ドラクエⅦ 人生という劇場   作:O江原K

2 / 22
白い色は恋人の色

自分の求めるものを見つけ出すためにはたとえ何の手掛かりもなかったとしても

立ち上がり、地道に探し続けるしかない。ところがぼくたちの冒険は必ずしも

そうではなかった。じっと待つことで開く仕掛けの扉があったり、誰かが

必要なものを渡しに来てくれたり、時には一休みしながら待つのも大事だった。

 

とはいえいまのぼくはただやる気が起きないだけだ。彼女を探しに行かなくちゃ

いけないのはわかっている。でも心のどこかで無駄なことだと思っている。

それに彼女、マリベルがいなくなったのはぼくに会いたくないから、その可能性も

じゅうぶんにある。だったらぼくは動かないでいるべきだ・・・・・・。

そう考えて今日も一日を無駄に過ごすことになりそうだと再び寝転がると、

誰かがこちらに近づいてくる。いつもなら誰も来ない寂しい場所なのに、今日は

ホンダラおじさんに続いて二人目だ。珍しい日もあるものだなと思った。

 

 

「・・・お久しぶり、アルス。港のほうにいないからこっちだと思ったわ」

 

「アイラ・・・こっちこそ。この頃なかなかお城に行ってなかったし、みんなで

 どこかに旅に出ることもなかったから・・・」

 

グランエスタード城で兵士たちに剣を指導し、女性たちに踊りを教える。王様と

王女様に好かれているだけでなく、実力で高い立場を勝ち取ったアイラだ。

魔王が偽の神様として世に君臨したころから今日まで数年間、ずっとアイラは

お城で熱心に、それでいて楽しそうに働いている。彼女の秘密について何も知らない

人たちでも、『もしキーファ王子がいたらこんな感じだったのかな』と言うほどで、

早いうちに皆から愛されていた。容姿も中身も完璧な、ぼくの大事な旅の仲間だ。

 

「そうね。世界が平和なのはいいけれどそろそろ退屈になってきたわ。一年前の

 あの旅はなかなか楽しかったのを思い出すわ。いまだから笑い話になるけれど」

 

「・・・よく笑い話にできるね。あのときはきみの命が危なかったのに・・・」

 

常に冒険を求め、どんな苦しい出来事も終わった後は楽しそうに語る、彼女の

遠い先祖でありぼくの親友でもあったキーファそのものだった。

 

 

 

 

魔王が滅んで半年後、つまり今から一年前。新たな戦いの幕開けは唐突にやってきた。

 

『・・・あのさぁ~・・・。あたしの目がおかしいのかもしれないけど・・・

 今日のアイラ、特に足の所が・・・透けているように見えるわ』

 

ぼくとガボもわかってはいたけど見間違いだろうと思って黙っていた。それをマリベルが

少し躊躇いながらもアイラに伝えると、どうやら本人は気がついていなかったようで、

 

『あら、ほんとうだわ!靴や服はそのままなのに・・・物だって持てるしちっとも

 わからなかった。道理でみんな私のほうをじろじろと眺めてくると思った!』

 

『変なものでも食べたんじゃねーか?オイラだって拾い食いはとっくの昔にやめてるぜ』

 

最初は不思議な現象だと思ったけれど四人とも深刻に考えていなかった。これまでの

長い冒険の旅の間、これ以上に奇妙で恐ろしいことを幾度も体験しているからだ。

 

『でも逆じゃなくてよかったわねぇ。服がだんだんと薄くなっていったら男どもが、

 特にそこのアルスなんか鼻を伸ばして見ていただろうし。真面目でそんなことには

 ちっとも興味がないように振る舞って実はむっつりスケベのアルスなら!』

 

『・・・・・・』

 

相変わらずの毒舌がぼくを襲う。アイラとガボは苦笑いするだけで助け舟を

出してはくれなかった。またいつものやり取りか、と呆れているだけだった。

 

 

ぼくたちがアイラの異変をどうにかしなければと焦り始めたのは、いつまで待っても

それが元に戻らないどころかゆっくりと進行しているうえに、ぼくたちの記憶の中の

アイラまで少しずつ薄くなり、消え始めたからだった。彼女との出会いや旅の思い出、

華麗な戦いっぷりがぼんやりと霧がかかったようになっていた。

 

『体調は何ともないわ!でも・・・この世から消えていくって実感がある!』

 

『ま・・・まずいぜアルス!このままほっといたらアイラは・・・!』

 

これはアイラの命を狙った攻撃だと四人とも理解した。そして人間にできる業じゃない。

あってはならないことだけど、まさかまたしても魔王が蘇ったのか・・・そう思った

ぼくたちは魔王軍の事情に詳しい、かつて戦ったことのある知り合いに助けを求めて

大急ぎで聖風の谷に、それも彼らの始祖たちが住む天に最も近い場所に向かった。

いまだに背中に翼を持つリファ族の人々のなか、ただ一人翼なんかなくても自由に

飛ぶことができる、風を操らせたら最強の魔族のもとにやってきた。

 

 

『・・・間違いない。邪悪な魔力を感じる。だが直接攻撃されているわけではない。

 こいつと縁のある何者かが除き去られたため間接的に消滅を始めている』

 

金髪の少女、過去の世界で初めて会ったときは自身のことを魔王軍で最も力ある英雄、

ヘルクラウダーの娘と名乗り、ほんとうの名を『ラフィアン』というモンスター人間は

しばらくアイラを見てからそう言った。ぼくたちの悪い予感は当たってしまった。

 

『縁のある何者かですって?それは・・・』

 

『さあ・・・命の恩人、もしくは先祖かもしれない。わたしがはっきりと言えるのは、

 過去で何かが起きて、こいつがそもそも存在しない歴史に変わっているということだ。

 誰かが計画的に過去に向かい、こいつを消すために行動し、それは果たされた』

 

 

それを聞いてぼくとマリベルはすっかり驚いてしまい、大声を上げて叫んだ。

 

『・・・か、過去の世界で!?』 『未来を変えてしまうですって!?』

 

すぐにみんなの冷ややかな視線がぼくたち二人に集中した。まあ仕方ないけれど。

そもそもぼくたちが最初にそれをやったのだから、今さら何を言っているのかと。

ぼくも途中でわかっていながら冗談半分にマリベルと息を合わせてみたけれど

そんなことをしている場合じゃなかった。ぼくに笑わせ師の才能はないらしい。

 

『オイラたちのほかにもエスタード島の神殿に受け入れられるやつがいたのか!?

 不思議な石版の力で滅んじまうはずの世界を救うための台座だったのに悪用

 されちまうなんて!ちゃんと見張っておくべきだったか!』

 

『いや・・・わたしたち魔族が使うのは別の場所だ。お前たちも覚えているだろう。

 大魔王オルゴ・デミーラの本拠地、魔空間の神殿。あの神殿からわたしたちは

 あらゆる時代のあらゆる地方に飛び、その地を滅ぼすために活動していた。

 わたしの向かった聖風の谷なんか特に古い、今からずっと過去の時代だ。

 どこかの誰かたちが現れなければわたしは支配を成し遂げていたのだが・・・』

 

魔王に敗れた神様が遺産として遺したもののなかで最も重要な施設がエスタード島の

神殿だった。魔族たちによって封印されてしまった土地を救うために一番ふさわしい

時代に行くことができ、そこで強力な魔物を倒すかその地が抱えている問題を

解決することで滅びる運命にあった大陸と人々を助けることができた。でも今回、

逆のことをやられてしまったようだ。歴史を変えられてしまう恐ろしさを味わった。

 

『魔王はもう死んだはずだぜ!?その手下どももみんなオイラたちが倒した!』

 

『いや・・・これはわたしも噂で聞いていたにすぎないが、オルゴ・デミーラは

 自分が倒れたときのために最後まで隠していた企みとそれを実行する力ある

 切り札たちを用意していたという。神がお前たちのために数々の遺産を遺した

 ように、魔王もまた自分が敗れた後のことを考え、備えをしていても不思議ではない』

 

『・・・あの計算高い魔王なら十分あり得る。ここからまだ復活する気でいるんだ。

 アイラがいなくなったとしたら最後の戦い・・・いや、その途中のどこかの戦いで

 ぼくたちは全滅していたかもしれない。一人いないだけで大違いだ。ただの嫌がらせ

 じゃない、もう一度甦るための厄介な悪あがきだ!』

 

不幸中の幸いか、アイラが完全に消滅してしまうまで少しだけ猶予はありそうだ。

その前に敵を倒せば歴史は元通り、アイラもこれまでと変わらない毎日を

過ごすだけだ。どうすればいいかぼくたちはもうわかっている。

 

『アルス、もう一度行くのよ、過去のユバールへ!』

 

『うん、それしかない。何百年前に行くかはわからないけど、きっと今回の敵が

 いる時代に連れて行ってくれる、あの石板の力なら!』

 

かつてキーファと別れた地へまた行くことになった。マリベルたちには黙っている

けれど、ぼくはあの後も一人でユバールの民の宿営地があった地へ向かう石版の

台座から過去に行ったことがある。でもすでに彼らは次の土地を目指して旅立ち、

キーファとは二度と会えなかった。アイラの持つ家系図からキーファが永住を決めた

時代がいつ頃かをほぼ特定できた。他の石版世界の時代に重なるところがいくつか

あって、そこから探してみようと考えたけれどやっぱり失敗していた。

 

 

『あ・・・ああっ!アルス、これを見て!』

 

突然アイラが一冊の本をぼくの目の前に出した。この本はぼくも見覚えがある。

ユバールに伝わる美しい詩を集めた本で、愛や恋の詩もあれば、大地の精霊を

讃えるものや自然に感謝するものまで様々だった。いまアイラがぼくに見せた

ページは彼女が最も好きな男女の恋愛を描いた詩で、おそらくユバール最強の

守り手と言われたキーファと、ぼくたちと別れた後にキーファが結婚したであろう

ユバール族最高の踊り手とされているライラさんが題材だとされていた。

 

『こんなときに・・・ん?あれ、な、何か違う!おかしいぞ!『白い花』は

 二人の愛と喜びの象徴だったはずなのに・・・』

 

『そう、『悲しみの花』に変わっているの!男の死を悼む詩になっているわ!』

 

愛した人はもういない、という言葉でわかった。本来であれば何事もなく

帰ってくるはずの彼が命を落としたのだ。そしてユバールの言い伝えが正しければ、

 

『・・・敵が狙っているのは・・・キーファの命だ!キーファを殺して

 アイラ、きみが生まれないようにする気なんだ!』

 

『こうしちゃいられないわ!すぐに古代遺跡の神殿に行かなきゃ!』

 

ずっと待ち望んでいたキーファとの再会が実現しそうだ。でもぼくが願ったような

平和で穏やかな空気のなかゆっくりと語り合う、というものにはならないらしい。

急がないと魔王の手下によって死んでしまったキーファの遺体と再会することになり、

親友もその子孫の命も失われてしまう。ラフィアンへのお礼もそこそこにぼくたちは

リファ族の始祖たちの村を去ってルーラで神殿へ一瞬で飛んだ。

 

 

『・・・あれ、ラフィアン様・・・あの方々はもう帰られたのですか?』

 

『ああ・・・セファーナか。長居している場合ではないそうだ。それよりお前、

 最近ずっとこっちにいるな。聖風の谷に戻らないのか?』

 

『それならお構いなく、どうせむこうに友達もいませんから。あなたたちがいる

 こちらのほうがずっと楽しいですし、居心地がいいんです』

 

『・・・まあ友達うんぬんはわたしたちの言えたことではないな。わたしも『あいつ』も

 互いに出会うまでは生涯でただ一人もそう呼べた相手がいなかったのだから。それは

 いいとして・・・いつの間に玄関の花を赤い花に変えたんだ?確か前は白い・・・』

 

後から聞いた話だけど、ぼくたちが帰った後ラフィアンの周りでも確かに世界の

変化が始まっていたらしい。数百年以上昔のたった一人の人間の死がここまで

大きな影響を与えるものなのかとぼくたちは深く考えさせられた。

 

『白い花?いいえ、前からこの種類の花でした。白い花なんて縁起が悪い。

 あれは戦いから帰ってこなかった恋人のための悲しみの花です』

 

『あれ、そうだったか。逆だったような気がするが・・・そうか、これが

 アルスたちが帰る直前に大騒ぎしていたことか。魔王が死んだというのに

 まだまだ完全なる平和な世は訪れないらしいな・・・』

 

このとき彼女は自分の右腕が軽いことに気がついたと言っていた。ぼくたちと

戦ったとき、その腕は一度アイラによって斬り落とされていた。戦闘が終わり

ぼくがベホマを唱えて腕は元通りになったけれど、いまだに時々痛むという。

アイラがいなくなればその傷もなかったことになるというわけだ。となると、

本来ぼくたちが倒したはずの多くの魔物が生き返ってくることになりかねず、

その中に魔王オルゴ・デミーラがいたとしても不思議ではなかった。

 

 

 

『じゃあ行こうぜ、アルス!あ、でも武器と防具がないぞ・・・』

 

『袋の中に最低限の物は入っているから平気だと思う。いまのぼくたちなら

 この辺りの魔物とは戦闘する必要すらない。いまはとにかく急ごう!』

 

ぼくたちは焦っていた。魔王を倒した後ずっと実戦から遠ざかっていることも、

そのへんを歩いている魔物たちは問題なくてもキーファを狙う魔王の刺客は

絶対に強いだろう。自分が消えてしまうかもしれないというアイラに正しい

判断を求めるのは酷な話で、ぼくやガボが落ち着いていなければいけなかった。

そんななか、一番冷静にこの状況を熟考していたのはマリベルだった。

いつも大騒ぎしているように見えて実は洞窟や敵の居城の仕掛けを解くのは

マリベルだったことが多い。メルビンさんが仲間に加わるまでの三人旅のとき

なんて、ぼくとガボだけだったら一生リートルードの時のはざまで迷い続けるか

海底都市で先に進めずに終わっていただろう。

 

 

『・・・そうね、いまは先を急ぎましょう。キーファを殺そうとする魔物、

 あたしはそんなに強くないとみた!対策はその場でじゅうぶんでしょ』

 

『そんなこと、どうしてわかるのかしら?彼ら魔族にとっても魔王の復活の

 ラストチャンスかもしれないわ。かなりの精鋭が・・・』

 

『いーや、こんなコソコソと出し抜こうとしてくるやつなんか力に自信が

 ないに決まってる。それにほんとうに強かったら魔王はきっとダークパレスの

 最終決戦にその魔物を呼んでいた。負けて死んだ後のことを考えるよりも

 負けないことのほうに力を入れたほうが大事だし簡単だもの』

 

確かにそうだ、とぼくたち三人はマリベルのほうを見た。彼女は胸を張ると、

 

『ふふふ・・・そうそう、もっとやりなさい。あんたたちとはモノが違う

 冷静沈着で頭脳明晰なあたしを褒め称える視線と表情、もっと続けなさい』

 

誇らしげに腰に手を当てていた。だけどぼくは知っている。全く褒めないと当然

マリベルは怒る。それでもあまり褒めすぎてもやっぱり怒り出す。きっと

そのうち恥ずかしくなってしまうんだろう。ほどほどがいちばんいいんだ。

 

『よし、じゃあいつ以来だろう・・・行こう、『失われた世界』へ!』

 

石版をはめ込んだ台座が光りだす。懐かしい久々の感触だ。それに気を

とられていたせいで、ぼくたちは石版の一部が欠けていることに最後まで

気がつかなかった。聖なる輝きが以前よりも僅かに明るくなかったのも、

久しぶりのぼくたちが見分けるのは難しかった。歯車は狂ったまま動き出した。

 

 

 

『この空気・・・やっぱりまだ魔王に支配されている時代ならではだ』

 

どこが、と詳しく説明するのは難しいけれど、平和な世の空気とは確かに違う、

失われた世界とはこうだ、とぼくたちは皆で感覚を共有していた。ただ、

ぼくの予想通りこれまでとは違い魔物たちはこちらに近づこうとしなかった。

まさか自分たちの親玉を倒した相手とは思わないとしても、魔物たちだって

命が惜しい。力の差を感じ取って逃げていった。そういう相手は追わずに、

しなくてもいい戦闘はしない。ぼくが旅を始めてすぐに決めたルールだった。

 

『これがアルスたちと私のご先祖様が別れた場所・・・あらら、この地形って

 見覚えがあるわ。私が現代でアルスたちと出会ったのもこの辺りじゃない?

 湖の祭壇まであと数日歩けばって場所だもの、わかるわ』

 

『ふ~ん・・・そっか、そのときはあたしはいなかったから覚えてないのも

 仕方ないか。しかも最近は魔法のじゅうたんに飛空石、ちっとも歩いてないし

 あんたたちがおかしなだけであたしが特別物覚えが悪いわけじゃないわよねぇ?

 ・・・それは置いとくとして、またここに来たってことはもしかして・・・

 キーファと別れたときからそう時間は経っていないのかもしれないわ』

 

ユバール一族は世界を旅する放浪の民だ。一度そこを発てばその世代の人たちは

もうその場所を見ないかもしれないと言われている。だからマリベルの読みは

正しく、ぼくたちが知っている過去のユバールとほぼ同じ時代に来たと言える。

 

『そうだね。もし数十年後もう一度ここに宿営地を構えていたとしても・・・

 そのときキーファはすでにおじいさんだ。放っておいても寿命が来る。

 若いキーファ、これから何かを成し遂げるキーファを敵は狙っているんだ』

 

『これはますます楽しみになってきたわ!あなたたちがよく話してくれる

 あなたたちといっしょにいた歳のキーファさまに会えるだなんて!

 なんだか緊張してきたわ~。私のこと、子孫だってわかってくれるかしら?

 最初は何も言わずにちょっとしてから打ち明けるのもいいかもしれないわ!』

 

自分の存在が消えようとしているのにアイラは声を弾ませて興奮していた。

ぼくたちもキーファにまた会えるというのはそれはすごいうれしい。でもいまは

喜びや期待が先行するようなときじゃないだろうと思った。さすがのキーファも

初めて過去の世界に飛ばされたときはそこまではしゃいでいなかったはずだ。

血が薄れていくどころか、キーファ以上なのかもしれないと思った。

 

 

『お——い!見ろよ、みんな!あれはきっと・・・ほら、音楽も聞こえてくるぜ』

 

先に向かっていたガボがぼくたちに合図する。苦労することなく見つけたようだ。

 

『間違いない!私たちユバール族のしるしが幾つもある!もう待ちきれない!』

 

アイラは駆け出した。歴史の書でしか触れたことのない先祖たちに一秒でも早く

会いたいと一人で猛ダッシュだ。ぼくたちも彼女を止めずにその後に続いた。

みんな早くキーファと再会したいという思いは同じだった。

 

『へへへ・・・キーファもびっくりするだろうな。いまはもうオイラのほうが

 キーファよりもアニキなんだからな。もちろんアルスとマリベルも・・・』

 

『ええ、美人になったって言ってきたら昔のことは水に流してあげるわ。

 老けたとかふざけた言葉を吐くようならまあ・・・後はわかるわよね?』

 

『・・・冗談だと信じてるよ。でも数百年前のご先祖様か。昔のエスタード島は

 どんな感じだったのか・・・魔王に唯一封印されなかったから過去に行く

 必要がなかったし、行ってみたい気もするなぁ』

 

偽の神様としてエスタードが闇に落とされたときは石板の力すら奪われた。

あのときもしかしたら昔のこの島が見られるかもと内心少し期待していた。

 

 

それから少し走ると、たくさんのテントがどんどん大きくなってきた。

ユバールの人たちはぼくたちのことを知っているからすぐに中に入れて

くれるだろうし、事情を話せばいっしょに戦ってくれるはずだ。簡単に

ぜんぶ終わってくれるといいな、そう思っているとアイラがこちらに

向かって戻ってきた。これまでと違って顔色は曇っていた。

 

『あら、どうしたの?まさか一族以外はだめだって入れてくれなかったの?

 未来の最強の剣士兼最高の踊り子もわからないなんて神の民とやらも案外・・・』

 

『それならまだよかったわ!ああよかった、あなたたちは私が見えるのね!

 私の体、一族の人たちにはぜんぜん見えないみたいなの!それどころか声も!

 ちょっと浮かれすぎていたわ・・・私じゃちっとも話ができない!』

 

アイラの体はそこまで消滅が進んでいないように見えるけれど、ぼくたちの目も

キーファと会えるという期待のせいでおかしくなっていたのか。仕方ないので

ぼくたちが先に行くことにした。アイラには過去の人たちとの交流を少し

我慢してもらい、敵を先に倒すことにした。だけど、しばらくしてからぼくたちも

首を傾げながら宿営を出た。なんとぼくたちすら誰にも相手にしてもらえない。

無視されている感じはしなかった。誰一人ぼくたちがいることに気がついていない。

どんなに激しく身振りをしても、大声で叫び続けても効果がなかった。

 

『・・・嘘でしょ!?まさかあたしたちも消えかかっているっていうの!?』

 

『いや、オイラたちの体は何ともないぜ!今のところは、だけどな・・・』

 

『・・・・・・参ったな。まあぼくたちだけで敵を探して倒すしかないか。

 それにもしかしたらキーファだけは気がついてくれるかもしれない!』

 

石版が欠けていたせいでぼくたちの姿がこの時代の人たちには見えなかった、

それを知ったのはもっと後のことで、このときは知る由もなかった。ひとまず

ユバールの人々との会話は諦めた。それでもキーファだけは彼にわかる形で

接触しなければならなかった。命を狙われているということと、その敵を

倒すまでは安全な場所でじっとしていてほしいと告げるためだ。まだダーマにすら

行く前だ。あのときのぼくたちといまのぼくたちではレベルが全く違う。

肩を並べて戦っていたキーファも残念だけどいまいっしょに戦うことはできない。

他の人たちが駄目でもキーファにだけはきっと・・・そんな確信があった。

 

 

『・・・ん?いや、何でもない。気のせいだったよ、ただの気のせい』

 

・・・駄目だった。キーファはぼくたちの必死の呼びかけにも一切反応せず。

すぐそばにいるのに触ることすらできない。感動の瞬間となるはずだった

再会は悲しみに変わった。ただ一人、マリベルは怒りという感情に満たされていた。

 

『なんかムカついてきたわね———っ・・・。あたしたちがこれだけやってるのに

 こいつはこんな顔してライラさんとお話ですって?どうにか一撃・・・』

 

キーファはこの地に残ることにした最大の理由である美しい女性、ライラさんと

二人で何かを話している。この二人はそんなに月日が経たないうちに結婚し、

その血がアイラへと繋がっていくと未来から来たぼくたちはわかっている。

 

 

『だったらやるしかないだろう。ユバールの民とそれ以外の人間が

 結ばれるためには必要な儀式があるっていうのならオレはやる!』

 

『父さんも言っていたわ、あの試練はほんとうに危険なの。死んでしまった

 人もいるそうよ。キーファ、そんなに焦らなくたっていいでしょう、もっと

 じっくりとチカラをつけてから挑めば・・・もし何かあったら私・・・』

 

『ライラ、ありがとう。きみがオレを心から思ってくれているのがわかる。

 嫌いなヤツ相手じゃそこまで必死になって止めてくれない。だからきみは・・・』

 

『・・・ふふふ、悪い人ね、あなたは。私の気持ちを聞くために・・・』

 

それから二人は口づけをかわした。ライラさんは涙ぐんでいた。嬉しい気持ちも

ある半面、キーファのことが心配なのだろう。それを見ていたぼくたちはというと、

顔を真っ赤にして騒ぐアイラ以外、つまりキーファと付き合いの長かったぼくら三人は

反応に困っていた。今の自分たちより幼いとはいえ、親友のこういう場面を覗き見

してもあまりいい気分になれなくて、早くこの場を離れてしまいたかった。

 

『オレはきみのためなら何でもできる。きみのような顔も心も美しい女性とは

 故郷では縁がなかった。旅を始めてから多くの土地を見て回ったけれど

 きみと比べられるような存在は何一つない。だから多くのものと別れたことを

 少しも惜しいとは思っていない。オレはきみと会うために生まれてきたからさ』

 

『もう・・・恥ずかしくなってきちゃうわ。あなたったら・・・』

 

調子のいいことを口にしながら、その顔や手つきは下心に満ちていた。

マリベルだけでなくぼくとガボも怒りが頂点に達した。こんなやつ放っておこうと。

 

 

『・・・仕方のない運命だったのかもしれない。キーファが死んでしまうのも』

 

『そうだなぁ。そのまま受け入れる、それもアリかもなぁ』

 

半分冗談、でも半分本気のぼくたちをアイラは必死に制止した。

 

『ちょ、ちょっと!確かに私も伝説のご先祖様があんなに軽い人間だったって

 いうのは驚いたわ。歴史は美化されて後代に伝わるものだってよくわかった。

 でもここは堪えて・・・ね、私のために・・・お願い』

 

『はーっ・・・。あいつが調子に乗ってくたばるのは全然オッケーとして、それで

 アイラがいなくなるっていうんじゃ助けないわけにはいかないわね。でも

 どうにか一撃食らわせてやりたいわ・・・何かいい方法はないかしら』

 

『・・・キーファ様の命を奪う敵って・・・まさかあなたのことじゃないわよね』

 

キーファのためではなくアイラのために冒険の続行を決めた。キーファの髪には

ライラさんが安全を祈ってお守り代わりに摘んだ白い花が絡ませてあった。

このときはまだ白い花が『悲しみの花』になることはない。彼がまだ生きているから。

愛した人がいなくなったとき、この花は現代に至るまで死別の象徴とされるのだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。