夕食の席ではそういうことなど何もなかったかのように、メリエルは振る舞う。
とはいえ、妙な違和感があった。
マルティだ。
いつもなら積極的に絡んでくるのだが、今夜は妙に大人しい。
まさかマルティの正体が実はその女神でした、とかいう笑えない話は勘弁願いたい。
とはいえ、警戒するに越したことはない。
今夜は誰とも寝ずに、ガチで戦えるよう服装や目立つ箇所のアクセサリーは除いて、それ以外の装備を整えておこう――
そんなことを思っていたのだが、夕食も終わり、夜も深まったところでメリエルの部屋に来客があった。
マルティだった。
「珍しいわね、あなたが大人しいなんて」
にこやかに微笑みながらも、メリエルは油断しない。
これが別の人物であったなら、多少は気を緩めるところだが、当の本人がやってきたのだから、気を抜く筈もない。
「ええ。お礼を言いたくて」
「お礼?」
こくり、とマルティは頷いて微笑んだ。
しかし、それは見慣れた彼女の微笑みではない。
どうやら最悪か、その一歩手前の状況らしいとメリエルは確信する。
一方でマルティは何だか少し、恥ずかしそうにするが、やがて口を開く。
「私の分身たるマルティを、あなたはあんなに優しく、そして情熱的に……愛してくれました」
そっちのパターンだったか、と思いつつメリエルは話を聞く。
「その、何というか、本来なら勇者相手にこういうのはないんですけど……」
つんつん、と彼女は指を突き合わせながら、ちらちらと上目遣いでメリエルを見つめてくる。
「話が見えないんだけど、つまりどういうこと?」
「あなた、私だけの駒にならない?」
「駒?」
「ええ。私はあなたのことを心から気に入っているわ」
なるほど、とメリエルは頷きつつ、彼女にソファに座るよう勧めつつ、自分もまた座った。
すると彼女はメリエルの対面ではなく、横に座ってきた。
とはいえ、メリエルは構わず、無限倉庫からユグドラシル製の最高峰のワインやツマミをグラスと一緒に取り出した。
その行動に女神は満足気に頷きながら、告げる。
「やっぱりね。他の転生者共や勇者達と違って、あなたは物分かりがいいわ」
「話ができるならまずは話を聞く。とはいえ、こっちも答え合わせがしたい」
「構わないわ」
メリエルはワインをグラスに注ぎ、彼女へと渡す。
彼女は躊躇なく、それを飲み干した。
「とても美味しい。女神である私をもてなすに相応しい味ね」
「それは光栄ね。まず、あなたは何と呼べば? 私はメリエルよ」
問いに女神は、にこやかに微笑み告げる。
「私はメディアよ。メディア・ピデス・マーキナー」
「とても美しく、綺麗な名前ね」
「ありがとう。まず、あなたの聞きたいことだけど……本来なら心が読めるから、会話をしなくてもいいのだけど、あなたの心は読めないわ」
メディアの言葉にメリエルは笑ってみせる。
ユグドラシルの装備品は本物の女神相手にも有効だと確認が取れた為に。
ならばこそ、メリエルが保有している幾つかの切り札も有効である可能性が高い。
とはいえ、それらの切り札を使えば、非常にマズイことになるので、できれば使いたくはない。
「心が読めない方が退屈しない。そうでしょう?」
「違いないわ。それで、質問は?」
「私の魂って、どうなっているの?」
問いかけにメディアはじーっとメリエルを目を凝らして見つめている。
やがて彼女は肩を竦めた。
「ぐちゃぐちゃね。混沌だわ。でも、微かに人間の痕跡も残っている。人間の魂の上から色んな絵の具を塗りたくって、グレーにした感じ」
「あー、なるほどね……」
何が原因か分からないが、どうやら憑依とかそういうのではなく、本当にメリエルになっているらしかった。
とはいえ、それは望むところだ。
「正直、何であなたみたいなのが召喚されたか、さっぱり分からない……でも、おかげで私はあなたに会えた」
メディアは微笑みを崩さない。
彼女の言葉を受け、メリエルもまたにこやかに微笑みながら、答える。
「それは光栄ね。マルティは分身だと言っていたけれど、マルティは端末で、本体であるあなたが今、一時的に繋いで出てきているということで良いのかしら?」
「そういうことよ。この子の人格は今、眠っている。で、この子に刻んだ命令は勇者の仲違いとかそういうのだったのに……全く、あなたは本当に面白い」
なるほど、と頷きつつ、メリエルは問いかける。
「するとあれかしら、マルティという存在は本来は生まれなかったと?」
「そういうことになるわ。あくまで私が用意した魂と肉体だもの」
つまり、ミレリアの胎を借りたということか、とメリエルはちょっぴり興奮してしまう。
ともあれ、彼女は素直に告げる。
「メディア、マルティを誕生させてくれてありがとう。彼女はとても良い子ね」
「当然よ。私に似せたのだから。まあ、私の記憶とかそういうのは無いんだけど……それよりも、分身ではなくて、本体である私の方を見て欲しいわ」
そう言ってきたので、メリエルはメディアの額に口づけてやった。
拒否はない。
まだセーフのラインらしい、とメリエルは判断する。
「正直に聞くけど、何で波なんて起こしているの? 転生者とか送り込んでいるの? 暇なの?」
「単純に私のレベル上げよ。世界から経験値を吸い上げているの。で、波は私が降臨できるように世界の容量を拡張しているの。転生者はその補助。それと暇だから他の連中とゲームをしているのよ」
メディアの言葉にメリエルは相槌を打ちつつ、どういう状況かを把握した。
神話によくあるやつだ。
「
「あ、それいいわね。そうそう、それそれ。
メディアには厨二を感じるなぁ、とメリエルは思いつつ、駒について問いかける。
「それで、あなたの駒っていうのは?」
「駒とは言うけど、まあ、私専属の尖兵みたいなものね。色んな世界に行って、好き放題できるわよ? 気に入った女とかがいたら、連れて帰ってきてもいい。転生者達には自爆装置をつけてあるけど、あなたにはつけないし」
「待遇は?」
「私の寵愛を受けられるっていうのはどう? あとは分身達全部、あなたの女にしてあげる」
かなり心を揺さぶられる。
さすがは女神だとメリエルは渋い顔をする。
とはいえ、素直に引き抜かれるのも無理な話。
ここでメディアにホイホイ従うのは明確な裏切り行為だ。
しかし、メリエルにとってメディアは個人的には魅力的だ。
このくらいネジがぶっ飛んでいた方が面白いし、楽しい――
世界を滅ぼして回るというのも、中々楽しそうだし、何より自分の性に合っている――
「他にも転生者で気に入った女がいたら、あなたのものにしてあげるし、経験値とかが欲しいならそれもちょっとだけあげるし……」
えーとえーと、と指折り数えるメディアは女神とは思えない。
見た目通りの少女のようだ。
超越的な力を持っているというだけで、内面は意外と人間と同じではないか、とメリエルは予想する。
だが、やっていることは邪神そのものといえる。
その世界にいる生き物達を何だと思っているんだ――などと普通なら怒るところだが、あいにくとメリエルは普通ではない。
メリエルからすれば規模の違いはあるが、人間だって似たようなことをやっている。
それなら、神がそういうことをやったって別におかしくはない。
人間だけがやって、それ以外の超越存在が同じようなことをしたら、人間が理不尽だとか酷いとか怒るのはフェアじゃない。
勿論、無抵抗でやられろ、というわけでもない。
喚く前に神と戦えばいい。
シンプルな話だ。
とはいえ、保険は必要だ。
相手は文字通りのワールドエネミーであり、無限大の力があると言っても過言ではない。
何でもありの無制限バトルでは分が悪い。
よその世界はどうでもいいが、少なくともこの世界とグラスの世界は守っておく必要がある。
ではどうするか。
論理的に正論を主張する、なんてこの手の輩には無駄だし、最悪の手だ。
相手は自分のことを神と自称し、それに相応しい力も持っている。
対等な輩以外は全部、ミジンコみたいなものだろう。
ミジンコが正論でもって論理的に主張したとしても、神様が納得するわけがない。
ほぼ確実に激怒する。
ミジンコの分際で、自分に対して説教をするなんてとんでもない輩だ、死ね――となるのがオチだ。
メリエルは幸いにも、最適と思われる一手が頭に浮かんでいた。
この手の輩は楽しませて、気分が良くなったところでお願いをするのが良い。
その手段は賭け。
それも挑戦者が勝つには奇跡を起こすしかないような、そういう困難でスリルに満ち溢れた賭けだ。
今、メリエルは自分があの企業で裏側のトップにいたことを内心、感謝した。
接待で、富豪連中に色々とやってきた経験が活きてきた。
カネも権力も、そして自前の兵隊すらも持っているパーフェクトにくそったれな連中は常に退屈している。
ご機嫌を損ねれば、メリエルといえど物理的に首が危なかった。
リアルと比べれば今はマシだ。
ご機嫌を取ることに変わりはないかもしれないが、対抗する力はある。
意を決して、しかし、不安や動揺その他一切のマイナスなものは表には出さず、余裕のある態度と顔でメリエルは問いかける。
「メディア、私と賭けをしない?」
「賭け?」
きょとんとした顔をメディアは披露する。
彼女に対し、メリエルは言葉を続ける。
「賭けよ。あなたが勝ったら、私はあなたの駒になるし、あなたに心から尽くすわ」
「万が一にもありえないけど、私が負けたら?」
「私の女になって、永遠に傍にいてくれないかしら? ついでにあちこちの世界にちょっかいを出すのをやめて」
メディアは聞き間違えか、と困惑する。
「えっと、メリエル。私が負けたら、あなたがもっとも優先することは?」
「私の女になって、永遠に傍にいて欲しい」
「その次は?」
「ついでに、あちこちの世界にちょっかいを出すのをやめてね」
「そっちはついでなのね……」
「だって正直、どうでもいいので……あ、でもどう足掻いても人類の自業自得で環境汚染が進みすぎたクソみたいな世界があったら、跡形もなく念入りに滅ぼしといて」
メリエルの積極的な世界を滅ぼして欲しい、という発言にメディアはくすりと笑う。
「分身が惚れるのも、無理はないわ。私、あなたのそういうところ、好きよ。正義感を振り回したりしないで、自分に素直なところ」
その言葉にメリエルもまた答える。
「メディア、私はあなたのやっていることを理解できるし、まあ、神様のやることだから仕方がないわねって思う。でも私は今回のこと、あなたという女神からの試練だと思うわ」
メリエルの言葉にメディアは軽く頷いて、続きを促す。
「メディア、あなたは理由はどうあれ、結果として世界の滅亡という試練を与えた。その試練を受けたのは私。だから、試練を達成できた暁にはご褒美として、あなたが欲しい」
そしてメリエルはメディアを優しく抱きしめ、その耳元で囁く。
「私はあなたの力とかそういうのが目当てじゃないわ。メディアという女の子が欲しいのよ。何よりも勇者が神の与えた試練を突破したら、ご褒美をくれるのは道理でしょう?」
メリエルの言葉にメディアは即答せず、酔いしれていた。
こんな風に、現地の世界で敵側である勇者から言われたのは初めてだった。
何よりも、メリエルはメディアの事情をすぐに理解し、共感してくれた。
退屈は神をも殺す。
そんなことを言ってきた輩はどこにもいなかった。
メディアはマルティを通して、かなり早い時期からメリエルの行動を見てきた。
とてもではないが、勇者とは思えない行動の数々。
神にも匹敵する圧倒的な力。
ひょっとして、自分達の誰かが介入しているんじゃないか、と疑ったくらいだ。
決定打であったのは、メディアは生まれてこの方、恋人ができたことがなかったこと。
見た目は問題なかったが、彼女の性格についてこれる輩がいなかった。
また勿論、その超越した力にも。
メディアは彼女が所属するコミュニティにおいても飛び抜けた存在であり、全力を出せば過去、現在、未来、その他全ての平行世界や因果律に攻撃し、対象を消し去ることだって可能だ。
誰も彼もがその力に恐れをなした。
しかし、メディアが見たところ、メリエルには必殺の概念攻撃が通用しない。
彼女はメディアも知らない異世界の強力な加護を常時纏っており、これによって概念攻撃が無効化されてしまう。
純粋に物理的、もしくは魔力的な攻撃で倒すしかない。
その事実だけでもメディアからすれば、驚くに値する。
メディアにとってメリエルは自分を倒しうる可能性が僅かにあるかもしれない存在だが、同時にたまらないほどに魅力的な存在だ。
美しく、強く、自身の欲望に忠実、交渉次第では自分に靡く――それらが全て備わった存在は中々いない。
少なくとも、メディアがこれまで潰したり支配してきた無数の世界の中にはいなかった。
メディアに対して激怒して反抗してくる輩しかいなかったのだ。
そのように稀有な存在であったから、わざわざ端末にアクセスして、意識だけを持ってくるなんてことをしている。
このように接触しようと決めたのは今日の昼間の出来事だ。
転生者につけた自爆装置が作動し、当時のログを辿ってみればメリエルによって、転生者がNGワードを喋ったからだった。
しかも、その内容は核心的なものだ。
放置しておけば、メリエルは必ず自分に辿り着く。
何をしてくるか、メディアでも分からないのがメリエルだ。
とはいえ、退屈を何よりも敵としているメディアにとって、メリエルの行動の予想ができないところが何よりも好ましいところでもあった。
「……いいわよ。あなたの賭け、のってあげる」
それで、とメディアは続ける。
「賭けの内容は?」
「あなたは選りすぐりの転生者達を送り込む。そいつらを私が全員殺せれば勝ちっていうのはどう?」
「ダメね」
メリエルの提案にメディアは即答した。
メリエルもこれが通るとは思っていない。
あくまで取っ掛かり、ここからどれだけ相手がハードルを上げてくるのを抑えるかが勝負だった。
メディアは言葉を紡ぐ。
「転生者と憑依者は基本的に元の世界ではダメな奴を選んで送っているから。赤子の手をひねるよりも簡単に、賭けにあなたが勝ってしまうわ」
「私が言うのもなんだけど、もうちょっと人選はしっかりした方がいいんじゃないの? 自爆装置があるなら、別に優秀な奴でも……」
「優秀……というか、元の世界において精神的に満ち足りていると、転生とか憑依に対して拒絶反応が凄いのよ。無理矢理やれないこともないけど、精神的にぶっ壊れて使い物にならないわ」
なるほど、そういう仕掛けがあったのか、とメリエルは感心してしまう。
「劣等感とか不満とかがあればあるほど、すごく簡単になるのよ。大抵、そういうのを溜め込んでいるのって、どういう人物か……分かるでしょ?」
「女神も苦労しているのね……」
「ええ。だから、私はあなたが欲しいのよ」
疲れた顔のメディアに、メリエルは同情してしまう。
彼女だって使い物にならない輩を押し付けられたときは、苦労したものだ。
メディアの気持ちが手に取るように分かってしまった。
メリエルはメディアの肩をぽんぽんと叩き、彼女のグラスにワインが溢れるほどに注ぐ。
メディアはそれを一気に飲み干し、告げた。
「賭けの内容、私とあなたが1対1で戦うっていうのでいいんじゃない?」
マズイ、とメリエルは判断し、告げる。
全知全能かもしれない相手だ。
いくら何でも分が悪すぎる。
「それだと勝負にならないんじゃない? つまらないゲームはあなたの望むところではないでしょう」
メリエルの言葉にメディアは不敵な笑みを浮かべ、そして彼女はメリエルへと抱きついた。
「つまらなくてもいい。あなたを手に入れられるのならね。ゲームはすぐに終わっても、あなたが私の駒になれば、永遠に私はあなたを楽しめる。違うかしら?」
メリエルは匙を投げたくなった。
自分のことを高く買ってくれるのは嬉しいのだが、今回ばかりはマズイ。
だが、ここが踏ん張りどころだ。
この程度、ピンチのうちにも入らない……いや、ちょっと入るかもしれないが、それでも何とか活路はあるはずだ。
「1対1で戦うのはいいけど、そもそもフィールドは?」
「あなたを私の世界に招待するから。世界って言っても、戦えるように異空間に作るフィールドなんだけどね。あなたの為に私は全力で戦うから、被害は気にしなくていいわよ?」
「……参考までに、あなたってどのくらい速いの?」
「無限の速さを超越して、時間をも超えるわ」
メリエルはジト目でメディアを見つめた。
その反応にメディアは頬を思いっきり膨らませる。
「無限の速さを超えているのよ! 凄くない?」
「いや、凄いけどさ……凄いけど、もうちょっとこう……インフィニティ・クロノス・スピード」
「それ貰った! あなた、本当にネーミングセンスがいいわ」
「そりゃどうも……ところで私のやる気を出す為に必要な質問なんだけど、いいかしら?」
問いかけにメディアは頷いた。
メリエルは問いかける。
「神様ってどうやって子を生すの? そもそもそういう概念があるの?」
その言葉にメディアは答える。
「大昔の先祖は人間だったらしいけど、技術の進歩で不老不死になって、精神も衰えたりもしなくなって、今みたいなところまできたのよ。確かに生殖行為によらない誕生方法もあるけど、それでも普通は生殖行為なの」
「人間的な生活習慣とかそういうのは今でも残っているってこと?」
「そうよ。お風呂だって入るし、ご飯を食べたら歯だって磨く。あ、でもご飯は栄養補給っていう意味はなくて、完全に嗜好品だけど……」
メリエルは、なるほどと頷く。
合点がいった。
道理で、思考が人間の筈だ。
メリエルは更に問いかける。
「ねぇ、メディア。あなたのやっている神々のゲームとやらは、早い話が文明レベルが遥かに下等な異世界を支配してやろうっていうものかしら?」
「そうよ。一定期間ごとに、どれだけの世界を支配できたかっていうゲーム。これが中々奥が深くてね。単純に支配した世界の数だけでスコアは決まらなくて、世界から吸い上げた経験値をどれだけ蓄えたかっていうのも関わってくるのよ」
支配する世界と経験値だけを吸い上げる世界、これを見分けるのが肝心だとメディアは自慢げな顔で告げる。
彼女に対しメリエルは笑みを浮かべ、相槌を打ちながら、思う。
単なる人間なら、やりようがある。
ああ、くそ、ビビって損した。
あ、今のは無しだ。
私はビビってない――ビビってないぞ! ほんとだぞ!
そう自分に言い聞かせながら、メリエルは確信した。
神を騙る凄く強い力を持った人間なんぞ、
ましてや、不老不死による超越者特有の老成し、超然とした精神もなく、見た目通りの精神では尚更だ。
よくよく考えてみれば本物であったなら、思考を予想することも会話すら成り立たなかっただろう。
超常の存在というのは、まさしくそういうものであるだろうから。
メリエルは思い出す。
ユグドラシルのことは、彼女の脳裏に現実のものとして思い出される。
数多の神々を、悪魔を、魔獣を、世界を簡単に滅ぼせる化け物共を殺してきた。
共に轡を並べて戦った連中もまた、化け物揃い。
時には味方、時には敵として戦ったライバル達もまた同じ。
そして、世界全てを敵に回し、戦った。
屍山血河を築いた歩みこそ、彼女の歴史。
全て、現実だ。
最初に仕えた光の主、堕ちたときに仕えた闇の主。
混沌となったときに、仕えた盲目白痴にして全知全能たる主。
ゲームではイベントとかクエストで会いに行くくらいしか、用がなかった彼らもまた現実のものとして、思い出される。
同時に彼らから――白痴である筈の主からも――声が響いた。
それは単なる幻聴であったかもしれない。
だが、幻聴であろうが、メリエルにとってはどうでも良かった。
彼女の気分を高める為に、それは非常に役に立ったからだ。
その使命を果たせ――
神を僭称する愚か者に、我らの威光を示せ――
知らず知らずのうちに、メリエルの口元が僅かに歪んでくる。
成功報酬として彼女は貰うわ。
そのくらいはいいわよね?
苦笑したような2柱と興味なく玉座で眠っている1柱、その玉座の横に佇む設定上では同僚の存在が笑ったように、何となく虚空に見えた気がした。
「――――――」
メリエルは虚空に顔を向け、そう告げた。
メディアは首を傾げる。
彼女はメリエルの言ったことが分からず、不思議な音に聞こえた。
神聖さと禍々しさを同時に併せ持った、矛盾した音だった。
メリエルは1つの口から同時にエノク語をはじめとした、異なる複数の言語で、言った。
信仰心なんて無いので、単なる格好つけに過ぎないが、雰囲気は大事だ。
主達の御心のままに――
総軍率いて、全力で征伐せん――
決意を固めたところで、メリエルは問いかけた。
「メディア、いつやるの?」
「この世界の時間で3ヶ月後の午前0時にご招待っていうのはどうかしら?」
「女神パワーでどかーんと一気にできないの?」
「女神パワーも貯めないとダメなのよ」
「この世界と融合しかけている世界全部に戦うところを中継できない?」
「できるわよ」
メリエルは満面の笑みとなり、告げる。
「お願いするわ」
「ま、それくらいならいいわ。私も他の神達に、あなたという最高の駒を手に入れるところを見せつけたいから」
その言葉にメリエルはにこやかな笑みを浮かべ、問いかける。
「もう勝った気でいるの?」
「当たり前よ。むしろ、あなたは勝てると思っているの?」
「私もちょびっとだけ、腕には自信があるので」
このくらい、と2本の指で新聞紙数枚くらいの厚さを示してみるとメディアはけらけら笑う。
「それはそうとして、メディア。これは勝負には全然関係がない提案なんだけど、あなたの本体と見た目が全く一緒で、記憶とか意識とかもある分身って作れるかしら? 常時本体とアクセスしているような形で、女神としての力だけがない感じの」
「できるけど、どうして?」
「3ヶ月の間、あなたに会わないなんて私には無理なので。
「いいわよ。1週間以内には送り込むから」
メディアはあっさりと承諾した。
あまりの嬉しさにメリエルはメディアを抱きしめ、その唇に口づけた。
触れるだけに終わらない、情熱的な深いものだ。
メディアも拒むことはなく、それをただ受け入れる。
数分ほどしてメリエルが離れると、メディアは拗ねたような顔をしてみせる。
「初めてだったのに……」
「その体はマルティだから、セーフよ」
メリエルの言葉にメディアは再度、抱きつく。
そんな彼女を抱きしめながら、メリエルは思う。
私の経歴とかそういうものをマルティを通して知っておきながら、3ヶ月も一緒にいるなんて――
いや、そもそも圧倒的な力があるのだから、そんなものは意味などないと考えているのかもしれない。
全く、私に対して無理解が過ぎる。
3ヶ月もあるなら、必要な情報を聞き出すには十分だ。
しかも相手はこっちを舐めきっているから、ペラペラ喋ってくれるだろう。
私がいつまでも弱者のままでいることを、良しとするか?
違うだろう――
「それじゃ、私は帰るから。ああ、どんな準備をしても、構わないわよ? ちょっとくらいは抵抗してくれたほうが楽しいし」
「そうさせてもらうわ。ささやかな抵抗をね」
メディアはにこりと笑った。
そして、その体から力が抜けて、ソファに倒れ込んだ。
マルティに戻ったのだろう。
メリエルは彼女の額に口づけし、ベッドへと彼女を抱いて移動する。
そして、メリエルはミレリアへと
ミレリアが起きていたのは幸いだった。
トゥルーエンド分岐条件(捏造
マルティの好感度を最大にまであげた後、波の尖兵をうまく倒すとメディアが直接干渉してくる。
メディアとの交渉に成功すると、イベント:未来への最終決戦が発生。
最終決戦に勝利すると……この先は自分の目で確かめよう!