IS世界で神姫として生きる 作:かのえ
「この子だよ」
ピッ、とモニターに向けて博士はリモコンのボタンを押した
現れたのは黒髪の、所謂イケメンに類するであろう少年
「織斑、一夏?」
記憶から目の前の少年の名前を探った
「そう。いっくんはね、一回誘拐されちゃったのさ」
全く、無能共は彼の重要性をわかっていないんだからと、博士は呟く
「つまり、俺は護衛。そういうことか?」
「うーん、それもあるんだけどね」
まあ、コレを見てよと、彼女は彼の顔画像の下に羅列してある情報を指差す
そこには身長から体重、家族構成にコレまでの経歴がずらっと並んでいたが
「ん?」
一瞬、俺は自分の目を疑った。何やら見間違いだと思いたいが、どうやら違うらしい
博士の指さしているところも丁度そこである
「IS適正、Bとは」
「うーん、この束さんも分かんないんだけどさ、どうやらいっくんにはIS適正があるみたいなんだよね」
IS、それは女性にしか使うことの出来ない現行兵器を凌駕したもの
目の前にいる博士が創りだした、大いなる宇宙への翼。人類を新たなステージへと導く無限の可能性
どれくらい世界に影響力があったかといえば、軽く女尊男卑の風潮が出来上がって、ISを使えない女性ですらも一般男性の上に位置するかのように振る舞うようになるほどだ
そんなものを唯一使える織斑一夏という存在、これは再び世界を揺るがしかねない
「で、護衛以上に何をしろと言うのです?」
「いいや、君はそのままいればいいのさ。そのまま、ありのままに」
「はい?」
見てごらん、と彼女は織斑一夏を表示していたモニターから別のモニターを指差す
そこには黒い塗装を施された武装を纏うアーンヴァル型の画像――おそらく俺――があった
画像の下には基本的スペックから、簡単には理解できないであろう技術的記述、AI構築の理論から色々と書かれていた
「うん?」
だが、俺には理解することが出来ない
それはおそらく、『最も人間に近い人工知能』を目指して設計された俺に原因があるのだろう
コンピュータでありながらも制限された思考、その中では記述内容なんてさっぱり理解できないからだ
「まあ簡単に言っちゃうと、君もISと同じく既存概念では到底構築され得ない技術を用いて作られた束さん謹製のオーパーツなんだよ!」
「ぶっちゃけましたね」
「自律思考型ロボット。人間にある欠陥とも言える恐怖、痛みをある程度無視して戦闘可能。さらに宇宙(そら)に上がっても呼吸の心配はいらない。ISを過去のものにしちゃう傑作なのだよ。えっへん」
「おー」
なんだか自分が凄いということだけ分かった
しかし、疑問が残る
「なら、SFに出てくる巨大ロボットとか作っちゃえばいいのに」
それに対して彼女はぼそっと呟く
「流石に物理法則には勝てなかったよ……」
と
まあ、将来的には巨大惑星開発用ロボットとかも作る予定だよとは言っているが、果たしていつになることやら
「まあ、話は戻すけど。君を等身大のロボットにしなかったのは、そうしちゃうと容易に戦争に使えちゃうからなんだよ」
「ISも似たようなものだろうに」
「まあそうなっちゃったんだけどね」
もともと宇宙開発用に作っていたのに、と彼女はさらにぼやく
「フィギュアロボくらいの頭身ならビーム攻撃も静電気みたいなものさ」
「大口径の武器を使ったら自壊しそうですもんね」
で、だ
「結局何もしなくていいとは、自分という存在そのものが織斑一夏を超えるビッグニュースになるって事でいいのですか?」
「そうそう」
なるほど、と腕を組む
「それで、俺がマスターになる織斑一夏の所に行くのはいつなんだ?」
「今日だけど」
「へえ、今日か」
***
その日、織斑一夏は1人で河川敷を走っていた
「バイトも終わったし久しぶりに走ってるけど、今日はやけに人が少ないな」
ほっほっほ、と軽々とジョギングをこなしている彼は町行く10人中9人くらいは振り返り、残った1人はときめく可能性すらある美少年だった
今までに告白された回数は数十回を超えると言われているが(親友、五反田弾調べ)持ち前の斜め上と言うのすら憚られる勘違いっぷりでそれに気がつかない超弩級の鈍感である
「まあバイトって言っても弾の家の手伝いだけどな」
ふう、と少し休憩する彼
赤い夕陽に照らされてイケメン度数が400%プラスされているように見えるのは間違いじゃあないだろう
綺麗に滴る汗とさわやかな笑顔に男すらもときめくこと間違いない
「夏はなついなー。なんちゃって」
誰も聞いていないのに寒いダジャレを披露する彼。誰かが聞いていれば即座に突っ込むであろうその周囲の気温を-3度落としかねないそれを、彼は満足気だった
「うーん、いい天気だ。そうそう、夏の夕方は綺麗な夕日に空飛ぶ人参……人参!?」
キィィンと音を立てながら空を飛んでいる人参に、一夏は驚愕する
しかもそれが彼自身の方へと飛んできているのだ
「ちょ、ま、えええええええ!?」
逃げようと走りだす彼。けれど人参は待ってくれない
ズドン、と彼の目の前に突き刺さった人参はとても大きかった
人参に付いていたドアから1人の人間が現れる
それを見た一夏は更に驚愕する
「た、束さん!?」
「やっほー! いっくん、元気にしてた?」
少しでも間違えればその人参型ロケットで潰していた可能性のある目の前の少年に、束は陽気に挨拶をするのだった
「いや、元気にしてた? じゃないでしょう博士」
そしてその束の肩に乗るアーンヴァル型神姫は、冷静に彼女に向けてそう言うのだった
「いやあ、元気そうだね」
「あやうく元気じゃなくなりそうでしたけど」
「今日はね、いっくんに贈り物があって来たんだ」
「聞いてないし」
ほら、と肩に乗せている未だ名前の無い神姫を指差す
対する一夏は、それをただのフィギュアにしか見えずに怪訝な表情をする
「俺、そんな趣味無いですよ。美少女フィギュアなんて集めてませんけど」
「まあまあ、見て驚け聞いて驚け、だよ。ね?」
「ね? じゃないが」
差し出された手に、神姫は飛び乗る
唯のフィギュアにしか見えなかったそれが勝手に動き、そして話したことに驚愕しつつも一夏は束に尋ねる
「これは、一体……」
「これは束さんが新たに開発したフィギュアロボ、神姫。そのプロトタイプだよ」
「ロボ……」
「よろしくお願いしますね、マスター」
軽く手を上げながら挨拶をするアーンヴァル型に驚きながらも、一夏は束に質問をする
「まだ鉄腕ア●ムだとかドラ●もんだとかすら出来ていないのにこの小ささのロボットですか」
「束さんに不可能はないのだよ」
えっへん、と巨大な胸をそらしつつ彼女は神姫について説明をする
そして説明が終わると、いよいよ本題に入る
「この子、アーンヴァル型って言うんだけどね。これから君の家で一緒に暮らしてもらうのさ」
「一緒に?」
「彼女のマスターとしてね。なに、大丈夫さ。アーンヴァル型の基本的な性格コンセプトには『素直で純真なお嫁さん』というのがあるから大丈夫だよ」
一夏はアーンヴァル型神姫を受け取りつつ束の話を聞く
「あ、それと」
「はい?」
「これから大変なことになるけど頑張ってね!」
「え、ちょ、待ってください束さ……」
軽いステップで人参に乗り込んだ束は、一夏の静止を一切聞くこと無く、飛んでいってしまうのだった
「いっちゃった」
「いっちゃいましたね」
がっくりとうなだれつつも、一夏はアーンヴァル型神姫と向かい合う
「まあ、これからよろしく。俺は一夏。織斑一夏。君は?」
「アーンヴァル型神姫です。名前はマスターが付けてください」
「ええ? 俺が?」
「はい」
うーん、困ったな、と言いつつも一夏は名前を付ける
「黒くてクールに見えるから、アーンヴァルからもじってヴァル。ヴァルでどうだ?」
「ヴァル……了解しました」
あ、それと、とヴァルが言う
「俺、こんな身なりだけど男性人格です」
「そっかぁ」
割りとどうでも良さそうだった一夏だった