IS世界で神姫として生きる 作:かのえ
「しっかし、千冬姉になんて説明しよう」
「普通に博士から貰ったと言えば良いのでは?」
頭をガリガリと掻いて唸った一夏にヴァルは疑問符を浮かべる
「いや、千冬姉からは怪しい人から物を貰うなって言われてるんだよ」
「博士は怪しい人ですか」
そうヴァルが尋ねると、一夏はうんと頷いた
どこかで怪しくないよ! と叫ぶ兎が居たらしいが当然彼らが知るわけがない
「だって千冬姉が例に上げた怪しい人が束さんだったから」
「あっ」
どことなく彼らの束に対する認識を悟ったヴァルである
「とりあえず家に帰ろうと思うけど、流石にヴァル持ったまま外出歩くのはアレだから鞄の中に入っていてくれな」
「了解です、マスター」
「と、束さんに貰ったいろんなもの多いなぁ」
「俺の充電器とかですね」
そしてヴァルは鞄に入れられ、一夏は自転車で自宅に戻るのだった
「ただいまー。と、まだ帰ってないか」
家の鍵を開けて室内へと入る一夏。鍵が閉まっていたことから、まだ姉が帰ってきていないことが分かる
「ほら、出ておいで」
「ふむふむ、ここがマスターの家ですか。綺麗ですね」
「千冬姉がだいたい散らかしているのを俺が片付けているからな」
「なるほど、マスターはきれい好き、と」
床に降りてとてとてと歩くヴァル
「あ、と。ヴァル?」
「はい」
「出来ればあまりうろちょろしないで欲しいかな? 踏みそう」
「それもそうですね。なら」
ヴァルは武装を呼び出す。黒い翼に赤で抜かれた『01a』の文字
「え? 今それどこから出した?」
「ISの武装だって同じで展開されますよ?」
「そうなの?」
「なのです」
何もないところから武装が出てきたことに驚く一夏だったが、ヴァルは既存の技術だという事を知らない彼に呆れる
「マスターはもう少し世間の事を知っておくべきだと思います」
「うーん、まあ、そうだな」
ふよふよと空をとぶヴァルは、自分の充電器を抱えると開いているコンセントに向かって行く
「そう言えば今日は休日でしたか」
「ああ。だから帰ってくるとは思うんだけど」
一夏がそう言うのと同時にドアが開く音がする。噂をすればなんとやら、だ
「おかえり」
「お帰りなさーい」
「ふむ。……ん?」
帰ってきた長身の切れ長の瞳を持つ女性、織斑千冬は帰ってきたと同時にふよふよと飛んでいたヴァルを視界に入れる
そして、指差してこう言う
「捨ててきなさい」
「なんでさ」
いきなり捨ててきなさいと言われたヴァルは思わずそう返す
流石に捨てるのは可愛そうだと一夏も捨てるのは駄目だろ、と姉にそう言う
「どうせソレは束から貰ったんだろ」
「うわ、なんで分かったんだよ」
「人間じゃないですね」
「まだ人間だ!」
人間じゃないと言われて即反応する千冬。世界最強であり、ISを使い始めたばかりのひよっこ程度ならIS無しでも戦えるくらいの武力を持つ女性を人間だとすれば他の人間は虫けらだろうか
そもそも「まだ」人間と言っている当たり、自分でも薄々人外じみてきている事に気付いているのだろうか
「全く、お前らテレビ見ろ」
そう言われてテレビを付ける一夏
すると、そこには
「俺じゃん」
ヴァルの姿があった。それも、束と会話をしている様子だ。写っているのはニュース番組で、篠ノ之束が超小型のAI搭載ロボットを開発したという内容であった
『この子は稼働データを取るために知り合の家にいるからね! あ、もし強奪とかされたらこっちで自壊スイッチ押しちゃうからそこんとこよろしく!』
「ちょ、自壊スイッチだって」
「うわぁ、博士。流石にそれはやめて欲しいな」
「と、まあお前のことはニュースになっているんだ。アーンヴァル」
「ヴァルでいいですよ千冬さん」
そもそもあのバカの知り合と言ったら自分か一夏くらいしかいないだろ、とぼやきつつ冷蔵庫を漁る千冬
取り出したのは冷えた缶ビール。夏の暑い中ではさぞかし美味しいだろう
「捨てられちゃうの? 俺」
「厄介事の匂いしかしないしな」
「家事できますよ!」
「一夏がいる」
「自分でやると言わない当たり」
「あ?」
「ゴメンナサイ」
千冬に威圧されて即座に謝るヴァル。ここに二人の力関係、上下関係が見事に出来上がった
「ふむ……家事、か」
暫く考えこむ千冬。なにか思うところでもあったのだろうか。そして、暫くしてから明るい顔でこう言う
「そうだ、明日私の職場に来い」
「へ?」
***
やってきましたのは千冬さんの職場。と、いうかIS学園でございます
今、俺ことヴァルは彼女の鞄の中でクレードルといっしょに丸くなって収まっているところです
歩くごとに上下に大きく揺れるのがちょっとアレだけれども、この身は機械。気分の悪さだなんてあまり感じないのだ
「あ、織斑先生お早うございます。休日ですのに」
「抜き打ちで寮内の検査をだな。休日だからって規律を乱されても困る」
「あはは、そうですね」
もう学園内に入ったのだろうか? 知り合いの教師と会話をしながら歩く千冬さん
「ついたぞ」
「はい。でまーす」
もぞもぞと鞄の中から這い出す俺。そして、目に飛び込んできた光景に思わず絶句してしまう。何故なら、そこは腐海だったからだ
散乱している衣服、ゴミ、その他諸々
よくもまあこんな中で生活が出来るもんだと言いたくなる惨状
「ち、千冬さんこれは」
「私の部屋だ」
「は?」
「私の、部屋だ」
驚くことに、クールビューティな彼女の自室だと言う
「いやあ、助かった。一夏をここに連れてくることは不可能だからな」
「え、ちょ」
「家事、出来るんだろう? これを片付けたらうちに住まわせてやる」
「……善処します」
そうして、俺の戦いが始まった
とりあえず、使えるものは全て使おうと思うので、千冬さんも手伝ってもらうことにした
「何故だ」
「流石に持ち運べない重さってのもあるでしょう」
「……それもそうか」
えーと、あれをそこに持ち運んで、と。あ、この下にごみがある!
布団も干してください万年床になってませんか? え? なってる?
缶ビール多すぎでしょ、酒乱ですか千冬さん
あー、もうゴミが多すぎてどこに何があるのか分からないじゃないですか!
わあわあ叫びつつも俺はちょびちょびと物を運び続ける
対する千冬さんは布団ってどう干すんだ? と言い出す始末で全く戦力にならない
「女性なんですから部屋くらい綺麗にしましょうよ」
「まあ、そう、だな」
結局、この体が小さいのもあってから夕方になるまで部屋の片付けは続いた
そして、見事最低限の人間の住まいとなった部屋を見た千冬さんから、織斑家滞在の許可がでるのだった。そしていい笑顔でこう言われる
「今後もよろしくな」
……それって、部屋の片付け的な意味なのだろうか。そう思ってしまう俺であった