「この見た目はフィロリアルとドラゴン……私は見事に運命を引き当てたのだ!」
メリエルは歓喜していた。
目の前で餌を貪り喰う雛2匹。
彼女はこれでもかとユグドラシルにおける様々な餌――ペット専用の色んな経験値ブーストが掛かるものや能力値を上昇させるバフが掛かるものなど――を2匹に与えていた。
物凄い勢いで食べていくが、メリエルは少しでも減るたびに追加しているので、まったく無くなる気配が見えない。
「こんなに勢い良く食べるものなんですか?」
「分からない……」
ラフタリアとヴィオラは不思議なものを見るような目を雛2匹に向けているが、メリエルは全く気にしない。
本物の異世界の生物をペットにできた、という事実に彼女は興奮していた為に。
なんかピキピキという変な音が聞こえるが、成長の音だとメリエルは確信していた。
事実、徐々に雛2匹は大きくなってきているのだ。
「この調子なら、すぐにでっかくなりそうね」
鞍とかそういうのも選んでおこう、とメリエルは楽しみだった。
「あのー、メリエル様。大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫」
ラフタリアが尋ねるも、メリエルは手をひらひらさせてそう返す。
ヴィオラも肩を竦めてしまう。
いくら何でも成長が速過ぎるんじゃないか、というもっともな疑問だったが、メリエルは全く気にしなかった。
「さ、あなた達も2匹に負けないくらいに成長しないとね」
矛先が自分達へ向いた。
メリエルからは逃げられないので、2人は渋々、覚悟を決めた。
ラフタリアとヴィオラがメリエルにフルボッコにされている間、それぞれの雛は山となっている餌を食べ続けた。
ユグドラシルアイテムによる様々な補正と更にメリエルが発動しておいた盾による成長補正が掛かり、2匹の体はどんどん大きくなっていく。
数時間後、模擬戦という名のシゴキを終えたメリエルが戻ってくると山となっていた餌はすっかりと無くなっており、代わりにすっかり大きくなった2匹がいた。
もはや手乗りなどではなく、1mくらいはありそうだ。
まだ誕生して半日程度しか経っていないにも関わらず。
手乗りサイズはそれはそれで可愛いんだけどな、とメリエルはちょっと悲しみを覚えたが、飼い主として成長を喜ぶべきだと思っていると2匹はお腹がいっぱいになったのか、メリエルにじゃれついてきた。
突っついたり、甘噛みしたり、体からピキピキという音を響かせながら。
「よーし、このメリエルが存分に遊んでやろう!」
メリエルは気分良く、2匹と遊び始めた。
勿論、ただ遊ぶだけではなく、文字や言葉の勉強もやってみよう、モンスター狩りもやってみせよう、と。
ユグドラシル産ペット用のお菓子を2匹に与えながら、メリエルは遊びに遊んだ。
ラフタリアとヴィオラの2人が歩ける程度にまで回復してメリエルと2匹の様子を見に来たとき、2人は唖然とした。
2mくらいのサイズになったフィロリアルとドラゴンがメリエルと遊んでいた。
騎竜を引き当てた、とメリエルは言っていたが、まだドラゴンもフィロリアルも成長する気配があった。
事実、目を凝らして見ていると、数分ごとにちょっとずつ大きくなっているような感じがあった。
ピキピキという謎の音――おそらく骨が成長していく音も聞こえる。
しかし、ラフタリアもヴィオラももう疑問に思うことはやめた。
何かあったらメリエルが責任を取るだろう、と。
自分達はメリエルの奴隷――メリエルが忘れていた為、ラフタリアはまだ奴隷紋を解除されていなかった――であるので、最後に責任を取るのはメリエルだと。
中々良い根性を身に付けつつあった。
「フィロリアルとドラゴンって仲が悪かった筈なんだけど……」
「仲、良さそうですね……卵から育てているのが幸いしたのでしょうか……」
常識をぶち破るように、フィロリアルとドラゴンがメリエルにじゃれついて遊んでもらっていた。
フィロリアルがドラゴンを邪険にすることも、その逆も全く無い。
「とりあえず、ご飯でも作りましょうか……」
既製品ばかりではダメというメリエルの謎のお達しで、ここ最近は食材から調理することが多い。
単純にメリエルがユグドラシルにはないオリジナル料理を求めたという個人的な理由からだったが、そんなことはラフタリアもヴィオラも知らない。
ともあれ、食材や調味料はユグドラシルのものにしろ、この世界のものにしろ、メリエルが提供するので非常に豊富だった。
「私はお肉が食べたい」
「手伝ってくださいね?」
メリエルもヴィオラも大食いだった。
メリエルは主だから仕方がないにしろ、ヴィオラに対しては同じ立場なのでラフタリアが遠慮することはなかった。
そして、夕飯も終わり、すっかり夜の帳が下りた頃。
フィロリアルとドラゴンは3m近くまで成長していた。
ラフタリアもヴィオラもドラゴンはともかく、フィロリアルの異常な成長に見て見ぬ振りをした。
これまでにメリエルが山ほど与えた餌が影響しているんじゃないか、という疑惑があったが、ともあれ責任を取るのはメリエルだと己に言い聞かせて。
当のメリエルはフィロリアル――フィーロと名付けた――の体に抱きついて、背中からはドラゴン――ティアと名付けた――に抱きつかれて眠った。
翌朝、メリエルは目が覚めて、感動した。
抱きついて寝ていた筈のでっかいフィロリアルが羽の生えた少女に、抱きつかれていた筈のドラゴンが角と尻尾と翼が生えた少女になっていたのだ。
明らかにフィロリアルもドラゴンも通常の個体とは大きく異なっていたが、ユグドラシルのアイテムと盾の成長補正が何かおかしなことになってこうなったのだろう、とメリエルは判断した。
「いいのこれ?」
「いいんじゃないでしょうか……」
ヴィオラとラフタリアは呆れ顔だった。
おかしいとは思っていたが、ここまで想像の斜め上だと、どう反応していいか分からない。
2人の目の前には、嬉々としてユグドラシルの色んな餌を少女2人に食べさせるメリエルがいた。
フィーロにしろ、ティアにしろ雑食で何でも食べるのだ。
「好き嫌いはダメよー」
メリエルの言葉にご飯を食べながらも、はーい、と仲良く返事をする2人。
何だかなぁ、とラフタリアもヴィオラも微妙な顔だった。
食事を終えたところで、メリエルは日課となっているモンスター狩りをまず行うことにした。
今回からフィーロとティアの2人も連れていき、レベリングを実行する。
「ご主人様、つよーい!」
「つよーい!」
メリエルがワンパンで何でもかんでも瀕死にしていくのを見て、2人は目を輝かせた。
「はい、これ、トドメを刺して」
メリエルの指示に従い、2人は瀕死のモンスター達にトドメを刺していく。
どんどんレベルアップする2人、メリエルは調子にのって、どんどんモンスターを瀕死にしていく。
ヴィオラとラフタリアの2人も、参加している為、明らかにモンスターを処理する速度は以前とは比べ物にならない。
あっという間にモンスターを狩り終えてしまい、いよいよメリエルとの模擬戦だ。
今回は4人を相手にすることであり、ラフタリアとヴィオラも中々良い感じに仕上がっていること、フィーロとティアの種族による生来の能力の高さなどから、メリエルとしても楽しみであった。
そして、模擬戦は数時間に及んだが、ラフタリアとヴィオラだけで戦っていたときとは比較にならない程にその戦闘範囲が広がってしまった。
メリエルは山が2つ程消えてしまったことを嘆いた。
フィーロもティアも本来の姿に戻って好き放題に暴れ回った為に。
とはいえ、2人はメリエルから見れば力を持て余し気味で、もったいなく感じてしまう。
これからちゃんと仕込んでいかなければ、と決意をしつつ、あんまり目立たなくなってしまったラフタリアとヴィオラについて思案する。
弱いわけではないが、やっぱりフィーロとティアのインパクトが強すぎた。
というか、連携も何もあったものではなく、暴れまわるフィーロとティアの流れ弾を避けるに精一杯という具合だった。
瀕死で耐えるアイテムを使っているが、それを頼りに闇雲に突っ込んでこないのは評価できるところであったが、それでもこれはダメだった。
連携訓練を重点的にやっていこう、とメリエルは判断を下した。
そんなわけで夕飯を終わらせ、一日が終わろうとしている中、メリエルは1人、とある実験を行おうとしていた。
ユグドラシルのアイテムを盾が吸収して、何かしらの力を得ることは確認済み。
またウェポンコピーという能力で盾をそのまま変化させることができる。
ということはすなわち――
「ぐへへへ……奴らの盾をコピーすれば……」
親交のあったタンク役の廃人連中、そいつらが使っていた盾。
それをコピーしようという魂胆だ。
幸いにもそういう装備もメリエルは入手していた。
単純にマーケットに放出されていた為に。
というわけで、メリエルは片っ端からウェポンコピーでユグドラシルにおける神器級のシールドをコピーしていく。
ピコンピコンと通知がうるさいが、盾の種類は多い為、一々確認する暇もない。
「純粋にこの盾、肘のあたりにくっつけておけば別の盾に変化させることができるから、普通に使えるのよね」
やり方としては単純で、基本的に邪魔にならないように小型の盾に変化させておいて、ヤバイ攻撃が飛んできたら瞬時に対応するものに変化させて防ぐというもの。
メリエルは、そこで思い至った。
あれ、これ、私の防御、硬すぎない?
「また最強に一歩、近づいてしまった」
メリエルは怪しく笑いながら、どんどん神器級の盾をコピーしていく。
そんな具合に、全ての盾をコピーし終えたのは夜更けであった。
しかし、ここで彼女は更にあるものを盾に吸収させる。
「昔は入手が大変だったけど、サービス終了のときはもう一山幾らのレベルに……」
七色鉱や熱素石などのそういった素材系を盾に吸収させていく。
サービス末期に七色鉱の入手にモモンガと向かったことがあったが、妨害どころか、そもそも他のプレイヤーを見かけることすらなく、普通に入手できてしまった。
2人して、ユグドラシルの終わりを感じたときであった。
「七色鉱とかをフィーロやティアに食べさせたら、どうなるのかしら。虹色に輝いたりして」
メリエルはそんなことを言いながら、手持ちの素材をどんどん盾に吸収させていった。
そうこうしているうちに、お日様が顔を出し始めており、夜通しの作業になってしまったが、一切の疲労を感じていない。
むしろ、自分はまだ強くなれるんだ、という高揚感があった。
「さ、今日もまた模擬戦とモンスター狩りね」
もうちょっとしたら、メルロマルクの様子でも見に行ってこようかしら、とメリエルはビラの効果を楽しみにしていた。