俺のWORST物語   作:ユキユキさん

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第14話 ~俺、…と秀吉先輩最後の。

ー龍光寺由紀也ー

 

 マサ先輩を処刑した後、鉄生さんと透を探してみたが…いなかった。…あの二人、…逃げやがったな? …軽く話すだけにしようと思ったが、こりゃーそれ以上のことをせにゃならんわな。さて…どうしてくれようか? そんなことを考えながら戻れば、秀吉先輩が静かに立っていた。喧騒の戻ったこの場において異質、何も聞こえていないのでは? と思う程の落ち着きぶり。…こりゃー期待出来るわ、この秀吉先輩が出れば負けることはねー。

 

 

 

 

 

 

俺は一人静かに立つ秀吉先輩に近付き、

 

「…秀吉先輩。相手はキングジョー、一年から鳳仙を力でねじ伏せてきた男です。かなりの強敵でしょうが、…やれないこともないかと思います。俺は勿論、…みんなが秀吉先輩を見てるんで。熱く冷静にやってください、今の秀吉先輩なら…きっと!」

 

そう声を掛けた。俺の言葉に反応した秀吉先輩は静かにこちらを見て、

 

「…ゼットンの奴が九里虎に敗けた時、俺なんかじゃ到底敵わねーって思い込んでいた。だが…あの時とは違う、今日は違う。お前のタイマンを、圧倒的な強さを久々に見たら熱くなっちまった。静かに燃えてるって前にそう評してたな? …今がそれなんだわ。」

 

そう言葉にした。…その言葉には色んな想いが含まれているんだろう、俺はそう感じた。

 

「…恐らく、このタイマンが俺の最後の喧嘩になるだろう。だから見ていてくれ、…しっかりと目に焼き付けてくれ。俺の認めたお前の中に残ってくれるのなら、俺のガラじゃねーけど素直に嬉しいからな!」

 

続けて言った後に笑みを浮かべる秀吉先輩に対し、

 

「…ちゃんと焼き付けておきますよ、当たり前じゃないッスか。そして今回の勇姿、…きちんと報告させて貰いますよ? …姉貴(・・)に。」

 

そう言えば瞬時に真顔となって…、

 

「…それはヤメロ、…こっ恥ずかしい!」

 

というやり取りをした。

 

その後は互いに笑い合ってから、

 

「そういえばマサはどうした? 人一倍野次っていたが…。」

 

マサ先輩のことを聞いてきた。それに…、

 

「向こうで白目剥いて倒れてますよ、…処刑したんで。」

 

と答えれば、秀吉先輩はまた笑い、

 

「…良い感じで緊張が解れたぜ。…じゃあ、…行ってくる。」

 

軽く拳を突き出してきたから俺も拳を突き出し、コツン…と軽くぶつけ合う。そして秀吉先輩は踵を返し、キングジョーの待つ中央へと進んでいく。その後ろ姿を見て確信する、秀吉先輩は善戦し負けることはねーと。

 

 

 

 

 

 

今から始まる秀吉先輩とキングジョーのタイマン、この目にしっかりと焼き付けなければ。焼き付けるって言ったし、今回のタイマンは秀吉先輩至上最大のタイマンになるだろうし。それにヤメロと言われても、家で色々と聞いてくる姉貴(・・)がウザいからな。自分の彼氏(・・)が気になるんだったら自分で聞きゃーいいのに。…全く、普段は強気のクセに秀吉先輩のことになると乙女なんだから。

 

…因みに今更だが、秀吉先輩は俺の姉貴の彼氏である。秀吉先輩とはマサ先輩をぶっ飛ばした後からの付き合いなのだが、それ以降…飯を食いに行ったりと仲良くさせて貰っていると以前言ったな? その時にたまたま姉貴と鉢合わせて、やんちゃな少年である当時の秀吉先輩を気に入り今に至るわけで。姉貴の名前は龍光寺紅音(あかね)、大学一年である。…将来的には義兄(アニキ)になるかもなー。

 

 

 

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ー加東秀吉ー

 

由紀也と話したことで程よく緊張が解れた俺は、心身共に好調の状態でキングジョーの前に立つ。その力で鳳仙を支配してきた男、キングジョーとやり合うってーのは普通なら少しは怯むようなこと。…が今の俺には何ら脅威も感じない、真正面から挑んでやると思うまである。

 

「…行くぞっ、キングジョーーッ!!」

 

「…来んかいっ、秀吉ーっ!!」

 

互いに叫んで向かっていく。…全てを出し切れ秀吉! …俺にはそれが出来る筈だ!!

 

 

 

 

 

 

真正面からぶつかった俺は、キングジョーと壮絶な殴り合いを始めた。その拳の一撃一撃が身体の芯に響くような重いモノ、俺には繰り出すことの出来ない拳。そっちがパワーなら、こっちはスピード…手数でキングジョーに肉薄する。衰えない互いの攻撃、だが…ダメージは蓄積していく。

 

純粋な殴り合いはいつしか読み合いとなり、下手なことをすればカウンターが飛んでくるようなものになった。キングジョーの表情、息遣い、そしてその動き。熱くなりすぎてやや単調、逆に俺は熱くなりながらも冷静。要所要所できっちりガードをしてはカウンターで拳…もしくは蹴りを放ち、徐々にこちらのペースへと移行する。

 

その一撃の重さから、最初はキングジョーのペースだった。そこを堪えに堪え、今の状況に持ってこれた。ここで臆することなく、気持ち前のめりで攻めなければならない。キングジョーに飲まれるな! …そう自分に言い聞かせて攻める。歯を食いしばれ、弱味を見せるな! 相手を休ませないように連撃を加えて攻める。相手はキングジョー、生半可な相手じゃねーのだから!!

 

 

 

 

 

 

俺のペースになってはいるものの、流石は鳳仙の親玉キングジョー。恐ろしい程の体力で未だ健在、それに比べて俺の方はかなりしんどい。最初の殴り合いで削られた体力、それを押して猛攻を仕掛けたツケがここに来て出始めてきた。そして…その中で、足の力が一瞬抜けた。すぐに立て直して拳を振るうも、目敏くそれを目にしたキングジョーがそれを避け…、

 

「…よぉ~頑張ったけぇ~のー、秀吉!」

 

ドッ!!

 

「…がはっ!?」

 

腹に一発、…いいのを貰ってしまった。よろける俺に、

 

「…これで、…終いじゃーーーっ!!」

 

ゴガッ!!

 

「…………っ!!?」

 

横っ面に重い一撃、まともに入っちまった。強烈な浮遊感を感じたかと思った矢先、身体全体に響く程の衝撃を何度も味わった。…殴り飛ばされて地面を転がったのか? …俺は。

 

地面に転がった状態でキングジョーを見る、…膝に手を付き息が粗くなっているようだ。…何だよ、…お前も限界近いじゃねーか。…化物並の体力に見えたのはやせ我慢か?

 

…………俺に背を向けるんじゃねー、…見せるんじゃねーよキングジョー!!

 

 

 

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ー龍光寺由紀也ー

 

あまりにも壮絶なタイマンに、最初は騒がしかった周囲も今は息を飲み黙り込んでいる。二人の喚き声と呻き声のみ、俺も含めたここにいる奴等全員がこのタイマンに圧倒されている。

 

いつしか雨が降り出して、その雨にも気付かずぶつかり合う二人。

 

そして終わりは近付いていて、キングジョーの拳が秀吉先輩に吸い込まれて……。

 

ぶっ飛んで地に倒れる秀吉先輩を見て、大体の奴はこれで終わりだと思うだろう。…しかしまだだ、まだ終わりじゃない。狂犬の牙は折れちゃいないぜ?

 

 

 

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ー加東秀吉ー

 

俺に背を向けて歩き出すキングジョーを視界に収めながら、俺は気合と根性で立ち上がる。勝てる気がしねーけど、負ける気もしねー。今もその気持ちは変わらない、こんなボロボロだけど…まだ俺はやれるんだよ! いつの間にか降っている雨の中を、俺は身体中に感じる痛みに堪えて走り出す。

 

「…勝った気でいるんじゃねーぞ、キングジョーッ!!」

 

そう叫びながら奴を目掛けて走る。…今更気付いて振り向いても遅いんだよ! 俺は地を蹴って…、

 

「ーーらぁっ!!」

 

ドガッ!!

 

「ぐぉあ…っ!!?」

 

キングジョーに蹴りを入れてぶっ飛ばす。着地に失敗して地面に転がるもよろけながら立ち上がり、……キングジョーはっ!?

 

キングジョーのぶっ飛んだ方向へ視線を向ければ、若干ふらつきながらも立っていた。…お前も限界なんじゃないのか? この俺もマジで限界だからな…。恐らく、これで互いに終いってところだろう。後は気合と根性の問題となる、…最後の勝負だ!!

 

俺が走ればキングジョーが走り、それは必然的にぶつかり合うことで……、

 

「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」

 

俺の拳とキングジョーの拳が交差して、…互いの顔面に直撃する。勢いに乗った拳によって俺はぶっ飛ぶ、…二回目かよ。

 

そんな感想が頭に浮かぶ、俺は案外…まだ余裕なのか?

 

 

 

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ー龍光寺由紀也ー

 

背を向けたキングジョーに飛び蹴りを食らわせ、最後は互いにクロスカウンター。ぶっ飛んで倒れる二人を俺達は見ているだけだった、…これはタイマンなのだから。いや…それ以上に魅せられたのかもしれない、この二人の意地がぶつかり合ったタイマンを。

 

雨の降り頻る中、倒れて微動だにしない二人。…暫くの間見守るも我慢の限界が来たようで、

 

「…ジョーッ! 立つんだ!!」

 

鳳仙の誰かが叫んだ。一人が叫べば後は…、

 

「秀吉! ここまで来たら立て!!」

 

「鳳仙の大将がここで終わるんじゃねー! 立ちやがれジョー!!」

 

「立てばお前の勝ちなんだぜ秀吉っ!!」

 

「「「「「ジョーッ!!!」」」」」

 

「「「「「秀吉っ!!!」」」」」

 

二人に掛けられる声が重なり合って怒号のようになる。そのような叫び声が響く中、二人は……。

 

 

 

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ー加東秀吉ー

 

意識が朦朧として動けない中、耳に届いた俺を呼ぶ声。…ここで立たなきゃ負けちまう、…負ける気はしねーと言ったじゃないか! か…勝てる気がしねーとも言った、…だが! ここまで来たら勝ちを夢見てもいいんじゃないか? …俺の戦歴の殆んどは負けで、後は分けることが多い。勝ちなんざ二回だけ、…たったそれだけだ。…今ここで三勝目を、…最後ぐらいは!!

 

 

 

 

 

 

…無意識のままに立った、……ただそれだけ。……俺は、…………俺は勝てたのだろうか?


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