おや……? 盾の勇者の様子が……?   作:やがみ0821

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※グロ注意


波の尖兵、勇猛果敢なる突撃、そして凄惨なる玉砕 ※グロ注意

 

 

 砂漠の一角を埋め尽くすモンスターの群れ。

 万を軽く超えているんじゃないかという程の数だ。

 

 そんなモンスターの大群へ空から降り注ぐ複数の太陽と隕石と月と多種多様な属性魔法。

 それらを逃れたモンスターは逃げようとするが、待ち構えていた集団によってたちまちのうちに討伐される。

 モンスターが粗方討伐されると、1分もしないうちにモンスターはまた大量に出現し、同時に空から色んなものが降り注いだ。

 断末魔の叫びと共に消し飛んでいくモンスター達は経験値を提供し続けていた。

 

 

 自分や仲間に成長補正ボーナスが入る盾を使い、更にユグドラシル時代にも使っていた経験値上昇などの各種装備を身に纏い、メリエルは狩り続けていた。

 ラフタリア達は途中休憩を挟んだり、夜にはレベリングを終了して戻ったりしているが、メリエルはシステムエクスペリエンスを討伐し、廃墟都市の探索で宝物庫から色んなお宝を回収した後からずーっとレベリングをしている。

 

 

 不眠不休、飲まず食わずで既に4日目に突入し、盾の勇者としてのレベルはガンガン上がっている。

 元々100レベルだったユグドラシル時代のレベルは盾の勇者としてのものと比較すると、非常に遅い。

 ある意味、想定通りの上がりにくさだったので、メリエルとしても特に気に留めていない。

 

「しっかし、あの装置が砂漠化の原因だったとはね」

 

 魔法を唱えながらも、背後に目をやれば廃墟の都市が遠くに見える。

 ついこの間までは砂が吹きすさぶ、枯れた都市であったのに、大きな水柱が見える。

 

 システムエクスペリエンス討伐後の地響きの原因はあの水柱であり、レールディアが言うには龍脈とかその他色々を装置が弄り回した結果、砂漠化していたらしい。

 数ヶ月もすれば緑豊かな土地になるだろう、という予想だ。

 

「ここ、どうするのかしらね」

 

 地理的にはメルロマルクとシルトヴェルトの境界にある。

 砂漠ということで今まで見向きもされていなかったが、緑が復活したとなれば話は別だ。

 互いに領有権を主張し、下手をすれば戦争になるだろうことは間違いない。

  

「ま、一肌脱いであげようかしら」

 

 メルロマルクとシルトヴェルトが互いに戦争し合うのはメリエルにとって利益がない。

 横合いから殴りつけてどっちも手に入れるということもできるが、そんなことをしなくても、もう手に入れたも同然だ。

 

 そのとき、メリエルに伝言(メッセージ)が届く。

 伝言(メッセージ)が使用できる装備やアイテムを持たせてある為、レベリング中はこれでやり取りを済ませている。

 

 伝言(メッセージ)の相手はミレリアだった。

 彼女にも伝言(メッセージ)が使えるようになるアクセサリーを渡していたが、メリエルに直接連絡をしてくることは珍しい。

 

 とはいえ、心当たりはある。

 タクトの件とメディアの件、その両方に関する協議の開催日時が決まったのだろう。

 しかし、メリエルは時間が惜しいので、モンスターを湧かせ、処理するという単純作業の手を止めることはしない。

 

『はい、こちらメリエル』

『メリエル様、例の件の日程が決まりました。3日後にゼルドブルで開催します』

 

 ここにきてゼルドブルか、とメリエルは納得する。

 どうやら彼の国は滑り込みで、利益を得ることに成功したようだ。

 とはいえ、その得られるものは元から参加していた国々と比べると、僅かなものだろう。

 あとから参加してきた国に利益をたくさん与えるような国はない。

 

『それとプラド砂漠の件ですが……色々と得たそうですね?』

『捨ててあったので、拾ったのよ。ゴミを拾って有効活用、環境には優しくしないとダメ』

『それはまあ、良いのですが……そこの土地、よろしければどうでしょう?』

『どうでしょうって何よ、どうでしょうって』

 

 メリエルは分かっているが、敢えてそう尋ねる。

 変な言質を取られるわけにもいかない。

 

『プラド砂漠、あなたの領地……いえ、国を建国しては?』

『めんどくせぇ……』

 

 思いっきり本音がメリエルから飛び出した。

 いくら万能なパワーがあるとしても、面倒くさいものは面倒くさい。

 ましてや建国なんてした日には立法司法行政の各機関の立ち上げから行わねばならない。

 測量による土地調査や他国との国境線の確定の為に交渉その他色々、仕事の量は無限大に広がる。

 

『あなたの国ですから、どんなことをしてもいいんですよ?』

『いや、そりゃそうだけどさ、現状でも私ってそうしているし……』

『とにかく、貰ってもらわないと困ります。メルロマルクとシルトヴェルトの緩衝地帯として』

『やっぱりそれが狙いか』

『当然です。万が一ということもあるかもしれませんし……他国に迷惑を掛けなければ、何でもしていいですから』

『今、何でもって言ったわね?』

『その代わり、こちらも色々と要求させてもらいますけど……同盟とかそういうのですので』

『国を吹っ飛ばされたくなければ従属しろ。盾の勇者たるメリエルが命じる』

『マルティから学生服を借りたので、今度、それを着ますから……それにカルミラ島では色々あってゆっくりできませんでしから、今度は2人で……』

 

 メリエルは渋い顔となったが、欲望に負けた。

 

『分かったわよ。ただ、私が内政した結果、国力が世界一になって超大国になって、世界統一してもいいの?』

『現状でも、あなたがそうしようと思えばそうできるのでは?』

『まあ、そうね……』

 

 メリエルの力は各国首脳の知るところだ。

 正直、彼女が本気で世界征服に動いたら、誰も止められない、という共通した認識があった。

 

『それじゃ3日後にゼルドブルで会いましょう』

『よろしくお願いします』

 

 そして、連絡を終えるとメリエルはモンスターを処理しながら、考える。

 

 国の立ち上げの為にどこから人員を持ってくるか、と。

 メルロマルクもシルトヴェルトもシルトフリーデンもフォーブレイも、にこにこ笑顔で提供してくれるだろうが、それは面白くない。

 どう考えても情報を各々の母国へと流される。

 それはよろしくない。

 

「平和になってから、と考えていたけど、まあいいか」

 

 ユグドラシルの錬金術師スキル、ホムンクルスの作成とこっちで得た盾の新・七つの大罪シリーズの力、そしてウィッシュ・アポン・ア・スターによる制限の撤廃。

 それらを組み合わせて、色んな種族を創ろう、とメリエルは考える。

 

 勿論、自分にとって色んな意味で都合の良い種族だ。

 

「エルフとダークエルフとアマゾネスと……時間が足りない」

 

 とりあえず時間が欲しい、とメリエルは渋い顔になったが、彼女にはやることがいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 3日後、ゼルドブルにメリエルはいた。

 流石に大人数で来る必要もない為、彼女はいつものメンバーで来ようとしたのだが、ラフタリアも含め、もっと強くなりたいと言ってきた。

 このままではいけない、という思いが彼女達には強かった。

 

 なぜならばメディアがメリエルと戦っている間に転生者をけしかけてきたり、波を起こしたりしてきた際、メリエル抜きで対処しなければならなくなる。

 

 これまで十分に助けてもらってきた、いつまでもメリエルにおんぶに抱っこではいけない、と。

 

 メリエルとしても大いに納得し、頑張れと励まして、必要なアイテム類も渡してきたのだが――やっぱり寂しいものは寂しい。

 ネリシェンがシルトフリーデンの代表者として出席することがせめてもの慰めだ。

 

 とはいえ、そんな感情を顔に出すことはなく、メリエルは各国との協議へと臨んだ。

 

 

 

 ミレリアにより事前の根回しが済んでいる為、協議自体は非常にスムーズに進行する。

 まず、タクトの件は前倒しで、さっさと処理することが決定した。

 わざわざ戦争でカネを浪費せずとも、さくっと処理して、ついでにクーデターに加担した、ということで各国とも過激な連中を処理することで合意する。

 その際、証拠を残さない為にも基本的にメリエルが主導して動くことが確認される。

 

 メリエルとしても、乗りかかった船であり、異論はない。

 タクトの件に関する利益分配も彼女の取り分が大きく、また各国ともにメリエルに対し便宜を図ることを約束した。

 

 メリエルはその思惑が手に取るように分かる。

 要するに、便宜を図るから、大人しくしていてくれ、とそういう意味合いだ。

 彼女としても、別に今のような感じであるならば問題はない。

 

 メディアのことに関しても、基本的には人智の及ぶ戦いではないということでメリエルへ丸投げという形が取られた。

 その一方で、各国が緊密に連携を取り、波や転生者に対する対策を実施することで合意する。

 

 そして、いよいよプラド砂漠の領有に関することとなったのだが――特に荒れることもなく満場一致でメリエルへと丸投げされた。

 元々提案してきたミレリア――メルロマルクは言うに及ばず、シルトヴェルトとしても、盾の勇者であるメリエルが領有するなら異論はない。

 フォーブレイやシルトフリーデンもシルトヴェルトと同意見、ゼルドブルは商売の相手として興味津々といった具合だった。

 

 

 

 3時間程で協議は終わり、メリエルはとんぼ返りするのもイヤなので、軽くゼルドブルを見て回ることにしたのだが、コロシアムに目星をつけていた彼女はそこへ惹かれるように向かっていった。

 

 

 

 

「えっ、私は出場できないの?」

「大変申し訳ありません」

 

 謝罪するコロシアムの支配人。

 受付に現れたメリエル、受付係は対応に困り、上へと報告した結果、受付まで支配人が出てきて頭を下げることとなった。

 

「その、メリエル様の御力は聞き及んでいますので……」

「ゼルドブルには来た記憶がないんだけど、知られているの?」

「ええ、まあ……私共としても、興行ですので……」

 

 支配人の言葉にそりゃそうだ、とメリエルも納得する。

 どっちが勝つか分からないから、面白いのであり、賭けが成り立つのだ。

 最初から勝敗が分かっているなんぞ、面白くもなんともないし、賭けが成り立たない。

 

 

 

「あらー、それならちょっとお姉さんと戦ってみない?」

 

 そんなとき、横から掛けられた声。

 メリエルはそちらへと視線を向けると、声色から女性と思われる存在がいた。

 表情が掴みにくい顔で、そして全体的にデカイというのがメリエルが抱いた印象だ。

 シャチが二足歩行して、人語を話し始めたら、こうなるんじゃないか、というような典型だった。

 

 メリエルはある一点に目を奪われた。

 そのシャチの上半身はチョッキを羽織っているが、下はふんどしだ。

 

 あんまり嬉しいものじゃない、とメリエルはげんなりした。

 

 手には布を巻いた棒を持っているが、あいにくと彼女は二足歩行するシャチのふんどし姿という、ちょっとした精神攻撃を受けたので、そこまで気を回さなかった。

 

「私はナディア。ちょっとだけ腕に覚えがあって」

「ですって」

 

 メリエルが支配人へそう声を掛けると、彼は肩を竦めてみせた。

 ナディアに彼は覚えがあった。

 奴隷商が扱う商品であり、また同時にその強さをアピールする為によくコロシアムに出場している。

 中々の強さであり、それなりに人気の戦闘奴隷だ。

 

「うちは関与しませんので……そこらの空き地でやってください」

 

 そんなわけで、メリエルとナディアは近くの空き地へと移動することとなった。

 ちなみに、そのやり取りをしたのは受付場の隅っこ。

 コロシアムの観戦に来た客や参加者もメリエルとナディアのやり取りを見ていたこともあり、面白そうだとくっついてきた。

 

 支配人は頭を抱えたくなったが、彼としてもメリエルがどのくらい強いのかというのは噂に聞いた程度。

 彼もまた野次馬根性で、くっついていった。

 

 

 

 

 

「銛なんて、随分マイナーな武器を使っているわね」

 

 空き地にて対峙したナディアが手に持っていた布を棒から外すと、現れたのは銛だった。

 本来は武器として扱うものではない。

 

「漁師さんに怒られても知らないわよ?」

「大丈夫大丈夫。それで、あなたはどうするの?」

 

 ナディアの問いに、メリエルは少し考えて、問い返した。

 

「ハンデとして素手で戦ってあげてもいいけど、どうする?」

「あらー、もしかしてお姉さん、舐められている?」

「うーん、舐めているというか、正直、もっとハンデをつけてもいいかもしれないけど、どう?」

「お姉さんを舐めると、怖いわよ」

 

 メリエルは悩みに悩み、仕方がなく、そこらに落ちている石ころを1つ、拾った。

 

「じゃあ、これで」

 

 メリエルの宣言にナディアは怒りのあまり頬が引きつった。

 ちなみにメリエルは一切悪意がない。

 煽っているように見えるが、彼女が本気で悪意を持って煽ったらこんなものでは済まない。

 メリエルは善意で、このくらいのハンデでどうだろうか、と示しているのだが……この場にいる者達からすれば、どう見ても無自覚な煽りにしか見えなかった。

 

 

「行くわよ!」

 

 ナディアは銛を構え、駆け出した。

 その速度は野次馬達が驚く程に速く、メリエルへと瞬く間に迫り――

 

 ナディアは腹部に衝撃と痛みを感じ、気がついたら空が上にあった。

 

 

 

 何が起きたか分からなかった。

 お腹のあたりが熱く、そして痛く。

 腕を動かそうとしても、全く動かない。

 

 視線だけどうにか動かしてみれば、そこにはぽっかりと大きな穴が空いていた。

 そこから血が流れ出している。

 

 そして、足音が聞こえてきた。

 やがてそれは間近で止まり、ナディアの顔を覗き込んできた。

 

 メリエルだった。

 

「はいはい、治すからね」

 

 彼女はどこからともなく瓶を取り出すと、その中に入った液体をナディアへとぶっかけた。

 一瞬にして、ナディアから痛みが消えて無くなった。

 彼女は恐る恐る視線を向けてみれば、腹部に空いていた穴は綺麗さっぱりなくなっていた。

 

「私は石を投げてぶつけただけ。意味は理解できるかしら?」

 

 ナディアはその言葉をゆっくりと頭に染み込ませ、そして目をぱちくりとさせた。

 

「本当に?」

「本当に。ちなみにだけど、私は素手で地割れを起こせる。やってみせましょうか?」

 

 握り拳を作って、地面に振り落ろそうとするメリエルにナディアはストップを掛ける。

 彼女は体を起こした。

 

「流石はメリエル様ってところかしら。ね、お姉さんも仲間に入れてくれない? あ、お姉さん、戦闘奴隷なんだけど、買って」

「別に構わないけど、何が狙いなの?」

 

 ジト目で見つめるメリエルにナディアは告げる。

 

「実はメリエル様のところにいる子と知り合いなのよ」

「嘘だったら……ねじり切る」

 

 メリエルは雑巾を絞るような動作を両手でしてみせる。

 女の手だというのに、まるでとてつもない化け物がそうしているようにナディアには感じられた。

 

「とりあえず、場所を変えましょうか」

「そうしてくれるとお姉さんも助かるわねー」

 

 メリエルの言葉にナディアが同意したところで、メリエルはにっこりと笑った。

 そして、彼女はナディアをひょいっと抱えて、その場から離れた。

 

 呆気に取られていた野次馬達は、そこでようやく我に返ったのだった。

 

 

 

 

 メリエルは野次馬達から十分に離れたところで、転移門(ゲート)を開いて、プラド砂漠の拠点としている場所へ戻ってきた。

 

「……え? 何なの?」

「ちょっとした空間転移魔法というやつ」

「さらっととんでもないことをするのね……」

「よく言われる。で、私のところにいる誰と知り合いなの?」

 

 メリエルの問いにナディアは告げる。

 

「ラフタリアちゃん。同じ村に住んでいたのよ」

「ラフタリアはあなたのことを知っているの?」

「知っているよ。ナディアは偽名で、本当の名前はサディナ。聞いてみて」

 

 メリエルは伝言(メッセージ) をラフタリアへ繋げ、問いかけてみた。

 すると、ラフタリアは驚き、すぐにメリエルとサディナのところへとやってきた。

 

 

 

 

「……世間って狭いわね」

 

 メリエルは思わず呟いた。

 目の前ではサディナと抱き合うリファナとキール。

 その横でラフタリアは嬉しそうな顔で3人を見ている。

 

「ご主人様、また何かやったのー?」

「フィーロ、そういうことを言うと馬車を取り上げるわよ?」

「やー!」

「可愛い奴め」

 

 横からやってきたフィーロをメリエルは撫でまくる。

 

「しかしまあ、美女と野獣……いえ、美女と海獣?」

 

 私の趣味じゃないわね、とメリエルはサディナに判定を下す。

 もうちょっと人っぽい姿なら……とメリエルが勝手に思っていると、サディナがこっちへと歩いてきた。

 

「感動の再会とやらはいいの?」

「大丈夫よーところで、奴隷商のところで手続きをしないといけないわねー」

 

 初めて会話をしたときから思っていたことだが、口調と見た目の不釣り合いが半端ではないとメリエルは思いつつも、告げる。

 

「んじゃ、この後、行きましょうか。ところで、その奴隷商ってこういう見た目のやつ?」

 

 まさかな、とメリエルは思いつつ、無限倉庫からメモ帳を取り出して、そこにさらさらとメルロマルクの奴隷商の見た目を描いてみせる。

 するとサディナは頷き、肯定する。

 

 それなら話は早そうだ、とメリエルは早速サディナを連れて、ゼルドブルへと戻った。

 

 

 

 

 奴隷商からサディナを購入し、ついでに彼女に言われるがまま、ラフタリア達が住んでいた村の元村人だという者達を購入する。

 サディナが言うには戦闘奴隷として賞金を稼いで、奴隷となった元村人達を買い集めていたらしい。

 

 よくもまあ、そこまでやるもんだ、とメリエルは感心してしまう。

 

 そして、プラド砂漠へと再度戻ってきたところでメリエルはサディナに問いかける。

 

「……ところでこれ、なし崩し的に私が面倒を見ることになりそうな予感がするんだけど?」

「あ、あらー? 気のせいよー」

「シャチって焼いたら美味しいのかしら?」

 

 メリエルはサディナの手をがっちりと掴んだ。

 サディナは逃げようとしたが、メリエルからは逃げられない。

 

「私は慈善事業をやっているんじゃないのよ。相応の利益をよこせ」

「……利益って言ってもねぇ、お姉さんをあげるとか?」

「シャチにはどんな調味料が合うのかしらね」

 

 メリエルは無限倉庫から調味料を幾つか取り出した。

 サディナは両手を挙げて降参した。

 

「盾の勇者様って聞いていたのにー」

「そいつは情報が古いわね。最近の勇者は大魔王も兼業なのよ。ところでラフタリアも有名なの?」

「有名ね。お姉さんも聞いたときはビックリしたんだけど、盾の勇者に仕えるラクーン種の凄腕剣士って」

「凄腕剣士? それ初耳なんだけど」

 

 凄腕だったっけ、とメリエルは首を傾げる。

 凄腕のツッコミ役だった気がする、と。

 そもそも剣の腕前を披露したことなんて、数えるくらいじゃなかろうか、とメリエルは不思議に思う。

 

「メリエル様ってめちゃくちゃ目立つじゃない?」

「まあ、そうね」

「で、ラフタリアちゃんって大抵、傍にいるでしょ?」

「ええ」

「そこで色々と尾ひれがついて」

「なるほど」

 

 メリエルも納得である。

 そのとき、妙な気配を多数、彼女は探知した。

 

 メディアの分身体なら、1人で来る筈であり、何よりもこんな殺気を出すわけがない。

 

 

「これは一波乱ありそうね」

「え?」

「いわゆるひとつの、戦闘準備」

「ええ?」

 

 サディナが困惑したが、すぐにメリエルの言葉を理解することとなった。 

 

 

 

 

 

 

「盾の勇者メリエル! 俺の女になれ!」

「うわぁ」

 

 青年の発言に、ラフタリアが思わずそんな言葉を言ってしまったが、それも無理はない。

 

 20分くらい前、メリエルが探知した多数の気配。

 それは波の尖兵達だった。

 それぞれが女達を従えて、わざわざ遠路遥々とやってきてくれたようだ。

 目算で300人以上とかなりの大所帯だった。

 

 まさかこういう事態になるとは思ってもみなかった為、メリエルはプラド砂漠における拠点周辺には何もトラップを設置していない。

 精々が自身の索敵範囲を拡大するネックレスを念の為につけていた程度だ。 

 

 そもそもメディアが命令を下すにしろ、彼女自身が先のカルミラ島での対話において、転生者達ではメリエルには敵わないと発言している。

 というか、メディアはいつくるんだ、もう1週間は過ぎている筈とメリエルは思うが、放置している。

 下手に連絡をすれば、女神である自分の事情も考えないで云々とか何とか言って理不尽に怒り出しそうなので、それはそれで面倒なのだ。

 

 ともあれ、20分という時間的猶予があった為、メリエルは伝言(メッセージ)にてラフタリア達に状況を説明し、戦闘準備を整えてその集団の進路上で待ち構えたのだが――

 

 いきなりさっきの発言である。

 

「なるほどね」

 

 メリエルは尖兵達を見回して、色んな意味で納得する。

 各々、女を囲っている。

 中には女であるにも関わらず、女を囲っている者もいる。

 自分もそうである為、メリエルとしては彼らの気持ちが大いに分かる。

 

 ともあれ、尖兵達は男なら美形、若干名いる女ならば美女や美少女といった具合だ。

 

「要するに、私とその女の子達を手に入れてしまおう大作戦みたいな感じでいいの?」

 

 メリエルの問いかけに彼らは一様に頷いた。

 とはいえ、メリエルにとっては非常に残念であったが、彼ら全員から――取り巻きの女の子達も含めて――全く脅威を感じなかった。

 

「男で自分のことが美形だって人、手を挙げて?」

 

 メリエルの言葉に彼らは互いに顔を見合わせた後、何人かが手を挙げた。

 確かに美形である。

 これは間違いない、メリエルも認めるところだ。

 とはいえ、彼らにとって残念であったことはメリエルがのこのこと出てきてくれた敵を見逃すことがないということだ。

 だが、情報収集は必要だ。

 

「何でこのタイミングで?」

 

 メディアとは話がついている。

 彼女が命じたようにはどうにもメリエルには思えなかった。

 

「メリエル、君は何か勘違いをしているようだが……君も転生者なのだろう?」

「転生者……なのかしらね」

 

 ちょっと事情が特殊な為にメリエルとしても困るところだ。

 あと転生者というキーワードを出しても、目の前の青年は爆発していないので、微妙に制限が違うようだとメリエルは判断する。

 女神と転生者がくっつくとヤバイのかしら、と思いつつ。

 

「だが、君は随分と調子に乗りすぎた。だから、こうして罰を与えにやってきたわけだ。意外と賛同者が出てね。早い話が我々の女にしてやるから、降伏しろ」

 

 彼の言葉にメリエルはさり気なく、視線を巡らせてみた。

 ラフタリアやヴィオラ、その他プラド砂漠でレベリングをしていた子達。

 

 彼女達の顔には憐憫しかない。

 まるでこれから屠殺される牛や豚を見るような、そんな顔をしていた。

 

 いや、普通ならここでラフタリアあたりが怒って反論してくれるんじゃないかな、とメリエルは思ったが、どうもそういうことはしてくれないらしかった。

 

 真面目なタヌキチちゃんが不真面目なタヌキチちゃんになってしまった、とメリエルは肩を竦めてしまう。

 

「とりあえず、リーダーというか、引率者はあなたでいいの?」

「一応、そういうことになっている。これでもレベルは高いんだ。94だぞ!」

 

 ドヤ顔で胸を張る彼にメリエルはなるほど、と頷いてみせ、声を掛ける。

 

「美形ね」

「そうだとも!」

「それなら、もっと美しい顔にしてあげるわ」

 

 メリエルは女神のような微笑みを浮かべた。

 彼がその言葉に反応するよりも早く、彼女は動いた。

 

 一瞬で彼の目の前に行き、その顔を掴んだ。

 そして、魔法を唱えた。

 

 青年の絶叫が響き渡る。

 メリエルが唱えた魔法は強力な酸を発生させるものだ。

 彼の顔は焼け爛れ、見るも無残なものとなった。

 

「ほら、美しい顔になったわ」

 

 手を離してやれば、彼は両手で顔を抑えて悲鳴を上げながら転がりまわる。

 メリエルは嗜虐的な笑みを浮かべ、彼の胴体を踏みつけて固定した。

 

「サッカーをしましょう。ボールはあなたで」

 

 メリエルは思いっきり彼の頭を蹴り飛ばした。

 瞬時に頭部は破裂し、胴体からの血液が地面に広がっていく。

 

 あまりにも、呆気なく、そして凄惨な光景に尖兵達は言葉を失った。

 ラフタリア達は、やれやれと溜息を吐く者と素敵と目を輝かせる者に分かれた。

 

 

 次にメリエルは手近な青年に目をつけた。

 魔法でもって鎖を構築し、巻きつけて拘束、そして引き倒す。

 

「う、嘘だろ!? やめてくれ!」

 

 同じように頭を蹴られると確信した彼は泣きながら懇願するが、メリエルは微笑む。

 

「こんな美少女に蹴り殺されるなら本望じゃない? 我々の界隈ではご褒美と言うんじゃないの?」

「嫌だ! 死にたくない!」

「やれやれだわ」

 

 メリエルは溜息を吐いて、昔に動画サイトで見た大昔の玩具のCMを真似してみる。

 

「頭を胴体にシュート!」

 

 横たわった青年の頭頂部から蹴り飛ばし、胴体にぶつけ、木っ端微塵に破裂させた。

 

「あんまりエキサイトしないわね、これ」

 

 メリエルは次の獲物を探すが、そこでようやく尖兵達は各々の得物を取り出して、抵抗の構えを見せた。

 

 そうこなくては、とメリエルは舌なめずり。

 とはいえ、ここは一つ、彼らに地球的な恐怖を味あわせてやろうと彼女は考えた。

 

 メリエルは伝言(メッセージ)で、連絡を行う。

 銃を得物としている面々だ。

 

 そうこうしている間に雄叫びを上げて、尖兵達が突っ込んできた。

 魔法を唱え始める者もいた。

 

 すかさずにエリー達が前へと駆け足で出張った。

 メイドも含めて合計で40名くらいが銃を得物としている者達だ。

 

 その手にあるのはアサルトライフル。

 

 そして、一斉に射撃を開始した。

 メリエルからの指導の賜物で射撃姿勢といい、構え方といい、初期と比べると雲泥の差だ。

 当然、その命中率も比較にならない程に良い。

 

 バタバタと次々に尖兵達は倒れていく。

 突っ込んできた者も、魔法を唱えていた者も等しく。

 勿論、取り巻きの女達も。

 

 とはいえ、敵の数は多く、弾切れとなった時点でまだ半数くらいは残っていた。

 

 もっとも敵は既に逃げ腰だが、逃がすわけにはいかない。

 

 メリエルはフォーブレイから持ってきたある物を無限倉庫から取り出した。

 タクトがこれをすれば、彼の私兵はもっと強くなっていた、とメリエルが確信しているものだ。

 彼女が調べた限り、機関銃は戦闘機や爆撃機などの航空機用のものしかなかった。

 

 あるいはそうしなくても十分と彼が判断したのか、そこまで手が回らなかったのか。

 それとも単に地球と同等の威力を発揮できる程度にまでレベルを上げられる人材がいなかったのか。

 

 ともあれ、メリエルはとても残酷なことをしようとしていた。

 

「50キャリバーをこんな世界で撃つことになるなんてね」

 

 メリエルが取り出したのはブローニングM2機関銃。

 フォーブレイ軍の航空機から取り外し、簡易な三脚をくっつけたものだ。

 タクトが見様見真似で説明して出来上がった機関銃がこれなのか、それとも彼はこの知識まであったのか、そこも分からないが、M2の現物がこの世界にあって、メリエルの手によってこの場にある。

 

「弾丸はたっぷりあるから、遠慮なく貰っていって」

 

 メリエルは手慣れた動作で、フタを開けて弾帯をセットし、レバーを2回引いて装填を完了する。

 生き残った尖兵達は一斉に逃げ出したが、もう遅い。

 

 メリエルは躊躇うことなく、射撃を開始した。

 その威力と射程、連射力は素晴らしく、アサルトライフルの弾丸は原型を留めた死体が残ったが、こちらはマトモな死体が残らない。

 いくらレベルによって身体能力が決まるとはいえ、その射程から逃れるには時間がなかった。

 銃弾の速さや連射力は勿論のこと、M2の有効射程は2kmであり、最大射程は6kmを超える。

 ましてやガンナーがメリエルだ。

 レベルによって色々と決まるこの世界の法則は、この世界で作られた(・・・・・・・・・)M2には適用される。

 

 盾や鎧、防御魔法もぶち抜いて、あっという間に敵は全滅した。

 

「やっぱりコレが一番ってはっきり分かる」

 

 大抵の場合、こういう兵器の方がよっぽどファンタジーな性能をしていることをメリエルは実感する。

 

 とはいえ、メリエルの方がよっぽどファンタジーだ。

 何しろ、彼女は実験ということでM2を撃ち込んでもらったが、真正面から食らっても小石がいっぱい当たっている程度にしか感じず、一切のダメージを受けなかった。

 

「メリエル様、掃除、どうしますか?」

 

 ラフタリアの声掛けに、メリエルは我に返った。

 辺り一面死体と肉塊と肉片だらけで、地面は血液により、どす黒く染まっている。

 

 いくら何でも片付けないとまずかった。

 

「えっと……」

 

 メリエルがラフタリアへと顔を向けると、彼女は顔を逸らした。

 ならば、とヴィオラへ向けるも逸らされ、フィーロとティアは既に姿がない。

 

 エリー達にもちょっと嫌そうな顔をされてしまっては、無理強いはできない。

 

「分かったわよ、私が掃除すればいいんでしょ!」

 

 メリエルは泣いた。

 

 

 

 

 

 

「あー、ラフタリアちゃん、その……メリエル様って本当に勇者?」  

 

 一人で泣きながら魔法で水を出したり、炎を出したりして死体の処理をしているメリエルを遠目に見ながら、サディナは問いかけた。

 

「信じられないことに本当に盾の勇者なんです」

「お姉さん、世界の理不尽というか、疑問というか、そういうものを感じてしまったわ」

「ですよね。でもまあ、いい人なんですよ。やっていることは大魔王ですけど」

「もっとこう、お人好しで優しくてーみたいなものを想像してた」

「お伽噺ではそうですけど、あいにくと現実は違うみたいです」

 

 サディナは頭をかいた。

 

「私、もしかしてとんでもない人のところに転がり込んだ?」

「残念ながら……」

「あらー……」

 

 どうしましょう、とサディナは困った。

 いくら何でもメリエルはアクが強すぎる。

 

 ラフタリアが変に染まったりしないで、真っ直ぐに育ってくれたのは奇跡だ、とサディナは驚くばかりだ。

 

「ラフタリアちゃん、メリエル様から……その悪いことをされたりとか?」

 

 ラフタリアはその問いかけに、サディナが何を言いたいか、何となく分かった。

 

「優しい人なんですよ。奴隷だった私を買った時、真っ先に治してくれて、可愛い服とかくれたり、絵本とか美味しい料理とか……」

 

 思い出されるのは初めて出会ったときのこと。

 ラフタリアにとって、まさに運命に出会った瞬間で、きっとどれほどの時間が経とうとも鮮明に思い出すことができるだろう。

 

「ヴィオラさんにもそうですし……その、メリエル様は色々とぶっ飛んでいますけど……」

「……そーなんだ」

 

 サディナはその様子に、ピンとくるものがあった。

 主従とか、そういうものを超えてラフタリアはメリエルのことを思っていると。

 

「噂に聞いたんだけど、メリエル様って本当に両性具有なの?」

「私は見たことないですけど、本当みたいです。あと、薬で簡単に性別を変えたりもできるそうで」

「……メリエル様って何なの?」

「理不尽が服を着て歩いている感じです」

 

 サディナは言い得て妙だと感心してしまう。

 確かにアレは理不尽の権化そのものだ、と。

 

「ところでラフタリアちゃん。その、村を再建するって気はある?」

 

 サディナは遠慮がちに問いかけると、ラフタリアは困った顔になる。

 

「メリエル様には言ってないですよね?」

「言ってないよ」

「メリエル様に言うと、予想外のことを仕出かすので、私もさらっとしか昔のことは教えてないです」

「あっ……」

 

 サディナは察してしまう。

 確かにメリエルに頼めば、色々とやってくれそうな感じはするが、斜め上のことをやらかしそうだ。

 

 例えば、ルロロナ村に港を作ろうと言って、世界一巨大な港を作ったりとかしそうだ。

 違う、そうじゃないという行動の典型だろう。

 

「基本的に、他人の過去とかそういうことは詮索しない、そして気にしない人なので、言わなければ大丈夫です」

「分かったわ……で、どう?」

「正直に言えば、したいです。あの旗をもう一度……ただ、メリエル様も放置しておけないので……何分アレですから」

 

 ちらっとメリエルに2人が視線を向ければ、原型を留めた死体を組み合わせて、前衛的過ぎて誰にも理解できない不気味で冒涜的なものを作っていた。

 

「……アレですから」

「アレだったかー」

「普段ならレールディアさんやトゥリナさんがいてツッコミ役が足りているんですが、レールディアさんはアシェルさんを連れて、トゥリナさんは単独で数日前に用事があると言ってどこかへ行きまして……」

「なるほどー……お姉さんはどうしようかな……」

 

 過去の恩から、ラフタリアの一家を生きる意味としており、それは今も変わってはいない。

 ラフタリア、それにリファナやキールもいるから、このままメリエルのところで世話になるのが一番いいのだが、メリエルが過激過ぎる。

 3人を連れて、彼女のところから去るというのは無理だろうとサディナは確信している。

 単純に3人がメリエルから離れたがらないだろうと想像できるからだ。

 

 悩むサディナに首を傾げつつも、ラフタリアはあることを思い出す。

 

「そういえばサディナお姉さんはお酒が好きでしたよね?」

「うん、好きだよー」

「メリエル様、なんか凄いお酒を持っているらしいですよ。長いこと生きているトゥリナさんとかレールディアさんも唸る程の美酒だとか何とかで」

「メリエル様ってお酒は強いの?」

「強いと思いますよ。酔っ払ったところとか見たことがありませんから」

「ちょっとメリエル様と腹を割って話したいから、うまく取り次いでくれる?」

「いいですよ」

 

 ラフタリアの承諾にサディナは腕を組む。

 これでメリエルを見極める、もしもダメそうならどうにかしてラフタリア達を引き剥がすと彼女は決意した。

 

 

 

 そして、その夜。

 早速サディナはメリエルと1対1で飲むことになったのだが――

 

「このお酒、美味い……」

「当然よ」

「もっとー」

「はいはい」

 

 即落ち5秒。

 酒を飲んですぐにサディナはほろ酔い気分になった。

 メリエルが出してきた酒はサディナがこれまでに呑んだどの酒よりも美味かった。

 

 神々の酒だと言われても納得してしまうくらいであり、またメリエルが出してくるツマミもこれまた美味しかった。

 

「メリエル様、私の嫁になって」

「シャチはちょっと……私にも選ぶ権利があるはずよ」

「何をー!?」

「チョッキはともかく、シャチのふんどし姿とか誰も見たくはないので」

「失礼なー! 獣人の姿だからこんなんだけど! 見てなさいよー!」

 

 サディナはそう言って、亜人の姿へと変化した。

 メリエルは目をぱちくりとさせ、何度も手で目を擦る。

 その反応にサディナは満足げに笑う。

 

「どうだー! お姉さんの真の姿はこれだー!」

「あなたを詐欺罪で起訴します! 二足歩行のシャチがこんな綺麗なお姉さんになるなんてずるいずるい!」

「お姉さんに平伏するがいいぞー!」

「これは平伏したくなるので、平伏した」

 

 へへー、とメリエルは頭を下げた。

 サディナはノリが良い彼女に気分が良くなる。

 

 昼間にあんな過激なことをしたとは、とてもではないが思えない。

 

「手のひら返したけど、もう遅い。お姉さんのことを二足歩行するシャチって……いや合っているけど、色々とひどい言葉を……」

「お姉さんのふんどし姿が見たいので見せてください」

「ダメー、見たくないって言ったから見せないー」

「そんな殺生な……」

 

 涙目になるメリエルにサディナはけらけら笑う。

 

「で、メリエル様。ラフタリアちゃん達のことだけど……どうするつもり?」

 

 一転して真面目な顔となってサディナは問いかけた。

 対するメリエルもまたおふざけなしの真面目な顔で告げる。

 

「彼女達が望む幸せにする。必ずね。勿論、面倒もずーっと見る。私のところから抜けるっていうのも彼女達が望めば私は止めない」

 

 その言葉にサディナは思わず目を見開いた。

 てっきり傍若無人なことを言うかと思ったが、その予想は外れてしまった。

 

「いや、私って裏切りには色々と罰を与えるけれど、それ以外に関しては緩いわよ? それと、敵に容赦しないのは常識だと思っているから」

「後者は納得できるけど、本当に緩いの?」

「緩いわよ。あと待遇もいいわよ」

 

 メリエルはサディナへラフタリア達と同じ待遇が記載された雇用契約書を見せる。

 彼女はそれを受け取り、隅から隅まで読んで、顔を上げた。

 

「メリエル様……私も雇用して欲しいんだけど。何これ、近衛騎士とかでもこんなに良い待遇じゃないわよ……」

「私の下に来ると、王族よりも良い暮らしができるわよ。それが甲斐性ってものだと思っているので」

 

 サディナの心はかなり揺れ動く。

 

「何か、酷いことをしたりとかは?」

「自分の女にはそういうことはしないわよ。色々と面倒な事情はあるけど、そこらはラフタリアに聞いて欲しい」

「面倒な事情?」

「早い話が、波の黒幕と今度、世界の命運を賭けて1対1で戦うのよ」

「……え?」

 

 サディナは目が点になった。

 

「まあ、そういう反応よね。でも、本当のことよ。昼間に現れた連中みたいなのは波の尖兵で、黒幕が送り込んできた可哀想な連中」

「あーうん……ちょっと頭の中を整理させて」

 

 サディナは両手でストップと意思表示。

 5分くらい掛けて、彼女はどうにか頭の中を整理した。

 

「ちなみに、誰がどこまで知っているの?」

「メルロマルクとフォーブレイとゼルドブルとシルトフリーデンとシルトヴェルトの偉い人達」

「主要国家全部じゃないのよ!」

「世界の危機なので。民衆の知らないところで、最終決戦の準備が進められているのよ。まあ、黒幕と直接戦うのは私なんだけど」

「どういう戦いになるの?」

「時間跳躍とか時間停止とか因果逆転とか、そういう攻撃がポンポン飛び出てくる次元」

 

 サディナは両手を挙げた。

 

「お姉さん、降参するわ」

「よっしゃ勝った」

 

 メリエルは勝利の美酒とばかりに、自分のグラスに酒を溢れる程に注ぎ、一気に飲み干した。

 それを見て、サディナも負けじと同じようにグラスに注ぎ、飲み干す。

 

「お姉さんに飲み比べで勝ったら、好きにしていいわよー」

「本当?」

「本当よ、本当。お姉さん、自分よりお酒が強い人を生涯の伴侶にするって決めていてね」

「よし、朝まで呑もう!」

 

 メリエルは勝利を確信した。

 

 

 

 翌日、サディナとメリエルが呑んでいた部屋は離れていても鼻や目に染みる程の強い酒の臭いが感じられた。

 ラフタリア達により決死隊が編成され、突入を敢行するとそこには酒瓶を抱えて眠るサディナの姿があった。

 彼女には毛布が掛けられており、メリエルの姿は無かった。

 

 伝言(メッセージ)をラフタリアが使用して、連絡を取ってみれば、魚介料理が食べたくなったとかで、カルミラ島で優雅に朝食を食べているとのことだった。

 

 メリエルの行動はいつものことだったが、サディナがメリエルにどういう感情を抱いたか、火を見るより明らかだった。

 

 

 

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