タクトを片付け、各国における過激な連中を各国の影達と協同でメリエルは始末を終えた。
情報は出揃っていた為、非常にスムーズな仕事であり、彼女としては大満足だ。
とはいえ、メリエルには次なる難題が降り掛かっていた。
プラド砂漠に関する統治の件だ。
「国名、考えないとダメなのよね……」
シルトヴェルトの屋敷、その自室にてメリエルは途方に暮れていた。
元々放置されていたとはいえ、法律的にはメルロマルクとシルトヴェルトの領土を割譲してもらったという形になる。
その為に新しく独立国家として誕生するのだが――根本的なところでメリエルは悩みに悩んでいた。
「メリエル様の国なので、素直にメリエル国ではダメなんですか?」
お手伝いとして派遣され、書類整理をしてくれているメルティは問いかけた。
「それは安直過ぎるわよ。なんかこう、カッコ良くて、エレガントで、パーフェクトな感じのやつがいい」
「ワガママですね」
「世界一ワガママなので」
「世界一ワガママ国というのはどうでしょうか?」
「それがカッコ良くてエレガントでパーフェクトだと思うのなら、あなたに対する評価を改めないといけないわね」
そんなやり取りをしつつ、メリエルは書類の束に目を通していく。
国名以外は順調だ。
全てがまだ書類上の段階である為、人手もそこまでいらない。
基本的にメリエルのリアルにおける国家の成功と失敗に基づいた、良いとこどりの政策を実行する。
廃墟となった都市は取り壊したりはせず、観光資源として活かしたり、植林をして大森林を作ったりと環境に優しい形をメリエルは目指している。
「バル・ベルデ……うーんなんか違う」
「プラドリエルとかどうでしょうか? メリエル様の名前と地名を組み合わせただけですけど」
「あ、それいいわね。プラドメリエルだと何か微妙だし」
「プラメリエとかもいいかもですね」
「一文字変えて、プラメリアとかもいいわね……何かプラナリアみたいだけど……プラドリエルにしましょうか」
メリエルはあっさりとそれに決めた。
そのとき、扉が叩かれる。
メリエルが問いかければ、ラフタリアだった。
「メリエル様、見慣れない方がやってきています。女性で……何となくマルティさんに似ています」
メリエルはピンときた。
予定よりも1ヶ月も遅い。
遅刻にも程があるが、それを彼女が口に出すことはない。
何しろ相手は自称女神様で、連絡もなく遅刻したことをどんなに優しく言ったところで、へそを曲げることが簡単に想像できた。
「すぐに行くわ」
メリエルが応接室へと行くと、そこにはラフタリアが言ったようにどことなくマルティに似ている女性が立っていた。
彼女はメリエルを見るなり、笑みを浮かべる。
「メディアね」
メリエルの言葉に女性――メディアは嬉しそうに微笑み、告げる。
「うん、ようやく来れたわ」
「何があったの?」
「どっかのバカが私と分身達との繋がりを全部断ち切った上で、分身達を独立した生命体にしたの。犯人探しをずっとしてたんだけど、見つからなくて……」
メリエルは内心喝采を叫んだ。
とはいえ、それをおくびにも出さず、深刻そうな顔で問いかける。
「それは大変だったわ。あなたに喧嘩を売るなんて、とんだバカもいたものね」
「ええ。本当に……おかげで、私の力が5%くらい低下したわ」
微妙に弱体化までしてくれたらしいので、メリエルとしては言うことなしだ。
「繋がりは戻せなかったけど、力は回復しているから」
「さすがはメディアね」
「当然よ」
褒めつつもメリエルは内心舌打ちをする。
「リアルタイムで、あなたの本体と繋がっているのかしら?」
「そうよ」
「それじゃ精々あなたを楽しませるとするわ」
ここからは接待と情報収集の時間だ。
このことは全ての関係者達にメリエルは事前に伝えてある。
メディアの分身が来た場合、全ての仕事を中断し、彼女のご機嫌を取ることと情報収集に全力を費やすと。
「あ、元分身達は私が全部面倒を見るという形でいいわよね?」
「構わないわ。断ち切られる前にそう指示をしてあったから」
メリエルは実利を取るのは忘れていなかった。
さて、メリエルはメディアのことを超越的な存在として考えておらず、力を持ったワガママな貴族令嬢と考えている。
その思考は超越者特有のものではなく、見た目通りのものだ。
だからこそ、喜ばせ方も単純といえば単純だ。
幸いにもメリエルにはユグドラシルにおける数多くのアイテムがあり、これらはメディアから見ても未知の代物だった。
絶大な力を誇り、神をも僭称するメディアにとって、未知のものに触れるという体験は久しぶりのことで、彼女はとても満足できた。
見た目だけの何の効果もないドレスや指輪などをメリエルはメディアへ贈り、彼女はその生地や装飾などが女神である自分に相応しいと悦に浸る。
また、ユグドラシルにおける数々の料理や酒などはメディアをも唸らせる味であった。
しかし、そこにあるメリエルの思惑をメディアは全く考えることはない。
メディアにとって、メリエルは自分を倒す程の存在ではないと楽観していたからだ。
確かに強いことは強いが、それはあくまで現地の基準での場合であり、メディアと同じような存在の基準では十分に弱い。
しかもその分析は正しい。
メリエルは無限の速さを超えたりなどはできないし、過去・現在・未来をはじめ平行世界や因果律に対して概念的な攻撃を行うこともできない。
所詮は異世界の護で身を守られている程度、真正面からのぶつかり合いでもスペックの差で勝てるとメディアは予想していた。
ただ、メディアには致命的な弱点と予想もしなかったことが存在した。
彼女が
メルロマルク王城の一室にて、ラフタリアは忙しなく羽根ペンを動かし、記録していた。
彼女の頭にはメリエルからの念話が随時届いている。
メリエルはここにはいない。
メディアと2人で世界のどこかでデートをしている。
嫉妬はあるものの、これは必要なことだとラフタリアは諦めていた。
彼女が記録しているのはメリエルが集めたメディアから得られた情報だ。
好きな食べ物と嫌いな食べ物とかそういうものから、神を僭称している連中のコミュニティ、メディアの出身世界など玉石混交となっている。
1枚の紙に記録された数多の情報は全てが箇条書きで、種類もバラバラだ。
メリエルから随時入ってくるものをとにかく書き留めるというのが彼女の仕事となっている。
書き終えたものは隣にいるメルティによって種類ごとに別々の紙へと書き写され、仕分けされる。
それをアトラが収納場所へと持っていき、そこで更に複写されて影達によってミレリアの下へ運ばれる。
ミレリアは溜息しか出なかった。
メディアは単純に言ってしまえば物凄く力をつけた人間である。
更に彼らはゲームと言っているが、やっていることは世界同士の戦争みたいなものだ。
しかも敵の本拠地である世界にこちらが乗り込むことなんてできるわけもなく、攻め寄せてくる敵を防ぐだけという状況だ。
正直なところ、メリエル以外では誰もメディアをはじめとした神を僭称する連中に対抗どころか足元にも及ばないのは事実。
しかし、メリエルに任せっきりにすると、とんでもないことをやらかしかねない。
ミレリア個人としてはメリエルに対して大きな好意を抱いているのだが、女王としての立場ではそうも言ってられない。
世界一ワガママな大魔王もとい勇者様である。
「どうしたものかしら」
ミレリアは憂鬱だ。
一応、彼女はメリエルが予定している計画みたいなものを聞いている。
メディアと1対1で戦って勝利した後――そもそも勝てるのか、という疑問があるが――何やらメディア以外のそういう連中と出身世界を根こそぎ滅ぼしてやろうと企んでいるらしい。
彼女はメリエルから3つのヒントを教えられたが、よく分からなかった。
そのヒントとは光の軍団・闇の軍団・外なる神々という単語であり、メリエルはそれらを彼らの世界に道を作った後に召喚するそうだ。
それで神を僭称する連中に勝てるのか、とミレリアは当然問いかけた。
メリエルは一切の迷いなく答えた。
勝てる、圧倒的に――
「どういうものか分からないけど……以前に言っていた、彼女が仕えていた主達に関係があるのかしら」
ミレリアにはそれしか思い当たらない。
そして、メリエルはその性格的に生半可な輩を主と仰いだりはしないだろうから、相当にぶっ飛んだ力の持ち主達であることは間違いない。
メリエルの種族からするとその仕えていた主達というのは――
そこでミレリアはあることに思い至ってしまう。
メリエルが仕えていた主達は
僭称する愚か者達に彼らは怒り、討伐の為にメリエルを送り込んできたのではないか――?
すとん、と腑に落ちた。
そう考えると全ての辻褄が合ってしまう。
「……あまり深く考えない方がいいわね」
人間が首を突っ込んでいい話ではないような気がしてならなかった。