好きという感情は、全てを見失わせる。
ナザリック地下大墳墓、第五階層の氷結牢獄。
外に広がる白銀の世界のように、冷たく静かな薄暗い石造りの廊下に、足音が響く。
蹄が、冷えた石畳を一歩、一歩、軽快に歩く音。それが澄んだ空気に吸い込まれ、静寂へと消えてゆく。
仕事場である拷問室に辿り着いたウルベルト・アレイン・オードルは、他の部屋に比べれば明るく綺麗な室内を見渡してから、まず白の書類机へと向かった。
焦げ茶の太くずっしりした脚を持つ椅子の真紅色した革張りに背を預け、彼は置かれていた魔法の燭台に手を翳して火を灯す。それから、机上に置かれている物に視線をさらりと流した。
机の上にまとめられた書類は、彼の仕事を手伝う戦闘メイドのプレアデスの者達が残した物だ。主が別の仕事に携わっている時に、代わりに仕事をしてくれた彼女達が残した記録である。
その書類を手に取る前に、ウルベルトは硝子製のシンプルな瓶の方へと視線を移した。
そこには、薄紫の花が飾られていた。花弁の小さな花が集まって丸く大きく膨らむようなそれは、拷問室には似合わない随分と可愛らしいものだ。
その花は、ウルベルトが切欠で始まった、仕事には無関係の習慣である。仕事を手伝ってくれる、戦闘メイドとはいえ女の子である彼女達にと、出先で見つけた綺麗な花を彼が飾ってみたところ始まったのだ。最初の花が枯れて片付けられた後に彼女達も飾り始めたため、今では花の交換日記のようになっている。
そして今回は新しい花に加えて、花瓶の前に美しい羽ペンと手紙まで置いてあった。ウルベルトは早速そちらを手に取り、手紙を開いてみる。
『ウルベルト・アレイン・オードル様へ
羽ペンが古くなっておりましたので、新調いたしました。
お気に召して頂ければ幸いに御座います。
ソリュシャン・イプシロン ナーベラル・ガンマ エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ』
羽先から根本にかけて深い赤の羽ペンは、銀の細かな装飾も素晴らしく、ウルベルト好みである。
お礼をしなければいけないなと思いつつ、ウルベルトは手紙をアイテムボックスの貴重品ゾーンに仕舞う。後で私室にある個人的な収納ボックスに仕舞い直すのを忘れないようにしなければなと心に留めつつ、彼は幸せそうに微笑んだ。
「そういえば……、この間狩りに行くとか言ってたけど、その時の戦利品か、これは?」
時間とエネルギーを持て余した仲間がナザリックの者達数名を引き連れて遊びに行ったことを思い出して、ウルベルトは独り言を零す。
そして彼は羽ペンを一旦、丁寧に机上に戻すと、次に香炉へと手を伸ばした。
蓋を開け横に置き、傍に置かれていた香に蝋燭の火をつけると香炉灰の中に置き、ウルベルトはまた腰を落ち着ける。
これも初めは拷問室で仕事をさせる女性達への配慮だったが、今はウルベルトも好んで利用している。仕事内容の都合もあって、拷問室内ははっきり言っていい空気ではない。それを少しでもマシにするため、机上にて焚かれる香からは爽やかで気持ちが安らぐ香りが流れていた。
「……モモンガさんには、こういうのを用意するのも手か」
また独り言を零してから、書類を手に取ると、悪魔は仕事に取り掛かり始めた。
ウルベルトが不在だった間の実験体達の経過観察を確認し、考慮点を読み進め、彼はじっくりと目を通してゆく。
そうして一通りの確認を終えると、立ち上がり、次に書類机に備え付けられている棚の右上に置かれたボードを手に取った。そして
紙をその上に置き、真紅の羽ペンも手にすると、彼は実験体へと歩み寄って行く。
四×四の正方形に並べられた、十六人の被検体達。
老若男女、バラバラの種類の知的生命体が横たわり浅く呼吸をしている。人間種だけでなく亜人種もいる彼ら全員が、手首と足を拘束されてベッドに横たわり、まるで病で床に伏しているような様子であった。
彼らの傍にある小さな机上に置かれたインク瓶に羽ペンの先を浸し、そしてウルベルトは順番に確認を進めてゆく。
カリカリ、カリカリ。羽根ペンが実験体の状態を書き留めるため動く音が静かな室内に満ちる。
検体№05、高熱の症状五日目、脈が早く、意識は変わらず混濁状態、咳と喀血も継続、三日前腕に現れた斑点が首にも出現あり。
羊皮紙に羽ペンを走らせ書き留めながら、ウルベルトはよしよしと、実験結果に満足そうに呟く。
現在、彼が行っているのは、『疫病に見せかけた毒殺方法』の実験である。
彼が担当する仕事の一つであるそれは、敵対者に対する手札の増強と、そして今後国民が増え過ぎた時に適度に間引く手段の一案として、実験が行われている。
勿論、アインズ・ウール・ゴウンの名にかけて可能な限り全ての国民を幸福にするというのが目標のため、それは最終手段である。
しかし、嘗ての仲間であるブルー・プラネットの怒りを買わない為にも選択を迫られた時には必ず行われる手段であろうことは、まず間違いなかった。あの荒廃した世界で消え去った自然を愛した彼が万が一にでも帰還した時に、自然破壊された世界を見せたくないというのは、モモンガとたっち・みー、そしてウルベルト全員揃っての共通認識だったのだ。
あの世界では綺麗な建前と力不足のために解決できなかった、『増え過ぎた』という単純なる問題。しかしそれは、絶対なる支配者が居る世界では、いとも容易く解決される。
『数を減らす』という単純明快なる解決策をもってして。
幸か不幸か、化学や医療技術の発展していない全てが魔法頼りのこの世界では、アインズ・ウール・ゴウンが支配するようになってからも、病や怪我、獣や知能が低いモンスターによる被害によって相変わらず致死率は高い。
そのため現状としては、『増え過ぎ』という問題は起きそうになかった。それは、世界にとっても、アインズ・ウール・ゴウンにとっても、幸運なことである。
「あぁ、そうだ。写真を撮らないとな」
思い出し、板と羊皮紙と羽ペンを近くの机上に置いてから、ウルベルトはアイテムボックスからカメラを取り出した。そうして構えた彼は、首の斑点を撮影するのに邪魔な長髪に舌打ちする。
めんどくさいなぁとぼやきながら、カメラから悪魔にとても似つかわしい鋭利な刃物へと、ウルベルトは持ち替える。
そうして彼が実験体の頭に手を添え、刃物を滑らせようと構えた瞬間、悲しい事故が起きてしまう。
バカンッ!!
「ウルベルト様っ!!!!!!」
「のあっ!? あっ!!」
よく壊れなかったなと褒めてやりたい程に乱暴に開かれた扉と乱入者の方に目を遣り、ウルベルトは怒りに声を震わせながら彼女の名前を叫んだ。
「アールーベードー!! お前っ、そんな淑やか美女みたいな見た目でノックして入室ができないのか!!」
「あら、ウルベルト様。随分と血生臭くびしょ濡れになって……、僕の身で出過ぎたことを申しますが、はしゃぎすぎなのでは御座いませんか?」
「お前が驚かせたから間違えて頸動脈切っちゃったんだよ!!」
首筋の切り口から勢いよく吹き出してきた血液を顔面から滴らせながら、ウルベルトは盛大に怒鳴った。しかし顔を背けつんとしている彼女のその横顔は、美しいだけで全く反省の色はない。
「ったく、あーあ、せっかくの被検体が一体ぱあだ」
ぼやきながらウルベルトは大きく裂けた首を悪魔の腕力で胴体から引き千切り、髪を掴んで首が見えるようにしてから片手でカメラを構えた。
「なによ、たった人間一体ぐらいで、器が狭いわね。そんなことよりも、私の恋愛相談にのってちょうだい!」
「お前なぁ……、オレの仕事を何だと思ってんだよ……。経過観察を見てるんだから、たったじゃねぇだろ」
首の斑点を撮ることに成功し、生首を元の位置にもどしカメラをアイテムボックスに仕舞いながらウルベルトは、アルベドに小言を漏らした。
「それは……、……申し訳ありません、ウルベルト様」
しゅんとした彼女に対し、これだから美女は狡いと思いつつウルベルトは謝罪を受け入れ、来訪理由の詳細を尋ねる。
「いけない、肝心の話を忘れるところだったわ! ウルベルト様、私は一体、何時まで我慢すれば良いのですか!?」
先程までの表情も言葉も全て演技だったのか?という喉元まで出かかった疑問を飲み込み、ウルベルトは早々に面倒臭そうに返事する。
「んなこと言われてもなぁ……」
「そんな、無責任ではありませんか! ウルベルト様が押して駄目なら引けというから私はこのように堪えているのに……!」
憤慨した様子のアルベドはウルベルトから顔を背けると、苛立たしげに呪詛のような独り言を零す。
「やっぱり押すべきだったのよ……! こんな山羊の言うことなんて無視して!」
「こらこら、待て待て。暴走するな、アルベド。後それから、俺に対する不敬はどうでもいいけどな、デミウルゴスとかに聞かれるなよ。お前達が殺し合いなんて悲しむし最悪怒るぞ、モモンガさん」
「そっ、そんなこと、言われなくても当然、気を付けるわよ! それよりも、押して駄目なら引いてみろ作戦は大失敗ではありませんか!?」
「うーん……、いや、まぁ……、押すにしろだな……」
曖昧に誤魔化しつつ、ウルベルトは適当な言葉を探し始める。
そもそもウルベルトからしてみればアルベドの恋愛はかなりの難問で、押そうが引こうが突撃しようが、さして変わりなく思えるのだ。勿論、それを言う訳にもいかないので口を噤み適当に誤魔化し、結果困ったことになっているのだが。
「押し倒して、服を剥いで、そして!?」
「いや、待て、それは止めろ」
正直言ってウルベルトは、アルベドの恋愛を確かに応援はしているのだが、実らないのではと踏んでいた。
なにせ相手は、あのモモンガだ。
リアルでの親交が深かった訳ではないが、それでも感じ取れる程に異形になる前から女気のなかった様子なのに、男としての性器も失い精神沈静化まで備わってしまった今になって、どうやって恋をしろというのか。
せめて彼が異形になる前から女好きならば、多少は勝機があったのかもしれない。アルベドはゲームキャラだっただけあって、かなりの美女なのだから。
しかし、彼がゲーム以外の話題でノッてきたのは会社が辛いという愚痴ぐらいだった。話題になっているモデルとか女優とか、仕事先の気になる人とかそういった話題など全く聞いたことがないのだ。
そんな彼が、男としての衝動も激情も失い損得勘定だけで恋愛を考えるようになって、一体どこに勝機を見い出せというのか。
そのうえ、モモンガはタブラ・スマラグディナに対して未だに申し訳なく思っているのだ。アルベドについて話す時、「でも、タブラさんの造ったアルベドを、これ以上汚す訳には……」と彼は決まって口にする。あれは言い訳でなく、本当に今はいない仲間を懸念していての発言だということは、今のウルベルトには良く分かることだった。
「あー……、その、アルベド……、まずは……、そう、段階を踏め!」
しかし、これ以上誤魔化しようがないのは事実なので咳払いをしてウルベルトは話をなんとか進めようとする。
「段階?」
意味が全く分からないといった様子で、アルベドは首を傾げる。
ウルベルトにとっても勢いで出しただけの言葉であり、意味は今から持たせる言葉だ。今更引っ込める訳にもいけないその発言を、ウルベルトは勢いのままに続けた。
「お前のやり方は強引で、短絡的過ぎるんだよ。好きだからって押し倒して、無理矢理して、後はどうする気だ?」
「子供ができればモモンガ様もきっと私との愛に目覚めてくださいますわ!」
「なんで普段の嫌になるほどの理詰めと冷静な思考が急に綺麗さっぱり消えていきなり超楽観主義者になるんだよ……。恋は盲目ってやつか?」
謎の疲労感と脱力感に苛まれつつウルベルトは自身を叱咤し、頭を働かせ、それらしい言葉を続ける。
「アルベド、冷静にお前のしていることを振り返れ。そんなんじゃ愛は伝わらないぞ」
「そんな、どうして!?」
食い気味に、前のめりで問い詰めてきた美女にさすがに若干引きつつ、ウルベルトはまた言葉を続けた。
「あー……、お前がしている、正妃の座を求めたり、世継ぎを求めたりってのは、それだけを聞いたら問題だって分からないか? モモンガさんはナザリック地下大墳墓の支配者だぞ?」
「問題……?」
「支配者の正妃の座と世継ぎを求める……、権力を狙う悪女の典型じゃないか」
「っ!? そ、そんな……!!」
思った以上にショックを受けた様子で後ろによろめくアルベドに対し、今適当に絞り出した推測を口にしただけのウルベルトは少しばかり罪悪感を抱く。
「ま、まぁ、モモンガさんはアルベドのことを信じているだろうがな、支配者としてそういうことも考えてるのさ」
「で、では、段階を踏むとは、どのようにすればよろしいのでしょうか?」
質問され、ウルベルトは思わず視線を彷徨わせる。
「それは……、やっぱり告白して、……あー、デート? とか?」
何故自分がこんなこっ恥ずかしい答えをせねばならんのかと、ウルベルトは思わず煮え切らぬ骨の友に少しばかり怒りの感情を抱いてしまう。そんな謎の羞恥心と八つ当たりの気持ちに襲われている彼の前でアルベドは、静まり返り、硬直していた。
「アルベド……?」
「デ、デ、デ、デート……!!」
そう呟いたアルベドの顔は、林檎のように真っ赤であった。
「わっ、私が、私めがモモンガ様と、デ、デート、だなんて……!」
「……そこで照れるのか」
妙な脱力感に襲われたウルベルトは、実験体のうち一体が嘔吐し咳き込んだのに気付き慌てる。
「あー、やべえ。窒息死しちまう。いやもう限界か?」
魔法で対処しようとスクロール片手に近付いたウルベルトは、生きようと足掻く実験体を冷めた眼差しで見ていた。
その山羊頭の悪魔に、実験体はゆっくりと顔を向けると、唾を吐いた。しかし吐瀉物混じりの唾は悪魔に全く届かず、意味も無く床へと落ちる。
にんまりと、愉しそうに悪魔は嗤っていた。
「ははっ、なんだ、随分と元気じゃな」
ぐしゃっという音がして、そして、実験体は死んでいた。ウルベルトが言葉を掛けている途中で、いともあっさりと。
鼻の上から先が白い骨と赤い肉、潰れた脳髄と転がる眼球で散らかったそれをウルベルトは見て、そして白い手袋を体液やら肉片やらで汚した美女をちらりと見遣る。
「……アルベド」
「か、勘違いしないでくれるかしら? 私の愛するモモンガ様のご親友に唾を履いた下等生物が許せなかっただけよ!」
某鳥人間ならばはしゃぎそうな彼女の発言に、こんなにも嬉しくないツンデレがこの世にあるのかと、ウルベルトは思っていた。
死にかけだったとは言え、実験体が二体もぱあになってしまったのだ。
この実験の経過観察記録はウルベルトとソリュシャン、たまに手が空いているプレアデスのメイド達が引き受けているのだが、ウルベルトの担当した日にミスで二体死亡とは、あまりに格好のつかない話である。
上司としてこれは如何なものだろうかと、遠い目をしてウルベルトは頭を抱える。
「そ、それで、デートの件なのですけど、」
「うん、まずは手袋を洗おうな、アルベド」
被検体の死亡なぞよりも己がデートを優先する淫魔に対し、諸々を諦めた悪魔は落ち着いた声で窘める。
血で真っ赤に染まった所々に肉片のへばり付く手袋で顔を隠してモジモジされてもあまり可愛くないなと、妙に冷えた頭でウルベルトは思っていた。
「デートはどのようなプランがよろしいでしょうか? モモンガ様がお好みになるのは、分かりますよね、ウルベルト様」
「いや、知らねぇよ」
その手の話題を全くしなかったモモンガの好みのデートプランなど、ウルベルトが知る訳もない。そもそも彼がデートを好むようにも思えないし、そのようなことをする深い関係の人間を匂わせることもなかったのだ。存在するのかすら怪しい好みなど、分かる訳もなかった。
そんなウルベルトに対して、使えねぇなと言いたげなしわくちゃの顔をアルベドは遠慮なく晒し、睨みつける。美貌が台無しのぶすくれた顔だが、彼女にとって美しいと思われたい相手のいない空間では、それは至極どうでも良いことらしかった。
「まぁ、適当に出かければ良いだろ。綺麗で眺めが良いところに。……俺が手掛けた観光地なんか良いんじゃないか? 夜景が綺麗なテラス席を貸し切りにしてやるよ。どうせまだ稼動してないから住人も少ねえしな」
ウルベルトの提案に対して、やっとアルベドが嬉しそうな顔をする。その腰から生えた妖しい漆黒の翼も、素直に嬉しそうにしてパタパタと動いていた。
「綺麗な夜景を、モモンガ様と二人きりで眺めるなんて……。あぁ……、モモンガ様……」
うっとりとした様子で妄想のデートに陶酔するアルベドは、腰の翼をますますはためかせて胸を高鳴らせる。顔もうっとりとした様で、汚れた手袋を脱ぎながらも何か淫魔に相応しい妄想に浸っているらしかった。
ようやっと機嫌もよくなった彼女に対しやれやれと、ほっと一息ついたウルベルトは、彼女の機嫌がより良くなるようにと適当に言葉を続ける。
「まぁそれから、最後にキスでもすりゃ良いんじゃないか?」
「キャーッ!!!!!!」
ドゴン。
鈍い音がして、ウルベルトは目を見開く。
「あ、あら……、いけない、うふふ」
さすがに引き攣った笑顔を零す淫魔の白く美しい素手は、鮮血や脳みその一部や脳漿やらで汚れていた。そして、彼女の近くにいた被検体№06は頭部を潰されて死亡していた。
「アルベド……、笑って誤魔化せると思ってるのか!?」
「もっ、申し訳ありません、ウルベルト様! す、すぐに新しい実験体を見繕ってきますので!」
さすがに失敗したと焦り、開き直る様子もなくアルベドは慌てた様子で部屋から飛び出て行った。
その背中を脱力した様子で眺めていたウルベルトは、随分と早く扉から物音がして俯いていた顔を上げる。
「あ、あの……」
出て行った扉からひょっこりと顔だけ出しているアルベドは、しょんぼりとした顔をしているのもあって子供のようである。ちらりと見える扉を掴む手は、真っ赤で恐ろしいのだが。
ウルベルトが首を傾げ何事かと尋ねると、恋する乙女は恥ずかしそうにしつつ、おずおずと申し出る。
「ウ、ウルベルト様……、あの、デートの時に何を着たら良いか、相談してもよろしいですか……?」
困り顔をした彼女が不安そうにしながら小首を傾げるのを見てしまい、ウルベルトは嘆息する。これだから、美女はズルいなと。
ウルベルトは何かを諦めたように、大きな溜息を吐き出す。
「相談にはのってやるから。早く三体、新しいの用意しろ、アルベド」
「! はい!」
また子供のように破顔して、彼女は軽やかに廊下を走って行った。軽快な足音が、たったっと遠くに消えてゆく。
全く仕方ないなと溜息を零しつつも、しかしウルベルトの口元は、優しく笑っていた。
そうして彼はまた真紅の羽ペンを手に取ると、残る十三名の被検体達の経過観察の記録を再開したのだった。