ドラクエⅦ 人生という劇場   作:O江原K

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紀元弐千年

メルビンさんが突然右手を押さえて苦悶の表情を浮かべた。敵が過去で何かを

していることは最近の出来事を考えれば確かだ。せっかく世界が勇者や英雄の

力を必要としないほんとうの平和を手にしようとしているのに戦いは続くのか。

 

「くっ・・・オルゴ・デミーラめ!死んでからもぼくたちの邪魔を・・・」

 

「いや、アルスどの・・・もしかしたら別の勢力の仕業かもしれぬ!」

 

別の勢力、とは初めて聞いた。まさか新たな魔王がどこかにいるだなんて。

 

「メルビンさん、それは何者なんですか!?それにどこでそんな話を・・・」

 

「アルスどのたちと別れた後、天上の神殿で昔からいる賢者や祭司が話していたので

 教えてもらった。彼らもつい最近古い資料を見つけ、研究の末に一部を理解したに

 過ぎないと口にしていたが・・・『紀元弐千年』、それが鍵となる言葉らしい」

 

重要な言葉を言われてもいまいちピンと来なかったぼくに、メルビンさんは説明を続ける。

 

「つまり、魔族にとって重要な何者かが生誕してから今年で二千年となるという

 ことでござる!やつらはそれを祝し大々的な活動を行うと考えられる!それが

 オルゴ・デミーラのことであればまだよいのでござるが全く別の誰かであれば

 非常に厄介な、また新たなる戦闘の日々が幕を開けるかもしれないでござる!」

 

大々的な、例えばこの世界を我が物にしようとするとか・・・そんなことだろう。

オルゴ・デミーラはもう死んでいて残党たちの数も知れているから少しずつ潰して

いけば問題ないけれど、そうでないとほんとうに先が見えないぞ、これは。

 

(そういえば・・・やつはあの戦いのときに・・・・・・)

 

最後の戦い、ぼくとマリベルだけが残ったあのとき、魔王は勝利を確信したのか

口数が多くなっていた。これから目指そうとしているものに関しても惜しまずに

ぼくたちに教えていたのを思い出した。

 

 

『ふふふ・・・ついに、ついにこのわたしの悲願が成就する!お前たちを除き去れば

 あとの人間どもを再び騙しわたしは神として全世界を支配するのだ!』

 

『魔王として・・・ではなく神として・・・?』

 

『そうだ!全てがわたしにひれ伏しわたしの思い通りに世は動き時は進む!だが

 わたしはいずれ神の座をわたしよりも栄光を受けるにふさわしい偉大な方に

 お渡ししなければならない!その方こそありとあらゆる神や魔王を超越した

 永遠に世界を支配すべき方だからだ!そのお方の名は・・・・・・!』

 

大魔王と呼ばれた、魔族にとっては最高の、人間にとっては最悪の存在である

『ゾーマ』、その名前をオルゴ・デミーラははっきりと口にしていた。

 

 

「・・・なんと!わしらが倒れた後そのような話が・・・!確かにゾーマ以降の

 魔王たちはいずれもやつに仕えていた時期があったか、そうでなくてもやつを恐れて

 いたという事実があるが・・・やつの復活がデミーラの最大の目的であったとは!」

 

「ゾーマのことなのかもしれません。生誕二千年というのは・・・」

 

「ウム・・・この世界の時間には歪みがあり、しかも賢者たちが見つけた書も

 解釈が正しくなければ別の時のことを指しているのかもしれないでござる。

 よってゾーマが大魔王となってからすでにその程度時は流れているはずだから

 生まれたときとなるともっと前であるためそれは違うと一言で否定できないのも

 事実でござる。謎解きをするだけ時間の無駄でそれも敵の術中かもしれぬな」

 

メルビンさんは苦痛に顔を歪めながらも冷静さを失わない。続けてこう言った。

 

「ゾーマでないとしたら・・・やつの娘!その可能性も大いにあるでござる!」

 

そのとき、ぼくたちの裏のスロット台の椅子から誰かが大きな音をたてながら

床に転がり落ちた音がした。何やらバタバタと慌てているようだ。

 

「ゾーマの・・・娘!確かロンダルキアにいるハーゴンさん!」

 

「そう、またの名をウオッカというモンスター人間の総帥。非常に大勢の仲間に

 囲まれ、勢力は拡大を続けている。これまでは世界を征服する気がなかったと

 しても、実際に実現が可能となる戦力を手にし状況が向くのなら・・・」

 

「父ゾーマのこともどう思っているのかはっきりとしたことは聞いていません。

 あの人自身ゾーマが父親だと知ったのはロトの末裔たちとの戦いが終わった後だと

 いうことですから・・・今になって復活を望んでいるという可能性も!」

 

「そのためにはわしらを倒さなくてはならないでござるからな・・・。のう、

 そこのお二方!ちょっとこちらに来て話に加わってはもらえぬか!」

 

メルビンさんはすぐに裏に回り、ぼくたちが『ゾーマの娘』の話題を始めると

明らかに動揺していた怪しげな二人組を逃げられないようにして追い詰めた。

やはり、というべきかその二人はモンスター人間、つまりハーゴンさんの仲間だった。

 

「・・・こ、こんな所で奇遇だな。じいさん・・・」 「お久しぶりです・・・」

 

「お前たちは・・・バブルスライムとしびれくらげのコンビか。いや、ほんとうは

 はぐれメタルとホイミスライムだったかな?まあどちらでもよいことよ。まさか

 今日も偶然カジノにいたところを出会ってしまったというわけではあるまい」

 

見た目こそ若い女の人たちだけど、実際の年齢は不明でしかも人間ではないとくれば

メルビンさんも誘惑されない。しかもこの二人はたまたまコスタールで遊んでいたら

神に化けた魔王による世界の封印が始まって、ロンダルキアと下界を結ぶ旅の扉がある

エスタード島が見えなくなってしまったので神の城から逃げていたメルビンさんと

カジノで会い、そのときは協力して大灯台までの道のりをサポートしてくれたらしい。

でも今日は違う。もしかすると敵として戦わなくてはいけないかもしれない。

 

 

「バブリンさんにしびれんさん・・・でしたね?メルビンさんの手のこともあるから

 短く質問します。あなたたちは誰かの復活を計画しているのですか?」

 

「ドキッ!そ、そんなことないって。復活?私たちは不老不死、この頃大きな戦いも

 ないからそんなものは一切必要な———い!世界樹の葉だって無価値な・・・」

 

「正直に、真実を話してください。そうすれば戦わなくてすむかもしれません。

 ですがこのままごまかそうとするのなら・・・まずはあなたたちから斬ります。

 それからあなたたちの仲間を・・・ほんとうのことがわかるまで続けます」

 

ぼくは水竜の剣を出して二人に迫った。二人の顔がわかりやすく青ざめているのがわかる。

でもこれは実はただの脅しで、もし戦いを挑まれたらぼくは負ける。勇者の力をほとんど

失っているいまのぼくではモンスター人間の二人には勝てない。自信満々で自分は無敵

だと装うことで相手が『降りる』のを期待しているだけだ。これはもちろんぼくのやり方

じゃあない。彼女が得意としていたインチキの手段だった。

 

 

『・・・助かった。宿まで間に合わないところだったぜ。逃げてくれてよかったな』

 

『フフフ、あたしが強そうなのを見て逃げていったのよ、魔物たちは』

 

体力も魔力もない満身創痍でも堂々と胸を張って歩き、視線だけで魔物を退けていた。

 

『おお、これで五連勝でござるな、マリベルどの!』

 

『ええ。まさかワンペアであそこまで張って相手を追い詰めたんですからすごいです。

 ぼくは彼女の戦法をわかっていてもやっぱり敵に回したくないですね』

 

カードを持たせたら無敵だった。運がなくてもハッタリと強心臓で押し切った。

自分にあまり自信が持てないぼくには真似できなかったけれど、今日ここで

その力を借りることにした。いまマリベルはどこを探してもいない。でもこうすれば

何だかマリベルといっしょに戦っているような気分になれた。

 

 

「ぼくはたとえ史上最悪の大魔王ゾーマを復活させると言われてもすぐに何かを

 するというわけではありません。もしかしたらロンダルキアかどこかの温泉で

 のんびり暮らすためだけに生き返る、それなら好きにしてもらえばいいだけの

 話ですから。ただメルビンさんへの攻撃をやめてもらいたいんです」

 

これはぼくの本心だった。誰が復活しようがもう世界に手出ししないというのなら

関わることはない。でもこんなものはぼくだけの考えで、メルビンさんはきっと

許さないだろう。それにオルゴ・デミーラを復活させると言われたらさすがにぼくも

ちょっと待てと言う。実際にその悪事を散々見せつけられているからだ。だから

ゾーマでもいいというのはぼくの自分勝手な考えなんだけど、とりあえずは二人の

狙いを聞かないことには始まらないのでぼくも思いを隠さずに伝えた。

 

「・・・あれ、そうなんですか?てっきり私たちは怒られると思ったから皆さんに

 知られないうちに計画を実行しようとこうして見張っていたのですが。これなら

 大丈夫かもしれません。魔王だなんて物騒なものは復活させませんよ」

 

「そうそう、私たちが復活させようとしているのは『勇者』だよ。歴史の本には

 載ってないけれど、これまでのどんな勇者よりもずっと勇者だったと言える、

 人と魔物みんなから愛された『幻の勇者』・・・その時代の人間から勇者と

 呼ばれた男の妹だった・・・いや、現実には妹じゃなかったんだっけか。

 まあどっちでもいいや。その女の子の話は・・・確か前もしたよなぁ?」

 

 

長い年月を生きてきたこのモンスター人間たちや天上の神殿の人々は時間が

有り余っているのだろうか。歴史上最も偉大な勇者は誰か、最悪の魔王は誰か、

たびたび論じ合っては毎回答えが出ないらしい。それぞれが自分の一番輝いていた

時代の勇者の名を挙げるからだ。魔王のほうは人も魔物もゾーマでほぼ意見は

一致するが、勇者はそうはいかず、激しく意見がぶつかるだけとのことだ。

 

『やっぱり勇者ロトでしょう。その後の勇者は皆彼の血を継いでいます。

 全ての勇者の原点であり頂点であり最強・・・本来異論は出ないはずですが』

 

『いやいや、ロトは仲間たちと力を合わせてゾーマを倒したけどブライアン、

 あのラダトームの勇者は一対一で竜王・・・わたしの父を倒したのだから

 どちらが上かは普通に考えたらわかるでしょ、ねぇ?』

 

『あなたたちが論じているのは魔王を倒した勇者たちだ!神を相手に勝利した

 勇者のほうが勝っているとなぜ理解できないのか・・・』

 

ロトの時代、その目で彼の活躍を見たスライム、竜王の娘だったキラーマジンガ、

ずっとその後の時代のモンスター人間たち・・・誰も自分の主張を譲らない。

とはいえ天上の神殿の賢者とか聖人とか呼ばれている人たちもやっていることは

ほとんど同じだそうで、時にはエスカレートして殴り合いになるというのだから

メルビンさんも頭が痛かっただろうと話を聞いていたのだけれど、

 

『安心するでござる、アルスどの。わしはちゃんとアルスどのが一番だと彼らに

 教えたでござる。オルゴ・デミーラを倒したのだから当然のことでござるが

 それでも物分かりの悪い神官や祭司を二、三人ぶっ飛ばしてしまったがな、わはは!』

 

『・・・・・・地上に降りてきた理由って・・・そのせいじゃないですよね?』

 

一番偉大なのは誰か、ではいつまでも答えが出ないので誰が一番力が強かったか、

呪文を、剣技を使いこなしていたかという細かい分野で決めようとしても荒れて

しまう。それでも魔物たちの間で答えがほぼ一致する質問があり、『最も優しい

勇者は誰か』というもので、歴史の書には記録すらほとんど残っていない、

いまモンスター人間たちが甦らせようとしている女の子の名が挙がるのだ。

 

「あいつがいなきゃ私たちはとっくに死んでいたよ。あいつは誰に対しても

 穏やかに、愛情をこめて接してくれた。私たちのような半端者にも、魔物にも。

 どんなクズが相手でもいいところを見つけてくれたし、寛大だった。戦いが

 避けられない時はどうやって敵を倒すかじゃなくてどうやって敵を救うかを

 考えていた・・・あいつの前じゃみんな争うのが馬鹿らしくなっていたよ」

 

「あの人自身決して満たされた人間ではありませんでした。しかし自分が辛い

 思いをしているからこそ他の人の苦しみや悲しみを理解して寄り添える、

 そんな人なんです。心が爽やかに、そして温かくなる日々でした」

 

 

 

その時代、世界は現実の世と幻の世に分離していた。精霊ルビスが勇者として選んだ

兄の後を追うように故郷を旅立った彼女は最初にバブルスライム、しびれくらげと

出会い、魔物の仲間を増やしながら世界の真実を知るようになった。今の自分が

夢の世界のものであるなら現実はどんなものなのかと興味が湧くのは当然だった。

 

『・・・・・・これが本当の私・・・』

 

現実の彼女は一人で暮らしており孤独だった。そのため夢のなかで優しい兄を

求めたのだ。夢の世では両親は彼女が幼いころ魔物から守るために死んだのだが

実際はそれも真逆だった。なんと我が子を差し出して両親は逃げたのだ。

 

『・・・信じられない者たちだ。己の娘を捨ててまで生きていてどうするというのか』

 

キラーマジンガとランドアーマーのコンビはまだ赤ん坊だった彼女は殺さずに、

その両親を切り刻んだ。全く異なる生い立ちに本人は当然として共にいる魔物たちも

戸惑い、どう声をかけていいか悩んだが希望の光もあった。現実の彼女も深い闇に

射す光のような愛に満ちていたということだ。排他的でよそ者に厳しい村で彼女だけが

見ず知らずの旅人を温かく迎える。大事な芯は何も変わってはいなかった。

 

『今まで辛かったことや淋しかったこと、悲しかったことをずっと背負ってくれて

 ありがとう。これからは・・・ぜんぶ分け合おう』

 

彼女は夢に逃げなかった。彼女の仲間の魔物やモンスター人間たちは夢の産物で

ありながら不都合な現実と直面してもそれを飲み込んでなかったことにした者もいた。

彼女の兄も夢と現実が離れていた時間が長すぎて、完全に一つにはならなかった。

それでも彼女は幸せな夢の日々を捨て、ほんとうの自分として生きていくことを選び、

そこからの彼女の活躍は世界に大きな影響を及ぼすまでになった。

 

 

『・・・これだ、これがあの日ルビスと、そしてブライアンと誓った人間と魔物が

 憎しみを捨てて手を取り合う・・・ずっと求めていたものがいまここに・・・!』

 

夢と現実が一つになったとき、彼女は精霊ルビスからたった一度だけベホマズンを使える

力を授けられていた。それをなんと、天空の城で自分の兄たちと死闘を繰り広げた

だけでなく両親の仇でもあるキラーマジンガとランドアーマーに対して惜しむことなく

使った。旅の途中で数回会い言葉を交わしただけの相手に一回きりのとっておきを用いる

のを躊躇わなかった。救える命を前にしていろいろと考えることすらなかった。

この瞬間、竜王の娘と彼女の付き人大魔道の呪いは解けた。気が遠くなるほどの長い年月、

ルビスが愛した勇者を殺したためにその身に受けた呪いが同じくルビスによって力を

与えられた少女によって解呪されたのは運命だったのかもしれない。

 

 

『なるほど・・・お前の話は人を爽やかにし希望を抱かせるものだ。まさかこの我々に

 戦わずに和解する道を選ばせるとは・・・これならば世界は・・・』

 

残虐さと容赦のなさで知られていた町全体が牢獄の地の獄長と、大賢者を拘束する

怪力無双の二体の魔物、どちらも貧弱な人間の言葉など耳を傾けないはずなのに

彼女は自分の仲間たち、更には兄と彼の仲間たちを守り、更には魔族たちすらも

守るために力を尽くした。歴史の書には人々が勇者として知っている彼女の兄、

厳密には『兄だった』男が魔王を倒してから故郷の国の王になったことまでしか

書かれていないが、全てを知る者たちは彼女の働きの大きさを決して忘れなかった。

 

 

 

「あいつが遠慮したんだよ。お兄ちゃんのことだけ書いて私については何も書いちゃ

 ダメだって。ほんとうに謙遜で・・・謙遜すぎた。王と結婚したのはよかったが

 結局一回も寝なかった。あの男が夢の世界に置いてきた真の恋人とやらに遠慮して

 最後まで妻というよりは妹のままだった。自分の幸せは二の次で・・・」

 

「・・・最後まで?ということは何十年も・・・?」

 

「いえ、あの人は二十二歳の若さで病に倒れました。幸いだったのは全く苦しまずに

 あっという間に逝けたこと、もう一つ、それからすぐに人間たちが始めた世界規模の

 戦争を見ずに済んだことでしょうか。もしかしたらあの人が生きていたから世界は

 ギリギリのところで手を取り合っていたのかもしれませんが・・・あの人亡き後は

 何かが壊れたかのように長い戦争が続きましたからね」

 

歴史の中で、今回こそ真の平和がやって来ると種族を問わず誰もが思った瞬間は

何回かあったらしい。しかしいずれもうまくいかず人間同士が争い気がつけば

その隙を突いて新たな魔王が現れて、の繰り返しだったという。勇者が判断を

誤るか、勇者はしっかりしていても周りの人間が失敗して厄介事を持ち込むか・・・。

そう考えるとぼくが何もしなくても勝手に皆が平和を求めるこの時代は恵まれている。

 

「これもアルスどのの人徳あってこそ。アルスどのに危害を加えてまで栄光や

 富を手にしようなどという輩がいないのは人々に真に愛されている証拠!

 密かな陰口すらちっとも聞かないでござるから、胸を張っていいでござるよ」

 

「・・・まあ父さんと母さんはいまだにうるさいけどね。それに・・・マリベルも」

 

「ご両親は仕方がないでござろう。叱るのも愛情があるからこそ。それにマリベルどのが

 アルスどのを悪く言うのは・・・いや、わしが教えるべきではないか。アルスどのが

 自分で気がつかなければいけないことでござるからな・・・」

 

世界中の皆に好かれてもきみに嫌われたら意味がない、そんなセリフは間違っても

ぼくの口からは出てこない。そういうのが得意な男の人だけやればいい。

 

 

「そう、世界はいよいよ永遠に平和になろうとしている!長い間人間どもの失敗と

 魔族の暴走を見てきた私たちやハーゴン様が大丈夫だと後押しするんだ。

 ようやくこの時が来たんだ・・・あいつと再会する瞬間が」

 

「あの方が長い眠りについた日に約束しましたからね・・・」

 

 

 

『・・・・・・みんな・・・なんだか私・・・眠くなってきちゃった・・・』

 

『寝るな!頑張れ!ここで寝たら・・・・・・!』

 

『・・・さよならだね。でも、きっといつか・・・また会えるよね・・・』

 

そのときだった。彼女と最初から旅をしていたバブルスライムとしびれくらげの

モンスター人間二人は彼女の手を取った。そして当てのない約束をした。

 

『そうだ!お前の、それに私たちみんなの望む世界になったらまた会おう!』

 

『誰も争わない、戦わない喜びのなかで一日中歌を歌ったり絵を描いたりして・・・』

 

『・・・いいなぁ、それ。とても楽しみだなぁ・・・そのときまた起こしてね』

 

 

それはまさに今の時代、ぼくたちの時代だとこの人たちは言う。

 

「実はアルス、お前さんのことがずっと昔に預言されていたんだよ。大賢者の兄弟が

 この先世界に何が起こるかについて・・・今なら意味もよくわかるんだけど当時は

 みんなさっぱりだった。言った本人の大賢者たちすらわかっていなかったんだから」

 

 

『近い将来、夢の世と現実の世、そして狭間の世界は元通り一つとなる。世界には

 一瞬だけ平和が戻るが僅かな期間だろう。勇者が夢を追い求め現実を見ないからである。

 ただし彼の妹であり妻となる慈愛の乙女が生きているうちは争いは起こらない』

 

これはその時代のことだろう。まだぼくたちは出てこない。

 

『また、彼の子孫たちも苦しみの多い生涯を送るだろう。彼以上の勇者は出ず、

 最後の者は少年でありながら勇者とされるが大魔王との戦いにより命を落とす。

 こうしてかつてローレシアから続いた王族の家系は絶たれ、神や精霊に軽んじられ

 取るに足らない人間とされた西の悲運の王子、『流星の貴公子』と呼ばれた者が

 高められるだろう。彼の血を継いだ水に愛されし勇者が世界を救い、その者が

 世界に永遠に続く平和をもたらすからである。彼はそれまでの勇者と呼ばれた

 誰よりも謙虚であり温和で、全ての生物に愛される男だったからである』

 

「・・・それがぼく?ずっと過去にもう予告されていたってことなのか?でも

 これまでの誰よりもってのは言い過ぎだと思うな。それは買い被り・・・」

 

「ははは、今のうちに素直に喜んでおいたほうがいいと思うけど?続きがあるから」

 

『しかし彼は自分のためには何も残さずに去っていく。名誉も、富も、子孫も。

 彼を最後に勇者は必要とされず、彼が何かを継承する必要はないからである。

 彼は人々に高められることを望まず、童貞のままひっそりといなくなるだろう』

 

何かいろいろと気になる単語が飛び出してきたけれど、あえて気にしないふりをした。

そうなりそうな予感がしたからだ。ぼくの性格ややり方を考えたら・・・。

 

 

「まあ話はこんなモンで。私たちはジイさんを攻撃なんてしていないし、そっちが

 私たちのやろうとしていることを止めないのなら互いに用はないんじゃないか。

 これから盛大に復活祭をするんだ、失礼させてもらうとするかな。さっきの話の

 細かいところが聞きたいならハーゴン様のところに行きな。『流星の貴公子』、

 サマルトリアのアーサーとかいうやつの思い出話を飽きるほどしてくれるから」

 

「ええ。疑ってすいませんでした。でも最後に一つ、少し気になることが・・・。

 どうやって生き返らせるんですか?体はどうやって用意を・・・」

 

ちょっとした疑問だった。するとその答えはぼくとメルビンさんを驚かせるものだった。

 

「他でもないあの方自身の体を使います。信じられないかもしれませんが、その遺体は

 あの日から気の遠くなるような年月の過ぎたいまでも腐らずにそのままなんです。

 骨が残っている、とかいうレベルではなく、皮膚も肉も顔も・・・全てが一切

 一度目の生涯を終えた日のまま・・・。ですからあとはハーゴン様が命の息を

 吹き込んでくだされば記憶は完璧に残ったまま復活するという保証があります」

 

「い、いまだに腐らない遺体!?お前たちが手を加えたのでござるか?」

 

「いや、誰も何もしていない。実はその昔、事情があってあいつの墓から土葬された

 遺体を持ち出す必要があったんだ。死んでから数十年は経っていたから朽ち果てた

 あいつを見るのは嫌だったが・・・いざ掘り起こしてみるともうびっくりさ。

 死んでいるというよりは目覚める日を待って眠っているようだった。そして

 あいつはどんな精霊や女神よりも上だったと証明されたわけだ。こんな現象、

 後にも先にもこれだけだ。ただ・・・・・・」

 

去り際に二人はぼくを見た。そして通り過ぎてからぽつりと言うのだった。

 

「・・・完全なる平和を成し遂げたお前さんならありえるかもしれないな。

 いつまでも世界の平和の象徴として朽ちることなく存在するというのも・・・」

 

 

二人がいなくなってからぼくたちは顔を見合わせた。苦笑いを浮かべながらぼくは言った。

 

「結局紀元弐千年、誰のことなのかはわかりませんでしたね・・・それはまあいいとして

 死んでからいろいろ偉大な何かになるよりは・・・やっぱり元気で生きているうちに

 小さなことでいいから人の役にたつような生き方をしたいですね」

 

「アルスどのはもう十分働いたではござらぬか。とはいえ・・・それは力と使命を受けた

 勇者として。これからまた別な何かとしてまた別の誰かのために生きるのは人間で

 あれば当然のことかもしれぬでござるな。生きていればこそ喜びが・・・・・・」

 

そのときだった。メルビンさんの右腕に大きな傷跡が現れた。とはいえそれはずっと前、

おそらくは若い時の傷のように見えた。疼くことはあっても痛みはしないだろうが・・・。

 

「そ、その傷・・・!敵の攻撃で!すぐに過去に向かいましょう!場所は・・・」

 

「いや・・・アルスどの、もう終わったでござる。傷を負いはしたものの・・・

 若き日のわしが魔王の刺客を倒してしまったようでござる。いま記憶が完璧に

 塗り替えられ・・・すでに真の意味で過去の話となった」

 

年老いてもその眼光は鋭い英雄が腕の傷を撫でながら懐かしむように笑った。

 

「敵は殺戮のみを追い求める破壊の化身、エビルエスターク。その名を『カーリン』。

 確かに常軌を逸した力の持ち主であったが・・・心を持っていなかった。それが

 わしの勝因であり、人間の強さでござる」

 

これなら安心して帰れそうだ。下手したらぼくよりも長く生きるかもしれない。

英雄としての役目を終えても毎日を楽しく過ごし、それでいて誇りと威厳を失わず

若々しく生きているこの人なら何が起きても納得のいかない無念の死を遂げるという

ことにはならない。きれいな女の人がたくさんいるところでまた会えるだろう。

 

 

「じゃあ・・・ぼくもそろそろ帰ろうかな」

 

「マリベルどのを探しに行くのでござるな?わしが生きているうちにぜひとも

 二人の子どもを抱かせてもらいたいでござるよ、アルスどの!さっきやつらが

 語っていた預言はいいところだけ受け取って不穏なところは無視すればよい!」

 

「あはは、あまり期待しないでくださいよ、それじゃあ・・・」

 

なのに、なぜかぼくには予感があった。メルビンさんと会うのは今日が最後、

もう二度とその姿を見ることはないだろうという、予感というよりは確信が。

なぜかはわからない。でも、メルビンさんだけじゃなくてガボとアイラ、

今日これまでに会ったあの二人ともあれが永遠の別れだった。そう言い切れる。

 

「また会いましょう、メルビンさん」

 

それを口にはせずにカジノを後にしようとした。ひっそりといなくなる、というのは

正しいのかもしれない。ところが、そんなぼくの腕をメルビンさんが掴んできた。

まさかぼくの考えが読まれている・・・そう思ったのも束の間で、

 

「アルスどの!よく見たら揃っているではないか、スロットが!」

 

「え!?いや、そんなはずは・・・・・・あれ、ほんとだ・・・」

 

「わしが気がつかなかったら数千ゴールドは損をしていたでござるよ、さあ!」

 

周りの音が大きいので当たりのファンファーレが聞こえなかったみたいだ。

確かにこれは危ないところだった。目をこすりながらもう一度座り、結局しばらく

スロットを続けてから帰った。前半の大負けを取り返せたからよかったけれど、

ますます深刻な話はできない雰囲気になってしまい何も言えないまま別れた。

 

これまで次々と仲間たちが襲われてきたけれど、次はいよいよぼくの番か。

謎の悪寒の正体を敵によるものだと判断したぼくは一度村に戻ることにした。

 

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