ウルトラトンチキグラン君   作:マッキー⭐︎

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第2話

 

 

 星晶獣は、かつて星の民が遺した破壊兵器である。形状は様々で、人型のモノも居れば船などの無機物、果ては魚など、その形態は多岐に渡る。

 だが一貫して言える事は、空の民など大量に殺戮できる程の力を例外なく持ち合わせているという事だ。

 

 ゆえにエルステ帝国は、その力を利用しようと考える。仮に使役できれば、この世界を支配することすらも容易に行えるのだから。

 その為に、ルリアは囚われていた。

 

 理由は分からない。ただ星晶獣を使役できるという事実があるのだから、帝国が彼女を囲うのも当然だ。

 

 そしてその力は皮肉にも帝国という国の繁栄ではなく、只の一個人の為に振るわれる。

 

 

「なぁなぁ、本当に大丈夫なのか?」

 

「問題ない」

 

「すみません私の所為で……」

 

 

 ルリアが行った事は単純、瀕死のグランと自らの命をリンクさせたのだ。

 2つのモノを1つにする。言葉にすれば簡単でも、実際ありえない事だろう。そもそも人体にそんな機能は備わっていない。

 だが不思議な事にグランの傷は完治し、今もこうして騎空艇の中で談笑する程度には場が和んでいた。

 

 

「話をまとめると、片方が死んだらもう片方も死んじまうって事か?」

 

「はい…… でも不思議と、グランなら私が死んでもなんとかなりそうな気がします」

 

「言い返せねぇのがツラいところだぜ……」

 

 

 命がリンクしているのだから、片方が死ねばもう片方も死ぬのは当たり前の道理だろう。もっともこの場の全員が、グランならば()()()とか言い出して死ななそうだと思ったが。

 

 

「でもま、おかげで空に出られたんだから、悪い事じゃねえよな!」

 

 

 あれだけの目に遭っておきながらもビィの目は爛々と輝いている。それも分からない話ではない。

 彼らはずっとザンクティンゼルの島に閉じこもっており、こうして空に上がるのは記憶の中で初めての経験だ。憧れていた空への冒険に、心躍るのも無理はないだろう。

 

 

「帝国の奴ら、オイラたちに気付いてんのか?」

 

「あれだけ派手にやったのだ、気づいていない方が可笑しいだろう」

 

「それもそうか」

 

 

 ルリアが行ったのは、グランとのリンクだけではない。ザンクティンゼルの祠に祀られていたプロトバハムートを召喚し、空に浮かんでいた帝国の船に攻撃を行ったのだ。

 距離があった為船に直撃させることは叶わなかったが、位置を気付かせることは叶った。そしてこれ見よがしに今もなお乗っている小型の騎空艇を発進させたのだ。正確な行先は掴めなくとも、ある程度の方角を知らせる事で帝国の目的をこちらに集める事に成功する。

 

 

「一先ずポートブリーズかバルツ公国で旅の準備をしよう。瘴流域を超えるにしろ、今のまま突破はできない」

 

「空図が必要なんだっけか?」

 

「その通りだ。空図が無ければ瘴流域は超えられない。帝国の追っ手を振り切り、君たちの目指す島へ向かう為にも準備は不可欠だ」

 

 

 その点で、カタリナとグランの目的は一致している。カタリナの目的は、帝国の支配下にあるファータ・グランデ空域の脱出。瘴流域を超え別の空域に渡れば、もう帝国も追っては来れないだろうと見越しての選択だ。

 対するグラン達の目的は、遥か先にある星の島、イスタルシアへの到達。父の残した手紙に従い、空の果てにあると言われている幻の島を目指していた。

 どちらにせよ瘴流域を突破する事に変わりはなく、一朝一夕で為せるものではない。

 

 そもそも空を駆けるには、現在彼らが乗っている騎空艇が必要不可欠だ。島々を渡るために無くてはならない存在であり、最早命綱と言っても過言ではない。

 だが、

 

 

「…………あ」

 

「なんだ、今の音?」

 

 

 カタリナが小さく息を漏らした後、まるで大木が折れたかのような音が響いた。ビィが正体を確認するまでもなく、異変は突如として訪れる。

 

 

「おいおいおい!? オイラたち落っこちてねえか!?」

 

「申し訳ない…… 騎空艇の操縦がこんなに難しいとは思わなかった……」

 

「ど、どうしましょう……!」

 

 

 風に揺られて、不規則な前後左右運動を繰り返す騎空艇。複雑な操作の要求されるそれは、素人が扱える代物ではなかったという事だろう。

 

 

「おいグラン! いつもみたいに何とかしてくれよ!!」

 

「すまんが無理だ。騎空艇の操縦など分からん」

 

「なんでそんなに落ち着いているんですかぁ~!」

 

 

 グランがこれまで起こしてきた数々の奇跡。それは偏に日々の弛まぬ努力があってこその事だ。積み重ねがあったからこその必然。今この瞬間気合を入れなおしたとしても、それは只の心の革新。現状は変わらず、いきなり操縦が可能になるなどあり得ない。

 

 風に煽られ、本来の行先とは違った方向へと向かう騎空艇。為すすべなく自然の力に身を委ねていると、彼らの目には僥倖とも呼べる島が見えてきた。

 

 

「あそこの島に不時着するぞ!!」

 

 

 カタリナの号令に、皆が縁や床に掴まり態勢を整えた。墜落の衝撃に耐えるにはお粗末だが無いよりはマシだろう。

 かくしてグラン達の冒険譚は、あろうことに墜落から始まったのだった。

 

 

 

 

 

/***************************************/

 

 

「いてて…… 皆大丈夫か?」

 

「問題ない」

 

「よくあの状態から、人1人担いで飛び降りれたな……」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「すまない…… こんなことになるなら、もっと騎空艇の操縦を練習しておくべきだった……」

 

 

 墜落間際、グランがとった行動は単純。ルリアを担いで船から飛び降りたのだ。だが足元の揺れる中、こうまで綺麗に着地できる人間がどれだけいるだろうか。

 無残にも爆発四散した残骸を眺める一同。否、グランだけは、彼女らとは別の箇所を注視していた。

 

 

「おいおいなんだこりゃ…… って、お前さん大丈夫か!? 血まみれじゃねぇか……」

 

「ただ血が渇いていないだけだ。傷は既に消えている」

 

「そこについては触れないでもらいたいんだが…… 君は?」

 

 

 グランの視線の先には、口に煙草を咥えた男が立っていたのだ。歳は恐らくグランよりも二回り以上、カタリナの少し上程度であろうか。

 男は元騎空艇を一瞥し、すぐに血濡れのグランへと注目が移る。それも当然だろう。グランは先ほど切り刻まれてから着替えておらず、横一閃に切り刻まれた服とそこを中心とした真紅の大輪に彩られ、どう見てもまともな状態には見えていない。爆散した船よりもそちらに注意は向かう。

 不審者とも見える男の登場に、カタリナは警戒心を隠しつつ名を問うが、男はどこ吹く風といったように答えようとはしなかった。

 

 

「見た所駆けだし騎空団って感じだが…… 早いとこ操舵士を見つけるんだな」

 

 

 それだけ言うと、男は去って行ってしまった。気になる所だが、今の彼らに男を追いかける余裕はない。

 

 

「とりあえず街に向かおう」

 

 

 カタリナの号令で、グラン達は最寄りの街へと歩き始めたのだ。

 

 

「グランは上着だけでも脱いどけよな! 街に入れないかもしれねえぞ」

 

「承知した」

 

「はわわ……!」

 

「……すまない。ルリアも居ることだし、もう少し気を遣ってもらえるか」

 

 

 そんなやり取りを挟みつつ、穏やかな風が吹く高原を彼らは歩く。

 ちなみに街に到着するまで、辺りを徘徊していた魔物が襲ってくることは無かった。それがグランの放つ圧力の所為だと皆が気付くのは、もう少し後の話。

 

 

/*****************************************/

 

 

この世界は空中に浮かぶ島によって構成されている。当然人々が空を浮くことが出来る筈もなく、必然的に文明の力、即ち騎空艇に頼る事になる。

 そしてその騎空艇に乗り、旅を続けつつ生計を立てる人々も存在する。人は彼らを騎空士と呼んだ。そして騎空士が集まったものをいつしか騎空団と呼ぶことにもなる。

 当然旅をしているのだから、様々な島で多種多様な人間と出会うだろう。中には助けを求める人、災禍に悩まされる人々も居た。そして騎空士自体が、物資の不足や不慮の事故で苦しむこともある。

 それを助けるために、よろず屋と呼ばれる人間が居るのだ。

 依頼の斡旋、物資の補給等、空の旅を続けるうえで必要不可欠なサポートを行う人間。

 

 グラン達もその例に漏れず、この島に居るというよろず屋の許を訪れていた。

 

 

「わぉ~ これはファンキーなお客様がいらしてますね~」

 

 

 よろず屋は開口一番、グランの姿を見てそう言った。上半身裸の男はそれほど珍しい光景でもないが、グランの場合は話が違う。

 鍛え上げられた体に、更に眼を引くのは夥しい数の生傷。どう考えても成人を迎えていない少年の身体ではない。これまで様々な人間を見てきたよろず屋でも、彼を見て思わず眉をひそめるほどだ。

 

 

「とりあえず服と武器を見繕ってほしいんだ。シェロカルテ殿なら安心して任せられる」

 

「おまかせあれ~」

 

 

 勿論必要なものは多々あるが、一先ず最低限の生活をできる事と、戦闘が行えるようにするのが先決だ、と判断したカタリナ。グランならば拳でも戦えるだろうが、やはり先ほど見た剣技から察するに、武器があった方が断然良い。実の所、こうして裸体を曝け出すのは、ルリアの教育上よろしくないというのが本音ではあるが

 ガサガサと店の奥を漁るシェロカルテ。暫く待っていると、何やら大荷物を抱えて戻って来たのだった。

 

 

「まず服ですが、こちらなんてどうでしょう~」

 

「いや、もう少し普通のものでいいんだが……」

 

 

 カタリナが難色を示したのは、持ってきた服の過剰なまでの装飾だった。

 黒を基調とした、それはいわば軍服だった。それだけならばグランのイメージとも合うのだが、如何せん似合い過ぎている。袖口や肩には不快にならない程度に金のラインが入っており、相当階級が上の者が身に着ける物のようだ。

 それが軍属でもない少年に着こなせてしまうという事実。服のセンスとしては悪くないが、余りに完璧過ぎるがゆえに悪目立ちする。

 だが――――

 

 

「着れればなんでもいい」

 

「よかったです~ オマケに武器も付けちゃいますよ~」

 

 

 他ならぬグランの声によって、服の購入が決まった。そしてあろうことか、更に装備まで整えてくれるというのだ。これにはカタリナも思わず笑みを零す…… ことは無かった。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! さすがにそこまでの金は持ち合わせていない!!」

 

 

 シェロカルテが持ってきたのは、駆け出し騎空士が持つような粗悪な剣ではなく、素人のカタリナが見ても素晴らしいと思う程に洗練された刀だったのだ。それも一本ではなく、計七本。

 正確な値段は分からないが、市場価格に直せば一本だけでも手持ちの金が飛ぶだろう。それが七本。明らかにカタリナの年収を凌駕している。

 どうにかしてキャンセルできないかと画策する彼女だが、それはなんと徒労に終わる。

 

 

「お金はいりませんよ~」

 

 

 商人としてあるまじき言葉に、その場の誰もが言葉を失った。そして続く言葉に耳を吸い寄せられていく。

 

 

「いわば投資ですかね~ 未来へ羽ばたく騎空士さんを応援するのも、よろず屋の役目ですから~」

 

「しかし、これは……」

 

 

 甘言は、カタリナの猜疑心を一層煽った。理屈は分かる。命を落としやすいこの稼業。特に新米が金が足りないという理由で準備不測のまま空に出ては、瞬く間に空の底へ落ちて行くだろう。

 だがこれはあまりにもやりすぎだ。通常回復アイテムや、食料の融通が関の山。熟練の騎空士が扱うような装備を与えるような真似をするほど、よろず屋は甘くない。何か裏がある。

 そしてそれを感じ取ったのは、当然この男も同じ。

 

 

「建前はいい。用件を話せ」

 

「……うふふ~ さすが見込んだ通りのお方ですね~」

 

 

 瞬間、シェロカルテの目が怪しく光る。それを見つめるグランもまた、傑物である証だろうか。

 内心を読み取れない表情と話し方のまま、よろず屋はある提案をしたのだ。

 

 

「実はこの島のとある場所に遺跡があるんですけど、そこの調査に行ってほしいんです~」

 

「遺跡だぁ?」

 

「それは構わないが…… つまりその報酬としてあれを渡すという事か?」

 

「いえいえ~。装備が無くては何かあった時に困りますから、あれは持って行ってもらって結構ですよ~」

 

「武器を使わなくてはならない何かがあるとはっきり言ったらどうだ」

 

「おいおいグラン、その言い方は……」

 

「気にしてませんよ~」

 

 

 恩人である筈のよろず屋に悪態をつき続けるグランだが、シェロカルテは全く気にした素振りを見せなかった。内心ヒヤヒヤしていたカタリナだったが、此処はシェロカルテの懐の深さに救われたというべきか。

 実際問題、グランの力に耐えられる武器はそう多くない。ならばこそ、此処であの装備を貰っておくことは後々役に立つと考えていた。

 

 

「では私たちは遺跡に向かうとしよう。他にもやらなくてはならないことがあるからな」

 

「いいや、遺跡には俺1人で行こう」

 

 

 出鼻を挫かれる形で、グランから挙がる提案、というより無謀な発言。それを見てよろず屋は口元を三日月に歪める。

 

 

「ど、どういう事だ? いくら君が強いと言っても、何があるか分からない。少しでも人が居た方がいいと思うが」

 

「他にもやるべきことがあると自分で言っていただろう。遺跡の調査は俺1人で十分だ。お前らには他の事を頼みたい」

 

 

 要は役割分担をしようということだ。グランは戦闘能力こそずば抜けているものの、殊更それ以外には疎い。特にコミュニケーション力については言わずもがな、発する威圧感から常人とは会話すら成り立たない状態だ。

 ゆえに依頼は俺がこなすと、そう告げるグランだが、

 

 

「あ、あの……」

 

 

 そこに水を差すように、ルリアがおずおずと手を挙げる。

 

 

「言い忘れていたんですが、私とグランの距離が離れると、多分どっちも死んじゃいます……」

 

「ならば一緒に来てくれ」

 

 

 命のリンクは距離制限を設けた。1つの命を無理矢理共有しているのだから、多少の制限があるのも当然だろう。彼らは真に一心同体。奇跡の代償は軽くない。

 だがその憂慮をグランは一蹴。カタリナとしてはルリアを戦場に向かわせるのは抵抗があったが、()()()()()()()()()()と思い、ルリアを委ねることと決める。

 

 

「なら私とビィくんで操舵士を探そう」

 

「ガッテンだ! 相棒も怪我しないようにな!!」

 

「ああ」

 

 

 かくして彼らは、騎空団としての初めての仕事に取り掛かるのであった。

 

 

/**********************************/

 

 

「あ、あれ……? いま私なにか……」

 

「けほっ……けほっ……やっと封印が解けたか……あの若造共も、少しはやるようになったじゃねぇか……」

 

 

 訪れた遺跡で、彼は運命と出会う。

 それは紛れもなく彼の宿命であり――――

 

 同時に逃れられない呪縛でもあった。

 

 

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