは高く、大抵の者には押し勝てる。
レベルだけとはいえ、そこまで育てるには時間と手間が掛かるので、適当なところに匿い、彼女達に対して悪いのは実行を命じた私だと囁いておけば、自分達の為に泥を全て被ってくれるメリエル様は素敵とでも勝手に思い込んでくれる。
ますます、エリー達はメリエルへと傾倒する。
それこそ狂信者という言葉がぴったりな宗教兵士の誕生だ。
彼女達は一切、良心の呵責に苦しむことなく、メリエルが命じるがままに嬉々としてどんなことも実行するだろう。
トゥリナは尻尾をゆらゆらと振る。
彼女はメリエルのそういう悪辣なところがたまらなく、大好きだ。
正直に言えば、早く抱いてもらいたい。
レールディアが本来の姿でも抱いてもらったことを自慢げにカルミラ島へ来るまでの間、話していたので、柄にもなく嫉妬している。
「まあ、そういうことじゃ。おぬしらも素材が悪いわけじゃないから、真っ当に勇者としての道を歩むが良い。メリエルの道は、邪道も邪道。大魔王の道じゃ」
トゥリナはそう言って、去っていった。
「……普通に勇者、やろうな」
「ああ……」
「ええ……何というか、メリエルさんがぶっ飛びすぎていて、悪いことをしてでも、強くなるという気持ちが全然湧いてこないですね……」
樹の言葉に元康と錬は頷く。
漫画とかにありがちな、主人公が闇落ちして力を得る為に暴走し、仲間達が止めるというシチュエーションだ。
しかし、実際に闇に落ちきった大魔王を見てしまうと、ああは絶対になりたくないと思ってしまう、彼らの気持ちは間違いではない。
勿論、それは彼ら三勇者のパーティーメンバーも同じ気持ちだったが、2名は違った。
元康のパーティーメンバーであるエレナとレスティだ。
メリエルのところにもエレナがいるが、同名の別人であり、こちらのエレナは人間であり、かつメルロマルクの貴族令嬢だ。
彼女は生粋の怠け者であり、楽をする為なら手段は選ばない。
レスティもエレナと同じく貴族の令嬢であり、またマルティの学生時代の友人だ。
マルティと手紙を不定期にやり取りしており、彼女からはメリエルのところに来ないか、という誘いがきていた。
マルティがそうしたのはメリエルに対する恩返しみたいなもので、善意だったが、レスティは知る由もない。
エレナはメリエルという最強の勇者の下ならば楽ができると確信し、レスティはマルティの王城よりも贅沢ができるという言葉に惹かれている。
何とかうまい具合に元康のパーティーメンバーから抜ける機会を虎視眈々と窺っていた。
元康が悪いわけではないのだが、彼女らの性格や目的と合わなかった。
とはいえ、エレナもレスティも元康とメリエルが仲違いすると、自分達に累が及ぶ可能性が高い。
円満にパーティーメンバーから抜ける方法、それは敵の攻撃を受けて、いい感じに怪我をして、いい感じにメリエルに助けてもらい、その恩を返したいということでなし崩し的にメリエルの下へ。
そういうシナリオを考えていた。
エレナとレスティは互いの思いから、既に手を組んでいる。
カルミラ島で2人は実行するつもりであった。
「元康様、私達も強くなりたいので戦ってきます」
「元康様、いつも1人で戦ってくださり、ありがとうございます」
2人は実行に移す。
森へと消えていったメリエルを追う為に。
「いやいや、いいって。じゃあ俺も……」
「元康様は休んでいて下さい」
「大丈夫ですから」
にこにこ笑顔、悪意など一切ないその顔を元康は簡単に信じてしまう。
そこへ、声を掛けてくる者がいた。
「元康様、勝手にパーティーを抜けてしまい、申し訳ありません」
神妙そうな顔のマルティがいた。
修羅場ですね、修羅場だな、逃げるか、逃げましょう――
樹と錬はそう声を掛け合い、互いに頷いて、それぞれのパーティーメンバーを連れて、そそくさと退散した。
「マルティ、いや、大丈夫さ。君の幸せの為ならば」
元康の言葉にマルティは微笑んでみせる。
しかし、その微笑みに騙される元康ではない。
「その、私。レスティにちょっと用があって……」
元康は怪訝な視線をレスティへと向けると、レスティは頷いた。
その様子に、元康の脳裏にメリエルの言葉が過ぎる。
マルティは悪女だから――
となると、同じ穴の狢ではないか、と。
とはいえ、さすがの元康も直球にそんなことを聞けるわけもない。
「あ、マルティ。エレナもいい? 積もる話もあるし」
「ええ、いいわよ」
エレナへと元康が視線を向けると、彼女は軽く頷いていた。
なるほどな、と元康は理解した。
泥臭いことを女の子にさせるなんて、と彼は思っていたのだが、どうやらそれは間違いだったと確信する。
錬や樹は当然だが、メリエルであってもラフタリア達を戦闘へ参加させている。
メルロマルクでの革命騒動、人質を救出したラフタリア達の動きは一切の淀みがなく、高度な訓練を受けていることが見て取れた。
圧倒的な力を持つメリエルですら、そうなのだ。
彼女が自分と同じような考えなら、女の子達に一切戦闘に参加させないだろうが、そうはしていない。
対して自分は何をやっているのか?
泥臭いからと女の子達を戦いに参加させず、自分が戦い、挙げ句の果てにはお菓子やお茶を給仕したりする始末。
勇者というより、体のいい召使いではないか?
なるほどな、メリエルさんの言ってたハニートラップ、甘い汁を啜る女、こういう意味だったのか――
元康は理解し、笑いが込み上げてくる。
自分は大丈夫だと思っていたが、どうやら自分が一番バカだったようだ。
もしかしなくても、飢饉を救うため、種を取りに行った洞窟。
あそこで分断トラップに引っかかったとき、聞こえてきた声はボイスゲンガーではなく、彼女達の本音だったのだろう。
ライノは――あのときの声の通りだったのだろう。
ヤケになるのは簡単だが、それではよろしくない。
メリエルによる引き抜きか、と元康は思ったが、それならばわざわざマルティを事前に悪女だと暴露する彼女の行動が矛盾している。
知らせなければ元康は疑うこともなくここで送り出しただろう。
となると、マルティの独断。
友達にも甘い汁を啜らせる為か、あるいは何か別の目的か?
とりあえず、マトモなパーティーメンバーを集めるところから始めないとな。
元康はそう決意し、笑顔で告げる。
「構わないぜ。そういや、メリエルさんから教えてもらったんだがな。女が裏切らないものは自分の気持ちだそうだ」
元康の言葉にマルティは妖艶な笑みを浮かべた。
その笑みは彼が今まで一度も見たことがないものだ。
「流石はメリエル様。女心をよく分かっていますわ。それで、どうされますか? 元康様?」
マルティの挑戦的な問いに元康は苦笑する。
「どうもしないさ。確認だが……メリエルさんの指示じゃないだろ?」
「ええ。胸とお尻しか見ていないバカな勇者から救おうと思いまして」
「……俺、そんなに見ていたか?」
「見ていましたよ」
マルティは肯定し、元康が他の2人に視線を向ければ彼女達も頷く。
あー、と元康は何とも言えない顔で頭をかく。
「その、なんだ、悪かった……ところでメリエルさんはそういうことは?」
「あなたみたいなことは一切しません。あの方は、ありのままの私を肯定し、受け入れてくれましたから」
微笑みながら、そう言われ、元康はがっくりと項垂れる。
とはいえ、それも一瞬だ。
直前にメリエルからマルティについて言われていたこともあり、ショックはそこまで大きくはない。
むしろ、過去の自分の馬鹿さ加減に笑えてきてしまう。
「よし、じゃあ、パーティー解散ということにしよう。それでいいだろ?」
「ええ。その方が色々と手間も省けます。最後の最後で、潔いですわ。流石は槍の勇者様」
心にも思っていないだろうことをマルティは告げる。
「俺が言うのも何だけど、メリエル様とお前、お似合いだぜ。色んな意味で」
魔王とそれを支える魔女といったネガティブな意味合いであったが、マルティは言葉通りに受け取り、満面の笑みだ。
これも元康が見たことがないマルティの顔だった。
マルティらが去っていき、残された元康は槍を片手に、海を眺める。
「さて、1人になっちまった」
どうしたもんか、という思いでいっぱいだ。
「槍の人、どうかしたのー?」
横合いから、そんな声。
視線を向ければ、そこにはでっかいフィロリアル。
「確か、メリエルさんところのフィーロちゃんだったか。ちょっとなー」
そう言って元康はフィーロの首のあたりを撫でてやる。
くすぐったいー、と言いつつも彼女は嬉しそうだ。
「というか、他の子達と宿に行ったんじゃないのか?」
「ご主人様を連れ戻してきなさいってラフタリアお姉ちゃんに言われたの」
「あー、そっかー」
あの人、本当にフリーダムだな、フリーダム大魔王だな、と元康は思いながら、尋ねてみる。
「フィーロちゃん、どっかに俺の仲間になってくれそうな人っていない?」
「槍の人、仲間外れにされたの? 可哀想」
「……改めてそう言われると心にくるな……」
ずーんと落ち込む元康。
そんな彼の姿にフィーロは人型へと変身し、彼の頭を背伸びして撫でる。
「よしよし、いいこいいこ」
「ありがとうなー」
嬉しい、嬉しいが――何だか情けない。
元の世界で好きだったゲームのフレオンそっくりなフィーロにそうされているのに。
「そうだ、ご主人様に相談しよう!」
「え?」
「ご主人様がね、困ったらいつでも相談しに来なさいっていつも言ってて、フィーロがお腹空いたって言ったら、すぐにご飯をいっぱいくれるんだ」
「いやいやそれはちょっと……」
元康が断ろうとするが、フィーロは元の姿へと戻り、彼をひょいっと自分の背中へ。
「じゃ、しゅっぱーつ!」
元康の返事を聞かず、フィーロは風のように走り出した。
元康は飛ばされないよう、しっかりとしがみつくしかなかった。
「メリエル様、私の学生時代の友人であるレスティと元康様のところで共に旅をしたエレナですわ」
マルティは微笑みながら、そう告げ、レスティとエレナがそれぞれ頭を下げる。
マルティがわざわざ
「……いや、元康はどうしたのよ?」
「それでしたら、元康様が自らパーティーの解散を宣言したので心配ありません……メリエル様に対するささやかな恩返しですわ」
そう告げるマルティをジト目でメリエルは見つめる。
何かやらかしていそうだったので、あとでフォローをする必要があると彼女は確信する。
勿論、マルティも、ただ引き抜いただけでは終わらない。
メリエルが喜ぶものを用意していた。
「留学していたときに着ていた制服を2人分、持ってきているので……どうでしょうか?」
「仕方がないわねぇ……とはいえ、マルティ。私は自分の手のひらの上にない戦争は嫌いよ?」
その言葉にマルティは深く頭を下げる。
「黙ってやることはもうしません。驚かせたかったので……」
「ま、いいでしょう。それでレスティ、色々と入り用でしょうから……」
メリエルは彼女に金貨の詰まった袋を差し出した。
「どうかしら?」
「あっ……ありがとうございます! メリエル様!」
レスティは最高の勇者だと確信する。
マルティに贅沢な生活ができると言われて軽い気持ちであったのだが――予想以上だった。
軽く数百枚はある金貨を支度金としてポンと差し出してくるなんて、王族でもできない。
「レスティ、あなたもメリエル様に心から仕えなさい。全てを捧げれば、メリエル様はご褒美をたくさんくれるわ」
マルティの言葉にレスティは簡単にそれを受け入れてしまう。
「はい、エレナ。あなたにも」
メリエルはレスティと同じ数の金貨をエレナへと渡した。
エレナは、満面の笑みでメリエルに深く頭を下げる。
「ま、私は来る者を拒まないわ。あなた達はこれから好きなように生きて構わないから」
メリエルの言葉にレスティもエレナも目を輝かせる。
その様子にマルティは告げる。
「あなた達のできる範囲でメリエル様を楽しませてあげてね」
マルティの言葉の意味合いをレスティもエレナも悟るが、別に抵抗はない。
レスティは王族よりも贅沢ができるならば、そしてエレナは安楽な生活ができるのなら、全く構わなかった。
「ねぇ、マルティ。メリエル様って……手紙にあったように……凄いの?」
「凄いわ。私が気絶しても離してくれないくらい」
ごくり、とレスティとエレナはメリエルを見る。
メリエルはドヤ顔で胸を張った。
「こんなに綺麗なのに……その、生えているんでしょ?」
「ええ、その通りよ、エレナ。メリエル様は女でも男でもあるから。あ、今は水着を着る為に薬で女になっていた筈よ」
そんな薬があるの、とレスティもエレナも驚いてしまう。
その様子にマルティは笑ってしまう。
「その程度で驚いていたら、身がもたないわ」
マルティが言ったとき、メリエルは高速接近してくるものを探知した。
近づいてくる方向へと進み、3人には自分の後ろに来るようにする。
なんだろうか、とマルティ達は不思議に思いつつも、メリエルの後ろへ。
その数秒後――
「ごしゅじんさまー!」
フィロリアル姿のフィーロが現れた。
見事にメリエルの手前で足を止めれば、その背中に乗っていた元康が急ブレーキの反動により、吹っ飛んで、顔から木にぶつかって、そのまま地面へとずり落ちた。
「これはひどい……」
メリエルもその惨状に、そう言うしかなかった。
マルティ達は完全に固まってしまい、目の前で起きた状況を飲み込めずにいる。
メリエルはぴくぴくと動いている元康へと近づきながら、落ちていた木の枝を手に取った。
十分に近づいたところで、彼をつつきながら、呼びかける。
「生きてる?」
「死にそう……」
「エリクサー、いる?」
「くださると大変助かります……」
メリエルは元康の頭にエリクサーをぶっかけた。
「で、フィーロ。何で彼を?」
「んとねー、槍の人、仲間外れにされて、仲間が欲しいって言ってたから、ご主人様に相談しようと思ったのー!」
フィロリアルの姿でそう言って、満面の笑みを浮かべるフィーロ。
マルティは頭を抱える。
「あのね、フィーロ。確かにメリエル様を頼るのは、正解なんだけど、もうちょっとこう……空気を読んでくれないかしら?」
ついさっき別れたばかりなのに、いきなりこれではさすがのマルティも気まずい。
「空気を読む? 空気って見えないから読めないよ?」
「こ、この天真爛漫なところは長所なんだけど……なんだけどぉ!」
マルティはフィーロへと突撃していき、真正面からぼふんと顔を羽毛に埋めた。
さすがの彼女もフィーロをどうこうしようと思わないし、そもそもレベル的にもできないので、次善の策だ。
すなわち、愛でるのである。
「ムシャクシャするから、もふもふしてやる! レスティ、エレナ、あなた達も来なさい!」
「くすぐったいよー」
マルティ達とフィーロが戯れている光景に、メリエルと元康は互いに顔を見合わせ、ぐっとサムズアップ。
女の子達が可愛いのと戯れている姿、いいよね――
ああ、いい――
そんな風に通じ合ったところで、メリエルは元康に尋ねた。
「だいたい事情は分かったけど、とりあえずこっちが全面的に悪いので」
「まあ、俺も胸と尻ばかり見ていたから、愛想を尽かされても仕方がない」
そこへマルティがフィーロから顔を離して告げる。
「メリエル様でしたら、胸もお尻も好きなだけ見てください。っていうか、触ってください」
「おいマルティ! それは酷くないか!?」
「あら、槍の方。性犯罪者になる前に振る舞いを直したらどうですか?」
元康に対して辛辣な言葉を投げかけ、さらにあっかんべーと舌を出すマルティ。
「……まあ、あれよ。私が言うのも何だけど、彼女は特殊だから」
「俺、自信がない……」
「よしよし。まー、生きてりゃいいことあるって」
メリエルはとりあえず、元康に金貨が詰まった大袋を押し付け、彼にそれを持たせる。
「迷惑料として金貨2000枚を受け取りなさい」
「ふぁっ!? 2000!?」
元康は目玉が飛び出るくらいに驚き、レスティとエレナがフィーロから顔を離して反応した。
「彼女達の価値、そしてあなたが被った色んな損害……それらを加味すれば妥当ではあると思う」
「あーうん……」
曖昧な返事をしつつ、元康は大袋へと視線を落とす。
金貨がそこにあった。
元康の全財産よりも多かった。
一方、レスティとエレナは自分達に金貨2000枚の価値と聞いて、嬉しそうな顔となる。
そんな2人をメリエルは横目で見ながら、元康の言葉を静かに待つ。
「……あのー、メリエルさん。できればパーティーメンバーを誰か紹介していただけませんか?」
「タクトから引き抜いた子達は? 私が命じれば、仲間になってくれるわよ? メイドから何から、色んな子がいるけど」
「それはちょっと……できれば、ふつーな感じでいいんで……」
「奴隷商で奴隷を購入して、良い待遇を与える……それでいいんじゃないの?」
「俺だけだとダメそうな奴を掴んでしまいそうなので、ついてきてもらってもいいですか?」
元康は頭を下げた。
メリエルとしても、彼の戦力が低下するのは歓迎すべきではないと判断する。
すぐには答えず、もう一つの案を示す。
「あるいはフィロリアルとか魔物の卵を育てるといいかもね。雌ならハーレムできるわよ? 裏切ることもないでしょうから、あなたが思い描いたものができるかも」
「……落とし穴は?」
「食費がめちゃくちゃかかることかしら……うちのフィーロもティアも大食いだから……」
元康は渋い顔となる。
「奴隷を購入して、あとフィロリアルか何かの魔物の卵を1つだけ購入するよ……」
「妥当なところね。今から行く?」
「あ、そうっすね……できれば……」
元康の言葉にメリエルは頷き、
「じゃ、ちょっと馴染みの奴隷商のところへ行きましょうか」
メリエルはそう言って、元康を引っ張り、黒い靄の中へと入っていった。
「……そういえばフィーロ。あなた、どうやってメリエル様の居場所が分かったの?」
マルティはメリエル達を見送り、フィーロに尋ねた。
「んとねー、ジャンプしてー、目を凝らしてー、それで見つけたの!」
メリエルとは別の意味で深く考えると精神的にマズそうだとマルティは判断して、それ以上尋ねるのはやめた。
「元康、ここの代金も私が支払うから、好きな子を選びなさい」
「マジですか!?」
「マジよ」
「流石はメリエルさん! 略してさすメリ!」
「アホなこと言っていないで、さっさと選べ」
メリエルの言葉に元康は目を輝かせて奴隷を選び始める。
「……何とも、特徴的な方ですねぇ」
「お調子者なので」
「お調子者の一言で済むので?」
「彼の名誉の為にそれ以上のコメントは控えるわ」
奴隷商とメリエルはそんなやり取りをしつつ、奴隷を選ぶ元康を眺める。
彼は目移りしているようだ。
「あんまり目利きが良いようには思えませんが……よろしいので?」
「まあ、あまりにも酷いのは私が止める」
「はぁ、そうですか……」
元康は散々悩んで、亜人の少女とフィロリアルの卵を1つ選び、購入代金は約束通りにメリエルが支払った。
ラフタリアさんみたいな子とフィーロちゃんみたいな子に育って欲しい、と彼は真剣な顔だった。
ここからどう育てるかは元康の手腕に掛かっているが、奴隷の少女に平手打ちを食らっている彼を見て、先は長そうだという感想を抱くしかなかった。
「あ、ようやく帰ってきましたね」
元康達と別れたメリエルはルンルン気分で宿へと向かうと、ラフタリアは呆れた顔でメリエルを宿の玄関で出迎えた。
メリエル一行は大所帯であることから、宿を一つまるまる貸し切っており、他に客はいない。
「みんなは速さが足りない。レベル上げとなれば、一番先に突っ込んで、狩場を独占するのは当然。近寄る他の奴は皆殺し」
「バカなこと言ってないで、さっさと水着に着替えるなら着替えてください」
「他の子達は?」
「もう海に行っていますよ」
「ご主人様の私を差し置いて……」
「あっちこっちに寄り道している方が悪いです」
ジト目で告げるラフタリアにメリエルは両手を挙げて全面降伏を示した。
「ともあれ、待っていてくれてありがとう、ラフタリア」
メリエルはそう言って、ラフタリアの頭を撫でると、尻尾がふりふり。
本当にこのタヌキチちゃんは可愛いんだから、とメリエルとしてはほっこりである。
殺伐とした世界に潤いを与えてくれるのだ。
「ところでメリエル様。さすがに紐はやめてくださいね?」
「……紐水着を着用することにより、三勇者をノックアウトできる」
「ダメです。さすがに公共の場でそういうものを着用するのはダメです」
そんなわけで、メリエルはラフタリアと一緒に水着に着替え、手を繋いでビーチへと向かった。