ドラクエⅦ 人生という劇場   作:O江原K

6 / 22
戦争を知らない子供たち

ガボとフォズ大神官の結婚式はダーマ神殿の中央で盛大に行われた。世界を脅かす

大魔王を倒した戦士と歴史上最も優れた大神官として語り継がれていた伝説の存在が

式を挙げるのだから当然といえば当然だった。二人はそれぞれ衣装を整えていた。

 

『う~む・・・まさかあのフォズ大神官がこの時代まで誰にも知られることなく

 生きていただなんて・・・魔王が生きていたことすらわかっていたこのおれでも

 さすがに知らなかった。お前たちもつい最近この大陸が封印されたときにそれを

 知ったそうだが・・・まさか数百年前の世界で大神官に会っていたとは』

 

『おれたちはとんでもないやつら相手に喧嘩を売っていたんですねェ。今思うと

 恐ろしい話だ。魔王を倒せるほどの力を持った相手に向かって・・・』

 

山賊のカシラと山賊たちまで招かれていた。彼らもダーマが魔物に襲われたとき

勇敢に戦ったと聞いた。神殿にいた神官や武闘家たちよりも活躍していたらしい。

ぼくたちからお金を奪おうと襲ってきたときの彼らがめちゃくちゃ強かったのを

よく覚えている。平和な世の中を満喫していた神殿の人たちより役にたったのも

全く不思議ではない。あの頃の思い出に浸っていると、思い出したくないものが

目の前に現れた。両手でおぞましい臭気を発する鍋を持ちながらの入場だ。

 

『こんなめでたい日・・・ウチの特製シチューでお祝いするのねん!』

 

『ゲ———ッ!エテポンゲ!早くそいつをつまみ出せ—————っ!』

 

くさった死体と見分けのつかない外見と体臭を持つ山賊、エテポンゲ。彼の料理を

客に食べさせたら結婚式が葬式になってしまうだろう。ぼくは徐々に距離を取って

山賊たちから離れ、エテポンゲの処理を彼らに任せることにした。

 

 

『しかしまさか我々のなかでガボどのが最初に・・・わからないものでござる』

 

『フフ・・・世界が平和になったんだもの、これまで以上に祝福に満ちた式になるわ』

 

メルビンさんとアイラももちろん来ている。二人とも背が高いから高級なスーツと

ドレスを着たら人々の視線が集まる。メルビンさんはかなりの高齢なのにぼくよりも

女の人たちに人気があって声をかけられていた。

 

『数百年ずっとこの大陸を見守り続けていた大神官はともかく・・・ガボって

 ほんとうの年齢はどのくらいなのかしら。人間としてなら私たちの中で最年少、

 だけど白いオオカミって大地の精霊様に仕える特別な種族だと書かれていた。

 寿命は数百、いや・・・数千を超えるものもいたって・・・』

 

アイラが唐突に疑問を口にする。そういえば長い間いっしょに旅をしていたのに

ガボのオオカミ時代の話はほとんどしたことがなかったとこの時初めて気がついた。

 

『・・・ぼくたちが過去のオルフィーで出会ったガボはまだ幼いオオカミだった。

 まだ三歳とかそんなものだろうと考えてたけれど・・・』

 

『もう五十年近く生きていた・・・それもありえるでござるよ。そうなると今日から

 アルスどのは彼にしっかりと敬語を使って接しなければならなくなるでござるな!』

 

魔王を倒した後は天上の神殿で余生を過ごすと言ってぼくらと別れたメルビンさんとは

久々の再会だった。この様子ならまだまだ長生きしてくれそうだ。もしかしたら次に

結婚するのはこの人かも、と思えるくらいに元気だった。

 

『ところでマリベルは?この式を企画した本人がいないなんて・・・』

 

『マリベルどのは裏でいろいろと働いておられる。必ず素晴らしい式になるでござる』

 

フォズ大神官とはあまり仲が良くなさそうだった、いや・・・実際に険悪な雰囲気に

なっていたこともあったけれどもう大丈夫そうだ。マリベルも大人になった。きっと

ガボと大神官の生涯でも特別な日を祝うために頑張っているんだなと思っていた。

そう、ぼくたちは式が始まるまでは信じて疑っていなかった。だけど・・・・・・。

 

 

 

『それでは・・・夫となる者、妻となる者がそれぞれ入場いたします。皆さま、

 盛大な拍手で迎えてあげてください!』

 

ぼくと木こりのおじさんがガボに付き添う。ガボの親代わりだったおじさんはすでに

感極まっているように見えた。ぼくはさすがにまだそこまでにはなっていない。

というより、この時点で嫌な予感がしていた。とんでもないことが待ち受けている、

長い冒険で磨かれた危険予知能力だったけれど、その正体まではつかめなかった。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

対面からマリベルがフォズ大神官を連れて入場してくる・・・はずだったのに、

すでに異常だった。マリベルは全身を黒い布で覆う背丈の同じ三人を後ろに従えて

登場したからだ。神殿内の照明も暗くされ、ますます見分けがつかなくなった。

 

『マリベル!きみはいったい何を・・・』

 

『ちょっとした余興よ!ガボ、そこから当ててごらんなさい!この三人のうち誰が

 あなたの花嫁か・・・その愛が本物か試してみるの、面白いでしょう!?』

 

『何言っているんだ!正気か?これだけ離れていたらガボの嗅覚でも・・・』

 

こんなときにゲームをするとはふざけているにもほどがある。今すぐ彼女のそばまで

行って怒ってやろうとぼくが歩き出したそのとき、ガボはぼくの肩に手を置いて止めた。

 

『・・・アルス、平気さ。いまのオイラならわかる。マリベルはああ見えてほんとうは

 とても優しいって誰よりもわかってんのはアルスだろ?意地悪じゃねぇ。オイラたちの

 ためにやってくれてんだ・・・マリベルなりの祝い方なんだよ』

 

『ガボ・・・・・・』

 

すっかりぼくよりも大人になったようだ。その諭すような声と自信に満ちた顔に

ぼくはもう何も言えなかった。みんなもガボの言葉に同意して何度も頷いている。

黙って見てな、とガボは三人を遠くから眺めて調べ始めた。ああガボ、きみは

見事に正解を口にするだろう。すでにぼくよりも立派な男になっているからだ。

 

 

だけど・・・それでもきみがまだぼくを追い越していないところが一つだけある。

マリベルのことをどれだけ知っているか。彼女が何を考え何をしようとしているか。

きみも確かにマリベルとは長い付き合いだけど、ぼくにはまだまだ及ばない。

暗闇の中で確かに笑うあの顔は・・・悪戯心に満ちている。何回痛い目に遭ったことか。

 

 

『・・・・・・わかったぜ。おい、もう答えを言っちまっていいのか?』

 

『なかなか早かったわね。じゃあ皆の前で言いなさい、この三人の中の誰が・・・』

 

盛り上がっていた人々がガボの答えを聞くために静かになった。すでにガボは

確信に満ちた顔つきだ。この三人のうちからフォズ大神官を見つけて口づけを

することで答えるだろう。ところがガボは後ろに下がり、マリベルたちから

遠ざかった。そして大きな声で導き出した答えを叫んだ。

 

 

『三人とも偽者だ!フォズは・・・そこにはいねえ!どうだ、マリベル!』

 

『・・・それが答えでいいのかしら?言い直すならいまのうちよ』

 

『オイラの勘に間違いはねえ!さっさと正解を発表しやがれ!』

 

 

そんな引っかけ問題を用意していたとはさすがマリベルだ。しかしここはガボが

一枚上手だった、誰もがそう思っただろう。ぼく以外は。

 

『・・・・・・参ったわ、降参よ。あなたの愛の力!完敗だわ・・・正解!』

 

『ヘッ!ナメてもらっちゃ困るぜ!誰からもちっともフォズの気配がしなかったぜ!』

 

『見事正解のご褒美に・・・三人ともプレゼントしちゃうわ!』

 

黒装束が外された瞬間、それらはガボ目がけて猛突進を始めた。世にも恐ろしい光景だった。

 

『ぶちゅちゅ~~~っ!』 『キスしてあげる!イヒヒヒヒ!』 『うじゅじゅわ~』

 

『うげ———っ!!マジックリップス、ブチュチュンパ、デスバキューム————ッ!』

 

ガボをいい男だと認めたのは魔物たちも同じだったらしい。我先にとガボの唇を奪う

競争だ。素早いガボも必死で逃げるが差がどんどん詰まっていく。慣れないスーツを

着ていたのと突然の不意打ちが重なりいつもの快足ぶりを披露できずに捕まりそうだ。

 

『クソ————ッ!こんなことなら式の前に初めてのキスを済ませておきゃあ

 よかったぜ————っ・・・!こ、こいつらちっとも引き離せない・・・!!』

 

『おほほほほ!健全なお付き合いをしているようで安心だわ!これも後々いい笑い話に

 なる時が来るわ。だからそろそろ捕まっちゃってもいいんじゃない?』

 

マリベルの高笑いが神殿に響いた。すでに酒の回っている酔っ払いや山賊たちは

いいぞいいぞと大笑いしながら口笛などを飛ばしていたけれど、ぼくはただ頭を

抱えるだけだった。やっぱりまだフォズ大神官のことを嫌っていたのかと。

過去の世界で失言を聞かれて足を氷漬けにされた件をいまだ根に持ってこんな復讐を

計画し実行に移したのか・・・後で彼女の代わりにどれだけ謝ればいいんだろうと

頭が痛くなった。けれど、マリベルの笑いはそう長くは続かなかった。

 

 

『凍てつく冷気——————っ!!』

 

『ブチャ・・・』 『イヒャッ!?』 『プリプリ~・・・』

 

三匹のリップスは一瞬で凍りついた。壁をも破るほどの氷の刃だ。強力であり

僅かなずれもない正確さ。これほどの氷の使い手はたった一人しかいない。

 

『・・・・・・は、早かったじゃない・・・』

 

『やってくれましたね。私を騙しこのようなくだらない・・・ふふふ、

 今日がこの特別の日でなければ神と精霊たちの名において裁くところです』

 

フォズ大神官がマリベルへの怒りを寸前のところで堪えながら入ってきた。

 

『魔物たちが襲ってきたからすぐに迎え撃とう、緊急事態だ、などと・・・』

 

一時的に神殿の外に花嫁を追い出しているうちにガボを罠に嵌めようとしたようだ。

このままだとマリベルが氷像にされそうだから助けに行こうか、そう思ったときだった。

神殿の泉の水が噴き上がり、巨大な影が二つそこから徐々に姿を現した。

 

 

 

『フハハハハハ!!このおめでたい席にお集まりの諸君!これからここは諸君らの

 葬式、そして我らにとっては勝利を祝う宴の舞台となる————っ!』

 

『お前らの肉と血で飲み放題食べ放題の祝勝会だぜ————っ!そして俺様が

 オルゴ・デミーラ様にも楽しんでいただいた自慢の芸を披露してやる!生きたまま

 抉り取った人間の眼球でのお手玉だ—————っ!!』

 

魔物だった。キーファを襲ったヘルクラウダーのフランケルとおそらく同じだ、魔王が

遺した刺客だ。まさか現代にもやってくるとは。しかも武器や防具を持たずにいる

この結婚式を狙ってきた。そしてもう一つ恐ろしいことがある。

 

『あ・・・あれは!あの魔物たちはまずい!』

 

『アルスどの、それは一体・・・?左側の魔物はほうらい大王、右側は確か・・・

 デーモンレスラーという魔物!こんなところにやってくるのだから確かに普通の

 ものより強いのは当然でござるが・・・』

 

『そうか、メルビンさんとアイラは知らなかったんだ!あいつらの外見は・・・

 過去の世界でガボと大神官を苦しめた魔物と瓜二つなんだ!大陸の封印を任された

 残忍でとても強かった魔物たちに!ぼくですらよく覚えているんだ。あの二人は!』

 

『・・・・・・!!』

 

ぼくの不安は的中し、魔物たちは真っ先に二人の眼前に立った。下衆な笑いを浮かべている。

ガボとフォズ大神官はどうやら震えているように見える。それも無理はないことだけど、

一応確認のためマリベルに近づき聞いてみることにした。

 

『・・・あいつらもきみが連れてきた魔物ってわけじゃないよね?』

 

『当たり前でしょ、この間抜け。魔物たちが襲ってきたっていう出まかせがまさか

 真実になるなんて・・・あたしが一番驚いてるところよ』

 

ガボたちをピンポイントで狙った刺客だった。魔物たちは得意気に語り続ける。

 

『おいガボ!俺様の姿は覚えてるよなァ!お前ら白いオオカミをお前以外皆殺しにした

 デス・アミーゴ!俺様はあいつよりも強いんだぜ、うひゃひゃひゃひゃ!お前の

 親や仲間がどうやって死んだか、惨めにも凡庸な人間のガキと体を交換された屈辱を

 そろそろ鮮烈に思い出したんじゃないかァ——————!?』

 

『貴女もだ、大神官!オルゴ・デミーラ様が幹部とした我らほうらい大王一族の

 勇士アントリアとの素晴らしい思い出に浸っているのでは?無様にも敗れ・・・

 拷問を受け力を徐々に奪われた日々を思い出したでしょう!』

 

ガボも大神官も自分が心も体もボロボロになるまで痛めつけられただけでなく大事な

人たちがたくさん殺された憎い相手の記憶が蘇ってきているんだろう。顔を伏せている。

 

『・・・・・・』 『・・・・・・』

 

『このほうらい大王の『ガリレオ』と!』 『デーモンレスラーの『モンジュー』が!』

 

お前たちを倒す、そう言って襲いかかる前にガボたちは顔を上げた。なんと二人は

笑っていた。白い歯を見せて、そして拳に力を込めながら満面の笑みを見せてくれた。

 

『へへへ・・・悲しんだり怯えたりしていると思ったか?違うな!オイラたちは!』

 

『喜びのあまり震えていたのです!かつての恨みを晴らす最高の相手が現れたと!

 新たな人生の旅立ちの前に古きトラウマとの決別の機会を与えていただき・・・

 ほんとうにありがとうございます!さあ、ガボ!』

 

これには恐れ入った。予想外の反応に魔物たちが後ずさる間に二人はもう攻撃を

始めていた。ガボはばくれつけん、大神官は杖から輝く息を放つ準備を終えていた。

 

『・・・なに———————!?』 『こ、この迫力・・・聞いた以上だ・・・・・・』

 

たった数秒の出来事だった。この場にいる人々が皆気がついたときにはすでに全身が

原形をとどめないほどに痛めつけられている凍りついた二体の魔物が完全に動きを

停止していた。彼らにとっても魔王を倒された復讐のつもりでやってきたはずだったのに

勝負はすぐに決まってしまった。そして最後にガボが見事なせいけんづきを決める。

 

『こいつらはリップスたちと違って容赦はしてやんねー。あらよっと!』

 

二匹の魔物は粉々になって息絶えた。それから間が開かないうちに泉から魔物たちが

次々と飛び出してきたけど、その群れはただの人数合わせであったことはすぐにわかった。

 

『モンジュー様!ガリレオ様!ある程度やつらを痛めつけたら合図すると言っていたのに

 いつまで待たせるつもりですか・・・・・・あ、ああああっ!!』

 

『お、お二人が死んでいる—————っ!!し、しかも戻れない!』

 

やつらが仕込んだこの泉のワープゾーンは一方通行だったようだ。ふきだまりの町に

有無を言わさず落とされた苦々しい気分が蘇ってきた。

 

『魔王軍の残党だ————っ!生かして帰すな————っ、いけ—————!!』

 

そこから先は言うまでもないと思う。ダーマ神殿の戦士たちや山賊によって魔物の軍は

簡単に殲滅され、何事もなかったかのように結婚式が再開された。魔物の襲撃など忘れ、

終始和やかな空気のまま式は無事に進み最後まで滞りなく終了した。

 

『まさかほんとうに魔物がこの日この場所を狙っていたなんて・・・マリベルさん、

 事前に知っていたのですか?それとも直感で悪の気配を感じ取っていたのですか?』

 

『あはは・・・まああたしも戦い続けて長いしこれくらいの勘は勝手に働くのよ』

 

終わり良ければ総て良しとはこのことだ。彼女のくだらない悪戯もみんな忘れていた。

 

 

 

 

 

それからしばらくガボたちはどこで暮らすか、世界のあらゆるところを候補にして

考えた結果、北の涼しい土地に決まったという。今日は珍しくみんながやって来ると

思っていたらアイラもガボも別れを告げに来たとは、やはり何かがありそうだ。

たまたま重なっただけなんだろうけど、こういうときは必ず波乱の前兆だ。

 

「二人とも暑いのが苦手だし、そろそろ子どもも生まれるから・・・」

 

「そうだったね。きみに子どもかぁ。イメージできないけど・・・」

 

ここで一つ気になることが出てきた。ガボもフォズ大神官も寿命がないに等しい。

だとしたらその子どもたちもそうだろう。モンスター人間と呼ばれる種族がその

いい例だ。ぼくは失礼を承知でガボに聞いてみた。世界に関わる問題だからだ。

 

「そのうちきみたちの子孫で世界は溢れかえっちゃうんじゃないかな?きみを祖とした

 一族が世界の半分、いや・・・それ以上に増え広がるっていう可能性は・・・」

 

ぼくの質問を聞くと、ガボは大きく口を開けて笑った。的外れなことを言ったかな?

 

「あっはっは!安心しろよアルス。そんなことにはならねえのさ。白いオオカミは

 ほとんど繁殖をしなかった。必要ないからだ。とても強いし寿命が長いから」

 

「・・・・・・?」

 

「まだわからねえかぁ?じゃあもっとわかりやすく・・・スライムとギガントドラゴン、

 どっちのほうがたくさん子どもを作るか考えてみろよ。そういうことだよ。しかも

 いまはこんな平和な世の中だ。どんな生き物もずっと生きやすくなっているんだぜ」

 

ガボの言っている理屈はよくわかる。普通の人間ではない二人はもしかしたら跡継ぎを

残す必要がない。もし子どもが生まれたとしてもせいぜい一人か二人まで、ということだ。

でも、そんなわけはない。ぼくたちは獣や魔物じゃないんだ。

 

「・・・きみは満足できるのか?それで・・・」

 

「・・・・・・・・・ムリだな。知恵比べでもアルスに勝てる日が来るのはもっと

 先になりそうだなぁ。我慢なんてできるわけねーだろぉぉ・・・」

 

 

それからガボは子どもの名前を相談してきた。双子が生まれるというのは不思議な力を

持っている占い師のおばあさんに確認済みのようで、男の子か女の子かは生まれてからの

お楽しみ、とのことだ。男の子だったら『アンバー』『ギャロップ』『ガリバー』、女の子で

あれば『カール』『カグラ』『アクトレス』などなどたくさんの候補を挙げてきた。

 

「きみが自分で決めなよ。ぼくが薦めてあとで気に入らないとか言われても困るよ」

 

「冷たいこと言うなよ———っ。アルスがいなきゃオイラは何百年も前にオルフィーで

 鎖につながれたまま死んでいたんだぜ。アルスのおかげで生まれてくる命みたいな

 モンだからさ、もう少し付き合ってくれよ、な?」

 

成長したガボの押しの強さはキーファみたいだ。確かにキーファを兄のように慕って

懐いていたけれどいっしょにいた期間はそんなに長くなかったはずだぞ。人間になった

ばかりのころ、人格をつくるうえで一番大事な時期に彼からいろいろ教えられたせいで

変なところまで似てしまったのかな。もちろんいいところもたくさん受け継いでいるけど。

 

 

「・・・その調子だときみたちはやっぱり大きな勢力になりそうだ。きみがいれば

 間違ったことにはならないと信じているけれど・・・・・・そのうちきみたち

 『ノーザングループ』ばかりが世界を動かす重要な人間になるんじゃないかな」

 

北の地から徐々に数と力を増やしていくだろうガボの血を継いだノーザングループ。

あまりにも一点に力が集中すると悲劇が起きるかもしれない。それでもガボは

ぼく以上に何も心配していないようだ。さっきよりも大きな声で笑って言った。

 

「問題ないだろ。もしそんなことになって・・・仮にオイラが倒されたとしても・・・

 アルスとマリベルの子孫がきっと解決してくれるだろ?だからオイラたちはこれからも

 必要以上に悩まずに生きていけるのさ。だからアルス、アルスも早くマリベルと

 くっついてオイラたちを安心させてくれよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「最近マリベルと会ってないんだって?こんなところにいないでさっさと行けよ。

 居場所がわからないんだったら見つかるまでずっと探し続けなきゃだめだ。

 みんな気にしていないようでアルスたちのことはよく見てるんだ。ほら!」

 

座っていたぼくを強引に起き上がらせ、村の外まで力ずくで引っ張ってついには

追い出してしまったガボ。これくらいの強引さと真っ直ぐな心があればこの先の

戦いを知らない世代のこともうまく導いてくれるだろう。魔族との戦争でたくさん

傷つきながら幸せを手にした彼ならきっと大丈夫だ。

 

「仕方ないな・・・じゃあどこから探そうかな・・・いたた!」

 

足元の尖った石に気がつかないで転びそうになった情けないぼくは自分だけで精一杯だ。

自分で話題にしておきながら将来の人々のことなんて考える余裕はなかった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。