「いや、これもうどうにもできんだろ」
元康は匙を投げた。
彼の言葉に錬と樹がうんうんと頷いた。
ミレリア経由でもたらされたメディアに関する情報を聞いて、抱いた感想がそれだ。
神を名乗っても問題ないくらいにメディアはとんでもない力を持っていた。
「ゲーム的な感覚で言えば間違いなくメディアはラスボスだな」
「間違いないですけど、いくら何でもゲームバランス壊れすぎですよね」
錬の言葉に樹がそう告げる。
それには他の2人も同意見だった。
しかし、3人にはある言葉が思い出された。
それはかつてメリエルが言ったものだ。
世界の可能性はそんなに小さなものではない――
その言葉を思い出した為か、3人の頭にはメリエルの顔が浮かんできた。
その表情は何故かドヤ顔だった。
「ただメリエルさんもラスボスなんだよな。しかもたぶん、メディアよりもヤバい」
「大魔王が勇者をやっているようなものですからね……」
「漫画で言えば主人公が敵よりも邪悪というパターンだな。メディアの立場にメリエルさんを入れてみたら、メディアよりももっと凶悪なことを仕出かすに決まっている」
錬の言葉に元康と樹は頷き同意する。
「……どうする?」
元康の問いに樹が真っ先に答える。
「そもそも割って入ることもできませんし、当初の予定通りに尖兵とかを相手にするしかないでしょうね」
「俺も樹と同じ意見だ。汚名返上の機会はここしかない」
2人の言葉に元康は大きく頷く。
彼もまた2人と同じ意見だった。
そして3人は意見の統一後、すぐさまレベリングへとパーティーメンバーを引き連れて出かけていった。
「オレもメリエルの力になりたい」
「キズナ、無茶言わないでください」
やる気を出している絆をグラスは窘めた。
彼女達にもメディアに関する情報は回ってきているが、とてもではないがどうこうできる相手ではなかった。
「でも、何かできることはある筈……バックアップとか……」
「異空間のフィールドで戦闘が行われるらしいですし、たぶん我々では認識できない速度でしょうから……」
むぅ、とふくれっ面になる絆。
そんな彼女にグラスは優しく告げる。
「私達にできることをやりましょう。波の尖兵と波への対処はメリエルさんにはできません」
「……分かった」
絆は渋々そう返した。
彼女も分かってはいたのだが、それでもどうにかできないかという強い思いがあった。
メリエルは性格的に物凄く問題があるとグラスから散々聞かされていたが、それでも絆はメリエルが悪い人じゃないと信じている。
世界の為に神を名乗っている輩とたった1人で戦う。
たとえ対抗できるだけの力が彼女にあるとはいえ、それはどれほどの重責か。
文字通りに世界を背負っていると言っても過言ではないだろう。
そんな絆にグラスは微笑む。
「メリエルさんの為に戦いが終わった後、あなたが釣った魚を料理して出しましょう。あの人、意外と大食いなので」
グラスの言葉に絆は満面の笑みで頷いた。
「私達の仕事をしっかりとやる為に、もっと強くなろう」
「はい、キズナ」
勇者達は無論のこと、各国において急速に準備が整えられていく。
幸いにも時間的猶予はそれなりにあった。
波及び波の尖兵への対処として、戦える者は老若男女の区別なく、レベル上げが盛んに行われ、それを国が支援した。
特に凄まじかったのはフォーブレイだ。
メリエルと個人的にも友好関係を築いている女王の号令一下、他国よりも抜きん出た国力を生かして、さながら世界の兵器工場と化した。
十分にレベルがある者ならば銃は簡単にモンスターを始末するのに有効であった為、それを使用してより効率的なレベリングが行われ、各国における平均レベルを大きく引き上げることに貢献した。
またシステムエクスペリエンスを破壊してあったことで、活性化した地域と同等の経験値を全世界で得ることができたのも、効率的なレベリングを後押ししている。
そしてラフタリア達もまた情報を整理する仕事から解放された。
他ならぬメリエルにより、もはやメディアから得られる情報はないと判断された為だ。
それはメディアの分身体がやってきて1ヶ月が過ぎた頃であり、残る猶予は1ヶ月程。
ラフタリア達はメリエルから貰っていた効率的なレベリングを可能とする数多のアイテムを駆使し、一気にレベル上げを行った。
とはいえ、ラフタリア達は出遅れていた。
彼女達以外の面々――メリエルが引き抜いたりしてきた女達――は既にそれらのアイテムを使い、レベリングを行っていたからだ。
プラド砂漠――緑化が進みつつあるが、砂漠地帯もまだ多い――というだだっ広い場所でレベリングをしている中で、ラフタリアはある人物を見かけ、目を丸くしていた。
彼女が知っていた人物が絶対にすることはないようなことを行っていたからだ。
「えっ……誰ですか?」
「誰とは失礼な。マルティよ」
マルティだった。
彼女はあちこちが泥で汚れたりしており、美しい顔もまた埃に汚れて台無しになっている。
そして、その装いは戦士そのものだった。
目はギラギラとしており、彼女の手には剣がある。
「メリエル様の為に私も戦う。それだけよ」
時間が惜しいとばかりにマルティはそれだけ言って、湧いてきたモンスター達に駆けていった。
彼女は速く、一撃で先頭のモンスターを真っ二つに斬り裂いた。
「性格、変わりすぎでは……?」
ラフタリアはそう思ったが、そんなことよりも少しでもレベルを上げることが先だった。
ラフタリアとマルティ以外のメリエルのパーティーメンバー達も周辺でレベリングを行っており、狩場というに相応しい光景が広がっている。
しかも、モンスターを際限なく現れ、獲物の取り合いになることはない。
急激なレベルアップを彼女達は果たしていた。
そして、メディアの分身体がやってきて2ヶ月が過ぎたある日のこと。
既にメリエルとは深い関係になっていたが、メディアの予定に変わりはない。
むしろ、ますます彼女をモノにしたいという欲望は増すばかりだった。
だからこそメリエルを手に入れる為、彼女は告げる。
「メリエル、準備ができたわ」
その言葉にメリエルはにこやかに微笑み、メディアへと口づける。
「いよいよ、あなたが私のモノになるときが来たのね」
「いいえ、あなたが私のモノになるのよ」
自信満々なメディアにメリエルは苦笑してしまう。
「それはどうかしら?」
「あら、私は神に匹敵する力……いえ、神をも越えた力があるわ。もうあなたには散々語ってあげたと思うけど」
「ええ、本当に凄いと思うわ。だからこそ、余計に燃えるのよ。自分より強い敵って中々いなくてね」
メリエルの言葉にメディアは満足げに頷く。
儚い抵抗という程ではないだろうが、それなりの抵抗をしてくることは彼女も予想している。
「あ、そういえばメディア。あなたに最後に質問をしてもいいかしら?」
「いいけど、何?」
首を傾げるメディアにメリエルは問いかける。
「■■■■、▲▲▲、■▲■▲■って知っている?」
メディアは不思議そうな顔でメリエルに逆に問いかける。
「何て言ったの? 何だか、不思議な音にしか聞こえなかったんだけど……」
メリエルは察した。
どうやら正確に発音すると、エノク語などによる本来の発音になってしまう為、聞き取れないようだ。
まあいいや、とメリエルは思いながら告げる。
「分からないならいいわ。それじゃ、始めましょうか」
メディアは何だかよく分からなかったが、とにかく始めることにした。