ドラクエⅦ 人生という劇場   作:O江原K

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人生という劇場①

 

いま、ぼくの目の前にもう二度と会えないと思っていたマリベルがいる。七色の入り江の

水辺で快適そうな椅子に座り、何かを飲んでいるようだった。でもどうやって近づこうか、

何と言って語りかけたらいいのか・・・色々と考えているうちに彼女のほうが先に動いた。

 

「・・・誰かいるわね・・・こんなところに来るなんて・・・アルス?」

 

「・・・!」

 

気配だけでぼくだとわかってしまったようだ。正体を隠してずっと潜んでいることに

意味はないから、素直に姿を現して彼女のもとに駆け足で向かった。

 

「やっぱり。あんた、なかなかの暇人ね。仕事もしないでぶらついて・・・」

 

「それを言うならきみのほうだ。一言もなくいなくなったままずっと帰らないで、

 今からここで何をしようとしているんだ!」

 

ぼくが問い詰めると、マリベルは少し考えこむような仕草を見せた。そして

数回頷いてからぼくの言葉に対して直接の答えを避けてこう返してきた。

 

「・・・・・・アルス、あんた、ちょっとだけ未来から来たでしょ?

 石版の力を使って・・・どう、当たってるわよね、この読み」

 

ちょっとだけぼくを見ただけで全てわかってしまうなんて。ばれたところで別に

構わないとはいえ、ぼくは怯んで場は彼女のペースになってしまった。

 

「ど、どうしてわかった?」

 

「何となく、かしら。今日の日付、確かめてみる?あんたにとってどれくらい過去?」

 

ぼくが最後の石版に導かれてやってきたのはマリベルがいなくなってから三日目の日、

それがいま確定した。おそらくこれから、マリベルはこの世を去る。だからぼくは

この日この場所、この時間に運ばれた。彼女を失う歴史を変えるために。

 

 

「・・・一か月後から来たんだよ。大魔王が遺していた刺客は全滅させた。だから

 きみを探すことに専念できると思って旅を始めた・・・その初日だった」

 

「・・・・・・そう。だったらもうぜんぶ知っているのね。あたしはもう少ししたら

 ここで静かに死ぬって決めていた。他の何でもない、自分の手で終わりにする。

 どうだった、あたしの遺体は?美人のままだったでしょう?」

 

ふざけるな、と怒鳴ってやりたかったけれどここは我慢した。どれだけ美人でも

死んでしまったら全く無意味じゃないか。元の顔がどうでも最後には腐って

朽ち果てて・・・土になってしまうのだから。でも落ち着いて考えてみると、

死んでから一か月も経っていたのにマリベルは今にも起き上がりそうな顔色だった。

 

「あ・・・ああ。きみの身体は・・・腐らずにそのままだった」

 

「でしょ?あたしみたいな聖人の遺体は腐らないと思っていたけれど」

 

腐らない遺体の話はちょうどさっき聞いていた。一か月どころか何十年経っても

精霊たちから愛された人間の身体はそのままだったと。そして気の遠くなるほどの

年月を経て今日、もとの姿と記憶を持ったまま復活していた。だからマリベルにも

チャンスがあると思ったけれど、『蘇りを強く希望』していなければ生き返るのは

不可能だとも言われていた。自分で死のうとしている人間が果たしてもう一度

生きたいと思うだろうか。そんな簡単に解決する問題ではなさそうだ。

 

 

「ま、そういうわけだからあんたがここにいると困るのよ。でも帰れってどれだけ

 言ったって簡単には引き下がらないでしょ?だから、コレで勝負しない?

 あたしが勝ったらあんたは大人しく帰る、一回きりの勝負といきましょうよ」

 

マリベルがぼくの前に置いたのは新品のカードだった。カジノのポーカーで使われる

種類のものと全く同じで、確認してみたところやっぱりまだ封がしてあるままだった。

 

「あたしがポーカー強かったのはあんたも覚えてるでしょ?ついでにラッキーパネルも。

 加えてこの死の間際、勘が冴えてる気がするの。あんたが未来から来たのをすぐに

 言い当てたし、負ける気はしないわ」

 

「・・・・・・やるしかないだろうね・・・この状況なら。その代わりぼくが勝ったとき、

 きみはぼくの言うことを聞かなくちゃいけない・・・それは構わないね?」

 

マリベルは強運の持ち主ではなかった。でも頭がよかった。他人の表情を観察して

嘘をついているかどうかを見破る力もすごかった。初めて訪れたカジノ、つまり

昔のダーマ神殿そばの旅の宿にあったカジノでもかなり勝っていた。それでも

ぼくらはそれ以降あまりギャンブルを楽しむことはなかった。苦い思い出のせいだ。

 

「カジノといえば今でも覚えてるわ。あれはどうやっても忘れられないわ」

 

「ちょうどぼくもその日のことを考えていた。今でも現実とは思い難いよ」

 

 

 

 

ダーマ神殿を乗っ取り大魔王に力を送り続けていた邪悪な偽大神官、アントリアは

死んだ。でも実はすぐにダーマが元の姿に戻ったわけじゃない。アントリアの息子、

名前をアレッジドというモンスター人間がそれを邪魔した。ふきだまりの町の住人や

生き残った魔族たち、ダーマの神官や兵士たちを唆して彼がやったことは、なんと

神殿そのものを巨大なカジノにしてしまうという信じられない行為だった。ぼくらや

フォズ大神官たちが別の仕事に追われているうちに短い期間でそれを成し遂げてしまった。

 

 

『・・・どうです、スライムレースやモンスター同士が戦う格闘場、古今東西の

 ギャンブラーたちを魅了したあらゆる種類の博打がここにあります。以前から

 準備をしていたのですが・・・父が死んでくれてほんとうによかったですよ』

 

『・・・・・・どうやらきみはアントリアのことを嫌っていたようだね。そして

 きみたちの言う大魔王とやらにも忠誠を誓っていない。気に入らないことでも?

 ぼくらが来る前から父親の暗殺計画を練っていたんだろう?』

 

ぼくは彼に招かれて二人だけで話していた。このままこのカジノを放っておけば

ダーマは現代に復活しないのはわかっていた。人々は堕落しきっている。そのうち

滅び去ってしまうのは目に見えていた。だから彼の侵略のやり方も間違っていない。

でも神さまとの戦いで弱っているデミーラに人間たちから奪い取った力を渡すのが

魔族の本来考えていたダーマの目的で、彼はただ自分が楽しみたいからこうしている

だけだ。現にカジノの支配人としてではなく、遊びを楽しむプレイヤーの一人になった。

 

『そうですね・・・あえて言うなら生き方を決められてしまっていた、ということです。

 父の跡を継ぎ大魔王に生涯忠実に仕える者となることだけを求められてきましたから

 好きなことなど何一つできなかった・・・かなりストレスでしたよ。ですがいま

 私は夢を叶えた。アルス、もしあなたも将来、使命や宿命を背負ったとしても

 その決められた通りに従って人生を歩む必要はないと覚えておきなさい」

 

彼はインチキやイカサマを使わずに勝ち続けていた。まさに賭け事の天才だった。

ちなみにこのときのぼくはまだ自分が勇者だとか水の精霊に守られているだとかは

意識していなかった。しばらく先、ハーメリアのあたりから嫌でも考えさせられた。

自分で生きたいように生きると決めたのはつい最近だ。もう少し早く彼の言葉を

思い出しておけばいろいろと未来は変わっていたのかもしれない。

 

 

『・・・ア、アルス!見なさい、50万ゴールドよ・・・!』 『うん・・・うん!』

 

『私の予想に乗って勝ち続けていますね?お見事です。さて、そろそろ終わりましょう。

 大きなカジノを建て、そこで大勝するという夢は果たしました。次なる夢に向かう

 時です。本日の最終レース、私は有り金全てを5番、『スライムセイコー』に入れます。

 そしてカジノの金もダーマの宝物庫の金も残らず手にして・・・大魔王の影響から

 唯一逃れたという楽園の島に行きそこで一生遊んで暮らします』

 

そのとき彼が口にした楽園はエスタード島のことだったと知るのは後のことだ。

 

『いや~・・・ほんっとうに感謝の言葉しかないわ!最後にあたしたちにも100万ずつ

 貸してもらえないかしら?いっしょに大勝負がしたいのよ、ねえ、いいでしょ?』

 

『もちろん、さあ、どうぞお二人とも。お別れの前の最後の時間です・・・』

 

今思うとぼくたちは狂っていた。でも、瞳は希望で輝いていた。ところが・・・。

 

 

 

『・・・ただいまのスライムレース、勝ったのは21番、『スラホープ』!

 圧倒的一番人気のセイコーはどうやら3着でしょうか・・・』

 

 

 

ぼくとマリベルが無言で固まっているなか、アレッジドは苦笑いしながら歩きだした。

 

『いや~・・・参った参った。まさか大本命がここでコケるなんて、ギャンブルは

 これだから怖いですね。勝ったスライムも人気はなかったですが今思えば・・・』

 

『・・・・・・・・・』 『・・・・・・・・・』

 

『お二方・・・さっき100万ゴールドずつお貸ししましたが・・・』

 

『ばぁかっ!返せるわけないでしょっ!このまぬけ!』

 

すると彼は神殿内の宿屋、それも部屋もない雑魚寝のスペースに向かった。

 

『10ゴールドもらえませんかね?宿代に足りなくて・・・』

 

力なく放るようにして硬貨を渡した。彼はそれを持って受付を済まし、何日も

風呂に入っていないように見える男の人たちの間に入っていった。

 

『じゃあまた機会があればお会いしましょう。お元気で』

 

『・・・は、はい・・・・・・』

 

『潔いというか開き直っているというか・・・』

 

 

その後すぐにガボとフォズ大神官を中心とした軍がカジノを破壊して、一週間も

しないうちに完全に元通りのダーマ神殿が復活した。それからぼくたちはあまり

カジノに行かなくなった。たまに遊んでもほんとうに少額で楽しむだけだった。

 

 

 

 

「あいつ・・・あのままあそこで死んだのかしらね?あら、これは・・・うん、

 二枚交換といきましょうか。一発勝負ってなかなか緊張するわね・・・」

 

「いや、きっと生きているよ。どこかでしぶとくね。こっちは三枚換えるよ。

 ぼくがこの三枚を引いたら・・・いよいよ運命の瞬間だ!」

 

アントリアの息子はどんな環境でも生きていけるはずだ。それにしてもあのとき

ぼくらが負けた額はゴールデンスライム何体分だったのだろう。あれほどの現金を

手にしたことは旅の終わりまで一度もなかった。いまゴールデンスライムを例に

挙げたけれど、実はこの魔物を倒したことがない。デミーラが神さまに化けて

復活した後に出てきた魔物たちの一種だけど、彼らのほうから近づいてきたからだ。

ハーゴンさんの仲間を通訳に、誰よりも早く戦いを放棄する意思を伝えにやってきた。

 

 

『・・・我らゴールデンスライム族はこの体自体が金であるだけでなく、黙っていても

 金目の物が積もりに積もる。そこで契約を結びたい。我らが持つ財産のほぼ全部を

 差し出す代わりに、あなたたちだけでなく全ての人間との争いを避けたい。我々は

 人間を襲わないし、皆さんも我らを相手に剣を構えないでほしい、と言っている』

 

『今あるだけでもこんなに・・・!きみたちはそれでいいのか?』

 

『・・・もちろん。我々は静かに暮らしていたのに大魔王のせいで地の表に出ざるを

 えなくなってしまった。今後金目当ての冒険者たちが襲いかかってくるかもしれない。

 命がなくなってしまったらどれだけ物を持っていても無駄であり、逆に言うなら

 生きてさえいればいくらでもやり直しがきく。だからどれだけ失おうが惜しくはない、

 彼らの意見はこうだ。ハーゴン様や私はこの話を受けてほしいと思うが後は君次第だ』

 

 

結局彼らの資金援助はほとんど受けずに・・・いや、数万ゴールドぶんは貰ったかな?

金銭感覚がおかしくなっている。武器と防具の購入に使ったと思う。終わってみれば

ゴールデンスライムたちの財産はたくさん残った。でも一度は丸々失ってもいいから

生き長らえようとしていた。大金と夢を失いながらも自棄にならずに宿屋で眠った

アレッジドとどこか似ていた。これまで長年築いてきたものを手放してでも命を

大切にする。人間とは比べ物にならない長寿の彼らはそうしていた。

 

一方で短い命しかないはずの人間は欲望や使命感に動かされて簡単に命を賭ける。

彼らからすれば理解できないだろう。しかも時にはまだ元気なはずの少女が

自分で人生を終わらせようとしている。見過ごせるはずがない。

 

 

「・・・さて、カードオープンね・・・ところでアルス、もしあんたが勝ったら

 どうするの?あたしを止める?それともあんたの時代に連れて帰る?」

 

この場でマリベルが死ぬのを止めるだけなら方法はたくさんある。だけど、

 

「どうして死のうと思ったのか、それを聞かせてほしいんだ。まずは理由を知りたい。

 無理やり阻止したところできみの気持ちが変わらなきゃいずれ同じことの繰り返し、

 こうして石版の奇跡の力を使えるのはこれっきりかもしれないんだから慎重にいくよ」

 

「あら・・・そんなのでいいの?じゃあ・・・おっと、ここであんたにチャンスをあげる。

 もし今のカードがダメダメでとても勝ち目がないと思ったら一回だけ最初からやり直す

 機会があるわ。一枚目から配り直し・・・どうする?今のカードに運命を託す?

 それともこの提案に乗るか・・・あんたに決めさせてあげる」

 

寸前になって心理戦を仕掛けてきた。でもぼくは知っている。きみがいろいろと

動きたがるのはその必要に迫られているという合図だ。たくさんの特技と呪文を

覚えていたけれど普段は決まったいくつかの呪文しか使わなかったじゃないか。

 

 

「いや、このままでいいよ、ぼくは・・・Kのスリーカード」

 

「・・・そんな役で突っ張ってきたの?あんたらしくもない・・・ほら、

 あたしはワンペア、あんたの勝ち。よかったじゃない、おめでとう」

 

不機嫌そうにカードを投げてからマリベルは立ち上がり、ぶどう酒を持ってきた。

それからグラスを二つ、自分とぼくのためにそれぞれ半分くらいまで入れた。

 

「せっかくきたんだしのんびりしていったらどう?あんたからすれば久々にあたしと

 喋れる機会じゃない。そんなに急ぐ用事もないんでしょ、暇人なんだから」

 

「そうさせてもらうよ。用事といえばきみを探し出すこと以外にはなかった。

 きみが注いでくれたんだ、ありがたくいただくよ」

 

 

世界中を旅して、いろんな土地のお酒を飲んできた。ぼくが少年のころはあまり

多く飲むと記憶が飛んでしまった。最初にそうなったのはユバールの宿営地で、

彼らがジュースだと言ったビバ・グレイプはどう考えてもお酒だった。彼らに

とってそこまで強くないお酒だっただけのことで、ぼくはまんまと騙された。

泣きながら吐いていたガボよりはましだったと思うけど、次の日にマリベルから

今後はもうお酒をたくさん飲まないようにときつく注意されてしまったのだから

何かまずいことをしてしまったのだろう。おいしい飲み物には注意を払った。

 

「あんたも最近はどれだけ飲んでももう意識がおかしくならないわね」

 

「飲み過ぎると気持ち悪くなったり頭が痛くなったりはするけど・・・それは

 ほとんど誰でもそうだろう?限界はみんなと同じくらいだと思うよ」

 

「そうね・・・ま、あたしとしては安心だけど。あのままだったら大変だわ」

 

そこまで言われると気になる。ぼくは一体何をやらかしたのか。

 

「・・・知らないほうがいいのかもしれないけれどこの機会を逃したら

 一生もやもやしたままだ・・・教えてくれないかな、そのときのことを」

 

ポーカーで勝ったぶんの報酬とはまた別の話なので、どうしてもいやだと

断られたら深追いはしないつもりだった。でもマリベルは小さく笑った。

 

「ふふ・・・どうしようかしらねぇ。でも今さら隠しておく必要もないし・・・

 いいわ、教えてあげる。昔あんたは酔うと声が大きくなった。普段はそんなに

 喋らないあんたが本気なのか冗談なのか、とにかく騒がしくて仕方なかった」

 

「・・・そ、そうだったんだ。他に変なことはしてないよね?」

 

「ただ騒いでるだけだったわ。でもその内容が大問題で・・・」

 

 

 

『ぼくはいろんな土地を旅してきた!でも・・・どこにもいなかったよ、この地

 ユバールにも!ぼくの大事なマリベル以上にかわいくて守りがいのある人は!』

 

『ハッハッハ!冗談は困るぜお兄サン。一族の歴史のなかでも最高に美しい

 ライラより上ということはないだろう!少なくとも数年は経たないと勝負にすら』

 

『いいや!数年後じゃない。いま、断言できる!マリベルのほうがずっとすてきだ!』

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ちっとも覚えていなかったはず・・・だったのにだんだん思い出してきてしまった。

 

「・・・けんかになったりしなかった?」

 

「ないない。みんな笑っていたもの。我慢できなくなったあたしが無理やりあんたを

 眠らせてその日は終わった。次の日からは儀式のための移動だったしキーファが

 別行動になったのもそのタイミングだったから皆すっかり忘れてくれてよかったわ」

 

「そしてこのことを知っているのもきみだけか。当時の人々はもう死んでいるし

 キーファももういない。ガボはそれどころじゃなかっただろうからね。たった一度の

 失敗とはいえきみには恥ずかしい思いをさせてほんとうに・・・・・・」

 

迷惑をかけたことを謝ろうとした。するとマリベルの目つきがきつくなった。

 

「一度・・・?何言ってんの?まだあったわ。リートルードのことも忘れたのかしら。

 何度も同じ日を繰り返すからいろいろ試してみようっていうのは覚えてるでしょう?

 あんたがお酒を克服して乗り越えるのが鍵かもっていう考えがそもそもばかだった。

 宿屋の酒場でユバールの再現よ。翌日になったらリセットだからよかったけれど」

 

「・・・・・・うそだろ・・・」

 

そんなことを口走っていたのか。自分でも信じられないけれど、マリベルは冗談を

言っている顔じゃない。厄介で苦労した思い出話を苦々しく語っていた。でも、

次第にお酒を飲み始めたときと同じ、静かで落ち着きのある彼女に戻っていた。

 

 

「・・・まあ・・・今となってはこれも楽しかった記憶の一つね。そのうちあんたが

 お酒に強くなって暴走しなくなったってわかったとき、ちょっとガッカリしたもの。

 もうあんなことを言ってくれるアルスはどこにもいないのか・・・って」

 

「・・・・・・」

 

「あれだけ酔っ払っていたからどこまでが本心かわからなかったけど、あそこまで

 言ってくれるのは・・・うれしかった」

 

 

マリベルはどれだけお酒を飲んでも記憶が飛んだり体調を崩したりすることはなかった。

ただ、いつもよりも口数は少なくなって、急に怒ったり厳しい言葉をぶつけてきたりは

しなくなる。ぼくとは全く正反対だと今までは思っていた。でも、マリベルを助けられずに

終わったらこれが彼女との最後の時間になるというこの瞬間になってわかった。

実はぼくたちのやっていることは全く同じだった。ぼくは言葉を増やし、逆にむこうは

余計な言葉をなくす、自分の心を隠す衣を取るにはそれでちょうどいいくらいだった。

 

 

人生は劇場のようなもので、どんなに親しい相手でも完全には素顔で生きられない、

それをぼくたちは知っていた。世界を救った勇者だろうがそこから逃れることは

できず、今日まで芝居を演じ続けてきた。そしてこれからも。

 

 

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