典型的な乙女ゲームだと思ったら、典型的なBLゲームに転生してしまった悪役令嬢の話 作:北十五条東一丁目
それにしても、王子はまるで男を誘う誘蛾灯だ。何か変なフェロモンでも出してるんじゃないだろうか。
とにかくその魅力に当てられて、学園の生徒から用務員、上は70歳の老人から、下は6歳の幼児まで、あらゆる男が王子を狙ってくる。
ロザリアはその男たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げ、王子の貞操を守るために奮闘した。
――ああ、こういう行動がプレイヤーからはお邪魔虫に見えるのかなぁ。ごめん、ゲームの中のロザリア。あなたの気持ちがようやく分かったよ。
そんな感じでしみじみとした気分になったりしながらも、そうして何とか、ゲーム期間の一年が経過しようとしていた。
◇
ゲームの時間が終わるまであと少し。大体のフラグはへし折ったが、まだ王子を狙う者は残っている。――今年の誕生日パーティーで会った、あの黒髪だ。
あの男はメインキャラの中でも更にメインを張っている存在だ。他のキャラと違い、2~3本フラグを折ったくらいでは、そのイベントは止まらないらしい。
この一年間、王子が奴に密室に連れ込まれそうになること135回。およそ三日に一度のペースだ。そんなに王子をモノにしたいのか。その執念には頭が下がる。ロザリアと王子が一緒に出かける時だって、必ず奴が現れた。あれでは最早ストーカーだ。
王子もさすがだ。これだけされているのに、全く奴の気持ちに気付いていない。
「彼かい? そう言えばよく会うよね」
ロザリアがイベントの進行を妨げているせいだろうが、王子にとってあの男はその程度の認識だ。
王子はロザリアが胸元を開いた服を着ようが、スカートを短くしてみようが、全く無反応の朴念仁だ。同じく王子を愛するものとして、彼に同情するところが無くは無い……。
しかし、その鈍感のお陰で、王子がいまだに禁断の道に目覚めてはいないのも確かだ。
このまま何とかエンディングを迎えて欲しい。そう思っていた矢先、事件は起こった。
学園では最後の試験期間が終わり、長期休暇に入った生徒たちは、ほとんどが実家へと帰ってしまった。あの黒髪も例外ではないはず。その思考が油断を誘った。
「おや、ちょっと忘れ物をしてしまった。取りに行って来るよ。すぐに戻るから」
「はい。転ばないで下さいね」
「ははは、子ども扱いしなくても大丈夫だよ」
王子はそう言うと、男子寮へと走っていった。王子の公務に関わり、ロザリアと王子は他の生徒よりも寮を出るのが遅くなっていた。既に夕方だったが、王子は中々戻ってこない。徐々に不安が募ってくる。
「……――まさか、あの男が!?」
あの男が、王子を襲っているのでは? 辺りが薄暗くなろうかという時、ロザリアははたと気付いて、男子寮に向かって駆け出した。
――王子!! どうかご無事で……!!
人気の無い学園の敷地を、悲痛な顔をした一人の少女が息を切らせて走る。
――ああ、もう王子は奴に、男同士の良さを徹底的に仕込まれてしまった頃かしら。
ロザリアは走りながら思った。
――最初は激しく抵抗しながらも、段々と快楽に逆らえなくなった王子が、最終的にはあの男に取りすがって「僕はもう君無しでは生きていけない」とか言って、あの男はあの男で鬼畜な笑みを浮かべながら「じゃあ――今日から王子は、俺の奴隷ですからね」なんて言っている頃かしら。
王子の身を案ずるあまり、その胸は張り裂けそうだ。
――大体王子って、優しいんだけど隙が多くて、どう見ても誘ってるっていうか、完全に受けよね、あれは。そう言えばこのゲームのベストエンドって、王子が国民の男全員の(性的な)玩具になるってやつだったけど、それの何がベストなのよ! 誰にとってのベストなのよ!? 嫌だよ! そんな国!!
校舎を過ぎると、その視界に男子寮の建物が入る。
――そう言えばさ、私たちって16歳だけど、「この作品の登場人物は全て18歳以上です」ってやっぱり嘘だったんだな。制作会社め!
多少の雑念は入っている気がするが、それでもロザリアは王子を思いながら必死に走った。人気の無い男子寮に忍び込み、王子の部屋を目指す。
階段を上がると、王子の部屋の前には、柄の悪い筋肉質の男が立っていた。あの男が用意した見張りだろうか。
「……――なんだてめ、え?」
廊下を走ってくるロザリアに気付いた見張りは、すごんだ声を上げようとしたが、次の瞬間にはロザリアは男の背後を取っていた。そのままチョークスリーパーで男を絞め落す。
――こんな所で転生者としての知識が役立つとは。完全に失神した男を床に転がすと、扉に耳を当てて中の様子を覗った。
「――! ―――!!」
男の声と、抵抗するような物音。まだ王子の貞操は無事のようだ。しかし扉には内側から鍵がかかっている。
ロザリアは小さく舌打ちすると、その美しい髪からピンを引き抜き、鍵穴に差し込んだ。ものの十秒とかからず鍵が開く。――またも転生者としての知識が役立った。
扉を蹴り開け、王子の部屋に侵入する。ベッドの上では、まさにあの男が王子を組み敷いている真っ最中だ。
「くっ、またお前か!! いつもいつも!!」
情事を邪魔された男は、ベッドから降りると殴りかかってきた。その突きを外し、ロザリアの拳が男の鳩尾に突き刺さる。――これも転生者としての知識が――まあそれはもういいや。
くの字に折れ曲がり、腹を押さえながら後退する男。追い討ちをかけて放たれたロザリアの鉄山靠が、男を窓の外まで吹き飛ばした。
◇
「か、彼は大丈夫!? ここって三階だよね!?」
猿ぐつわをはずすと、王子は歓喜に満ちた声を上げた。
「大丈夫ですわ。下は並木ですし、手加減もしました」
「そういう問題なの!?」
「…………クリス様、ご無事で良かったです」
「……ああ、うん。ありがとう。ロザリィのお陰で助かったよ」
ロザリアの涙ぐみながらの言葉に、王子も優しい表情で感謝の言葉を伝える。
「心配をかけてしまったね。ごめん。……――おっと、ははは、こんな格好では締まらないな。ロザリィ、すまないが縄を解いてくれないか?」
「…………」
「どうしたんだい、ロザリィ?」
涙をぬぐって改めて見たが、王子は両手両足をベッドに拘束されている。普段は綺麗に整えられた髪が乱れ、シャツの前がはだけている。ズボンのベルトも緩められ……えらく色っぽい格好だ。
――じゅるり。
「え? なんだいじゅるりって」
そうよそうよ、何でこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。
――こういうのは早い者勝ちよね。王子に隙が有り過ぎるのがいけないんだから。
「え? ねぇロザリィ、何でベッドに登ってくるの? 笑顔が怖いよ? ちょ、ちょっと?」
王子に馬乗りになったロザリアは、優しく微笑むと、するりとドレスの紐を解いた。
◇
もうすぐ新学期だ。今日は二人でピクニックにやってきた。ロザリアは満面の笑みを見せながら、王子と並木道を歩いている。この年度が終わって学園を卒業すれば、すぐに二人の結婚式だ。これが笑わずにいられようか。
王子に不敬を働いた罪で、あの黒髪は学園を去った。しかし処刑されなかっただけ、彼にとっては儲けものだろう。――やはりああいうことを行うには、両者の同意が無くてはならない。
これで全てのフラグはへし折れた。お兄様もお見合いで気が合う女性を見つけたということだし、ロザリアにとっては万々歳、順風満帆の毎日だ。
「クリス様! 良いお天気ですわね!」
「ああ、そうだねロザリィ。――あんまりはしゃぐと危ないよ」
「大丈夫で――きゃ」
強い風が吹いて、ロザリアの帽子が飛ばされる。
「ははは。だから言ったろ? 今取ってくるから、そこで待ってて」
「はぁい」
――いやあ、青春してますわよねぇ、私たち。
ロザリアがそんなことを思いながら、目をつぶってうんうんと頷いていると、大きな物音がした。
「大丈夫か? ん? 君はもしや――クリス王子?」
「え、ええ。――あ、そう言うあなたは、隣国のガイウス皇太子ですか?」
「……ああ。来年度、君の通う学園に留学することになったんだ。……よろしく頼む」
目を向けると、王子と赤毛のイケメンが話している。王子が持っていたアイスクリームが、べったりと王子の顔や身体に張り付き、白い線を引いている。ごくりと喉をならす赤毛。尻餅をついた王子を助け起こす赤毛の瞳には、その髪色にも似た明らかな情欲の炎が宿っており――っておい。
ロザリアの中に、再び前世の記憶が蘇った。
――『狙われた王子2~隣国の王子を婚約者から寝取る。結んでよ、俺との同盟関係~』
――今、続編の幕が上がった。
「続くんかい!」
――to be continue.
短編ではここまでで終了だったのですが、もう少しネタを追加して投入予定。