おや……? 盾の勇者の様子が……?   作:やがみ0821

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神の御名の下に!

「へぇ、意外と普通ね」

 

 メディアによりメリエルは異空間へと転移させられたが、その異空間は地上にありそうなところだった。

 見渡す限りは草原で、空からは太陽が照りつけている。

 

 メディアはどこかしら、とメリエルは探すと彼女は少し離れたところに佇んでいた。

 

「メリエル、1対1で戦うと言ったけど……それは玩具は含まないから」

 

 メディアはにっこりと笑って告げてきた。

 確かに、とメリエルは頷いてみせる。

 

 彼女としてはむしろメディアが彼女と同格の連中を呼びそうな気がしていたので、玩具を持ってくる分には何も文句はない。

 

「きちんと在庫処分をしておきたいから、全部持ってきてほしいわ。どのくらいになりそう?」

「10万くらい」

「……ねぇ、メディア。あなた本当に頑張ったわね……」

 

 メリエルは心からそう告げる。

 彼女の気持ちを察し、メディアは微笑んだ。

 こういう苦労を察してくれたのはメリエルが初めてであった。

 

「ところで私も少しずつ作り貯めたものを持ってきていいかしら? あなただけ自前の軍勢を持ってくるなんて……羨ましい」

「いいわよ。まあ、そっちのほうが速く処理できそうだし」

 

 メリエルはぐっとガッツポーズしつつ、問いかける。

 

「あ、もう放送している?」

「今、始めたわ。あなたのいた世界とか融合しようとしていた周辺世界全部、あと私が属するコミュニティとかそういうところにも」

 

 それは重畳、とメリエルは大きく頷いた。

 

 

 

 

 一方その頃、メルロマルクをはじめとした各国では突如として国中の至るところに映像が浮かんできた為、混乱が少しだけ起きていた。

 

 とはいえ、事前に各国において周知徹底されていた為、大きな混乱は無い。

 遂にきたか、と固唾を呑んで見守る者がほとんどであった。

 

 長い付き合いであるラフタリアやヴィオラ、フィーロにティアといった面々は特に緊張している。

 お気楽なフィーロやティアですらも、人型となって浮かんでいる映像に齧りつくようにして見ている。

 

 そのときだった。

 メリエルが何事かを喋ると、急に顔を向けてきたのだ。

 テレビカメラに向かって手を振るとか、そういうことをするんだろうな、と地球出身の三勇者達や絆は思ったが、メリエルはそんな生易しいものじゃなかった。

 

 彼女は顔をドアップにさせ、Vサインをしてきたのだ。

 

 

 

「イェーイ! 色んな世界の皆! 見てるゥー!? 今からメディア・ピデス・マーキナーとかいう超絶美女女神をぶっ倒してあんなことやこんなことをしちゃいまーす!」

「も、もう! メリエルったら!」

 

 そのやり取りにラフタリア達や三勇者達は深くため息を吐き、ミレリアとメルティは苦笑し、絆はその度胸のデカさに感心し、グラスは呆れ果てる。

 そして、マルティは渋い顔であった。

 なお、フォーブレイの某女王は私もあの女神とヤりたいと叫んだが、家臣達は聞かなかったことにした。

 

「はいはい、メディア。状況説明してよ。女神様なんだから、そのくらいはお願いしたい」

「仕方がないわね……早い話が私が波を起こして更に尖兵として色んな連中を送り込んでいたのよ。でも、今回、メリエルが私と戦って勝ったらそういうのは全部やめるっていう約束よ」

「中々できる決断じゃない、流石は女神」

「当たり前よ。でもまあ、私が勝つからそういう約束をしてやったんだけど。私が勝ったら、メリエルは貰うから」

 

 見ている者達はメディアの女神とは思えない性格の悪さに顔を思いっきり顰めた。

 それは別の世界でも同じことだった。

 真偽確認はできないが、わざわざ自分が波の犯人だと主張するメリットはどこにも思い浮かばない。

 消去法で考えるとメディアの言っていることは本当のことだと判断するしかない。

 

「文明レベルが下の異世界を支配したり、経験値にするって中々できることじゃないわね。波とか全部、経験値欲しさにやったことでしょう?」

「ええ、そうよ。効率的に経験値が欲しかったから。現地の住民が何億死のうが、だから何って感じよ」

「世界と世界を融合させたりとか?」

「そうよ。私が直接その世界に行くためには、世界の容量を広げる必要があったから。でもまあ、それもいいわ。私が勝てばあなたを送り込むだけで事足りるから」

「という感じの状況です。ちなみにメディア以外にも似たようなのがわんさかいるらしいです。あ、グラスと風山絆の出身世界の方々、もし見ていらしゃったら私のお世話になっている世界で無事に生きていますので、ご安心ください」

「……メリエル、そろそろいい?」

「最後に一言。私、世界を救ったら、色んな世界の美女、美少女達とイチャイチャしたい。あ、それとるし★ふぁー。名前、勝手に使わせてもらったけどいいよね? あなただってギルドの倉庫にあったヒヒイロカネを勝手に使ってゴキブリを作ったんだから」

 

 そこまで言って、メリエルは装備を整えた。

 一瞬にして、その身に纏われる神器級の防具やアクセサリー、その腰に吊るされた剣。

 そして、彼女の左肘には小さな盾があるのが見えた。

 その装備は全てが神話に出てくるかのようなものであり、膨大な力を秘めていることが誰の目にも明らかだった。

 しかし、そこで更に見ている者達の度肝を抜くものをメリエルは身につける。

 太陽の如き輝きを放つ黄金の首飾りだ。

 

 メディアは直感する。

 アレこそが自らの概念攻撃すらも阻む異世界の加護であると。

 

 しかし、同時にあまりの美しさに見惚れてしまう。

 首飾りは勿論のこと、それを身に着けたメリエルそのものに。

 

 そして、それは多くの生中継されている世界でも同じことだった。

 レールディアとトゥリナがメルロマルクに攻めてきたときに見たことがあったミレリアやラフタリア達ですらもメリエルの全力戦闘を行う装いを見て、息を呑む程の美しさと神々しさを感じてしまう程だ。

 メリエルのことをよく知らぬ者達はその神々しさと美しさに知らず知らずに祈りを捧げ、あるいは頭を下げた。

 また知っていたとしても、全力戦闘時の姿を見たことがないエリー達なども祈りを捧げる始末だ。

 

 そのような反応を引き起こしながら、メリエルは凛とした声で告げる。

 

「我が名はメリエル。異教の神々や悪魔共を相手に屍山血河を築き上げた闘争の歴史こそ、我が歩み」

 

 それに応じるかのようにメディアは言葉を紡ぐ。

 

「跪き、我が尖兵となるがいい。望むものは全てあげましょう」

 

 先程のおふざけはどこに消えたと言わんばかりの超展開。

 しかし、見ている者達は雰囲気に飲まれていた。

 

 メリエルはメディアの提案を鼻で笑ってみせる。

 

「そもそもあなたは神ですらない、ただ力が強いだけの人間(・・)だ。どうして私が従う必要がある?」

「ほう……私に忠誠を誓った、尖兵達を見ても同じことが言えるか?」

 

 メディアの言葉とともに、その背後に数多の人間達が現れる。

 彼らは全員が美形の男であり、その手に武器を持ち、防具を身に纏っている。

 その武具は全てが伝説に出てきそうな力を秘めているのが見て取れた。

 

 玩具と言うよりも、こう言ったほうが受けるとメディアが考えたのだろうとメリエルは予想する。

 メリエルとしても気持ちが分かるので、雰囲気に水を差すようなことはしない。

 

 メリエルは深呼吸し、そして遂に彼女は自らの正体を一部披露する。

 

 その背に現れる4対8枚の純白の翼。

 光輝燦然たる神の栄光と恩寵を受け、仕える者の純然たる証。

 

 マルティを通して知っていたメディアに驚きはない。

 翼の生えた天使紛いのものというのが彼女の認識だ。

 

 一方で、見ていた者達は目を見開いて驚いた。

 驚かなかったのはラフタリア達やミレリア達などの極一部の知っている者達だけだ。

 

「神を名乗る愚か者に率いられた異教徒共め。今ここに神罰は下る」

 

 メリエルは浄化のオーラを最大レベルにて解き放つ。

 メディアには効かなかったが、その範囲内に入っていた尖兵達は一瞬にして塩の柱と化した。

 

「再度、告げよう。我が名を。そして教えよう、意味と役割を」

 

 そこで言葉を切り、メリエルは一拍の間をおいて告げる。

 

「我が名はメリエル。我が名の意味は主の御座を守護する者。我が役割は主の御名の下に、全ての天使を率いて、その敵を討ち滅ぼすこと」

 

 しかし、それをメディアは鼻で笑った。

 そのような神など存在しない、と彼女は確信しているからだ。

 だが、尖兵達の大半は地球出身だ。

 

 メリエルの言葉を戯言と片付ける程の胆力があれば、メディアの甘言にのって転生などしていない。

 

「む、無理だ……勝てるわけない!」

「相手は本物だぞ!?」

「異教徒認定された。これはイスカリオテが出てくるフラグ……勝てるわけないだろ!」

 

 動揺する尖兵達にメディアは思いっきり舌打ちしてみせるが、それを収めるべく告げる。

 

「いいえ、勇者の皆様。アレは天使を騙る大魔王です。皆様には私がついています」

 

 大正解とメリエルは言いたくなったが、我慢した。

 見ていたラフタリア達も大正解と言いたかったが、ぐっと我慢できた。

 

「そ、そうだ! 本物がいるわけがない!」

「俺達には女神様がついているんだ!」

 

 士気を高める尖兵達にメディアは溜息を小さく吐いた。

 メリエルは彼女の苦労を察しつつも、とりあえず尖兵達を片付けることにする。

 

 

「人の子よ。私に刃向けるならば、その滅びは必然である。主の御名の下に、そして主の御心のままに……Amen」

 

 それはメディアであっても予想外の事態であった。

 あっという間に空は黒く染まっていく。

 

 その黒い空に光によって描かれていく何か。

 メディアはすぐさまそれが召喚魔法の類だと見抜いた。

 だからこそ、ありえないと叫んだ。

 

 この異空間はメディア以外の何者の干渉も受けない程に強固な作りだ。

 たとえ彼女のコミュニティに属する者達であっても、おいそれとは手を出せない。

 

 そうであったからこそ、メディアはメリエルに軍勢とやらを出すことを許したのだ。

 召喚に失敗して涙目になるメリエルが見たかった為に。

 

 しかし、メディアの目論見は外れた。

 やがて完全にそれは描かれる。

 

 尖兵達の誰かが呟いた。

 

「セフィロトの樹……」

 

 

 その間にも天空に描かれたセフィロトの樹から、数多の光の柱が地上へと伸びてくる。

 

 そして、そこから現れたのは――膨大な数の天使達であった。

 

 メリエルはウィッシュ・アポン・ア・スターでユグドラシルにおける全ての制限を解除している。

 それには当然、これも含まれた。

 ユグドラシル時代から戦列歩兵と同じく作り続け、この世界に来てからも密かに作り続けていたもの、それこそがこれであった。

 戦列歩兵が城門から出撃するのとは違い、雰囲気作りの為にセフィロトの樹からの出撃である。

 

 フレーバーテキストが現実のものとなることも確認済みだ。 

 

 全宇宙でもっとも美しく、もっとも強く、もっとも無慈悲な光の軍団。

 それは天使の軍勢だった。

 彼らは瞬く間に空を埋め尽くしていく。

 

 やがて、メリエルの下に4人の熾天使が舞い降りてきた。

 彼女は彼らに見覚えがあった。

 

 ユグドラシルにいたNPC達だ。

 彼らはメリエルが作った天使ではなく、ユグドラシル時代に仲間にしたとかそういうこともない。

 

 しかし、疑問よりも自分に勝るとも劣らない美貌を誇る女性の2人についつい、メリエルは視線がいってしまう。

 

 ミカエル、そしてガブリエルだ。

 残る2人の男性はウリエルとラファエルだろう。

 

「メリエル様、主より勅命を賜りました。神を僭称する者達及び従う者達を総滅せよとのこと」

 

 ミカエルの言葉にメリエルは鷹揚に頷きながら、素早く彼女へと近寄ってその肩を抱いた。

 

「ところでミカエル。どうしてここに、とか色々と聞きたいことはあるけど、そんなことは置いといて……今晩どう?」

「……メリエル、お前は素行にあまりにも問題がありすぎる。どうして主はお前みたいな輩を傍に……」

 

 それはもう深く溜息を吐くミカエル。

 

「メリエル様、あまりミカエルを困らせないでください」

「さすがガブちゃん、天使だわ……あ、天使だったわ。どう?」

「少しでしたら……」

 

 そこへウリエルが止めに入った。

 

「おい、それよりも色々と聞きたいんじゃないか?」

 

 彼の言葉にメリエルはドヤ顔で告げる。

 

「世界の可能性はそんなに小さなものではないって素敵な言葉よね?」

 

 ガブリエルとラファエルは苦笑し、ミカエルとウリエルは溜息を吐いた。

 

「……確かにそうだ、メリエル。それは合っている。正直、鶏と卵、どちらが先であるかという話でしかない」

「私が言うのも何だけど、よくそれで理解できたわね」

 

 メリエルの言葉にミカエルは肩を竦めながら告げる。

 

「私は自らをミカエルと認識している。ガブリエルやウリエル、ラファエルもそうだ。そして、そうあれかしと主に作られたことに変わりはない。我々は我々の仕事をするまでだ」

 

 その言葉を聞き、メリエルは察する。

 何だかよく分からないが、召喚魔法にうまいこと干渉してやってきたんだろう、と。

 何しろ、運営が作成した彼らのフレーバーテキストもまた非常に凝ったもので、とんでもない力と権能を設定上保有しているのだ。

 それが現実化したならば、そういうこともできるんだろう。

 

 そんなことを考えつつ、メリエルは告げる。

 

「主を疑うなんてことしたら、堕天しちゃうからね。仕方ないね」

「お前は奔放な性格だから堕天してサタンに仕えたり、挙句の果てに邪神共の王に仕えることになったんだろう!」

「強さを求めていったら、つい……まあ主も許してくれてるんでしょう」

 

 メリエルの言葉に4人は彼女の背にある純白の翼に視線がいく。

 確かにそういうことであった。

 

「……主からはお前特有のスキルと聞いているが?」

 

 ジト目で問いかけるミカエルにメリエルは知らん顔をして、視線をメディア達へと向けて――そこで、メディアと尖兵達が化け物でも見るかのような目をこっちに向けていることに気がついた。

 

 メリエルがこっちを向いたことで、メディアは叫んだ。

 

「メリエル! あなたは、あなた達は何の言語を使って(・・・・・・・・)会話をしているの!?」

 

 メディアの問いかけは尖兵達と、そしてこのやり取りを見ていた全ての生きとし生けるもの達に共通した問いだった。

 それはラフタリア達ですらも例外ではない。

 

 彼らにはメリエル達の会話が不思議な音にしか聞こえなかったのだ。

 その音は神聖であると同時に、底知れぬ恐れを彼らにもたらしていた。

 

 メリエルは恐怖するメディア達に微笑み、告げる。

 

「我々の言語であるエノク語よ。ああ、それと神気にあてられたのね? これってカルマが……分かりやすく言うと罪があればあるほど効くらしいから」

「理論的にはお前が真っ先に塩の柱にならないとおかしいんだがな。罪を犯しすぎだ」

 

 ミカエルのツッコミにメリエルは涼しい顔で告げる。

 

「私はほら、ちょびっとだけ特別なので。それに色んな神々や悪魔とかをあなたからクエストという形で主の命として、滅ぼしてきたんだからセーフ」

 

 ミカエルは肩を竦めた。

 

「さて、じゃあ始めましょうか。メディアと1対1で戦う約束なので、それ以外を頼んだわ。なるべく早めにお願い」

 

 メリエルはそう告げて、片手を高く上げ――それを勢いよく振り下ろした。

 

 異教徒共を根絶やしにする為に――

 みだりに名を唱えてはならない、神聖なる四文字をその名に持つ御方の為に――

 

 

 




たぶんあと2話か3話で終わります。

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