ドラクエⅦ 人生という劇場   作:O江原K

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人生という劇場③

 

その日、死んだとされている一人の青年がまだ見ぬ土地を目指して船旅を始めた。

サマルトリアの国の王子であり、命と引き換えに破壊神を倒したとハーゴンが

証言し、それを聞いた仲間たちが全世界に向かって彼の死を叫んだ。彼の名は

アーサー、テンポイントとも呼ばれる流星の貴公子だった。実際にはその

破壊神により命を再び授けられたのだが、戦いの前から病に侵されていた彼に

与えられた余命は一年程度しかなかった。だからそのまま死んだことにして

誰にも別れも告げずに親友二人の結婚式を見届けてから帰らない旅に出た。

 

 

『・・・・・・・・・』

 

『あ、あれ・・・?思ったより早く見つかっちゃった・・・』

 

だが、彼の一人旅を許さない者がいた。彼の妹サマンサ、妹とされているが

実のところは竜王を倒したラダトームの勇者が共通の先祖であるだけの娘で、

養子として王家に入ったのはすでに彼女も知っていたと先日明らかになった。

もし無事に邪教壊滅の旅を終えたらその後は共に船に乗ろうと誓っていた。

 

とはいえアーサーさえいれば他のものなど何もいらないというほどの愛を向ける

サマンサが自分の死後、すぐに後を追うとわかっていたので彼はサマンサのために

密かに出ていこうとしたが、船の中のタルのうちの一つに隠れていたのだった。

 

『・・・こんな真似ができるのはハーゴン・・・いや、ぼくたちの共通の親友、

 ウオッカと呼ぶべきか。その力によるものとしか考えられない。今ならまだ

 引き返せるな。ぼくの体のことはもう聞いたはずだ。だからお前は・・・』

 

彼がまだ言い終える前にサマンサは全身を使って抱きついてきた。黙ったまま、

言葉ではなく温もりで自分の思いを伝えてきた妹をアーサーは拒まなかった。

アーサーも彼女を愛しているからこそ、これまでずっと幸せのための最善の道を

探し続けてきた。これ以上背中を向けるのは酷であり、アーサーも我慢できなかった。

 

『一人も二人も大して変わらないか・・・ぼくたちは二人とも小食だしな』

 

『・・・おにいちゃん!うん、そうだよね!いっしょに行こうね!』

 

 

こうして二人のあてのない船旅が始まった。魔物たちに影響を与えた悪霊の神々は

三人とも死んだため、航海は穏やかだった。やがてローレシアを中心とした

王国が統治する領域を過ぎた。念願だった地図に書かれていない海に入った。

 

『・・・いよいよ始まった、この旅の本番が。全く未知の世界へ出発だ』

 

『うん、始まったね。わたしたちのことを誰も知らない場所が待ってるよ』

 

与えられし使命や王家の柵から解放された二人の毎日はとても充実していて、

その日ごとに新しい発見があり互いへの愛を深めていった。アーサーの病が

再び進行し徐々に体重が減っていっても二人はとても幸せだった。このまま

大海の真ん中で揃って朽ちても後悔など何一つない、そう言い切れた。

 

 

ローレシアの港を発ってから十か月が過ぎ、二人の旅がアーサーの死で終わる日が

近づいていたころ、平和に浮かれる世界の裏側では徐々に二大勢力による大きな

戦争が現実味を帯びていた。神が率いる天使や精霊、人間界の英雄たちが属する

光の軍と、魔王オルゴ・デミーラを頂点とする魔族による闇の軍だ。

 

かつて最強最悪の大魔王ゾーマに仕え、彼を崇拝していたデミーラはハーゴンが

ゾーマの娘であることを知っていた数少ない者だった。だからハーゴンが世界を

我が物としたなら行動を起こさず彼女と手を組むつもりでいた。だが彼女は失敗し、

あろうことか憎きロトの子孫と友情を築くことまでした。自分がやらなければ、

そう決意したデミーラは立ち上がり、ゾーマの遺志を果たそうとした。それを神は

許さず、小さな衝突はすでに各地で起こり大戦の始まりも時間の問題だった。

 

『・・・今日の海はこれでもかってくらい荒れているな。アレンたちとの旅でも

 こんなのはなかった。目に見えない何かが大暴れしているとしか思えない』

 

『おにいちゃん、船は大丈夫だから横になってて。わたしがなんとか・・・』

 

サマンサは穏やかな笑顔で兄を安心させるようにして出て行ったが、もうすぐ

最愛の者が死んでしまうという悲しみから、いつも一人隠れて泣いていた。

人間離れした魔力と不幸を運ぶ体質ゆえに王国のなかに味方は誰もいなかったが、

ただ一人、アーサーは別だった。常に優しく寄り添ってくれたので必然的に

彼女の世界はアーサーだけになった。彼がいなくなるとき、その世界は終わるのだ。

 

『・・・・・・あれ、おにいちゃん・・・寝てないと・・・』

 

『いや、この嵐は異常だ!これまでに経験したことのないほどだ!』

 

なんとかやり過ごそうと二人で手を尽くす。普通に操縦しているだけでは海に

飲みこまれるだけだと悟ったので、呪文の力を使って乗り切ろうとした。だが、

不思議な力によってかき消され、その理由を考える余裕も与えられなかった。

 

『駄目だ!飲みこまれる!』

 

抵抗を試みたがどうにもならない。アーサーは突破口を探し必死に足掻くが、

サマンサのほうはこのままいっしょに死ねるのならこれでいいと思っていた。

 

『おにいちゃん、最後に抱きしめて・・・』 『・・・・・・』

 

 

 

次に二人が目を覚ましたとき、船は大破し使い物にならなくなっていた。それでも

残骸に縋りついて助かったようだ。近くに島が見えたので、船を捨てて上陸した。

 

『・・・どうやらこの島がぼくの終わりの場所になりそうだな。無人島のようだ』

 

『おなかすいちゃったね。何か食べようよ・・・あの木の実なんかどうかな?』

 

『変な色をしているな。食べられるのか?』

 

この謎の島に生えている植物は、食用になるものもそうでないものもこれまで一度も

見たことがないものが大半を占めていた。魚も同じで、見慣れぬ種類ばかりだった。

魔物たちはいないが動物はいる。しかしそれほど数は多くない。住人がいない以上

情報を得ることもできないのだが、二人がすぐに理解したことがあった。

 

『・・・おいしい!これ、こんな果物食べたことないよ!』

 

『ああ、特別な力が宿っているとは思えないのに・・・もう一個!』

 

サマルトリアで王家の美食を飽きるまで堪能した王子と王女、彼らが認めた。

この島で食べられるものに比べればこれまでの食事は何だったのかと。病が

進み食欲を失っていたうえにもともと小食のアーサーが、次から次へと島の

産物を口に運んだ。もちろんサマンサも笑顔で食べ続けた。たった二人なのだから、

いくら食べても尽きることはなかった。水も世界のどこよりも美しく、のどの渇きを

癒し、活力を与えてくれた。だが、この島が真に特別なのはそういった自然というよりは

島そのものに満たされている何らかのパワーだった。その真価がすぐに明らかになる。

 

 

『・・・・・・うそだろ・・・いや、まさかこんな・・・!』

 

『・・・やった———————っ!!わたしはもう泣かなくていいんだね!』

 

不治の病だったはずが一週間も島にいれば消えてなくなった。だんだん癒えている、

そのイメージはあったが苦痛が和らいでいるだけにすぎず、完治に至るとは期待も

していなかった。世界樹の葉であっても、ハーゴンやシドーの力をしても、そして

魔力においてはそれら魔王たちを凌ぐほどのサマンサですらどうしようもなかったのだ。

 

『わかったよ、これが楽園なんだね、おにいちゃん!』

 

この世界に楽園と呼べるような場所はまだ残っているのだろうかとアーサーはずっと

考えていた。ムーンブルクの調査に向かう最初の旅のときからその思いは強く、

やがてロンダルキアこそが世で最も美しい地だと結論し、シドーに勝利した直後、

まさに死のうとしている瞬間、世界の全ては素晴らしかったと確信した。

だが、この無人島に勝る土地などない。一切の汚れがなく、完璧な環境だった。

 

 

『今日はどうしようか・・・一日中のんびりしているのも悪くないか』

 

『そうだね・・・時間はた———————っぷりあるんだもん』

 

 

そのうち二人は服を着なくなった。日付を数えることもしなくなった。自堕落で

無気力に陥ったというわけではなく、意味がなかったからだ。二人の体は島に

住み始めてから何年経っても若々しい盛りのままだった。楽園の与える加護が

彼らを老化や衰弱から遠ざけ、完全な生命へと変化させていったのだ。三日三晩

休まずに愛し合い続けても体力も欲望もなくならないほどだった。

 

 

 

『・・・・・・こんな遺跡あったかな?まだまだ知らないところがあったか』

 

ある日二人があてもなく散歩していると、見るからに何者かによって造られた

遺跡のような一帯を発見した。これまで人の手が関わったとされるものが何一つ

なかったこの島で初めて自分たち以外の理知ある者の痕跡を見た。

 

『なかなか面白そうだ。謎や仕掛けを解いて中へ入れと招いているのか?』

 

『・・・・・・・・・』

 

アーサーは自慢の頭脳と閃きで閉ざされていた入口を開いた。ところがサマンサは

兄とは真逆で、終始不機嫌で乗り気でない態度を露わにしていた。彼女も本来

冒険好きなのになぜなのか、それは彼女のほうがアーサーよりも早くこの遺跡の

秘密に気がつき、二人だけの楽園の世界を崩壊させかねないと察したからだ。

 

『・・・・・・この神殿は・・・!まさかこれは!』

 

遅れてアーサーもこの場所が神によって造られ、何らかの理由で再び脅かされている

世界を救うための希望として備えられたのだと知った。もちろんオルゴ・デミーラの

存在も知らないので正確な理解ではないが、ほぼ正しい方向の答えを出していた。

 

 

『・・・・・・おにいちゃん・・・・・・』

 

『わかってる。この封印を解くことは・・・しない。この先ずっと』

 

『・・・!ありがとう・・・』

 

希望であると同時に、災厄を招く諸刃の剣であると二人にはわかっていた。世界から

遮断された楽園が再び世界と繋がる時、特別な力の保護も終わりを告げ、この島の

幸福を配る代わりに害悪が流入してくると。今はまだこれ以上の謎の解き明かしや

他の大陸との接触を持つ時代ではないとアーサーは判断した。ちなみにサマンサは

兄と二人きりの世界を他者に邪魔されるのが嫌なだけだった。

 

『でもこの旅の扉の技術・・・一か所だけなら繋いでも問題ないかな。

 そう、ぼくたちの親友ならここに招いてもいいだろう?』

 

『もちろん!また会おうって約束したもん。早くやろう!』

 

 

アーサーの知恵とサマンサの魔力、それに神が万が一の事態に備え遺した神殿の

謎の力が合わさって、一つの新たな旅の扉が完成した。それから数日もしないうちに

最初の客人がやってきた。大神官ハーゴンと呼ばれた、彼らの親友ウオッカだった。

再会を喜び食事と酒を楽しんだ後、皆で一連の現象についてじっくり考えた。

 

『・・・これは素晴らしい島だ。ロンダルキアの大地が魔族にとって最も快適な

 環境ならこの島は人間が住むのにこれ以上ない場所だ。邪悪な魔族はもちろん、

 あらゆる不幸や悲惨から守られている。たとえすべての世界のすべての大陸が

 滅びたとしても唯一残り続けるようにされている・・・』

 

『きみの話だと平和なのはこの島だけで、きみに代わる魔王が出てきたというのか。

 アレンたちのローレシアは大丈夫なのか?今さら手助けもできないけれど』

 

『それは心配しなくていい。世が乱れるのは彼らの統治が終わってからずっと後に

 なるだろう。わたしたちはいま行われている戦争に加わるつもりはない。

 そして神の作品である神殿の謎の解明はやはりまだするべき時ではないだろう。

 君たちの子孫が定められた時に誘われるようにして広い世界へと旅立つはずだ』

 

世界の裏で壮大な出来事が起きていると知ったが、勇者として立ち上がる役目は

アーサーではなくずっと後の代の者に託すことにした。ほんとうに人間がこの島の

住人しか残らない時代が来るのなら、ある程度の規模、人数を増やす必要がある。

 

『そうだ、アレンたちにこれを持って行ってほしい。お土産ということで』

 

『うん、わかった。密かに渡しておこう。わたしが彼らの寝床に置いたことも、

 君からの贈り物であることも隠して・・・』

 

このとき、すでにローレシア港での船出から十年以上経っていた。それでも

アーサーとサマンサの体はそのときのままで、ルビスに愛されているとはいえ

普通の人間と同じように年齢を重ねるかつての仲間たちとはもはや違っていた。

彼らはアーサーたちがすでに死んだと思っているし、会うべきではないと考えた。

せめて楽園の祝福の欠片だけでも届けたいと、黄金に輝く果実を託した。

 

 

 

邪神たちとの戦いから生還した男女は夫婦となり、互いの祖国を一つに併せて

治めていた。しかし妻であるムーンブルクのセリアは難敵バズズとの戦いで

子を産めない体になっていた。そのためやがて王権は王アレンの弟の息子たちの

誰かが継ぐと定められていた。王族も国民もそれを十分理解していた。

 

『・・・・・・万に一つもないと思われていた奇跡が起きた——————っ!!』

 

彼らが三十歳を過ぎたころ、見慣れぬ果実がいつの間にか置かれていたが用心深い

二人がどうしたことか一切疑わずに食べた。それから一年後、待望の跡継ぎが

生を受けた。世界を救った英雄たちへの神や精霊からの褒美だと人々は話を

広めていったが、ルビスへの信仰が厚いはずの二人には別の思いがあった。

 

『これは・・・きっと彼・・・アーサーがわたしたちのために・・・』

 

『そうだな。まったくあの野郎、だからどこかで生きているっておれはいつも

 言っているんだ。感謝の気持ちとして一発ぶん殴ってやりたいぜ』

 

ロンダルキアの火山に落ちたことへの疑いはないが、ひょっとしたら生き延びて

飄々と自由に暮らしている、その希望を捨ててはいなかった。彼の死の報せの後

妹のサマンサまで失踪し、彼らの国は衰退しつつある。そのことも含めた文句を

いつか言ってやろうと笑いながら語り合うのだった。

 

ローレシアの王アレンは七十歳になる前に自ら王権を長子に譲り、妻と共に

表舞台から退いた。その後城から二人で姿を消すと、もう戻ってこなかった。

それほどの高齢でありながら息子や娘たちと同い年だと言われてもわからないほど

見た目も頭も若々しく、きっと昔のように冒険の旅を始めたのだろうと人々は

彼らのことを良い意味で悲しまなかった。そして二人の『王であり勇者でもある』

血統は遥か未来まで続いたが、やがて完全に途絶えてしまった。

 

 

 

『・・・よし、もう頃合いだろう。サマンサ、以前から話していた件だけど』

 

『うん・・・わたしもそろそろかなって思ってた』

 

誰もいなかった無人島が、数十人以上が暮らす『人の住む地』になり、この島の

全ての人間の祖であるアーサーは知らずして親友たちと同じ決断を下した。

子どもたちや孫、その後の代までもが増え続け繁栄を続けていたが、そこから

さらに先へ行くためには自分たちの力なしで発展していかなければならないと

思ったからだ。いつまでも干渉していてはやがて古代遺跡から神殿に入り

失われた世界を救い出す資格のある者など生まれるはずがないからだ。

 

『次はどこへ行こうかぁ。おにいちゃんといっしょならどこでも楽しいだろうなぁ』

 

『実はもう見つけてあるんだ。長い旅になるだろうけどその入り口を・・・』

 

 

二人が子孫たちのもとを去ってからしばらくすると神と魔王の戦いが激しくなった。

そして島にも変化が起きた。人が増えたことで楽園の力が徐々に失われていった。

支配する者とされる者、雇う者と雇われる者が生まれ、アーサーが教えたわけでも

ないのに自然と世界のどこにでも見られる人間社会ができあがっていた。気がついた

ときには病や老化、そして死が当たり前になった。とはいえそれが人間として自然の

形であり、これまでがおかしかったと言われたら反論できなかった。人々は服を着る

ようになり、自分の持物を管理し家には鍵をつけるようになった。

 

そのころから島の噂を聞いて外からやってくる者、逆に島を出ていこうとする者も

現れた。自作の船で近い大陸を目指し、途中で巨大な海賊船と出会うことで彼らの

仲間となり、その息子が船長『シャークアイ』となった者もいた。シャークアイが

五歳になるころにはすでに世界は平和ではなくなり、楽園だった島へ向かうことも

島から外の大陸を見つけ出すこともできなくなった。敗北を察した神や精霊が

エスタード島と呼ばれるようになったその島を保護したからだった。

 

『世界はこれで残らず我々のものです、大魔王様。少しお休みになるべきでしょう』

 

『ああ・・・後のことは任せた、バリクナジャ。お前が我が軍を指揮し動かすのだ。

 精霊どもの影響が強い主要な土地の封印や戦闘はヘルクラウダーに任せれば

 それでいい。セトやグラコス、アントリアも役に立つだろう』

 

もともと無人島であり、しかも聖なる力に覆われていたエスタードの存在は

魔族にはわからないように隠されていた。史上最も勝利に近づいた魔王でありながら

この島を見つけられなかったせいで大逆転での敗北を喫することになってしまった

オルゴ・デミーラも、エスタード島を実際に己の目で見た時、確かにここはかつて

理想的な楽園だったのだと認めたほどだった。

 

 

 

 

 

「そう、ハーゴンがあえて書き残さなかった歴史・・・この島の始まりにつながる

 ロトの末裔たちの真実。エスタード島が楽園と呼ばれていた理由・・・どうして

 あたしがいまこんな話をしたのか、あんたならわかるでしょ?」

 

マリベルはこの七色の入り江で最期のときを過ごそうとしていた。でも諦めたわけ

じゃなくて、ここなら希望がある、そう思っていたんだ。

 

「・・・その話の中に出てきた楽園の力・・・アーサー王子の不治の病については

 ぼくも本で読んだ。それを完治できるというのならきみの病気も治せるはずだ。

 だからほとんど人の出入りがない七色の入り江ならまだその力が残っているかも、

 最後のチャンスでここに期待したんだろう?だけど・・・・・・」

 

「ええ。残念だけど残り香しかなかった。ちょっとは楽になったけれど完全に

 治るだなんて夢のまた夢。もってあと一年、そのくらい症状を先延ばしにする

 くらいの力しかないみたい。大人しく観念することにしたわ」

 

 

魔王を倒すために限界以上の力を使ったせいで、常に魔力で抑えなければすぐに

老化が始まりおばあさんになってしまうという彼女の病。ぼくが彼女を世界中

探したにも関わらず実はすぐそばにいたのと同じで、マリベルもいろんな方法を

求めたけれど最後に頼りにしたのは生まれ育った故郷の馴染みの場所だった。

ぼくは結果的に見つけることができたけれど、マリベルは見つけられなかった。

 

 

「生きていても苦しいだけだし何より生きる理由がない。永遠に生きることなんて

 求めてないけれどせめてこの病気が治るくらいサービスしてほしかったわ」

 

「・・・・・・・・・」

 

理由がない、か。若さと美しさを奪われ、すぐに死ぬわけだはないけれど

暗い気持ちに沈んだままいつ倒れるかわからない日々を過ごす。そんな状況で

ただ死ぬなって連呼しても無意味で、決断を変えることなんかできないだろう。

 

ならどうすればいいか。その理由を作ってあげる以外にない。ぼくにしては

珍しく、しっかり考えるより先に口が動いていた。

 

 

「・・・いや、きみにはこれからも生きてもらわなくちゃ困る。たとえあと数年

 だとしても・・・与えられた寿命を全うしなくちゃいけない」

 

「・・・・・・は?」

 

「きみは必要とされているからだ。どんな病気だろうが外見だろうが関係ない。

 ぼくのために生きてほしい・・・そう言っているんだ」

 

そして彼女の手を掴んだ。きょとんとしているその目をしっかりと見て、言った。

 

 

「マリベル、小さいときからずっとぼくのそばにいてくれた。そのころからぼくは

 きみのことが好きだった。こんなことになるまで言えなかったのはぼくが臆病な

 せいだけど、いまだからこそ伝える。これから先もずっとぼくの隣にいてほしい。

 いや、もう回りくどい言い方はしない。マリベル、ぼくと結婚してくれ」

 


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