オルトクレイは絶体絶命とまではいかないものの、かなり危険な状態にあった。
それは彼個人のものではなく、メルロマルクという国家そのものだ。
メリエルによりビラが撒かれて2週間程が経過しており、近隣諸国から続々と使者が訪れていた。
四聖召喚を行ったのか、何故隠蔽していたのか、何故、盾の勇者と槍の勇者が決闘しているのか、などなど。
そういった疑問を使者達はそれぞれの上役から書状として託されていた。
ビラに書かれた真偽を正式に国として確認しようという魂胆だ。
不気味なことに、盾の勇者を崇めているシルトヴェルトからは使者が来ていない。
何を企んでいるんだ、とオルトクレイとしては思うも、シルトヴェルトよりも実際にやってきている使者達の対応が先だった。
とはいえ、四聖召喚を行ったことのみオルトクレイは認めた。
四聖召喚をしたことは事実であり、勇者の存在も他国はともかく、メルロマルク国内には知れ渡っている為、召喚の隠蔽はもはや不可能。
隠蔽していたことは時期を見て発表するつもりだった、という返事でお茶を濁すしかない。
決闘とかその他諸々のことは偽情報だ、という一点張りでオルトクレイは押し通すしかなかった。
「……乗り換え時かしら」
マインことマルティは自室でそう呟いた。
ビラをばら撒いたのは、るし★ふぁーというふざけた名前であったが、あの場において、こういうことをして利益を得ることができるのは1人しかいない。
メリエルが何かしらの手段を使って、やったのだろうとマルティは予想がついていた。
オルトクレイは知らないが、マルティは知っていることがある。
メリエルの桁外れの移動速度と非常識な強さだ。
明らかに盾の勇者が持ち得る能力ではない。
元康のパーティーメンバーであるマルティであったが、正直なところメリエルの強さを知っていたので、元康は顔が良くて扱いやすいだけの男でしかない。
彼はメリエルが戦っていた――というよりも虐殺していたモンスターよりも弱いモンスター相手に苦戦しながらも勝利するという程度なのだ。
「それにセックスも下手だし」
元康は経験こそ豊富そうだったが、独りよがりなそれであった。
表面的には気遣っているのだが、実際のところはそうではない。
メリエルと元康、両方を経験したマルティとしては、躊躇なくメリエルのほうが良かったと断言できる。
メリエルは普通に気持ち良かったし、紳士的だった。
「……やっぱり乗り換えようかな。でも、メリエルは私の手には負えないのよね」
メリエルは操る、唆すなどは絶対にできないタイプだとマルティはすぐに察知できた。
今のように気に入らないパーティーメンバーを勝手に売り飛ばしたりはできないだろう。
しかし、メリエルはこっちのことを分かった上で甘い汁を吸わせてくれそうではある。
「悩ましいわ……」
マルティは溜息を吐いた。
「メルロマルクの潰し方はどうしよっかなぁ」
呟き、メリエルはほくそ笑む。
使者の質問に対し、しどろもどろなオルトクレイにメリエルはニヤニヤと笑っている。
メリエルは幾つかのメルロマルクに対する最終的な解決策を考えていた。
一つ目は経済崩壊ルート。
穀物をはじめとした食料品を買い占めてこれでもかと値段を釣り上げて、一定期間を置いた後に一気に市場に放出する。
値段を釣り上げたままのほうが飢えさせることができるが、そうはしない。
供給がか細り、需要が極大にまで高まった市場、そこに一気に供給量を増やしたらどうなるか。
どれだけ値段が釣り上がっていようが、一瞬で値崩れを起こす。
値崩れは釣り上がる前の値段で止まることはなく、最低値まで下がりに下がる。
結果、元手が取れない程に赤字となり、商人や農家が莫大な損害を被る。
同じように薬草や薬、武器や防具でも同じことをやれば経済的に崩壊する。
誰も彼もが職を失い、たちまちのうちに失業者の国へと早変わり。
メルロマルクという国家の国民全てに生き地獄を味合わせることができる。
メリエルがリアルでよくやってた不安定化工作業務の一つなので実績がある。
二つ目は外患誘致ルート。
シルトヴェルトあたりに入手した情報を流し、侵攻してもらう。
面白味はないが、堅実であり、シルトヴェルトにおいて確固たる地位を築くことができる。
メリエルがリアルでよくやってた業務の一つだ。
三つ目は共産革命ルート。
王政なんてけしからんので、万国の
メリエルはリアルではこの過去の亡霊を潰す側だったので、連中のやり方はよく知っている。
やり甲斐があって面白そうだが、制御を誤ると暴走して全世界革命を起こそうとするのが玉に瑕。
アカく染まったファンタジー世界とかいうよく分からないものが爆誕する可能性がある。
他にも内戦扇動国内無法地帯化ルート、近隣諸国介入泥沼ルートとか色々あったが、主なものはこの3つだった。
実際にやるとしたら、まずは1つ目の経済崩壊ルートの後に第二段階として革命やら外患誘致やらとそういうことをすることになるだろう。
もっとも、メリエルはこれらの計画を実行しないということも考えている。
その大前提としてメルロマルクが現体制のまま――もちろんケジメはつけさせた上で――存在したほうが利益があると判断した場合だ。
オルトクレイはともかく、女王とはメリエルはまだ会っていない。
女王は中々のやり手であり、亜人との関係改善の為に尽力しているらしい。
しかし、それらは所詮、これまでの記録や実績からメリエルが判断したものに過ぎないので、アテにはしない。
職業病のようなもので、事前情報と実物が全く違ったなんてことはよくあった。
具体的には優秀という評価を信じて、実際に回されてきた人員がまるで駄目な輩だったということがよくあった為に。
「女王の全裸土下座とかアリよね」
そんなことを呟きながら、近い内に帰ってくるだろう女王がオルトクレイやマルティ、三勇教といったやらかした連中にどういう判断を下すか、それでメリエルは女王に対する事前評価をするつもりだ。
女王が身内贔屓をしたり、有耶無耶やなあなあで済ませたり、賠償金と謝罪だけで済ます程度なら、メリエルの中でどういう評価になるか、想像に容易い。
メリエルは女王と会うのが楽しみだった。
「ねぇ、ラフタリア。メリエル様の盾って……」
「名前がちょっと……」
主が不在であることをいいことに、ラフタリアとヴィオラは2人でお茶会をしていた。
今日はモンスター狩りのみで、模擬戦はない。
フィーロとティアはお菓子を食べるのに夢中で静かなものだ。
そんなとき、話題に挙がったのがメリエルが使うようになった盾のこと。
「絶対無敵の盾って……」
「すっごく硬いけど、名前……」
もうちょっとマシな名前はあっただろう、というようなものだ。
とはいえ、名前の通りに本当に硬く、メリエルから支給された武器でも傷一つつけることができない。
メリエルが地面にその盾を置いて、魔法をぶつけてみても傷一つつかないどころか、そのまま跳ね返ってくる始末だ。
メリエルはそれを見て、自分の装備なのにとても嫌そうな顔だった。
彼女が過去、PvPでその盾の持ち主と戦ったときに苦渋を嘗めさせられたことなど2人は知っている筈もない。
とはいえ、名前がアレなものばかりでもない。
「他にも奇跡の盾とか……」
「持ってるだけで治癒するって凄いですよね」
「というか、メリエル様は盾だけでもあんなに持っているのよね……」
各属性に特化していたり、また物理防御特化、魔法防御特化、あるいは全てが全体的に高いバランスでまとまったものから、治癒や魔法の威力を高める補助効果付きだったり、移動速度が上がったりと伝説に出てきそうなもののオンパレードだった。
絶対無敵の盾と奇跡の盾のステータスを教えてもらったが、ちょっとふざけているのではというくらいにおかしいものだ。
絶対無敵の盾
能力未解放……装備ボーナス 物理防御補正(大)、魔法防御補正(特大)、弱体耐性(大)
専用効果 魔法反射 移動速度上昇(中)
奇跡の盾
能力未解放……装備ボーナス 物理防御補正(中)、魔法防御補正(中)
専用効果 装備時自動回復(中)
装備ボーナスが数字ではなく、補正である。
どのくらいの割合でプラス補正が掛かるか分からないが、メリエル曰く、私自身が隕鉄になることだ、などと言っていたことから、相当に硬くなるのだろう。
他にもメリエルがコピーした盾には絶対無敵の盾よりも厄介なものがあった。
「あとメリエル様がすっごく嫌な顔をしていた盾、何だっけ?」
「慈悲深き守護の女神の盾ですね。とても神々しいものでしたけど……」
神々しいものを嫌がることから、2人ともやっぱりメリエルは邪悪な魔王なんじゃないか、と思ってしまう。
その盾のステータスも見せてもらったが、破格のボーナスと効果を得られるのだ。
慈悲深き守護の女神の盾
能力未解放……装備ボーナス 物理防御補正(大)、魔法防御補正(大)、弱体耐性(特大)
専用効果 装備時自身及びパーティーメンバーに自動回復効果(中)
装備時
キチガイタンクヒーラーと呼ばれた輩の装備品であり、味方が崩れそうになったときに自身にヘイトを集中させ、同時に味方を回復するという嫌らしい存在だった。
主にGvGで活躍したプレイヤーであり、攻撃力と攻撃手段は100レベルプレイヤーにしては皆無に等しいが、有名な輩だった。
アインズ・ウール・ゴウンもそのプレイヤーの所属ギルドと何度も戦っていたが、相手が崩れかかったときに颯爽と前線に現れることから、アインズ・ウール・ゴウンの面々からは味方がピンチになるまで出てこないヒーロー願望のクソ野郎という認識だった。
ビルド的には中途半端であり、能力はタンク特化、ヒーラー特化のどちらにも及ばず、1人では大したことがないが、集団戦で立て直しの保険係としては最高だ。
そういう裏事情を知らなければ、神々しいものを嫌がるようにしか見えず、メリエル=魔王説が本当であるかのように思えてしまうだろう。
「……本当にメリエル様って勇者なの?」
「ちょっと自信がないです」
盾の勇者であることは間違いない。
間違いないが……勇者という部分は本当に肩書でしかない。
むしろ、盾の魔王とでもしたほうがお似合いかもしれなかった。
ただ向上心は凄い。
最近は夜通し何かの実験をしていたり、読み書きの練習をしていたりする。
メリエルが文字の読み書きができないという事実がちょっと衝撃的であったが、試しにテストしてみたところ、ラフタリアやヴィオラと遜色がない程度に読み書きができた。
本人曰く、仕事柄、他国の言語とかを短期間で覚えるのは得意ということだったが、仕事って何だ、勇者じゃないのか、とラフタリアもヴィオラも疑問に思ったことは記憶に新しい。
「まあ、メリエル様は私の長だからついていくんだけどね」
「私も、メリエル様がたとえ大魔王であろうとついていきます」
互いに告げる決意は固かった。
何だかんだで2人共、メリエルに命を助けられた上で、良い生活をさせてもらって、さらには鍛えてもらっている。
最近ではお小遣いまでもらっており、今更メリエルから離れるというのは無理だった。
メリエル「女王がどういう判断を下すかまでは王とか王女とか三勇教とかに手を出すのは控えるわ。場合によっては潰すのをやめる」
メルロマルクの偉い人達「やったー!」
メリエル「^^」