ドラクエⅦ 人生という劇場   作:O江原K

1 / 22
若い勇者たちのように

『・・・あと少しで魔王を倒すチャンスだったのに!あたしなんか放っておいて

 攻撃していたらあんたは世界を救った勇者になれた。とことんお人よしなのね』

 

『ぼくは・・・勇者になんかなりたくはなかった。そう、きみのために生まれた

 どんなものからもきみを守る・・・ずっとそんな存在になりたいと思っていた』

 

 

 

 

あの最後の戦いからもう一年半。こうして夢に出てくることも多いけれどもっと昔の

出来事に感じられる。ぼくは海岸の静かな場所に寝転んであくびをしながら腕を伸ばす。

ほとんど人なんか来ない、誰にも邪魔されずにのんびりできるいい場所だ。港では

この村で一番大きな船が出港の準備を進めている。今度は一週間くらいの漁だろうか。

ぼくの父さんが船長で、村の漁師たちはみんなこの船に乗っていく。ぼくはそれを

遠くから見ているだけだ。いっしょに漁に行くどころか手伝いもしていない。

ぼーっと賑やかな景色を眺めていると、誰かが近づいてくるのが見えた。

 

「おお、アルスじゃねーか。こんなところで一人・・・どうした?」

 

「ホンダラおじさんか・・・おじさんこそそろそろ船に行ったほうがいいんじゃないの?」

 

旅を終えたぼくは漁師にはならなかった。父さんや周りの人たちは『世界を救った勇者が

村の漁師じゃもったいない』と口を揃えた。それでもぼくが望むならいつでも待っていると

言ってくれた。なかなかその気にならないでいると、ぼくの代わりにおじさんが

漁師になりたいと言い出したのだ。いまは一番下っ端の見習いとして働いている。

 

「海が荒れるかもって出港が遅れているんだよ。兄貴・・・お前の親父の勘は当たる

 からなぁ。何年か前のアミット漁の豊作のときは成功の予感が、逆に世界が魔王に

 封印される直前は嫌な予感がしていたっていうほどだからな、まさに漁の天才だぜ」

 

「ふーん・・・漁師になるために生まれてきたってことなのかな」

 

人はみんな何かのために生まれてきた、ぼくが数多くの地を旅して確信したことだ。

父さんのようにすぐにそれを見つけられる人もいれば、おじさんのように時間が

かかった人もいた。いつまでたってもわからない人だってたくさんいるだろう。

 

「今日は特に何も予定はないのか・・・まあいいんじゃねーか?お前はこれまで

 働き過ぎたんだからな。そのぶん俺がしっかり働いてきてやるからよ。ずっと

 遊んで暮らしてきたんだ、そろそろ真面目に働かんと・・・そう気づかせて

 くれたのはお前のおかげだ。だからいまのうちは俺に任せな」

 

「・・・ありがとう。ぼくがプラプラしていても何も言われないのはおじさんが

 父さんの近くにいるからだ。おじさんが働くようになって父さんはとても喜んで

 いるからね。ぼくをどうにかするってところにまだ気が回らないんだよ」

 

「ハハハ・・・違いねえ。だから安心して気のすむまでとことん遊んできな、

 俺と違ってお前は選ばれた人間だからな。結局のところ俺には才能がなかった。

 遊び人としても、詐欺師としてもな。ニセの神の城に乗り込んでその後死にかけて

 ようやくわかった。コツコツ働くしかなかったんだよ。だがアルス、お前なら

 これから一生遊んで暮らしたって誰も文句は言わねえしそうする力もあるんだ」

 

一生遊んで暮らす・・・か。確かに気楽でよさそうだ。でも何のために生まれてきたと

聞かれて、自分の気の向くまま遊び呆けるため、胸を張ってそう答えられるだろうか。

何となくぼくは嫌だな。誰の役にも立たないむなしい人生だと思う。

 

「じゃあそろそろ行くぜ。気が変わって船に乗りたくなったら兄貴に言いな、大喜びで

 連れて行ってくれるだろうよ。ただ・・・そうなるとそのぶん人が余って俺が船を

 降ろされちまうかもしれないし・・・うーむ・・・」

 

おじさんが頭をぽりぽりと掻いたままいなくなった。口にはしなかったけれど最近

ぼくに元気がないと思って近づいてくれたんだろう。船に乗りたいのに言い出せずに

黙っているんじゃないか、そこまで心配してくれたのかもしれない。母さんや

村の人たちもぼくに優しく接してくれる。じっくりやりたいことを探せと。

そう、いまぼくは何をする気も起きない、ちょっとした無気力状態だった。

 

 

「時間はたっぷりあるし・・・昨日どこまで読んだっけ」

 

ぼくはとても厚い本を取り出した。遥か昔の勇者たちの活躍が書かれた本だ。

ぼくたちが小さいころ見つけた本で、子どものときはいまよりも重かった。

この本がどんな本であるか、ぼくたち三人の間でも意見が分かれた。

 

 

『こりゃあ面白れぇ!城の難しい本よりもずっと読んでて飽きないぞ!』

 

『でもあまりにも作り話が過ぎるわ。魔物だの呪文だの・・・それに』

 

『世界にはこの島しかないのに、そう言いたいんだろ?ケッ、これだから女は

 夢がないんだ。なあアルス、お前ならオレと同じことを信じているだろう!?

 そんなはずはない、きっと世界はもっと広いんだってな!』

 

グランエスタード城の王子キーファ。今思えばこの本との出会いが彼を冒険へと

導くきっかけだったのかもしれない。一方もう一人のぼくの友だちはやや冷めた

表情で本の信憑性を疑っていた。とはいえ目つきは鋭かった。自分とキーファ、

どちらの言うことに同意するのかとぼくに迫っていた。

 

『さ・・・さあ。ぼくにはわからないな。もうちょっと読んでみないと』

 

二人は不満そうにしていたが、ケンカにならないためにはこう答えるしかなかった。

ただ、この本を手に取ったときぼくにはなぜかわかっていた。これはエスタード島の

ものではない、最低でも数百年は前に書かれたものだと。そして全てが真実の歴史、

実際に起きた出来事と実在の人物たちの物語であると全く疑わなかった。

 

『ふん・・・誰に対してもいい子でいたいのね、アルス。でもあんまりみんなに

 優しいのもどうかと思うわ。特にこのバカ王子にはハッキリと・・・あら?』

 

『ふざけやがって。わがままお嬢様にこそ厳しく言ってやれ・・・むむっ!?』

 

後から聞いた話で、このとき二人は突然目の前が眩しくなって倒れそうになったらしい。

その光は青くて、結局それが何なのかはわからずに錯覚だという結論に達したけれども

さらにその後、ぼくたちが不思議な冒険を始めてしばらく経ち、すでにキーファが

いなくなってから眩しい光の正体が明らかになった。なんとぼくの腕、どこでつけたか

わからないアザから放たれていたのだ。このアザこそが勇者の証だったと旅の途中、

魔物の脅威に苦しみ勇者を欲する過去の世界でそれを知ることになったのだ。

 

 

(・・・ぼくたちが旅した過去の世界よりもずっと昔、その時代の勇者たちの記録が

 このアザに反応した・・・そんなの気がつくはずがないよ)

 

世界に一つの島しかなかったとき、そこは平和そのものだった。魔物なんかいない。

実は漁で遠くまで向かうときにごく稀に出没する魔物がいたのだが、数が少なく

漁師たちでも簡単に倒せてしまうほどだったので魔物とは認識されなかった、

父さんたちからそう聞いている。突撃魚やおばけヒトデ相手ではそれも無理はない。

エスタード島が封印されてから後になって危険な魔物たちが増えたのだ。

 

だからこの本に登場するドラゴン、ゾンビ、怪人たちの存在は現実的ではなかった。

それらを倒すための武器や身を守るための防具、対抗手段である魔法の数々。

これを何から何まで信じろというのは難しい話で、さすがのキーファも全部を

ほんとうのことだと思ってはいなかった。自分が気に入ったところ、都合のいい

箇所だけを選んでいたように見えた。派手で真に迫る戦闘描写を特に好んでいた。

 

 

(さて・・・今日はここから読もうかな)

 

今はもうこの本が誰によって書かれ、どうして幼い日のぼくたちに見つかるように

置かれたのかを知っている。寿命がないというモンスター人間と呼ばれる人たちの

一番高い地位にいる人がそれを書き記した。そしてやがて旅立つぼくたちを待ち受ける

戦いの日々に備えさせるために用意していた、それがすべての真相だった。

 

子どものころはただの物語として楽しく読むこともできたし、旅の間も空いた時間は

この本を研究することで剣技や呪文のヒント、それに魔物の弱点を知ることもできた。

昔の勇者たちが試練にぶつかったときどう立ち向かったかも書かれていて、何かに

行き詰ったり心が折れそうになったりしたらぼくは本を開いて助けを求めた。

 

魔王はもういない、なのにどうして最近になってぼくはこの本を必要としているのか。

そこまでの期待はしていなかった。だめで元々、そう思いながらも答えを探していた。

 

(・・・・・・やっぱり書いていない。三人目の勇者も・・・これで終わりか。

 もう一度読み返してみたら新しい発見があるかもと思ったけれど・・・)

 

これほどの本であっても、勇者たちの『その後』について詳しく書かれてはいない。

その時代の魔王を打ち倒して世界が平和になってから少し後までは書かれている。

それでも、どこかで幸せに暮らしたとか王として正しい支配をしたとかそれくらいの

ことだけだ。彼らの心のなかまではわからなかったのだろうか。

 

いまぼくが何をする気にもなれず、どこへ行きたいとも思えない理由が知りたかった。

この無気力の原因は何なのか、もしかすると勇者としての使命を終えたらみんな

こうなるんじゃないか。押しつぶされそうな大役を無事に果たし、心が燃え尽きた。

王として華々しい第二の人生を歩んでいても、どこか退屈でつまらない凡庸な毎日に

だんだんと生きながらにして死んでいくような気分を味わっていたのではないか。

 

(・・・・・・・・・)

 

いや、違う。ぼくはわかっている。ぼくと昔の勇者たちを同じと考えてはいけない。

彼らは勇者としての使命に燃えていた。生まれたときから魔族によって支配された

世の中で暮らし、親をはじめとした大事な人たちの命を奪われていた。悲しみや

絶望で満ちた世界を変える力があり、それができるのは自分だけだという責任感も

素晴らしく、皆が諦めても勇敢に旅立ち魔王を倒すために命をかけた旅を成し遂げた。

 

ぼくはどうだろう。冒険の始まりはちょっとした好奇心に過ぎなかった。しかも

キーファに誘われて断り切れなかったからだ。魔王が確実に存在すると知ったのも

過去のダーマ神殿を旅していたあたりで、ぼくがそれを倒すべき勇者なのだと

自覚させられたのはもっと後だ。これだけでもぼくが『ロトの勇者たち』と違うのは

誰が見ても明らかだけど、ぼくにしかわからない決定的な違いがもう一つあった。

 

 

『まあ、呆れた。あたしたちが負けたらこの世界は終わり、お先真っ暗なのよ?

 なのにこの土壇場で勇者じゃなくてもいいですって?アルス、あんた・・・』

 

『・・・『人は、誰かになれる』・・・どこかで聞いた言葉だ。ぼくの代わりに

 勇者になれる人はどこかにいる。でもきみのために生きる、きみを守るために

 生きるのはぼくしかいない・・・もしどこかに代わりがいても絶対に譲りたくない』

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

 

ぼくは最後の戦いの最中、一度勇者であることを捨てた。もともと旅の途中で

気がついたら特別な力があると言われて、『ああ、そうなのか』とどこか他人事で

聞いていただけだ。それよりも大切なことには世界を取り戻す使命も勝てなかった。

きっとこんな勇者は他にはいないだろう。だから勇者ロトとその子孫たち、また

それよりも前や後のどんな勇者たちの経験も参考にはならない。ぼくはすでに

わかっていたはずだ。情けないからそれを認めたくなかっただけなんだ。

 

「・・・・・・マリベル・・・・・・」

 

たった一か月きみと会っていないだけでここまで気分が沈むなんて知ったら

笑われてしまう。きみは何も言わずにどこへ行ったんだ、そしてどうして

帰ってこないんだ。思い当たる場所を世界中探しても手掛かりすらないなんて。

 

 

 

『それでは今からお菓子とゴールドを投げまーす!皆さん、ぜひご参加ください!』

 

魔王との戦いから一年が過ぎ、突如世界に現れた魔物たちもすでに人間に敵意のない

安全なもの以外はいなくなった。再び日常生活が始まったとはいえいまだに余韻は

残っているようで、ぼくたちにぜひ来てほしいという国や町は多い。その日は

聖風の谷の式典にぼくとマリベルは招待され、族長のセファーナさんたちが

高いところからお菓子や小さな硬貨を皆に向かって投げるイベントで一日が

終わろうとしていた。ぼくたちも人々の輪の中に入っていいと言われたので、

 

『こらアルス!ちゃんと取りなさいよ!のろまなのは相変わらずなのね!

 そっちに固まってお金が飛んでるじゃないの、腕をもっと伸ばしなさい!』

 

『ああもう・・・きみこそ口だけじゃなくて手を動かして・・・痛っ!!』

 

無事醜態を晒すことになった。ぼくたちを見た人たちも笑っていた。

 

『・・・ふふっ、世界を救った勇者さまたちと聞いていたけれどこんなのに

 夢中になるなんて・・・そんなに緊張することもないかもしれないわ』

 

『そうだなぁ。この世で最も強いというよりは最も運があったのかもしれない。

 これなら我が聖風の谷の神のほうがずっと上だろう』

 

魔王を倒したぼくたちはしばらく大変だった。神さまを殺したという魔王に

勝ったのだからとぼくたちを神として崇拝しようとする人たちもいた。

しかしこうしてぼくたちも人間に過ぎないと知り、むしろ実は大したことは

ないのでは?と皆が思うにつれて、だんだんと落ち着いていった。人間離れした

力によって世界を救ったのではなく、行動力や強運があったとみなすようになった。

ぼくたちにとってもそれはよいことだった。そうなるように一芝居打つことも

あったけれども、聖風の谷でのマリベルはどう見ても演技ではなかった。

 

『うふふ、けっこう取れたじゃない。小銭もこれだけ積もればなかなかの重さね』

 

純粋に楽しんでいた。そしてぼくも楽しかった。戦う必要のない平和な世界を

旅して笑顔になる。これを夢見ていたから苦しい戦いにも耐えられた。時には

心が凍てつくような悲惨な光景を目の当たりにしたり、海の底に沈むような

どうしようもない無力感を味わうこともあった。魔族以上に残酷な人間の悪を

味わい、救おうと思っていた人たちの裏切りに遭って傷つくことも。

 

それでも絶望せずに立ち上がり、何度でも舞い上がった。偉大な勇者たちもきっと

そうだったはずだ。そこで諦めてしまっては魔王の思う壺であり、暗い闇は

いつまでも晴れなかった。彼らがただ勇者として選ばれし人間だっただけでなく

強い心と正義感に満ちていたからこそ歴史に名を刻むことができたんだと思う。

 

(だったら勇者じゃなくなった後はどうだったんだろう。舞い上がれたんだろうか)

 

ぼくたちの場合はうまくいきそうだけど、魔王をも超える戦力を持つと恐れられて

人間として自由に生きていくことができなくなった勇者もいるかもしれない。

最後の敵を倒したはいいものの、大切な仲間が犠牲になって二度と帰ってこない、

特に自分の最愛の人を失った勇者もいると聞いた。そこからどうやって復活できたと

いうのだろう。ぼくだったら二度と舞い上がれなくなってしまいそうだ。

 

 

『ねえアルス、もしあたしが死んだらあたしのこと、ずっと覚えていてくれる?

 世界樹の葉とか雫とか、ザオリクも効かない。ほんとうに死んじゃったら・・・』

 

『・・・そんなことは起こらないよ。きみがぼくより先に死ぬだなんて』

 

『もしも、の話。魔物たちとの戦いも激しくなってるじゃない、一応聞きたいのよ』

 

忘れるはずがない、そう即答したかったけれどどこかで恥ずかしさがあったんだろう。

あえて質問への直接的な答えは返さずに、でも本心からの言葉をぼくは語った。

 

『そうだね・・・もしきみがいなくなったらきみが怒るようなことをたくさんしたいな』

 

『・・・ふ、ふ~~ん・・・なっるほどね~・・・。よっぽどあたしが怖いのかしら。

 あたしがいなきゃ好き勝手できるのにって言いたいのね!ははっ、別にあたしは

 あんたが何をしようが誰と仲よくしようがどうでもいいんですけれど!?』

 

『いや、ちょっと違うかな。きみが死んでしまったら、の話だろう?もしきみが

 怒るようなことを続けたら、いい加減にしなさいって言いに帰ってきてくれる、

 そんな気がして・・・。怒るんだったら帰って来い、そういうぼくの気持ちだよ』

 

『・・・・・・なんか回りくどいわね。まあいいわ、やっぱり縁起でもない話は

 やめにしましょう。それよりも現実的な今日の食事について考えないと。

 この修道院じゃ大したものがでてこないだろうし早く町に戻りましょうよ・・・』

 

 

初めて謎の異世界に飛ばされた日から最後の戦いのときまで、ぼくにとっていちばん

大事なことは変わらなかった。ぼくの最愛の人をどんなものからも守ってみせる、

それ以上に大切な使命なんてなかった。冷たい海や砂漠の風、底なしの悪意・・・

何が相手でもぼくが命を落とさずに勝利を収めてきたのはそれが理由だった。

倒れてしまいそうになるほど血が流れ、涙も枯れたとしても何度も立ち上がる。

背中の翼をもがれたとしても何度も舞い上がる。だからいま、それができなく

なりそうになっているのはマリベルと会えない日々が続いているからだ。

 

マリベルが一時期旅から離脱していた時期があった。そのときのぼくはそれを

悲観せずに、これで彼女が危険に晒されることはなくなった、と喜んでいた。

安全な現代の世界、故郷のフィッシュベルでこれまで通りの生活を楽しんで

くれたらいいと思っていた。だけど今回、マリベルは自分の家にも帰っていない。

彼女の家の人から、私たちが知らなくてもアルスなら知っていると思った、逆にそう

言われてしまったほどだ。ぼくにわからないのなら誰にもわからないと。

 

「・・・何か機嫌を損ねるようなことをしたかな・・・?身に覚えはないけれど。

 いまだにぼくが予想だにしていない言葉に怒りだしたりするからなぁ・・・」

 

いくら思い返しても思い出せない。代わりにマリベルがいつかぽつりと言った、

笑顔なのにどこか寂しそうな雰囲気だったのをよく覚えているこの一言が

ぼくの頭のなかで、何回も語りかけてくる。

 

 

『・・・あんたは誰よりもあたしのことをよくわかってる。パパやママよりも。

 それは自慢に思っていいわ。でも・・・やっぱり何もわかっちゃいないわ』

 

 

確かにそうだ。いまきみがどこにいるのか、どうして姿を消してしまったのか

わからないのがいい証拠だ。昔よりは心が通い合うようになったと勝手に

勘違いして浮かれていたのかもしれない。全くヒントもなく暗闇のなかを

手探りで探す。これなら不思議な石版のほうがまだ見つけるのは容易い。

人の心、特に素直じゃないきみのほんとうの気持ちはどんな占い師や精霊の

使いであってもわからないのだから、なかなか先の長い戦いになりそうだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。